10.出会い6 side昼斗
9.出会い5に記載した関東地区隊長の名前の読み方を追加しました!
飛び級試験は受験者と試験官の1対1での模擬戦によって行われる。試験官は毎回関東地区の隊長が請け負うと決まっており、1回目の試験より自分の攻撃パターンが知られてしまっている2回目のほうが断然難しいそうだ。攻撃パターンが知られているのは試験官のほうも同じだから受験者側も1回目より攻撃しやすいのではないかと思うかもしれないが、向こうは一流の戦闘員だ。攻撃パターンはたくさん持っているだろうし、即興で攻撃パターンを変えてくることなんてたやすいだろう。僕らには向こうほど実践の経験値はない。だからあちらのほうが断然有利なのだ。それを知っていてなお2回目の試験に挑もうとしている2人には本当に尊敬しかない。でも、そんなことを考えていられる余裕はない。毎日努力して練習を重ねてきたんだ、絶対に合格してみせる。
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トップバッターは僕だった。頑張って!、頑張れよー。と見送ってくれる二人にうん、と手を振りながら答え、先ほど案内されたばかりの控室をでる。少し歩いた先にある大きな扉の前で一度止まるとふう、と大きく息を吐いて、ぐっと扉を押し開いた。
「来たな。・・・これより、飛び級試験を始める!」
僕が浅間さんのむかいまで行って立ち止まると浅間さんは大きな声でそう宣言した。ビリビリと空気が揺れ、あっという間にこの空間の空気が支配されたのを感じた。・・・怖気ずくな。今出せる自分の最大限を発揮する。そうだろう?
「よろしく、お願いします!!!!」
こちらも負けじと大声で返す。目の前の浅間さんがふっと不敵に笑うのが見えた。
その笑顔を見て警戒を高める。その瞬間、ふっと目の前にいたはずの浅間さんが消えた。
「!!!!」
どこだ、どこに行った!横、上を見るが姿がない。・・・後ろか!
ぎぃぃぃぃぃん!!!
僕が懐に隠し持っていたナイフと浅間さんが大降りに振ってきたナイフがぶつかり、耳をつんざくような嫌な音が響く。
「!っへぇ!それじゃあ、これはどうかな⁉」
ふっとナイフにかかっていた力が抜け、バランスを崩し後ろに倒れこみそうになったところでおなかに蹴りを食らう。
「ぐっっ!!」
重い!近接戦が得意な祥太によく練習相手になってもらっていたけれど、あの祥太と同等、いやそれ以上の威力とスピード。これで手加減をされているなんて。手加減なしだったら僕の体は今頃粉々だろう。
なんとか体制を立て直して、こっちに向かって来ようとしている浅間さんから距離をとる。僕が得意なのは遠距離戦だ。わざわざ近接戦が得意な人に近づきに行く必要は今はない。
「氷結!!」
ぴしぃ!!と音を立てて演習場全体が氷に包まれる。狙い通り、浅間さんは氷によって地面に縫い付けられた。”天候操作”によって空気中の水分を増やし、さらに温度を急激に下げることによっておこる氷結。僕はこの試験を受けると決めてから今日まで、ただただ天候を操るだけでなく、気温、湿度なども操れるように必死になって訓練した。まさか自分でも天候以外を操れるとは思っておらず、応用したら気温とかもいじれそうだね~、なんてのほほんとした表情で言った莉緒に衝撃を受け、試しにやってみたらできたのだ。今までなんとなくの感覚で操作していた天候も細部まで細かく調節することで、前よりももっと自分がイメージした天候を操れるようになった。最初はもちろん調節が難しく、威力を間違えて自室を凍り付かせてしまったり、演習場内の気温を上げすぎてサウナみたいな環境になったまま1時間ぐらい戻らなかったりと苦労したが、今日まで必死に努力したおかげで今では威力をきちんとコントロールできるようになった。莉緒のあの発言がなかったらできていないことだ。近接戦の練習に付き合ってくれた祥太にもこの発想を与えてくれた莉緒にも感謝しなければ。
「ふん!!!」
足を氷で固められ、身動きが取れなくなった浅間さんは拳を氷に突き立てた。
ぴし、ばきぃ!!
