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辺境の普通は世界最強でした 〜無自覚な辺境伯嫡男、2人の転生者に勝手に導かれていつの間にか邪神を滅ぼす〜  作者: 七海あつし


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第15話 演習結果と、思わぬ評価

 合同実戦演習が終了すると、生徒たちは開始地点に設けられた集合広場へと戻されていた。

 演習領域から転移魔法によって戻された生徒たちが、次々と広場へ姿を現す。


「疲れたぁ……」

「最後の魔物、強すぎだろ……」

「でも、今年の生徒会班はやっぱり速かったな」


 あちこちからそんな声が聞こえてくる。

 だが、その話題の中心にいたのは、いつもなら当然のようにギルバートたちだった。

 ――今日までは。


「なあ、聞いたか?」

「何を?」

「一番最初に到達結晶へ着いたの、一年生らしいぞ」

「嘘だろ?」

「ノヴァク班だって」

「ノヴァクって……あの一年?」


 ざわざわと広場が騒がしくなる。

 レイはそんな周囲の視線を気にすることもなく、集合場所の端で水筒を傾けていた。


「ふぅ……」

「レイ」


 隣に立つミリィが呆れたように声をかける。


「あなた、もう少し周りを気にした方がいいんじゃない?」

「え?」

「さっきからずっと見られてるわよ」

「そう?」


 レイは周囲を見回した。

 確かに、何人もの生徒がこちらを見ている。

 視線が合うと、慌てて目を逸らす者までいた。


「……なんで?」

「それを私に聞くの?」

「だって、別に変なことしてないよね」

「そういうところよ」


 ミリィが小さくため息をつく。

 その横で、エルリアが微笑んだ。


「レイは今回、最も早く到達した班の一員ですもの。注目されるのも当然ですわ」

「でも、ミリィが道を決めてくれたからだよ?」

「それでも、最終的な判断をしたのは三人でしょう?」


 エルリアが優しく答える。


「それに、レイが戦闘で余計な消耗をしなかったからこそ、あれほど早く進めたのです」

「そうかな……」


 レイはまだ納得しきれない様子だった。

 すると。


「全班、静かに!」


 教官の声が響いた。

 ざわめきが収まる。

 前方の簡易壇上へ、今回の演習を担当した教官たちが並んだ。

 その中央には、バルフレア教官の姿もある。


「これより、今回の合同実戦演習の結果を発表する!」


 生徒たちが固唾を呑む。


「なお、今回の評価は単純な到達時間だけではない。戦闘回数、魔力消費、負傷状況、連携、判断の正確性を総合して決定した」


 その説明に、生徒たちがざわめく。


「では――」


 教官が手元の資料を確認する。


「第一位――」


 一瞬の間。


「一年生、レイ・ノヴァク、エルリア・アルカディアス、ミリィ・フローレンス班!」

「……!」


 広場が大きくどよめいた。


「やっぱりか!」

「一年生が一位!?」

「時間だけじゃなくて総合評価でも!?」


 レイは目を丸くした。


「え?」


 ミリィも一瞬驚いたが、すぐに納得したように頷く。


「なるほど。そういう評価だったのね」

「どういうこと?」

「戦闘回数が少なくて、魔力消費もほとんどない。負傷者もゼロ。しかも三人の役割分担が明確だった」


 ミリィが淡々と説明する。


「総合評価なら、私たちが上になるのは不思議じゃないわ」

「そうなんだ……」


 レイは少し嬉しそうに笑った。


「じゃあ、ちゃんと三人でやった成果なんだね」

「ええ」


 エルリアも頷いた。


「とても良い結果ですわ」

「第二位――五年生、ギルバート・オルディニア、生徒会班!」


 続いて名前が読み上げられる。

 ギルバートは一歩前へ出て、胸を張った。


「はい!」


 その表情に悔しさはあった。

 しかし、それ以上に晴れやかなものがあった。

 ギルバートはレイを見る。

 目が合う。

 レイは軽く手を上げた。


「先輩、お疲れ様でした」

「ああ」


 ギルバートも頷く。


「お前たちもな」


 そして少しだけ口元を緩める。


「……次は、もっと早く行くぞ」

「はい」


 レイは嬉しそうに答えた。


「僕も頑張ります」

「……」


 ギルバートは一瞬、何か言いたそうな顔をした。

 だが、結局何も言わずに笑った。


「そうしてくれ」


 その様子を少し離れた場所から見ていたリゼットは、静かに目を細めていた。

 生徒会書記である彼女は、今回の演習結果を記録する役割も担っている。

 そして、記録用紙にはすでに数字が並んでいた。


 到達時間。

 戦闘回数。

 魔力消費。

 負傷。

 連携評価。


 どの項目を見ても、一年生班は異様なほど安定している。


(……これは偶然じゃない)


