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その狐は平穏な日常を冀う  作者: ちゃも
《第1章》
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6/18

6.出会い2

「スタート!!」


この学園に入学して初めての実践演習は私が不得意とする障害物がたくさんある森の中だった。


***


何か勝負事ががあるたびに突っかかってくる石黒祥太という男に私は最初、こんだけ人から避けられている私によく突っかかってくる面白いやつという認識だった。でも、模擬戦を重ねるうちにどんどん成長していく彼に負けず嫌いなきらいのある私は負けたくなくて、戦闘とは無縁な生活を望む私にしては珍しく自己鍛錬を重ねていた。けれど、自己鍛錬をしようと思ったきっかけは単に負けず嫌いだからという理由だけではない。私に負けるたびに悔しそうに顔をゆがめて努力して努力して懲りずに私に挑んでくる彼がとてもまぶしく見えたからだ。彼には「私を負かす」という目標がある。このまま私が何もせず、いつか追い付かれて、追い越されて彼に負けたその瞬間からきっと明確な目標を失った彼からはそのまぶしさは消えてしまうだろう。それは嫌だった。私は彼のまぶしいほどの輝きをずっと見ていたい。だから、今日のこのタイムアタックの演習も負けるわけにはいかない。


***


スタートから3分が経ち、私が攻撃を食らわせた先生から演習クリアの宣言を聞いてその先生が去ったのを確認して集合地点に戻ろうとしたその時、ドサリ、と耳を澄まさなければ聞こえないほど小さくはあったが確かに人が倒れるようなそんな音がした。


「・・・。」


助けに行ったほうがいいだろうか。いや、この演習はあえて森の中という動きにくく足を取られやすい場所で行われているくらいだから、足場が悪く、任務中に転んでけがをしても自力で立て直せるようにすることも演習目標の一つなのかもしれない。そこまで考えてその倒れた人物が起き上がる音がしないことに気づいた。


「・・・もしかして、気絶してる?」


もしそうなら大変だ。演習どころではないだろう。周りの気配を探るが、先生の気配はない。・・・私が助けに行くしかない。人一人をおんぶするのはかなり疲れるが、気配を探った感じ、人が倒れていることに気づいているのは私だけのようだ。


「・・・っし。」


そうとなれば気合を入れて音がした方向に向かって駆け出した。


***


結果的に倒れていた子は意識があった。が、どうやら近くの大木からのびるつるに足を引っかけてしまい、倒れてその拍子に右足をひねってしまったのか右足を押さえて蹲り、立てなくなってしまったようだ。


「っ大丈夫?私の背中に乗って!集合場所まで一緒に行こう。」


倒れていたのは絵本愛莉という女の子でクラスで浮いている私に積極的に話しかけてくれる、私の唯一の友達だった。


「”莉”って同じ漢字が入ってるね!あの有名な莉緒ちゃんと共通点があるなんて、嬉しいなあ!」


漢字一文字で共通点なんて大げさか、なんて初対面なのに物怖じもせず、かわいくはにかみながらそう言った愛莉に私はうれしくなった。


「そんなことないよ。私もうれしい!ねえ、愛莉って呼んでもいい?」

「もちろん!私も莉緒ってよんでもいい?」


愛莉には友達がたくさんいるみたいで、休み時間にちょくちょく話すくらいだけれど、それでも私は初めての友達という存在にわかりやすく浮かれていた。


「莉緒!!来てくれたの⁉ごめんね。演習中なのに・・・。」


申し訳なさそうに瞳をうるわせる愛莉に私はううんと首を振って


「もう私は終わったから。心配しないで。・・・背中、乗れる?」


そう言って愛莉に目を合わせるようにしてしゃがみ込むと、


「・・・・・・・そっか。うん、乗れる。ありがとう。やっぱり、莉緒はすごいね。きっと今回も一位だよ。・・・・さすが、チート級。」


最後のほうはさっきから強まってきた風にかき消されて聞こえなかったが、ありがとう。とお礼を言って愛莉に背を向け、背中に乗った愛莉を絶対に落とさないように両腕でしっかり支えて立ち上がった。


「ばーか。騙されてやんの。チート級だからって余裕かましてるから、こんなことになるんだよ。」


「・・・え?」


立ち上がって歩き出そうと右足を一歩踏み出した瞬間、いつもの可愛らしい愛莉の声とは真反対な冷たい、嘲笑するような声が聞こえたと思ったら、私の肩にまわっていた愛莉の左腕が私の心臓付近に乗せられ、愛莉は何かの呪文みたいなものを素早く唱え、怪我なんてなかったかのように俊敏に私の背中から降りた。その瞬間、私は心臓に耐えがたい痛みが走るのを感じた。


「~~~~~~ッ!!」


人間は耐え難い痛みを感じると声が出なくなるらしい。ドサリ、と今度は私が地面に倒れるがそれどころじゃない。


痛い痛い痛い痛い、いたい!

経験したことがないような痛みにたまらず蹲る。その時、私の心臓部分から黒いモヤのようなものがズルリと這い出てくるのを感じた。それが体の外に出きった瞬間心臓の痛みはなくなり、代わりに目がズキリと痛んだのに耐えて起き上がると、


「え・・・。」


目の前でそのモヤがどんどん大きくなり、人の大きさの5倍くらいまでになるとだんだん輪郭ができ始めた。


「・・・き、つね?」


そのモヤは狐の形を取り始め、そこに現れたのは9本もの立派な尻尾をもった大きな狐だった。


「うぐっ」


またズキズキズキズキと今度は絶え間なく目の奥が痛み、目を閉じてその痛みに耐えていると、


ガアアアアアアッ!!!!


と突然目の前の狐が吠えた。驚き、目を開けるとブワッと熱風を放ってきた。


「ッ!!!!」


咄嗟に狐から距離を取り、熱風から身を守るも、すぐに距離を詰めてきて意味がない。さらには熱風だけにとどまらず、炎を使った攻撃まではなってきた。相変わらず目は痛むけれど、そうもいっていられない。私も能力を使って反撃しようとしたところで急に右側から投げナイフが飛んできた。そのナイフは狐の左目をえぐると地面に突き刺さる。


「い"っ!!!」


狐の左目がナイフでえぐれたと同時になぜか私の左目も痛みを増した。思わず左目を手で押さえてナイフが飛んできたほうを見ると、驚いたように目を見開いた私のライバル(だと勝手に思っている)---石黒祥太の姿があった。

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