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その狐は平穏な日常を冀う  作者: ちゃも
《第1章》
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11.調査 北海道地区編1

今回の遠征ではそれぞれの地区に3人で赴く予定になっている。1人ずつそれぞれ別の地区に行ったほうが調査を早く終えられることはわかっているのだが、いかんせん相手の力量が資料に書かれている情報だけではいまいちわからないのだ。だから最初のうちは慎重に、3人で行くことにした。調査を行う順番は昨日の会議で話し合った結果、北から順に、北海道地区→東北地区→関東地区→中部地区→近畿地区→中国・四国地区→九州(沖縄)地区になった。つまり調査初日の今日、向かうは北海道地区だ。北海道に行くのは初めてだから少し楽しみでもある。いや、真面目に調査は行うつもりだ。でも、ちょっと空き時間に観光するぐらいは許してほしい。・・・お土産、何にしようかな。食べ物系ならやっぱり定番の白〇恋人?いや、ご当地食材とかでも面白いかも。どうせ家族に送っても、真面目に調査しているのかと睨まれるだけで受け取ってもらえないだろうから買うならお手伝いさんたちに渡す用と自分用だ。


北海道地区の隊長は少し変わり者だと聞く。・・・いや、どこの地区の隊長も皆それぞれ癖があって変わり者であることには間違いないのだが。ここの地区の隊長はその中でも人の話を聞かないことで有名なのだそうだ。調査を行うために一度その地区の隊長と対面しなければならない。隊長に会わなければいけないのは憂鬱だけど、お土産のことを考えていたら少し気分が晴れた。


「莉緒?飛行機、そろそろ着陸するってよ。」


祥太が隣の座席からひょい、と顔をのぞかせる。それにわかった、ありがと。と返事をし、テーブルの上に広げていた荷物を片付け始めた。


***


空港について、迎えの車に乗りそこからさらに2時間半。周りにほとんど人がいないところに北海道地区の拠点はある。そりゃそうだ。世間的に戦闘員たちは公にされていない秘密組織に所属しているような扱いなのだ。堂々と人が行きかうところに拠点を立てるわけにはいかない。体力を消耗するだろう調査のためにほとんどの時間を寝て過ごしていたらあっという間に目的地に到着した。


***


車から降りて、往復5時間も運転してくれた運転手さん(村から派遣されている事務職員の方)にお礼を言い、早速隊長が待ってくれているという応接室に向かう。今、私たちの前を先導してくれているこの人は下村(しもむら)さんといい、この地区の副隊長をやっているようだ。癖のある隊長たちと違って副隊長たちは暴れまわる隊長たちを諫める役割を担うことが多いため真面目で常識がある人たちが就くことが多い。現に下村さんも優し気な笑顔で私たちに話しかけてくれる。


そうこうしてるうちに応接室についたようだ。コンコンと軽いノックの後、失礼します、妖狐隊の皆様をお連れしました。と言って応接室に入る下村さんに続いて私たちも入室する。


・・・いや、でかいな。そこにいたのは圧倒的存在感を放つ大男。しかも仁王立ちして腕まで組んでいるのだから感じる圧が半端ない。


「よく来た!!!!!」


うるっっさい!!!思わず耳を塞いでしまった。隣を見ると2人も耳をふさいで顔をしかめている。同じ部屋にいるんだ。普通の声量で話してくれ!!そんな叫ばなくても聞こえてるって!!