 リゼットはレイを見る。


(レイ・ノヴァクは、自分が強いから全部自分でやるタイプじゃない)


 むしろ逆だった。

 自分にできないことは他人に任せる。

 他人の得意分野を素直に認める。

 必要以上に力を使わない。

 そして――自分の判断が間違っていると思えば、すぐに修正する。


(この年齢で、それが自然にできる……)


 リゼットは小さく息を吐いた。

 第一訓練場で見た時とは、少し印象が変わっている。

 ただ強いだけの少年ではない。

 だが。


「……本人は、たぶん何も考えてないんでしょうね」

「何か言ったか?」


 隣にいたギルバートが尋ねる。


「いいえ」


 リゼットは首を振った。


「何でもありません」


 その頃。

 レイは教官から渡された評価表を眺めていた。


「……これ、結構細かいんだね」

「見せて」


 ミリィが覗き込む。


「戦闘効率、危険回避、魔力管理……」

「レイはほとんど満点じゃありませんの」


 エルリアも横から見る。


「本当だ」


 レイは少し照れたように笑った。


「でも、判断力のところは普通だね」

「そこは私たちが補ったからでしょう」


 ミリィが言う。


「だからチームなのよ」

「……」


 レイはその言葉を聞いて、しばらく評価表を見つめた。

 そして。


「うん」


 静かに頷く。


「チームって、いいね」


 その声には、以前とは少し違う響きがあった。

 統治の授業で知ったこと。

 放課後のカフェで教えてもらったこと。

 そして今回の演習。

 少しずつではあるが、レイは理解し始めていた。

 ――自分一人で何でもできることより。

 ――自分にないものを持つ人間と力を合わせることの方が、ずっと大きなことを成し遂げられる。


「そうだ」


 レイが顔を上げる。


「二人とも、ありがとう」

「……!」


 エルリアが目を瞬かせる。

 ミリィも一瞬固まった。


「今回、二人が一緒じゃなかったら、僕はこんなに上手くできなかったと思う」

「レイ……」

「だから、本当に助かったよ」


 レイはいつもの穏やかな笑顔を浮かべる。

 その言葉に。

 エルリアは頬を僅かに赤くしながら微笑んだ。


「……こちらこそ、楽しかったですわ」

「私も」


 ミリィも視線を逸らしながら答える。


「また機会があったら、一緒に組んでもいいわよ」

「もちろん」


 レイは嬉しそうに頷いた。

 その少し離れた場所。


「……」


 ギルバートは、その光景を見ていた。


「ギルバート」


 リゼットが声をかける。


「何だ?」

「顔」

「顔?」

「笑ってるわよ」

「……そうか?」

「ええ」


 リゼットは小さく笑った。


「もう、完全に認めたみたいね」


 ギルバートはしばらくレイたちを眺めていた。

 そして。


「……ああ」


 短く答えた。


「認めざるを得ない」


 だが、その直後。

 ギルバートの目に、再び闘志が宿る。


「だからこそ――次はもっと上を目指す」

「……やっぱり」


 リゼットが呆れたように呟く。


「意地になってるじゃない」

「私は冷静だ」

「はいはい」


 こうして。

 レイたちの最初の合同実戦演習は終わった。

 本人たちにとっては、三人で協力して課題を達成しただけの、何気ない一日。

 しかし学園では。

 この日を境に、レイ・ノヴァクという一年生を見る目が、少しずつ変わり始めていた。


 そしてその日の夕方。

 生徒会室には、演習結果とは別の一枚の報告書が届くことになる。

 そこに記されていたのは――


 「ノヴァク領嫡男、レイ・ノヴァクについて」


 という、学園の通常の成績記録とは明らかに異なる題名だった。

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