↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第3章 戦国時代編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/122

第80話 楽しみが、また一つ増えましたな

武蔵・感染隔離室。


半兵衛は、今日、北沢司令から話があると聞かされていた。

部屋の扉が開いた。

北沢、桐山、藤林、それに黒田親子が入ってきた。五人とも、マスクをつけていた。


半兵衛はベッドの上に座り直した。

その傍らに、黒田親子が腰を下ろした。

北沢たち三人は、向かい合うようにパイプ椅子に腰掛けた。


北沢は穏やかに話し始めた。

「私がこの船の司令——北沢です」


半兵衛と黒田親子は、北沢に深く頭を下げた。


半兵衛が、真っ先に口を開いた。

「某は——京で死を待つだけでした。新しくいただいた人生でござります。この身をなんなりとお役にお立てくださいませ」


そう言いながらも、新たな発見や気づきを求めてか、半兵衛の視線は、きょろきょろと桐山の手元のiPadに向いていた。


官兵衛が、落ち着いた口調で続けた。

「この度は——有岡城の牢から救っていただき、松寿丸まで助けていただきました。この御恩は——一生を懸けてお返しいたします」


その言葉には、感謝の思いと共に、すでにこの先の身の振り方を見据えているような、確かな響きがあった。


最後に、松寿丸が姿勢を正して礼を述べた。

「美濃の垂井に隠れたまま、一生を送らねばならないところを——助けていただきました。父と同様、この御恩は必ずやお返しいたします」


幼さの残る声だったが、一語一語、はっきりと発せられていた。

北沢は、その姿に感心した。

(これが——武士の子というものか。まだ幼いというのに、たいしたものだ)

北沢は、松寿丸の方を見てにっこりと微笑んだ。


「すでに藤林殿や村上先生から、大まかな事情はお聞きになっているかと思います。織田殿からは——お三方の身柄を、我らに委ねるという一文をいただいております。『許す』にはそういう意味が含まれているそうです。どうか、ご安心ください」


北沢は続けた。

「我らは、この国から戦《いくさ》をなくすため、織田殿に助力するつもりです。海神《わだつみ》衆に加わり——我らと共に、力を貸していただけますか」


三人が深く頷き、半兵衛が代表して述べた。

「なんなりとお命じくださいませ」


北沢は、少し表情を改めた。

「では——お三方にも、きちんとお伝えしておかねばならないことがあります」


「なんでしょうか」


「我らは——この時代から、何百年も先の世から来ました」


一瞬、部屋の空気が止まった。


半兵衛は、目を大きく見開いた。

「先の……世から、と」


官兵衛も、言葉を失ったまま北沢を見つめていた。


北沢は静かに続けた。

「この船も、我らが持つ様々な力も——すべて、先の世の技術によるものです。信じがたい話だとは思いますが」


半兵衛は、しばらく黙っていた。

やがて、震える声で言った。


「いや——むしろ、腑に落ちましてござる。この船の有様、村上先生の医術……先の世からと言われれば、得心がいきまする」


官兵衛も、深く頷いた。

「某も、同じ思いです」


北沢は頷いた。

「詳しい話は、後で桐山から聞いてください」


半兵衛がうれしそうに言った。

「じっくりとお話を聞かせていただきます」


そう言いながらも、半兵衛はしばらく考え込んでいた。

やがて、静かに口を開いた。

「今、思いついたのですが、よろしいですか」


「なんでしょう」


「北沢司令たちは、先の世から来られて、この世にはなかったはずの海神《わだつみ》衆をお作りになられた。本来、これはこの世に存在しなかったはずのものでございましょう」


北沢は頷いた。

「そのとおりです」


「海神《わだつみ》衆が働けば——この国の行く末は、当然変わってまいります。であれば」


半兵衛は、少し間を置いて続けた。

「先の世が変わってしまうと、この船にいらっしゃる、先の世でお生まれになった方々は——どうなるのです。消えてしまわれたり、いたしませぬか」


北沢は、思わず息を呑んだ。

(この男——たった今、転移の話を聞いたばかりだというのに、もうそこまで考えたのか)


桐山も、驚いた顔で半兵衛を見つめていた。

(パラレルワールドのことを——言っているのか)


北沢はしばらく言葉を選んだ。

「鋭いご指摘です。実は——我らも、まだすべてを解き明かせてはおりません」


「と、いいますと」


「この世界は、我らが元いた世界とは、少しずつ枝分かれした——別の世界である可能性が高いのです。ですから、この世界がどう変わろうとも、我らの元いた世界が消えてしまう、ということはないはずです」


半兵衛は、目を輝かせた。

「別の世界——枝分かれ、でございますか」


「はい。そのあたりの理屈は——早川という女性が詳しいです。後ほど、ぜひ聞いてみてください」


半兵衛は、満足そうに頷いた。

「なるほど——楽しみが、また一つ増えましたな」


官兵衛が、呆れたように半兵衛を見た。

「半兵衛殿——命の恩人との対面で、そのようなことばかり気になさるとは」


半兵衛は、悪びれもせず笑った。

「性分でござるよ、官兵衛殿」


***


北沢が言った。

「海神《わだつみ》衆についても、説明しておきましょう。頭領を務めていただいているのが——藤林殿です」


藤林は三人の方を向いてゆっくり頷いた。


三人が藤林へと向き直った。

「よろしくお願い申す」


北沢が説明を続けた。

「海神《わだつみ》衆には、先の世の軍人の装備を身につけ、活動してもらっています。武器は——先の世の拳銃になります」


「拳銃、でございますか」

官兵衛が身を乗り出した。


「小型の銃ですが、遠くを狙うときには、銃床《じゅうしょう》を装着し、銃身を延長します。さらに——発射音をほとんど消す仕掛けも施してあります」


官兵衛は、驚いた顔で目を見開いた。

「音を、消す……。そのような銃が、この世にあり得るのですか」


「火薬の爆発する音そのものを抑える仕組みです。詳しくは、また別の機会に」


官兵衛はしばらく黙っていた。

やがて、感嘆したように呟いた。

「音もなく人を討てる武器とは……戦の形そのものが、変わってしまいますな」


「それと藤林殿には、伊賀国の領主も兼ねていただいております」


藤林が続けた。

「伊賀は——北畠信雄殿に攻め込まれ、壊滅寸前となりました。今の伊賀があるのは——すべて北沢司令のお陰なのです。ともに司令を支えていきましょうぞ」


三人はしっかりと頷いた。


***


半兵衛が口を開いた。

「北沢司令——一つ聞いてもよろしいでしょうか」


「なんでしょう」


「『この国から戦《いくさ》をなくすために助力する』とおっしゃいました。具体的に——どう助力されるのか。それによっては——某の知恵も、いささかお役に立てるやもしれません」


北沢は、その言葉に興味を惹かれた。

(さっそく、力になろうとしてくれているのか。頼もしい)


「それは——おいおい、お話しします。まずは体を治してください」


半兵衛は、うれしそうに頷いた。

見たことも聞いたこともない力、この身では思いも及ばぬ知識。

それらと共に、己の知恵をどう活かせるのか——考えるだけで、胸が躍った。


(新たな人生、なにが待っているかわからぬ。だが——これほど、面白そうな話もあるまい)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。