13.調査 東北地区編
1日しっかりと休息をとって私たちがやってきたのは東北地区の拠点がある秋田県だ。拠点まで車に揺られもうそろそろ目的地に到着しそうな今、祥太がそわそわした様子で外のほうを見ている。祥太は妖狐隊に配属される前まで東北地区所属の戦闘員として活動していた。1か月間だったとはいえ現地の仲間たちとかなり仲良くなったらしく、拠点を離れることになったときはかなりの人に惜しまれて送別会までやってもらったらしい。こんなに早く再会できるとは思っていなかったのか、ずいぶんと嬉しそうだ。
「お、見えてきたぞ!!」
祥太の言葉に私も窓の外をのぞく。本当だ。前方に妖力を持たない一般人には見えないようにするための結界におおわれた大きい建物が見える。もしかしたら北海道地区の拠点よりも大きいかもしれない。
「大きい拠点だね。」
「おう、東北地区は各地区の中でも精鋭ぞろいだからな。でかい演習場じゃないと壊れちまう。」
昼斗も同じことを思ったようだ。北海道よりは面積は小さいが東北地方もかなり広い。少人数で広い範囲を巡回し、時には戦闘もしなければならないので個々の強さが求められる。これは東北地区よりも少し面積が広い中部地区も同じことだ。面積が一番大きい北海道地区は精鋭ぞろいではなのかと疑問に思うかもしれないが、これがそういうわけでもない。真冬の北海道は極寒の中活動しなければならない。そのため寒さに耐性がある戦闘員が強さ関係なく派遣されることが多いのだ。せっかく実力が高くても寒さに耐性がなく、実力を発揮できず体調を崩してしまいかえって足手まといになってしまうという事例が多発したことから、かなり昔からこの制度は変わっていないらしい。東北地区も真冬は極寒だが北海道地区の北のほうほどではないという。
祥太が思い出話を語ってくれるうちに拠点に到着した。車を降り、運転手さんに挨拶して場所を知っている祥太の案内で応接室に向かおうとしたとき、拠点の入り口が開き、何かがこちらに全速力で走ってきた。
「「「!!!」」」
驚きで固まっていた私と昼斗だったが、祥太はぱあ、と目を輝かせる。
「とらさん!」
「しょーた!!久しぶり!!」
全速力で走ってきた何かは勢いを殺さずに祥太に抱きついた。後ろに倒れそうになった祥太だが持ち前の体幹で何とか耐える。人だ。人だった。髪色も服も茶色でしかも低姿勢で走ってきたものだから一瞬イノシシかと思って警戒してしまった。
会いたかったよ~!!、俺もです!なんて再会に浸っていた祥太がこちらを向く。
「とらさん、紹介します。こっちが辻本莉緒、んでこっちが天羅昼斗。」
「おー!祥太がべた褒めしてた、あの!!」
「ちょ、それは言わなくていいっすよ!!」
よろしくなー!!と言って差し出された手を握りこちらこそよろしくお願いします、というと、うんうんと頷きながらぶんぶんつながれた手を上下に振られた。祥太との会話や今の様子から推測するに、とても人懐っこい人みたいだ。
「あ、俺も自己紹介しなくちゃだよな。忘れてた!俺の名前は日向虎之助!!東北地区の隊長だ!」
・・・え。隊長?この人が?いや若すぎない?
