2.妖狐隊
この世界には特殊能力を持った人間がごく少数存在する。はるか昔には全世界にたくさん存在したそうだがいまではここ、日本という国の山奥に存在する1つの村にしかいないとされている。その村は常時結界に覆われており、特殊能力を持たない人間には見えないし、そもそも村の存在を認識することができない。その村には「十鬼家」と呼ばれる特殊能力を持つ家系の中でも一際強い特殊能力を持つ家系がある。その「十鬼家」の現代当主、兼村長の辻本琴音の娘が私、辻本莉緒だ。
「莉緒、お前、大丈夫か?」
命令を受けた後からダンマリを決め込んでいた私を心配してくれたのだろう、私の2人いる幼馴染のうちの1人、石黒祥太が声をかけてきた。それもそうだ。私に任務の命令があった後に偶然会ったときにはいつも「祥太、今日の夜暇?任務終わったら音ゲーでもやろ~。」「はいはい。お前はのんきでいいな。」なんて軽口をたたきあっているのだ。
「ん~?だいじょーぶ。いや~長期任務ね。ほんとヤダわ。趣味の時間減る。あ~作曲したい。歌うたいたい。あ、この後いつものカフェいかない?今なんかのキャンペーンやってるらしいよ。」
「今腹減ってねえ。つかこの後ゲームやろうぜ。ゾンビ殺すやつ。」
「確かにお腹すいてない。それよりショッピングはどう?竹町さんとこの服、新しく入荷したらしいよ。」
ゲーム好きで暇さえあればゲームをやっていたいと言っている祥太とファッションセンスに定評がある私のもう一人の幼馴染の天羅昼斗も私の軽口に乗ってきた。だが、もちろん3人とも空元気だ。長期任務を、しかも死ぬ可能性が大いに高い任務を、あの脳みそが腐りきっているとよく言われる上層部直々に言い渡されたのだ。お腹もすいてないしテンションはダダ下がりだ。二人は私の平穏な日常を送りたいという長年の夢を知っている。だからこそ、長期任務、しかもいつ終わるか分かったものじゃないものを言い渡された私を心配してくれているのだろう。
「はあ。心配ありがと。んじゃ、冗談もここら辺にしといて、今日19時からいつものミーティングルームでいい?」
私が早々に会話を切り上げると、冗談だとわかっていたのだろう。二人も、
「おう。」「はいはい。」
と返事をする。
じゃ、また。といって二人と分かれて歩き出す。十鬼家の家は村長が住んでいるということを加味しても無駄にでかい。無駄にでかいし村民が住んでいるところから若干離れた位置にある。それが彼らとの身分の違いみたいなのを見せつけられている気がして嫌になる。私は特別視されたくないのだ。まあ、妖狐隊という最強部隊に選抜されるほどの実力を隠しもせず成果を出しているという時点で今更な気もするが。
「妖狐隊」というのは別名遊撃部隊だ。この「日本」という国には北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州(沖縄)の7つの部隊に分かれてそれぞれの地域で任務を行っている。隊に入るには村にある「学園」を卒業しなければならず、戦闘や学問、事務処理の基礎を学ぶためや自分の特殊能力を磨くために設置されているその学び舎で卒業試験を合格した者だけが隊に入るための入隊試験を受けられる。その入隊試験では各地域の隊長や副隊長などの代表格が卒業生たちの能力をみて自分たちのところにほしい人材をドラフト形式で選抜する。そしてその選抜された地域に行ってその地域での任務を行う。これが常識だ。
いや、常識だった。
というのも私の祖父の代にあまりにも強大な敵が現れたそうでそれのせん滅作戦を行うために新しく「遊撃部隊」なるものが作られたからだ。それが「妖狐隊」だ。その部隊は各地域から優秀な人材が集められた少数精鋭の最強集団であり、その強大な敵のせん滅を最優先の任務とした部隊だ。文字通り死力を尽くした妖狐隊のおかげで10年と少しほどでせん滅は成功し、妖狐隊は解散したという。当時の生き残った妖狐隊のメンバーはもう軒並みおじいちゃん、おばあちゃんと呼ばれる年齢であり、教鞭をとっていた人たちも5年ほど前に退職した。そう、生き残った。その敵というのは恐ろしく強く、最強集団と呼ばれていた祖父たちでも相当苦戦し、死傷者が7人中4人と半数以上がやられてしまったそうだ。そして、そんな妖狐隊が今、復活した。なぜ構成人数が3人だけなのか。---今回の敵に簡単にやられなそうな戦闘員が私たちだけ、なのだろう。
ああ、憂鬱だ。最近日本中で祖父の時代にせん滅したはずである「敵」の存在が台頭してきている。この情報に間違いはない。だって、同じなのだ。記録に残っている特徴的な姿形や特殊能力を使えるという点。ただ、祖父の時代と明らかに違うのは強さが倍以上になっているという点。そんなもの相手に私たち三人だけで。わかっている。私たち三人以外がこの敵と相対したらどうなるか。間違いなく瞬殺だろう。だから、無駄な犠牲を増やさないという点では賢明な判断だ。でも、それでも、私はこの任務が嫌で仕方ない。私だって死にたくない。まだ、平穏な日常を送るという夢も達成していない。
学園に入るか入らないかは個人の自由だ。しかし、私は生まれながらにして十鬼の、戦闘員の家系の人間。学園への入学は強制だった。私もいつか、戦わないで暮らしていける「平穏な日常」を送れるだろうか。・・・そんなこと、今考えてもどうしようもないのに。考え事をしているうちに家の前までたどり着いた。私は登録されている人物しか入れない結界を抜けて玄関を開けた。
読んでいてわかりにくいところなどあればその都度修正しますので、その場合はコメントください。