浅間さんが振り下ろした拳を起点に氷にひびが入り、いとも簡単に割れてしまった。・・・氷を素手で割るとか一体どんな鍛え方をすればそうなるんだ。けれどそれも想定内。もともと氷の制御はまだ未完成もいいところなんだ。もっと完璧にコントロールできていたらそれこそ体中を氷で覆って完全に身動きをとれなくさせただろう。僕が主に調整を重ねてきたのはこっちだ!!
ざぁぁぁぁぁぁ
「!!!」
大雨をふらせる。だがそれは局所的な大雨だ。座標を細かく指定し、浅間さんがいる位置のみ大雨が降るように調節する。そこに気温の急降下をプラスする!!局所的な大雨によりぬかるむ足元と重くなる衣服。それに加えて急激に下がった気温。先ほどまで氷で覆われていたといってもほんの少しの時間だ。ここまでの気温の急降下は身体的にかなりつらいはず!!
べちゃりと浅間さんが一歩踏み出すたびに演習場のぬかるんだ土の音が響く。
どん!!
急に大きな音が演習場に響き、何かにがっとお腹を殴られ、後ろ向きに吹っ飛ぶ。
「がはっ」
予想していなかった攻撃に受け身をとれず、がんっと鈍い音を立てて後頭部を壁にぶつける。なんだ、何が起こった。まだ後頭部をぶつけた衝撃から立ち直れず霞がかった視界に拳をこちら側に突き立てる浅間さんの姿が映る。
「!!!」
あの状況からあの速度で動いたというのか⁉いくらなんでもそれは無理だ。あんなぬかるんだ土の上では足を踏ん張ろうにも踏ん張れないだろう。浅間さんから僕まで距離があった。僕をあのスピードで殴るにはあそこから地面を蹴って踏み込むしか方法がないはず。・・・いや、待て。殴られる直前、浅間さんがこちらに向かって歩いてくるのに合わせて座標を調節しなおした大雨はまだ同じ場所に降り続けている。その雨の中に浅間さんはまだ立っている。・・・まさか。
「遠距離攻撃!!!」
そうか。そりゃそうだ。浅間さんは関東地区の隊長だ。どんな戦況でも臨機応変に対処してその時の最善の選択を取りに来るに決まっている!彼が得意なのは近接戦だが、それ以外ができないなんてそんなことがあるわけがない。最初の威力マシマシの近接攻撃の印象が強すぎてその可能性まで思い至らなかった。これも、彼の作戦なのだろう。・・・やられた。さすがだ。攻撃の威力だけじゃない、経験による差はここにも出てくるのか!
「拳による遠距離攻撃をされたのは初めてだろう?どうだい、見えない拳で殴られる感覚は!!」
「ほんと、嫌になります!!!」
近距離だけではなく遠距離も、それもどこから飛んでくるかわからないという攻撃が追加されたのだ。今まで以上に警戒心を持って動かなければならない。ああ、もう!!頭がこんがらがりそうだ!
だんっと大きな音を出して一気に浅間さんのほうに近づく。試験終了の時間がすぐそこまで迫っている。やるなら、今しかない!
