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辺境の普通は世界最強でした 〜無自覚な辺境伯嫡男、2人の転生者に勝手に導かれていつの間にか邪神を滅ぼす〜  作者: 七海あつし


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第14話 最奥の鉢合わせ

「だったら、一緒に確認します?」


 レイがそう言った瞬間。

 ギルバートの眉が、ぴくりと動いた。

 その言葉には、挑発の色など一切ない。

 本当にただ、「同じ目的で来たのだから、一緒にやればいい」と考えているだけなのだ。

 それが、今のギルバートには妙に堪えた。


「……確認する、だと?」

「はい」


 レイは首を傾げる。


「僕たち、これが最奥の結晶だと思ってるんですけど。もしかしたら違うかもしれないので」

「……」


 ギルバートは結晶を見る。

 どう見ても到達結晶だった。

 しかし、そんなことは問題ではない。

 問題なのは――。

 一年生が、自分たちより先にここへ到達していること。

 しかも。


「お前たちは……戦ってきたのか?」

「少しだけ」


 レイは指を一本立てる。


「魔物は何体かいましたけど、ミリィが避けられるところは避けようって」

「罠も、いくつかありましたわね」


 エルリアが続ける。


「ですが、ミリィさんがほとんど事前に見つけてくださいました」

「私は二人が無駄に戦わないようにしただけよ」


 ミリィは淡々と答えた。


「それに、レイがいるから無理に回り道をする必要もなかったし」

「僕?」

「ええ」


 ミリィはレイを見る。


「どうしても進路を塞いでいる魔物がいたら、あなたが最小限の力で倒せるでしょう?」

「そうだね」


 レイはあっさり頷いた。


「じゃあ、三人で役割分担できてたってことかな」

「……」


 ギルバートは何も言えなかった。

 その説明を聞けば聞くほど、腹立たしいほど理にかなっている。

 戦闘能力だけに頼らない。

 危険を予測し、不要な戦闘を避ける。

 必要な場面だけレイが戦う。

 そして三人が互いの得意分野を理解して動いている。

 ――まるで、最初からこの演習の目的を理解していたかのようだった。


「……大したものだな」


 ギルバートの口から、低い声が漏れた。


「え?」

「いや」


 ギルバートは首を振った。


「こちらの話だ」


 そして、改めてレイを見る。

 以前、第一訓練場で木剣を交えた時とは違う。

 あの時は、ただ「強い一年生」だと思っていた。

 だが今は違う。

 剣が強いだけではない。

 魔法にも長けている。

 さらに、こうして他人と連携することもできる。

 ――それなのに。


「……お前、本当に一年生なのか?」

「そうですけど」

「……そうか」


 ギルバートは深く息を吐いた。

 その横では、後から到着した生徒会のメンバーも呆然としている。


「ギルバート先輩……」

「分かっている」

「俺たち、かなり急いできたんですよね?」

「ああ」

「なのに……」


 誰も続きが言えなかった。

 自分たちは正攻法で最短距離を進んだ。

 魔物が出れば倒した。

 罠があれば突破した。

 その結果、かなりの速度でここまで来た。

 それでも。

 目の前の一年生たちは、自分たちより遥かに早く到達していた。

 しかも――。

 ほぼ無傷。


「……レイ」


 ギルバートが呼びかける。


「はい?」

「ここまで来た以上、聞かせてもらいたい」

「何をですか?」

「お前たちは、この結晶をどうするつもりだ?」


 レイは少し考えた。


「触ればいいんですよね?」

「そうだ」

「じゃあ、触ります」

「……」


 ギルバートは思わず目を細めた。


「待て」

「はい?」

「お前……」


 レイが振り返る。


「少しは警戒しろ」

「え?」

「最奥だぞ。何か仕掛けがあるかもしれん」

「ああ……」


 レイは結晶を見る。


「確かに」


 そして、エルリアとミリィを見る。


「何か分かる?」

「魔力の流れ自体は安定していますわ」


 エルリアが目を細める。


「ただ、念のため触れるのは私が――」

「待って」


 ミリィが手を上げた。


「どうした?」

「結晶の台座」


 ミリィが指差す。

 そこには小さな刻印があった。


「これ、到達結晶の起動条件じゃない?」

「本当ですわ」


 エルリアも近づく。


「三人分の魔力反応を同時に認識する仕組みになっていますわね」

「じゃあ、三人で触る必要があるんだ」


 レイが納得する。


「なるほど」


 その時。


「……だったら」


 ギルバートが一歩前へ出た。


「我々も参加させてもらおう」

「え?」


 レイが目を丸くする。


