↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第3章 戦国時代編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/122

第76話 労咳が、治るのですか

堺。千宗易の屋敷。


信長は少し安心したように微笑んだ。

「ところで——北沢殿、今後、織田家との縁を強くしていただきたいと考えますが、いかがですか」


北沢は首をかしげた。

「まさか——縁談とかですか」


「いかにも」


「ですが——私はもう六十九歳ですぞ」


信長は笑った。

「大丈夫でござる。儂の妹でどうでしょう。名はお市という。今は子供が三人おりますが——」


北沢は少し驚いた顔をした。

「お市殿——浅井長政殿の奥方だった方ですね」


「そうじゃ。長政が死んで——今は儂のもとにいる。北沢殿のもとに嫁がせたい」


北沢はしばらく黙っていた。

(記録では、お市の方をもらった柴田勝家殿は、秀吉に攻められ落命だったな)

(そうはならないと思うが——)


「こんな年寄りに嫁ぐのでは……お市様が悲しまれますよ」


信長はにやりと笑った。

「武家に生まれた女は弱くはない。遠慮は無用。頼む」


北沢は苦笑した。

「そこまで言われるのなら、お受けします。しかし、住んでいただくのは有岡城になると思います。話を進めるのは、その城を修復してからにしていただきたい」


「では、急がねばならぬな。丹羽長秀に命じよう。あいつなら城の修復など、すぐじゃ」


「ですが、かなり壊しましたぞ」


「安土城の普請を任した男だ。有岡城の修繕も手際よくやってくれるはずじゃ」


(これは——武蔵に戻ったら、みんなに何と言おう)


***


武蔵・大会議室。


北沢は全員を見渡した。

「織田殿に一筆書いていただいた。この——『許す』という文字について説明しておく」


黒田官兵衛殿、松寿丸殿、竹中半兵衛殿について、信長と話した内容を順に説明した。


「というわけで——黒田官兵衛殿、松寿丸殿、竹中半兵衛殿は我らが預かることになった。彼らは——海神《わだつみ》衆として、この国のために働いてもらうことになる」


会議室が静まり返った。


「この一筆一枚には——そういう意味が込められている。まあ、織田殿らしいがな」


桐山が言った。

「三人とも——海神《わだつみ》衆として、新しい人生を歩むわけですね」


「そういうことだ」


北沢は藤林を見た。

「藤林殿——京で療養中の竹中殿のもとへ行って、この一筆を見せ、事情をご説明してほしい。そして竹中殿と松寿丸殿を武蔵に連れてきてもらいたい。竹中殿は重病です——くれぐれも丁重に頼みます」


「承知しました」


北沢は村上を見た。

「村上先生——黒田殿に、松寿丸殿のご無事と、この一筆の意味をお伝えしてもらえますか」


村上は頷いた。

「生きている我が子と再会できると知れば——治りも早くなるでしょう。一番の薬ですよ」


「ちなみに竹中殿ですが——記録では結核を患っていたようです。この時代では労咳《ろうがい》と呼ばれている病気です」


「それなら、ストレプトマイシンという薬が必要となりますね。運良く武蔵に積まれています。作ることもできますけどね」


藤林は思わず確認した。

「労咳《ろうがい》が、治るのですか」


村上は答えた。

「治せますよ」


(労咳《ろうがい》で死んでいった者をたくさん知っておる)

(才蔵の仲間にも、若くして逝った者がいた——そういう者たちがいなくなる……)


藤林の脳裏に、遠い記憶が浮かんだ。

幼い頃、可愛がってくれた叔父が、労咳で血を吐いた。

堺で評判の高額な薬を買って与えたが、何の役にも立たなかった。


結局、骨と皮になって、苦しんで死んでいくのを、ただ静かに看取るしかなかった。

誰もが「仕方のないこと」と諦めていたことが——治せると、いとも簡単に言う。


藤林は、込み上げるものを、そっと抑えた。

(先の世では、当たり前のことなのだろう。だが、我らにとっては——奇跡だ)


北沢が聞いた。

「さすがに、すぐに完治は無理でしょう」


「そうですね。竹中殿は半年程度の養生が必要です。黒田殿の方も——膝の関節のリハビリに、時間がかかるでしょう」


北沢は頷いた。

「両名とも、よろしく頼みます」


村上は腕まくりをした。

「医者本来の仕事ですからな。それに——患者がいないと、腕がなまりますよ」


美咲が苦笑した。

「先生——それ、何度目ですか」


「何度でも言いますよ。乗組員の皆さん、元気すぎて誰も病気になりませんからな」

どっと笑いが起きた。


笑いが収まったところで——村上は藤林の方を見た。

「藤林殿、京から竹中殿をこちらに連れてくるときは、これをつけてもらってください。こんな風に」


白いマスクを二つ取り出した。

「一つは竹中殿に。もう一つは——藤林殿が、竹中殿の近くにいる時につけてください」


藤林はマスクをしげしげと見つめた。

「これで——労咳《ろうがい》が感染るのを防げるのですか」

(マスクというのは、ただの布ではないようだな)


「完全ではありませんが——かなり防げます。労咳は咳で人に感染します。竹中殿には口と鼻を覆うようにお伝えください」


藤林は深く頷いた。

「承知しました」


伊賀の村では、労咳《ろうがい》に罹った家族を、マスクなしで看病していた。

労咳《ろうがい》が、咳で人に感染するなどということを、誰も知らなかった。


(先の世では、当たり前に知られていることのようだ)


こんな簡単なことを知っているだけで——救えた命が、いったいどれほどあったのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。