「あの、少し声量下げてほしいかもです・・・!」


あの声量で話し続けられたらこちらがもたない。こちらの印象が悪くなるかもとか気にしていられない。こっちは鼓膜の安全がかかっているんだ。


「む!そうか。すまんな。妖狐隊の方々に会えると聞いて興奮してしまったようだ。」


あれ、素直に聞いてくれた。話を聞かない人だという噂を耳にしていたので、どんだけ自分勝手な傲慢野郎が出てくるんだと身構えていたから正直拍子抜けだ。それでも普通より大きい気もするが。まあ許容範囲だろう。少なくとも鼓膜が破れる心配はしなくて済みそうだ。


「初めまして。妖狐隊の辻本莉緒です。」

「同じく、石黒祥太です。」

「同じく。天羅昼斗です。本日はよろしくお願いします。」


私たちの自己紹介が終わると向こうも自己紹介をしてくれた。


「俺は北海道地区隊長、白井五郎(しらいごろう)という!遠路はるばるよく来てくれた!こちらこそよろしく頼む!」


白井さんは、にっと笑ってこちらに手を差し出した。その手を3人で順番に握り返すと、では、さっそく始めようか!と言って資料を渡してきた。下村さんにソファに座るよう促されそこに3人並んで座る。・・・なんかいい意味で期待を裏切られた気分だ。


***


話し合いはつつがなく進み、この地区でのアガペーの目撃情報はまだそんなに出ていないことと、その強さは言うほどのものではないということが分かった。誰だよ、アガペーが悪魔よりも圧倒的に強いとか言って脅してきたの。上層部だよ!!!もうほんと、あの腐った脳みそどもを生ごみとして燃えるゴミにつめて出して燃やしてしまいたい。実際、北海道地区の戦闘員たちが5人がかりで戦えば余裕で勝てるらしい。けれど、集団で襲い掛かってきたらひとたまりもないだろう。なんせ戦闘員の数自体は少ない。その少ない人数でこの広い北海道に住む一般市民から守らなければいけないのだ。白井さんはできるだけ多くのアガペーたちを倒してほしいと頭を下げる勢いでお願いしてきたが、そんなの当たり前だ。私たちはアガペーをせん滅するために構成された「妖狐隊」。そいつらを相手取り、そいつらをより理解するためにここまで来た。そんなこんなで話し合いは終了し、午後に控えている調査の前に一度腹ごしらえをすることにした。白井さんおすすめの新鮮な魚介類が食べられる場所に、白井さん自らが連れて行ってくれるらしい。楽しみだ。


***


誰だ、白井さんが全然噂通りじゃなくて話が通じる人だって言ったやつは。私だよ!!!

誰だ、副隊長は常識人が就くって言ったやつは。私だよ!!!

現在、白井さんのおすすめのお店でお昼ご飯を食べている真っ最中。下村さんも一緒についてきた。


「石黒、カニはどうだ!!このカニはうまいぞ!!!」

「いや、それさっきも聞いたって!!もうカニはいらん!」

「天羅君。このカニはここから見えるあの漁場で捕れたものでしてね.・・・」

「あ、いや。もうカニはお腹いっぱいなんですけど・・・。」


・・・なんだこのカオス空間は。机には見渡す限りカニ、カニ、カニ、カニ!!カニのゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。何度こちらがカニはもういらないといっても話を聞かずに頼んでいく。隊長だけでなく副隊長まで。そしてこれがいつものことなのか店長は怒涛のカニの注文にも動じずに、へい!お待ち!と言って次々とカニを出してくる。


「店長!この嬢ちゃんにもカニ追加で!!」

「いや!カニはもう大丈夫!!十分堪能しましたから!!」

「ん⁉なんだって⁉こっちのカニもいきたい⁉店長!!!こっちのカニも追加!!!」

「はいよ!」


もう、誰か止めてくれー!!!!!


***


結局私たちはお腹いっぱいになるまでカニを食べ続けるはめになった。おいしかったがもう当分カニは見たくない。伝票を見たらすごい値段になっていたのだが、ここは誘った俺たちが払うから気にすんな!!と言って隊長と副隊長が払ってくれた。いや、うん。すごくありがたいのだが、その気遣いをどうして昼食時に回せなかったのか。お店を出てそのまま調査に向かう私たちはお礼を言って隊長と副隊長と別れた。噂は真実だった。北海道地区の隊長となんなら副隊長もカニ限定で話を聞かない変人たちだった。







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