「とち狂ったか!!俺が最も得意とする近接戦に自分から持ち込むとは!!」
ばっと僕が両手を前に出した次の瞬間、びりびり!!と音を立てて浅間さんの体に電流が走った。
「なに!!」
僕の能力を近接戦で応用させた戦い方。それは電流を使った攻撃だ。もとは雷を発生させて死なせない程度に感電させて相手の動きを封じる予定で訓練していたが、座標を細かく指定しながらの威力の調節が氷や雨に比べて圧倒的に難しく、今のところ座標指定を細かくしなくて済む近接戦でしか使用できない。しかし、近接戦で電流を使った場合、距離が近すぎると自分も感電してしまう恐れがあるため、使うなら相手との距離が1mほど離れた位置で、最終手段として、と決めていた。
びりびりと体を流れる電流に耐えかねたのかがくり、と膝をついた浅間さんが見えない拳の攻撃を繰り出してくるがそれは予想していたため、ばっと浅間さんの背後に移動して避けると浅間さんの首にすばやくナイフをあてた。僕の、勝ちだ。
***
結果発表は3人目であった莉緒の試験後すぐに3人同時に行われた。思いっきり殴られたお腹に湿布を張ってもらって休憩していたときに何の前触れもなくがちゃ、と控室の扉が開いて、じゃ、結果発表するぞーと言いながら浅間さんが入ってきたのには驚いたが、それもすぐに霧散した。結果は3人とも見事合格。驚きがすぐに嬉しさに変わって3人でハイタッチして喜んだ。結果発表と同時にそれぞれに講評も行われた。
「まずは天羅。”天候操作”っつー扱いの難しい能力をよくここまで仕上げてきたな。正直最初の氷のやつ、結構ビビったぜ?おかげで初戦から手を痛めちまった。あと、最後の電流。まさかあんな隠し玉を持っていたとは。お前はその見た目からして近接戦はからっきしだと思っていたんだが、案外そうでもなさそうだ。途中危なそうなところもあったが手加減していたとはいえ俺に勝ったんだ。文句なしの合格だ。」
あれで結構ビビっていたらしい。いや、氷を拳でたたき割られたこちらのほうがビビりましたけど。あと僕は言うほどひょろくない。ちゃんと筋肉だってついてる。着やせするタイプなんだ。そこのところはき違えないでいただきたい。まぁ、合格できたんだ。今は文句よりもこの喜びにひたっていたい。
「つぎ、石黒。お前、前よりも格段に成長したなぁ。前は死に物狂いで何が何でも俺に勝ってやるっていう気迫がすごかったが、今回はその逆で落ち着いて俺の攻撃に対処できていた。”情報解析”の質もかなり上がってる。初戦で痛めた手を執拗に狙ってきやがって。ま、それが悪いとは全く思わねぇがな。お前も文句なしの合格だ。」
おかげで余計に体力消耗したぜ、と少しげんなりした様子で言う浅間さんに祥太も少しやりすぎたか、と微妙な顔をする。けれどほめられたことがよほど嬉しかったのか頬が緩んでいるのを隠せていない。
「最後に、辻本。お前な、成長しすぎ。もう最初から最後まで何が何だかわかんなかったぞ。こっちが何もできずに終わるなんて戦闘員のトップ張ってるていうのに自信なくしちまうよ。」
「いや、あれは浅間さんが手を抜いてくれていたからできたことであって。手加減なしの状態で手合わせしたらああも簡単にいかなかったですよ。今回は先手必勝ということで勝たせてもらいました。」
はは、と苦笑い気味の浅間さんに莉緒が肩をすくめてみせる。いったい何をしたんだ。スタートの宣言からの動き出しが尋常でなくはやかった浅間さんに先手必勝で勝ったなんて。・・・今度教えてもらおう。
「それでも負けは負けだ。結果は重く受け止めるよ。さて、今回の試験、俺も勉強になった。お前らも合格したからって慢心せず、これからも頑張れよ?」
はいっ!と元気よく返事をした僕たちにそれじゃあな、お疲れー。といって浅間さんは去っていった。・・・合格、したんだ。これでまた3人一緒にいられる。まだまだ僕はこの2人と成長できる。浅間さんの言うとおり、これからも慢心せず、頑張っていこう。
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試験が無事に終わって数日たったころ、放課後に3人で自主練をするために演習場に集まってストレッチをしていたら急に祥太が座り込んだ。
「え、ちょ。祥太?大丈夫?」
いち早く気付いた莉緒が駆け寄ったが祥太は座り込んだまま硬く目を閉じていて心なしか顔色も悪く見えた。今にも倒れこみそうな祥太を莉緒と2人がかりで横にすると、わりい、だいじょぶ・・・。と弱弱しい声が聞こえてきた。
「どこが。祥太、今から祥太の家に運ぶよ、いい?」
莉緒が少し怒ったように圧をかけて言う。学園の保健室よりかは実家のほうが休めるだろう。祥太は弱みを見せるのを嫌がる節がある。けれど、前まではダメになる前に自分から僕たちに声をかけていたのに、どうしたのだろうか。疑問に思ったが祥太を休ませるのが最優先だと判断し、急いで祥太を家まで送り届けた。
