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原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第3章 戦国時代編

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第89話 最後の意地を示しまする

信長本陣・陣幕内


信長が命じた。

「信忠を大将、副将を明智として——羽柴と毛利の残党を討伐せよと命じよ。儂の陣から、一万を連れて行かせよ。それだけあれば十分であろう。それと、信孝を大将、副将を丹羽として——徳川を討伐せよと命じよ」


「はっ」


堀が伝令に素早く指示を出して戻ってきた。

「上様——海神《わだつみ》衆の藤林殿がお見えです」


「通せ」


藤林と官兵衛が——信長の前に膝をついた。


藤林が落ち着いた声で言った。

「羽柴殿の御首《みしるし》を持ってまいりました。首を上げたのは——黒田職隆殿でございます」


「黒田家は——お構いなしとする」


官兵衛は深く頭を下げた。

「ありがたき幸せでございます」


***


藤林は通信機を取り出した。

「上様——北沢司令と、お話いただけますか」


信長は通信機を見つめた。

「なに——この箱で話ができるのか」


「はっ」


「堀と藤林殿だけにしてくれるか」

信長が声をかけると、控えていた護衛と小姓たちが、静かに下がっていった。


藤林が言った。

「司令、どうぞお話ください」


通信が繋がり、北沢の声が届いた。

「織田殿——お怪我はありませんか」


信長は答えた。

「此度の助太刀——まことに感謝いたす。まさか、信雄や家康にまで、猿の手が伸びておったとは——思いも寄りませなんだ」


「お役に立ててよかったです。ところで——この際、一気に天下統一を前に進めませんか」


「そうはいっても——兵が手一杯でありまして」


「これから数日のうちに——毛利の吉田郡山城、徳川の浜松城を我らで叩きます」


「おお、それは大いに助かります。間髪入れず——毛利と徳川を降伏させる使者を送るのですな」


「そのとおりです」


信長の目が光った。

「本城を叩かれては——毛利も徳川も心が折れてしまうでござろうな」


「その後は——武田、北条、上杉に臣従の使者を出してください。拒否すれば、武田の躑躅ヶ崎館、北条の小田原城、上杉の春日山城と順に叩いていきます」


信長はしばらく黙っていた。


やがて——ふっと笑った。

「であれば——天下統一は、概ね片付くわけですな」


「そういうことです。これから、毛利の吉田郡山城、徳川の浜松城への攻撃準備を開始します」


信長は通信機に頭を下げた。

「北沢殿——まことに感謝いたします」


堀は、隅で会話を聞いていた。

(この方たちの力——我らに向くことはないのだろうか)


北沢は続けた。

「一つ——先に申し上げておきたいことがあります」


「なんでござろう」


「我らは、この国をどうこうする気は——一切ありません」


信長は、しばし沈黙した。

「……正直に申せば、そのことを一度も考えなかった、と言えば嘘になり申す」


信長は続けた。

「ですが、これだけの助太刀をいただいた上に、そう先んじて申し出てくださる。北沢殿を、疑う理由が見当たりませぬ」


「この国は織田殿にお任せします。我らには——先の世のために、やるべきことがあるのです。それは、この国ではなく海の外にあります」


信長はしばらく黙っていた。

「……それはぜひお聞きしたいものですな」


北沢は小さく笑った。

「あの千宗易殿の美味い茶を飲みながらで——いかがでしょうか」


信長も笑った。

「ぜひとも」


「美味い茶を飲むために、さっさと片付けましょう」


***


藤林を見送った堀が戻り、信長と堀が二人だけになった。


しばらくして——。

陣幕の外から声がした。

「上様——北畠信雄様をお通ししてよろしいでしょうか」


信長は黙ったまま、しばらく虚空を見つめていた。

「通せ」


刀を取り上げられ、薄汚れた顔の信雄が——天幕の中に入ってきた。

(なぜこやつは——潔い討ち死を選ばなかった)


