5.出会い1 side祥太
辻本莉緒という人物を始めて認識したのは8歳、学園の授業の一環として行われる模擬戦の時だった。その当時、俺は俺よりも強くて、俺よりも頭がいい人物を知らなかった。周りの大人も含めて、だ。同じ”情報解析”の相伝を継ぐ親族は5歳のころに戦闘訓練で全員負かしてしまっていたし、周りの家に住んでる奴らも俺の能力の前ではかなわない。俺の周りにいる奴らは俺に逆らわないように常にへりくだっていて、俺に突っかかってくる馬鹿な奴らも模擬戦をするとすぐに俺にへこへこ頭を下げだす。そんな奴らばっかりでその時の俺は天狗になっていた。俺に勝てる奴なんて学園にいるわけねえ。さっさと卒業試験を終えて選抜試験を受けて史上最年少で隊長にまで上り詰めてあわよくば村長の座を奪ってやるとまで思っていた。だから、絶望したんだ。大人にまで勝った俺が年上でもなく、同学年の、しかも女に授業内の模擬戦で負かされるなんて。
「対戦、ありがとうございました。・・・立てる?」
模擬戦終了の合図とともに駆け寄ってきて地面に転がったままだった俺に手を差し出してきたその女---莉緒に俺は理不尽にも切れて、かみついた。
「お前、お前なんか卑怯な手使っただろ⁉ふざけんじゃねえぞ!!!!」
”情報解析”で莉緒が卑怯な手を使っていないことなんてわかっていたが当時の俺のプライドが負けたという事実を許すことができず、そう叫ばざるを得なかった。差し出された手を振り払い、睨みつけながら吠える俺に莉緒は驚いたように目を見張り、
「・・・卑怯な手、ね。使ってないよ。それは”情報解析”の能力を持つ君が一番わかってるはずだけど。」
少し困ったように眉を下げ、手持無沙汰になった手をスッと戻すと、それじゃあ。と言ってその特徴的な金のきれいなボブカットの髪を揺らしてその場から立ち去って行った。理不尽に切れられても切れ返さない大人な対応を見せつけられたあげく、冷静に正論まで返された俺はさらにプライドがズタズタにされ、絶対にあいつを負かしてやると能力の猛特訓を始めた。朝から晩までひたすら能力の特訓を繰り返す毎日。それでも週に1回ある授業内の模擬戦で対戦を申し込むも、莉緒には一度も勝てなかった。それどころか毎週、対戦をするたびに実力の差が開いているとさえ感じた。一度クラスメイトの女子や元妖狐隊の先生に
「よく毎回あのバケモノに挑むね。村長の娘ってだけでみんな対戦するの嫌がるのにそれに加えてあんなチート級な能力じゃあ誰も勝てっこないよ。」
「強者にアドバイスをもらうことも大事なことじゃ。自分じゃ気づけないことを気づかせてくれる。」
と言われ、村長の娘だからってなんだ、チート級な能力だからってなんだ。それは俺があいつに挑まない理由になんてならねえ。俺は自分の力だけで最強に成り上がるんだ。アドバイスなんて死んでも求めねえ。と、むきになってひたすら石黒家の訓練場で能力を磨いた。
***
そんな日々が続いたとき、実践演習が行われることになった。その演習はこの村を囲う山奥の森の中で敵役の先生たちに攻撃を一撃でも食らわせられたら合格、というもの。もちろん先生にはハンデがついているし、敵役になる先生は去年までは元妖狐隊のじじいたちだったのだが年齢による体の衰弱を理由に1か月前そろって急に退職してしまい、別の先生たちが担うことになっている。せっかく少しは楽しめると思ってたのに、とやる気をなくしていた俺は視界の端に金色をとらえて思い直した。この演習は個人戦だ。チームを組んで複数人で行動してもいいが、一人一回先生たちに攻撃を食らわせないと合格にはならない。そしてこの演習ではクリアが早かった人ほど評価が上がる。つまりタイムアタック方式だ。・・・今日こそ絶対にあいつに勝ってやる。
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スタートから5分が経過した。俺は”情報解析”の能力を惜しげもなく使い、早々に先生の一人に攻撃を食らわせて演習をクリアしていた。タイムには結構自信があるし、なんなら辻本莉緒が得意とするのは開けた場所での遠距離攻撃による戦闘だ。こんな木だらけで障害物が多い場所では満足に”歌”の能力を発揮できないだろう。今回こそは、あいつに勝てているのではないか。近くに誰もいないからとニマニマした顔を隠しもせずにクリア後の集合地点に向かっていたその時、
ガアアアアアアッ!!!!
急に右の方向からおよそ人のものとは思えない咆哮が聞こえてきて、俺は思わず立ち止まった。その瞬間ブワッと声が聞こえてきた方向から熱風が吹いてきた。
「あっつ!なんだ?獣の声?・・・”獣人化”の能力持ってる奴なんていたっけか。」
あきらかにただ事ではなさそうな様子に声がした方向に向かうか迷ったが、”情報解析”で索敵したところ俺とその声の主とその近くにいるもう一人以外に周りに誰もいないことがわかり、妙だなと思いつつも、もし自分の能力が制御できずに暴走しているようだったら止めないと命に関わると判断した俺は声がしたほうに向かうことにした。
たどり着いた先で見たのは人間の体の5倍ほどの大きさの尻尾が9本もある狐と目を真っ赤に充血させた莉緒が死闘を繰り広げる様子だった。