***
童顔と普段からのふるまいのせいで若く見られがちなとらさん(そう呼んでくれと言われた)の実年齢は20代後半らしい。とてもじゃないがアラサーには見えない。なんなら高校生でも通りそう。でもその年齢で隊長という戦闘員の中のトップの位置に立っているんだから相当な実力を持っているんだろう。祥太がここで過ごしていたときの様子を応接室に向かう道中で聞かせてもらった後、(祥太は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた)私たちは応接室備え付けのソファに座り、渡された資料をじっくり見る。
「え・・・?」
思わず声が漏れる。両隣の祥太と昼斗も険しい顔をして資料をじっと見つめている。北海道地区でも渡された目撃情報の東北地区版の最新ページに書いてあったのは「人の言語を話すアガペーの出現」という情報だった。
「そいつな、昨日宮城県の過疎地域に急に現れて。宮城県巡回チームのやつが相対したんだけど、なんかおかしいんだよ。」
「人の言葉を話す・・・。」
「それもそうなんだけど、過疎地域に出てきたっていうのとあと、相対した戦闘員、誰も怪我しなかったんだ。」
「それは、相手が弱かったというわけではなく?」
「いや、一応戦いはしたらしいんだけど弄ばされてる感がすごくて、こっちからの攻撃は一度も当たらなかったらしい。」
それは確かに変だ。人の言葉を理解するってところも異質だし、何よりそいつ知能がある気がする。ほとんどのアガペーたちは本能のまま人を襲う。一応結託意識はあるみたいで近くにいるアガペーたちがチームになって襲ってくることもあるらしいがそれもごく稀のことだ。
「相対したの、誰だったんすか?」
「やまちゃんたちだよ。」
「!!まじか。山川さんたちが一回も攻撃を当てれないとなると相当だな・・・。」
祥太によると東北地区の中でもそれなりに強い戦闘員のチームだそうだ。その人たちでも攻撃をあてることができないとなると相手はかなり厄介そうだ。昼斗が口を開く。
「そいつ、東北地区に居座ってるんですか?」
「いや、確認できたのはその1回だけであとは音沙汰ないからわからない。でもたぶんもういないんじゃないかな。」
「なんでわかるんすか?」
「やまちゃんによるとそいつはこう言っていたらしい。”近々お会いできることを楽しみにしていますよ。狐の皆さん。私は気長に荳ュ驛ィ蝨ー蛹コで待ちます”って。・・・”狐の皆さん”ってたぶん、しょーたたちのことだよな?」
一気に緊張が走る。どういうことだ。私たちの存在を知っている?というか私たちがここに来ることを把握していたのか?そうじゃないとわざわざ私たちが来る前日に東北地区にきて伝言を託すだなんてことしないだろう。会議の内容が外に漏れていたとは考えにくい。考えられるとすれば北海道地区で倒したアガペーたち。あいつらを介して私たちの存在とこの調査の目的を知ったのだろう。どうやってあいつらに干渉したのかは知らないがあの短時間で、どうやって。いや、それより
「荳ュ驛ィ蝨ー蛹コってなんです?どこかの地名の名前、ではないですよね。そもそも日本語じゃない・・・?」
私の言葉にとらさんがうん、と頷く。
「俺も昨日いろいろ調べてみたんだけど、解読できなかった。ごめん。」
「いや謝らなくていいですよ。でも、気長にってことは確かにここじゃなさそうですね。」
私たちが近々ここに来ることを知っていたのなら気長に待つなんて言わないだろう。
「祥太、どう?解読できそう?」
「・・・・いや、無理だな。一昨日と同じだ。文字化けして読めねぇ。」
「そっか。」
となるとそいつが使ったのはアガペーたちが使う言語だろう。
「一瞬別の勢力が湧いたかと思ったがそいつもアガペーみたいだな。報告書に書かれてる見た目も一緒だし、そこは間違いなさそうだ。」
祥太の言う通り、新勢力ではなさそうで安心した。いや、北海道地区で戦ったやつらの上位互換と考えたらそれもそれで恐ろしいが。
「とにかく早く帰って準備した方がよさそうだな。」
「うん。そうしよ。」
「僕も賛成。」
祥太の意見に賛成する。そいつが待つ場所がわからない今、調査を急ピッチで進めるべきだろう。東北地区では被害を出さなかっただけで他の地区ではわからない。
「うん、そのほうがいい。ごめんな。あいつが言っていた場所がここじゃないっていうのも断言できなかったからわざわざこっちまで来てもらっちまった。」
「いえいえ、むしろ直接お話が聞けて良かったです。こちらこそこの地区のアガペーたちの討伐、できなくてすみません。」
「それは気にすんな。しょーたが抜けたとはいえ、こっちには精鋭がそろってるからな。」
にっと笑顔で答えてくれたとらさんに、会えてうれしかった!いろいろ全部落ち着いたらまた会おーなー!と元気にお見送りされ私たちは帰路についた。