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それから3日経過してようやく祥太が登校してきた。曰く、疲労が原因だったと。それはそうだろう。クラスで感染症が流行っていてもマスクもしないでけろっとしている超健康優良児の祥太が体調を崩すのなんて疲労以外にありえない。なんで休まなかったの?自分でもわかってたんでしょ?と祥太に看病の打診を拒否されてふてくされ気味な莉緒が問い詰める。
「あー。いや、その、今回の試験のためにほとんど休まず準備してきただろ?」
試験を受けると決めてから本番まであまり時間の余裕がなかったのだ。休んでなんかいられなかったのは事実だ。
「・・・休み方がわからなくなっちまって。」
・・・休み方がわからない、とは。
「なんか趣味とかないの?ほら、莉緒でいうと曲をつくる、とか。」
思えば祥太から趣味の話を聞いたことがない。すると祥太は困ったような顔をする。え"、と隣の莉緒から驚いた声がする。
「まさか、まだ1年のころみたいな無茶な訓練を続けてるなんて言わないよね?」
莉緒が焦ったように聞くと、祥太の目がすっと明後日の方向にそらされる。はぁぁぁぁぁ、と莉緒から大きなため息が出る。莉緒は、あれだけやめろって言ったのに。そりゃ体調も崩すわ。とタジタジになっている祥太をじとりと睨むと思いっきり叫んだ。
「今日から一週間、訓練禁止!!」
「え"」
「え、じゃない。このままだとまた疲労で体調崩すよ。お医者さんにも言われてるでしょ?完全に回復するまでは無理な運動は控えろって。」
「いや、その・・・。」
どれだけ無茶な訓練をしていたんだ。そしてそれを知らなかったとはいえ多少は倒れる前触れがあっただろうに止められなかった僕らにも責任がある。
「じゃあ、祥太。一緒に気分転換、する?」
「へ?」
気分転換と言っても祥太が好きそうな分野のものは僕もよくわからないので無難にショッピングセンターに行くくらいになってしまうかもしれないが。
「いいね、それ。私も一緒にいい?」
「もちろん。」
ぽかんと間抜けな表情をしている本人をおいて勝手に話を進めはじめる。よし、大切な友人のためにも一肌脱ぐとしますか!
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結果的に僕らの作戦は成功した。いや、成功しすぎてしまった。僕らが祥太に勧めたのはFPSと呼ばれるコンピューターゲームだ。最初はショッピングセンターを提案したが祥太はショッピングを楽しむような柄じゃないだろうと結局なしになって、莉緒と2人で頭を悩ませたところ、これにたどり着いた。情報収集能力とタイピング技術とマウス操作技術が必要になるらしいこのゲームは祥太にぴったりだったようだ。もちろん訓練は欠かしていないがそれも過度にはやらず、いい感じのところで切り上げて暇な時間ができるとすぐにやりはじめるくらい気に入ってくれたらしい。正直そこまでゲームには詳しくないので、すごい素材が手に入った、とかこの武器はここがすごくて、とかは莉緒に言ってほしい。いつも興奮気味に話してくれるが、僕に言われても何もわからない。うんうんと聞いてあげているが正直9割ぐらい何を言っているのかわからない。ごめんね、勧めたくせに何も知らなくて。でも疲労はきちんと回復したみたいでよかった。そこは安心だ。
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「ん・・・、朝・・・。」
カーテンの隙間からまばゆい朝日が漏れ出ている。なんだかひどく懐かしい夢を見ていた気がする。今日は遠征初日。起き上がって時計をみると目覚ましがなる少し前に起きることができたようだ。今日から僕たち3人は妖狐隊として活動する。昨日の会議で狐のお面を莉緒から画面越しに見せてもらったとき、一瞬莉緒が数年前といっても当事者たちはまだ鮮明に記憶しているであろう狐事件のトラウマを思い出してしまっていないか心配になったが、そのあとの資料確認の際にそんな様子は見られなかったので人知れずほっと胸をなでおろした。妖狐隊として活動するからには国の未来を守る責任をもって。僕だけじゃない、僕には頼もしい仲間が2人もついているんだ。こんなに心強いことはないだろう。責任重大なこの任務もこの2人となら達成できる気がする。いや、気がする、じゃない。達成するんだ。よし、頑張ろう、とベッドの上で気合を入れてカーテンを開けた。まばゆい朝のひかりが暗かった部屋の中を明るく包み込んだ。




