17.調査 中部地区編3
「ふふふ、どうした?お前ら”妖狐隊”の実力はそんなものか。」
中部地区隊長のがわをかぶったそいつは楽し気に顔をゆがませた。
***
時は少しさかのぼり戦闘が始まってすぐのころ、私たちは各々の能力を発動しようとしていた。が、いつものようにうまく能力を扱うことができなくなっていた。いや、実際にはいつものように発動しているのだ。だけどなぜか攻撃が相手に届く前におかしくなる。私が”歌”を使って広げた空間も少し時間がたてばもとに戻ってしまったし、昼斗の”天候操作”もうまく座標が指定できず敵に当たらない。祥太にいたっては”情報解析”がバグってなにも情報を読み取れない状態だ。私たちが気づいていなかっただけですでに洗脳状態に侵されているのかと思ったが、まだ敵に攻撃する意思がちゃんと残っているところから察するに違うみたいだ。ならばなんだ?いったい何が起きている⁉
「・・・まさか!!」
祥太が驚いたように声を上げばっと視線を敵に向ける。
「ジャミング、か?」
祥太の言葉にああ、と私も昼斗も納得した。確かに、それなら私たちの攻撃がおかしいことになっているのにもうなずける。
私たちは自分の体の中で生成される妖力を使って己の体に刻まれた術式を介して攻撃している。だからその攻撃の素はみな”妖力”である。その妖力の情報自体を書き換えるジャミングをされてしまえば攻撃はあらぬ方向に飛んでいくし、空間を書き換えたのが元に戻ってしまう。なるほど、洗脳もこの能力の応用の一部か。
厄介だ。非常に厄介だ。なぜかって私と昼斗の能力が使えないも同然だからだ。使えるのは剣やナイフなどによる物理攻撃のみ。妖力を外に出すことがなく、ジャミングの心配がない身体強化をかければそれなりに攻撃できるがそれでも相手はがわだけとはいえ格闘技のプロだ。かなうはずがない。だから、頼みのつなは祥太ただ一人。情報戦は祥太の専売特許だ。ほんの数秒でもいい。ジャミングを消してくれれば私の”歌”は時間的に無理でも昼斗の”天候操作”ならなんとか届くかもしれない。
「祥太!!」
「3分くれ!!!」
「「っ!!、了解!!」」
即答で返ってきた。言いたいことがちゃんと伝わったらしい。3分間、なにがなんでも持ちこたえてみせる。
***
「莉緒!昼斗!」
祥太の叫び声が後ろから聞こえる。きっちり3分間。さすがは祥太!!
祥太の声にすぐに反応して昼斗が”天候操作”による攻撃を行う。ジャミングのジャミングは成功したみたいだ。ガシャンと音がして昼斗が放った雷が狙った座標通りに貫く。それを見て体制が整わないうちに一気に畳みかける!!祥太によるジャミングのジャミングが成功したのは一瞬ですぐにまた遠距離攻撃は当たらなくなってしまったが、それでもさっきよりも確実にダメージが入ってる!!いける、いけるぞ!!ここでこいつを倒す!!!!
「ふふ、ふふふふふふふふ。」
にたぁとやつはいびつな笑顔をうかべる。嫌な、予感がする。
「いつ、私がこれが全力だといった?」
ブワリと空気が重くなる。ヒュッと風を切る音がして私の目の前に黒い影が現れる。
「「莉緒!!」」
ゴッッと嫌な音がしてみぞおち付近をなぐられ後ろの壁に激突した。あまりの痛みにもんだえている間に祥太と昼斗も急所をやられてしまい崩れ落ちている。
「ふふふ。どうした?お前ら”妖狐隊”の実力はそんなものか。」
ニタニタ楽しげに笑う敵に思わず顔をゆがめてしまう。くっそ、なにか、なにかいい手はないか。一発逆転とまでは言わない。この悪い流れを断ち切れる何か、
「お前こそさぁ、調子乗ってんじゃねぇぞ。」
「、なに!!!」
ドゴンと大きい音が響いて重い空気が霧散されたのがわかる。祥太だ。祥太がこの流れを断ち切った!!ぼーっとしてる場合じゃない。ここで押し切る!!!!
大きく息を吸う。
「~~♪!!!」
せっかく祥太が隙を作ってくれたんだ。ここで私たち3人で一気にたたみかける!!!!
***
「くふ、ふふふふふふふふふふふ。まさかここまでやられるとは。これはあなたたちをなめてかかった私の落ち度だ。あなたたちも、もう私に攻撃できる余力も残っていないでしょう?ふふ、ここはいったん引くことにしよう。また会おう、妖狐隊。次こそ必ずあなたたちを潰す。」
黒いモヤのようなものが部屋から外に出ていく。逃げられた。あの後の攻撃でなんとか中部地区隊長の体からやつを追い出すことに成功したが、そこで3人とも体力と妖力が尽きてしまった。ああ、悔しい。犠牲者がでなかったことはよかったが、ここであいつを仕留めきれなかったということは、こちらの能力の対策をしてパワーアップした状態のやつとまた戦わなければいけないということ。向こうも相当削られただろうからすぐにまた現れるとは思わないが警戒して過ごさないといけない。
はぁ、とため息をついてとりあえずこの状況を何とかしなければと思考を切り替える。あいつが逃げたことで結界の効力が切れたのだろう。洗脳が解けたのか混乱した顔の平田さんが破壊された応接室の扉からこちらをうかがっている。声をかけようと口を開けたとき、うう、といううめき声が床から聞こえた。ばっとそちらに顔を向けると広瀬さんが目を覚ましていた。
「!!!。よかった。どこかおかしいところはありませんか。」
すぐさまそれに気づいた昼斗が広瀬さんに声をかける。
「あなた、天羅、さん・・・?」
「はい。よかった。本当に、目が覚めて。」
広瀬さんがぐるりと周りを見渡す。ひしゃげて原型がなくなった机、真っ二つになり綿が飛び出たソファア、破壊された扉、細かく割れたガラス窓、ぼこぼこに穴が開いた床。ひどいありさまだ。広瀬さんは部屋の状況を確認した後私たちの顔を順番に見る。そして、ぱあと顔を輝かせた。・・・・・うん??輝かせた????
「ああ、妖狐隊の皆様!!!わたくしをあの悪魔から救ってくださったのですね!!!」
がしりと一番近くにいた昼斗の手を握ると早口にまくしたてる。え、いや誰。そんなおきれいな顔で何をまくし立ててるんだあんた。
「わたくし、見ておりました!!意識はあるのに体があの悪魔に乗っ取られてしまいどうにかできないかともがいているときにまるで救世主のようにやってきて、あの恐ろしい悪魔相手にあきらめず、戦うお姿を!!!!!」
恍惚とした笑みを浮かべて、ああ、なんて素敵なお方たち・・・。とうっとりした声で昼斗の手を放し、祥太の手をがしっと握った後、こちらにやってきて私の手も握る。
「悪魔に乗っ取られたときは最悪な気分でしたが、そのおかげで妖狐隊の皆様のご勇姿が見られたのでわたくし、とても満足ですわ。」
ええ・・・。ああ、今なら浅間さんが言っていた厄介オタク気味の変態というのもわかる気がする。いや、それよりも何かの神を崇めている狂信者のほうが正しいかも。ちょっと、平田さん見てないで助けて。ああよかった、意識も正常に戻っていますね、じゃない!!!この状況何とかして!!!




