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その狐は平穏な日常を冀う  作者: ちゃも
《第1章》
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3/18

3.十鬼家

玄関を開けるとだだっ広い空間が広がっていて、人気がなくがらんとしている。大きなお屋敷と聞くと何人ものお手伝いさんがいる光景を想像するかもしれないが、私の家ではそんなことはない。いるにはいるが、信用できる人物しか雇っていないためおのずと少人数に限られる。今の時間だと夕食の用意でもしているのだろう。


「あら、莉緒様。おかえりなさいませ。」


数少ないお手伝いさんの一人、阿部さんが厨房から顔をのぞかせて声をかけてくれた。


「ん、ただいま。ごめん、今日も夕飯部屋で食べる。18時くらいに持ってきてもらうのってできる?」


今がちょうど17時くらいだからそれくらいがちょうどいい時間であろう。


「かしこまりました。お持ちいたしますね。」


「ありがとう。」


何も聞かないでおいてくれるのが阿部さんのいいところだ。ここのところ毎日部屋で食べているから何かあったというのは察しているだろうに。最近部屋でご飯を食べていたのは脱隊手続きに時間がかかっていたからである。隊はたとえ遊撃部隊であっても掛け持ちすることはできない。正式に言い渡されたのが今日だっただけで妖狐隊に入ることは1週間前から通達されていたから早めに脱隊の手続きに取り掛かっていたのだ。けれど、1週間前に言われていたからとて、まだ心の準備はできていない。むしろ、正式に言い渡されて気が重いくらいだ。


「はあ・・・。」


阿部さんと別れ、思わずため息をつくと階段の上からチッと鋭い舌打ちが飛んできた。


「お前、妖狐隊に選ばれたんだって?みんなの憧れの隊に入ったっていうのに溜息とは。いいご身分だなァ。」


とげのある言葉が聞こえた方向に顔を向けると顔をゆがませた私の兄、辻本陸(つじもとりく)の姿があった。私の家は陸にいの様子を見てわかる通り家族仲が良くない。いや、正確には私と家族の仲が良くない。理由は単純だ。私が任務を受けるのに積極的でないからだ。戦闘員の家系の十鬼家は名字こそ辻本にかわったものの、高い戦闘力、また戦闘意欲はそのままだ。私だけが例外なのだ。なのにそんな私がこの家で一番の戦闘力を有しているのだ。そりゃ、文句も言いたくなるだろう。


「陸にい、ただいま。」


あえて陸にいからの言葉には答えず、挨拶だけすると陸にいはまたチッと鋭く舌打ちをしてそのまま去っていった。


妖狐隊は人気の部隊だ。多くの戦闘員は戦いに命を懸け、戦場で命を散らすのを美徳と考えている人が多く、またより遂行難易度の高い任務を受けたがる。なぜかって?その任務を成功すれば一躍有名になり、ヒーローのように扱われるからだ。実際、祖父の時代の妖狐隊は人気がすさまじく、妖狐隊に入隊したいと考えていた人も大勢いたようだ。さすが人気部隊、情報が回るのが早い。もう構成メンバーまで発表されたらしい。だからそんな部隊に編成された私が喜びもせずなんなら落ち込んでいるのだから陸にいにとってはさぞ不愉快に感じるだろう。それはきっと陸にいと双子の私のもう一人の兄の辻本岳(つじもとがく)も同じことだろう。あの人は陸にいほど感情を表に出さないが、そのかわり目で訴えてくる。私の母も父も十鬼家にあるまじき感情を抱く私を不愉快に思っているようで、私がこの家でまともに話すことができるのはお手伝いさんくらいだ。


はあ、と再度溜息をついて階段を上がって自分の部屋に入る。私は会議の前に事前資料でも確認しておくか、と自分のパソコンの電源をつけた。


今後出てくるかわかりませんが一応。莉緒のお父さんの名前は辻本雷羅(つじもとらいら)です。

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