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辺境の普通は世界最強でした 〜無自覚な辺境伯嫡男、2人の転生者に勝手に導かれていつの間にか邪神を滅ぼす〜  作者: 七海あつし


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16/21

第16話 それぞれの実力

 合同実戦演習から数日が経った。

 学園内では、未だにあの日の話題が消えていなかった。

 一年生の三人組が、上級生を押し退けて最奥へ到達したこと。

 しかも、ほとんど戦闘らしい戦闘をせず、三人とも無傷で帰還したこと。

 その記録は瞬く間に学園中へ広がり、廊下を歩けばレイの名前を耳にすることも珍しくなくなっていた。


「……なんだか、最近よく見られるなぁ」


 昼休み。

 レイは食堂の隅で、頬杖をつきながら周囲を眺めていた。


「自覚がなさすぎますわ」


 向かいに座っていたエルリアが苦笑する。


「当然でしょう。あれだけの記録を出したのですから」

「でも、僕は普通に歩いてただけなんだけど」

「その『普通』が普通ではないのですよ」


 隣のミリィも呆れたように言う。


「そもそも、最奥までほとんど疲れずに到達した一年生なんて、学園始まって以来じゃない?」

「そうなの?」

「そうなの」


 ミリィが即答した。

 レイは少しだけ困った顔をした。


「……目立ちたくなかったんだけどなぁ」

「もう手遅れですわね」


 エルリアが微笑む。

 そんな穏やかな昼休みの最中だった。

 ――学園全体に鐘の音が響いた。

 続いて、魔導具を通した教官の声が流れる。


『一年生および二年生は、午後より中央訓練場へ集合せよ。これより特別実技試験を実施する』

「特別実技試験?」


 レイが顔を上げる。


「急ですね」


 エルリアも少し驚いた様子だった。


「合同演習の結果を受けて、追加の評価でもするのかしら」


 ミリィが考え込む。


「たぶんそうね」

「面倒そうだなぁ……」

「あなた、少しはやる気を出しなさい」

「だって授業でしょ?」

「……そういうところよ」

 ミリィはため息をついた。





 午後。

 中央訓練場には、対象となる生徒たちが集められていた。

 今回は合同実戦演習とは違う。

 三人一組ではない。

 むしろ、教官たちは生徒たちを意図的に分けていた。


「今回の試験では、諸君らの個人能力を測定する」


 壇上に立ったバルフレア教官が告げる。


「先日の合同実戦演習では、各班の連携能力を評価した。だが、それだけでは分からないものもある」


 教官の視線が生徒たちを横切る。


「他人の判断に従った結果なのか。それとも、自分自身にも状況を切り開く力があるのか」


 その言葉に、レイは少しだけ姿勢を正した。


「今回の試験では、個人ごとに異なる課題を与える」


 訓練場の各所に魔導式の装置が展開されていく。


「戦闘能力だけを見るものではない」


 魔物への対処。

 魔法制御。

 状況判断。

 簡易的な指揮判断。


 それぞれ異なる試験が用意されていた。


「そして、今回の結果は今後の特別授業や実習班の編成にも反映される」


 生徒たちの間にざわめきが広がった。


「では――開始!」





 最初の試験は魔法制御だった。

 一定量の魔力を使い、空中に浮かぶ複数の魔導球を指定された順番で動かす。

 単純に見えて、実際にはかなり難しい。

 魔力を強く流せば魔導球が壊れる。

 弱すぎれば時間内に動かせない。

 さらに途中で術式を切り替えなければならない。


「これはエルリアが得意そうだね」


 待機列からレイが眺めている。


「そうかしら?」

「魔法、丁寧だから」

「……見ていてくださいな」


 エルリアが試験区域へ入る。

 開始。

 五つの魔導球が一斉に浮かび上がった。

 エルリアは焦らない。


 一つ。

 二つ。

 三つ。


 それぞれに異なる魔力を流し、互いの軌道を干渉させることなく動かしていく。

 最後の一つが所定位置に収まった。


「終了!」


 教官が記録を確認する。


「高精度。魔力消費も基準値以下」


 エルリアは小さく息を吐いた。


「……上手くいきましたわ」

「うん。すごい」


 レイが素直に拍手する。

 エルリアは少し照れたように微笑んだ。


「ありがとうございます」





 次は戦術判断。

 ミリィが呼ばれた。

 彼女の前に展開されたのは、立体投影された簡易的な領域図だった。


 森林。

 街道。

 小さな村。

 そして複数の魔物反応。


『現在、街道上に魔物群が出現。村には避難していない住民が二十名。手元の戦力は騎士十名、魔術師三名』

『魔物を排除する場合、村の防衛が手薄になる』

『村を守る場合、街道の物流が三日間停止する』

『さて、どうする?』


 ミリィは地図を見つめた。

 しばらく沈黙。

 そして。


「騎士を二班に分けます」


 教官が眉を上げる。


「ほう?」

「十名全員を魔物討伐に回す必要はありません。街道上の魔物の規模が不明なら、まず三名を偵察に出す」


 ミリィは指を動かした。


「残り七名のうち五名を村へ配置。二名は村と街道の中間地点で待機させます」

「魔術師は?」

「三人とも村に置きます。ただし、防御ではなく避難誘導を優先します」

「なぜだ?」

「魔物を倒すことが目的ではないからです」


 ミリィの声は静かだった。


「目的は人的被害を抑えながら、物流を可能な限り早く復旧させること。なら、最初に確保すべきなのは住民です」


 教官が黙っている。


「そして魔物の規模が確認できた時点で、必要な戦力だけを街道へ投入する。もし大型魔物が確認された場合は、街道を一時的に放棄して村の防衛を優先します」