「合同演習なのだ。到達した班同士で確認するのも悪くない」


 ギルバートはそう言った。

 表向きは冷静だった。

 だが。

 胸の奥では、別の感情が渦巻いている。

 ――このまま一年生に先を越されたまま終わるわけにはいかない。

 そんな意地が、確かにあった。

 それでもギルバートは、それを表には出さない。


「分かりました」


 レイはあっさり頷いた。


「じゃあ、一緒にやりましょう」


 その無邪気な返答に、ギルバートは少しだけ拍子抜けした。


「……本当にそれでいいのか?」

「はい」

「お前は悔しくないのか?」

「何がです?」

「我々と競争していたのだろう?」

「え?」


 レイは心底不思議そうな顔をした。


「僕、競争してたんですか?」

「……」


 ギルバートの顔が固まった。

 ミリィが額に手を当てる。


「レイ……」

「だって、最初に説明された時、到達時間だけが評価じゃないって言ってたよね?」

「そうだけど……」

「だから、僕たちは自分たちが一番やりやすい方法で進んだだけだよ」


 レイは本当に何も意識していなかった。

 勝とうとも。

 負かそうとも。

 先輩に実力を見せつけようともしていない。

 ただ三人で相談して、最も安全で効率の良い方法を選んだ。

 結果として。

 上級生たちより先に着いていただけ。


「……なるほど」


 ギルバートはゆっくりと目を閉じた。

 そして、小さく息を吐く。


「お前は……本当にそういう奴なのだな」

「?」

「いや、もういい」


 ギルバートは諦めたように笑った。

 その時だった。


 ――パァァン!


 突然、中央の結晶が強く輝いた。


「っ!」


 全員が身構える。

 だが、攻撃ではない。

 結晶から青白い光が広がり、床一面に魔法陣が浮かび上がっていく。


『到達条件を確認』


 無機質な声が広間に響いた。


『第一到達班――ノヴァク、アルカディアス、フローレンス』


 レイたち三人の名前が告げられる。

 続いて。


『第二到達班――オルディニア、生徒会班』


 ギルバートたちの名前が続いた。


「……第一?」


 ギルバートが呟く。

 つまり。


 ――正式に、一年生チームが一番乗りだった。

 広間に沈黙が落ちる。

 レイは結晶を見つめていた。


「終わったのかな?」

「ええ……たぶん」


 エルリアが頷く。

 ミリィも苦笑する。


「これなら順位も確定でしょうね」


 レイはホッとしたように笑った。


「じゃあ、帰れるね」

「……」


 ギルバートは思わず笑ってしまった。


「お前は最後までそれか」

「え?」

「いや」


 ギルバートは剣を腰に戻す。


「……今回は、完全に私たちの負けだ」


 その言葉に、生徒会の二人が驚いた。


「ギルバート先輩……!」

「事実だ」


 ギルバートは真っ直ぐにレイを見る。


「戦闘能力だけでなく、判断力でも上を行かれた。これは認めざるを得ない」

「そんな……」


 レイは困ったように頬を掻いた。


「僕一人じゃ何もできなかったですよ」


 そして隣を見る。


「ミリィが進む道を決めてくれて、エルリアが全体を見てくれたから」

「レイ……」

「だから三人で勝ったんだと思います」


 ミリィは一瞬、言葉を失った。

 エルリアも静かに目を細める。

 そして。


「……そういうところですわね」


 エルリアが微笑んだ。


「何が?」

「なんでもありませんわ」


 ミリィも小さく笑う。


「本当に、何も分かってないのね」

「?」


 レイは首を傾げる。

 そんな三人を見ながら、ギルバートは思った。

 この少年は、まだ自分の強さを理解していない。

 けれど――。

 もしかすると。

 自分が本当に警戒すべきなのは、その強さそのものではないのかもしれない。

 力を誇示せず。

 仲間の能力を認め。

 自分に足りないものがあれば、素直に人に頼る。

 それは戦士としてだけではない。

 人の上に立つ者としても――。


「……面白い一年生だ」


 ギルバートが呟く。


「先輩、何か言いました?」

「何でもない」


 ギルバートは笑った。


「ただ――次は負けん」


 その言葉に、レイは嬉しそうに頷いた。


「はい。次もよろしくお願いします」

「……」


 まただ。

 この男は、本当に分かっていない。

 ギルバートは苦笑しながら、出口へ向かって歩き始めた。

 こうして。

 皇立学園最初の合同実戦演習は、幕を閉じた。

 だがこの日。

 一年生の間ではもちろん、上級生たちの間でも一つの名前が広がり始めることになる。


 ――レイ・ノヴァク。

 本人だけが、その噂が自分から始まっていることを知らないまま。

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