信雄はそのまま——いきなり地に額をこすりつけた。

「父上——どうか、命だけはお助けください」


信長はしばらく黙っていた。

「なぜ命が惜しい」


「……」


「お前のために、大勢の家臣と兵が命を落としているのだぞ」


しばらくして、信雄は顔を上げた。

「某は——猿に騙されたのでございます」


信長の目が細くなった。

「堀——」


「はっ」


「見苦しい。織田の人間が、これ以上醜態をさらされてはかなわん」


「どうしますか」


「腹を切る場所を設けてやれ。それが——父として最後にしてやれることじゃ」


「お待ちくだされ——!」

信雄が叫んだ。


「連れて行け」


堀が、周りに目配せした。

兵が——信雄の腕を掴んだ。


「父上——! 父上——!」

信雄が引きずられていった。


天幕の中が——静かになった。

信長はしばらく黙っていた。

「北沢殿との話に——良き気分になったところであったにな」


「心踊る話でありましたな」


「これから、織田家の一挙手一投足を見られる大事な時に、あの馬鹿は、見苦しい真似をしおって」


信長は続けた。

「この乱がおさまれば——次に来るのは、政《まつりごと》の場よ。天下を統べるにふさわしいか否か——この国の、あらゆる者の目が、織田家に注がれることになる」


「そのような時に——ああも、みっともない醜態を見せられてはな」


天幕の外から——助けを求める声が、小さく響いていた。


堀は目を伏せた。

(武士に生まれた者は——死に場所を間違えてはならない)

(信雄様は——その場所を、誤られた)


***


有岡城。


羽柴秀長は、吉川元春に顔を向けた。

「逃げて、姫路の小城に籠ってもどうにもなりませぬ。長浜城の者どもも、山中に隠れておるでしょうが——いずれ見つかりまする。となれば——羽柴家は、もはやここまででござる」


にんまりと微笑んで秀長は続けた。

「我ら、この有岡城に籠って——最後の意地を示しまする。敵が我らに群がる隙に——お逃げくだされ」


吉川元春はしばらく秀長を見つめた。

「お言葉に甘えさせていただく。羽柴家のご武運をお祈りいたしますぞ」


「お急ぎくだされ」


毛利の将兵が——大急ぎで駆け出した。

三木の別所長治も——足利義昭も、あとを追うように消えていった。

秀長はしばらく、その背中をじっと見送った。


やがて——兵の方に振り返った。

「皆のもの——羽柴はこの有岡城で最後の意地を示す。逃げたい者は逃げろ。引き留めはせぬ」


しばらく——沈黙が続いた。


一人が、無言で城門に向かった。

また一人——また一人。

やがて波が引くように、兵たちが城を出ていった。


二万のうち——残ったのは約千だった。

秀長はゆっくりと残った者たちを見渡した。

(この者たちは——兄が藤吉郎と名乗っていた頃から、ともに戦ってきた者たちだ)


秀長の目が——わずかに潤んだ。

「もうすぐ日が落ちる。今宵は——酒を振る舞う。それを楽しみに、なんとしても日没まで、敵を防ぎきるのだ」


「おおーっ——!」

鬨の声が——有岡城に響いた。


***


大和発令所。


北沢はレーダードローンの映像を見つめていた。

(羽柴は残ったのか。再起の目はないだろうからな)


北沢は映像から目を離した。

「敗走する毛利軍に恐怖を植え付ける——レールガンを一発だけ、毛利軍に撃ち込め。その後、大和は浜松方面に向かう」


北沢は続けた。

「宮本——武蔵の中村艦長に連絡。毛利の吉田郡山城をドローンで叩いてほしいと伝えてくれ」


「はっ」


田村はモニターを確認した。

「レールガン——準備完了」


「敗走する毛利軍の中央部に向け、撃て」


ズドォォォン——!

敗走する毛利軍の中央に——黒い閃光が走った。

轟音とともに土砂が舞い上がり、衝撃波が四方に広がった。


「着弾確認」


「よし——浜松方面に向かう。潜航せよ」


大和が、音もなく海に潜航した。


***


武蔵発令所。


中村は早川を見た。

「早川——ドローンで毛利の吉田郡山城を叩く。整備は完了しているか」


早川が答えた。

「念のため二機飛ばします。ミサイルは八発——十分です」


「田中——操縦士の準備はどうだ」


「飛行経路を確認させています。広島方面の地形に詳しい者を選んでいます」


中村は頷いた。

「明朝——夜明け前に離陸。海岸線を確認しながら目標に向かえ、ただし、ミサイルは残数が限られている。天守を破壊できたら——それで十分だ。無駄玉は使うな」


「はっ」


「出撃時間まで——飛行経路をiPadで操縦士と確認しておいてくれ」


「はっ」


発令所が静かになった。

中村はしばらく地図を見つめていた。


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