「……なるほど」


 教官が記録を書き込んだ。


「短絡的に討伐を選ばない。悪くない判断だ」


 ミリィが席へ戻る。


「どうだった?」


 レイが尋ねる。


「普通よ」

「普通じゃないと思うけど」

「あなたに言われても説得力がないわね」

「なんで?」

「自覚がないからよ」


 ミリィは小さく笑った。





 そして最後。

 レイの名前が呼ばれた。


「ノヴァク」

「はい」

「お前の課題は、これだ」


 教官が示したのは、訓練場の中央に設置された大型の魔導装置だった。

 内部には複数の術式核が浮かんでいる。


「制限時間三分。その間に、出現する魔物を撃破しろ」

「分かりました」

「ただし条件がある」

「条件?」

「魔導装置そのものを傷つけるな」

「……なるほど」


 レイは装置を眺めた。

 魔物が出現する。


 一体。

 二体。

 四体。

 六体。


 それぞれ異なる速度と攻撃方法を持つ。


「開始!」


 魔物が一斉に襲いかかった。

 レイは動かない。

 いや。

 正確には、必要な時にしか動かなかった。

 右から飛び込んできた魔物を半歩だけ避ける。

 木剣の柄で首元を叩く。

 魔物が消える。

 続いて背後。

 レイは振り向きもしない。

 指先を軽く動かす。

 小さな火球が飛び、魔物の足元だけを焼いた。

 動きを止める。

 そこへ木剣。

 一撃。

 消滅。


「……」


 見ていた生徒たちが息を呑む。

 派手ではない。

 むしろ地味だった。

 しかし、一切の無駄がない。

 魔法の威力も必要最低限。

 剣の軌道も必要最低限。

 そして何より――


「……あの装置に一度も当てていない」


 誰かが呟いた。

 レイは狭い空間の中で、魔法と剣を正確に使い分けていた。

 最後の魔物が飛びかかる。

 レイは一歩だけ後ろへ下がった。

 その瞬間、魔物の爪が魔導装置のすぐ横を通過する。


「危ない」


 レイが魔物の腕を掴む。

 そのまま勢いを利用して地面へ叩きつけた。

 ――光。


「終了!」


 試験終了の鐘が鳴った。

 レイは周囲を見渡した。


「……終わった?」

「終わりだ」


 バルフレア教官が答える。


「記録を確認する」


 教官が装置を見る。


 損傷――ゼロ。

 魔力消費――極めて低い。

 被弾――ゼロ。

 討伐――全成功。


「……」


 バルフレアはしばらく記録を見つめた。


「ノヴァク」

「はい」

「お前、もっと派手に戦えないのか?」

「できますけど」

「……」

「必要ないかなと思って」

「……そうだな」


 バルフレアは頭を抱えた。


「それがお前の問題なのかもしれんな」





 試験終了後。

 三人は訓練場の端に集まっていた。


「二人とも凄かったね」


 レイが言う。


「エルリアの魔法は綺麗だったし、ミリィの判断もすごく分かりやすかった」

「レイも十分すごかったと思いますわ」


 エルリアが微笑む。


「ええ」


 ミリィも頷く。


「あなたの場合は……なんというか」

「うん?」

「本当に、必要以上のことをしないのね」

「それって褒めてる?」

「褒めてるわ」


 ミリィは少し笑った。


「前の合同演習でも思ったけど、あなたは自分ができることを全部使おうとしない」

「うーん……」


 レイは少し考える。


「父上に、力は使い方が大事だって言われてるから」

「……なるほど」


 エルリアが優しく笑う。


「でしたら、今回の試験はとても良い結果だったのではありませんか?」

「そう?」

「ええ」


 エルリアは二人を見た。


「三人とも、それぞれ違うものが得意なのですから」


 レイが二人を見る。

 魔法ならエルリア。

 判断ならミリィ。

 そして戦闘なら自分。

 以前なら、そんな単純な分類すら考えなかっただろう。

 だが今は違う。


「……そっか」


 レイは少しだけ笑った。


「じゃあ、僕たちって結構いい組み合わせなのかもね」

「今さら気づいたの?」


 ミリィが呆れたように言う。


「遅いですわね」


 エルリアも笑う。


「ひどいなぁ」


 三人の笑い声が訓練場に響いた。

 ――その様子を。

 少し離れた場所から、一人の少年が見つめていた。

 生徒会長。

 アルトリウス・ヴァレンティア。

 その隣には、書記のリゼットもいる。


「……どう思う?」


 アルトリウスが尋ねる。

 リゼットはレイたちを眺めた。


「前より分かりやすくなったんじゃない?」

「何がだ?」

「あの三人が、それぞれ一人でも強いってこと」

「なるほど」


 アルトリウスは目を細めた。


「ならば――」


 その表情に、静かな興味が浮かぶ。


「次は、私自身が確かめるとしよう」


 その言葉を聞いたリゼットは、少しだけ嫌な予感を覚えた。


「……アル」

「何だ?」

「また面倒なこと考えてない?」

「私は常に、美しいものを求めているだけだ」

「それが一番面倒なのよ」


 リゼットはため息をついた。

 だが。

 アルトリウスの視線は、すでにレイから離れていなかった。


 ――合同実戦演習では、三人の連携を見た。

 ――今回の試験では、それぞれの個人能力を見た。

 ならば次に必要なのは。

 強者同士を直接ぶつけること。

 それが、アルトリウスの出した結論だった。


 そして数日後。

 学園に、新たな掲示が張り出される。


 『生徒会主催・上級生対抗模擬戦』


 その参加者名簿の中には。

 レイ・ノヴァクの名前も記されていた。

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