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原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第3章 戦国時代編

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第55話 何百年後には、いろんな薬ができているのですね

武蔵・大会議室。


村上は少し考えてから答えた。

「梅毒の治療にはペニシリンが効きます。武蔵の製造プラントなら、青カビからの抽出・精製もAIが自動で行えるはずです」


北沢が頷いた。

「青カビなら——この時代でも手に入りますね」


「食べ物にいくらでも生えますから」


北沢が村上の方を見た。

「ちなみに、ペニシリンが効く病気は梅毒だけですか」


村上が答えた。

「いいえ。梅毒以外にも——肺炎・扁桃炎・皮膚の化膿・傷の感染症・赤痢など、幅広く効きます。この時代にはそういった病気で死ぬ人間が大勢いるはずです」


北沢の目つきが変わった。

(それだけ幅広く効くなら——有力な候補だな)


村上は続けた。

「次に破傷風です。治療には、ペニシリンと免疫グロブリンの両方が必要です。ペニシリンにより菌を殺し、免疫グロブリンにより、すでに体の中に回ってしまった毒素を無毒にします。ですが、免疫グロブリンの製造が難しいです」


「では——破傷風は、今回は見送りですね」


「はい。ペニシリンだけでは、片手落ちになってしまいます」


「天然痘・麻疹はどうですか」


村上は首を振った。

「天然痘については、不可能ではありません。ただし——今すぐというと難しいです。麻疹については——現時点では、不可能です」


「では、この二つも今回は除外ですね」


北沢は残った病名に目を向けた。

「では——結核はどうですか」


村上は表情を引き締めた。

「結核は、少し厄介です。ペニシリンは効きません」


「効かない、とは」


「結核菌には、ペニシリンとは別の薬——ストレプトマイシンが必要です」


「それも、武蔵で作れますか」


村上は頷いた。

「ストレプトマイシンは、土壌中の放線菌から作れます。土さえあれば——武蔵の設備で培養・抽出できるはずです」


北沢は頷いた。

「では——梅毒と結核、どちらの病気を治せる名医にするか決めましょう」


桐山が口を開いた。

「どちらかに絞るとなると、藤林殿にお聞きするのが早いと思います」


桐山は藤林と才蔵に向き直った。

「さきほどから話に出ている病名ですが——」


桐山がiPadを操作しながら続ける。

「梅毒は——唐瘡からかさ、結核は——労咳ろうがいと呼ばれているはずです」


藤林の目が、大きく見開かれた。

言葉を失ったように、しばらく桐山を見つめていた。


唐瘡からかさと、労咳ろうがい……」

その名を、噛みしめるように繰り返した。


「まさか——この二つの病を、治せるとおっしゃるのですか」


才蔵も、目を見開いたまま動けずにいた。

やがて、絞り出すように言った。


「某の知り合いにも——唐瘡からかさで身体が崩れていくのを、見ていることしかできなかった者が何人もおりました」


その声は、わずかに震えていた。


藤林はしばらく黙っていた。

やがて、深く息を吐いた。


「何百年後には、いろんな薬ができているのですね。素晴らしいというか、羨ましいというか——」


藤林は姿勢を正し、北沢を見た。

先ほどまでの驚きが、少しずつ、忍びとしての冷静な判断に変わっていくのがわかった。


「それで——何から始めるべきかという話ですが、唐瘡からかさだと思います」


「今、堺でも安土でも京でも——唐瘡からかさが急速に広まっています。武将から商人、庶民まで——多くの者が苦しんでいます。しかも、恥ずかしい病として隠す者が多い。治せるとなれば——大評判になるでしょう。金に糸目をつけない金持ちたちが、次々と訪れるはずです」


「織田殿はどう思うだろうか」


藤林は少し考えてから言った。

「織田様の身近にも——唐瘡からかさで苦しんでいる重臣がいると聞いています。唐瘡からかさが治ったという話は——織田様の耳に必ず届きます」


北沢は頷いた。

「村上先生、唐瘡からかさ——梅毒の治療から始めてもらえますか」


村上は腕まくりをした。

「任せてください。やっと医者の出番ですな――やりがいがあります」


***

北沢は藤林の方を見た。

「それと——見ていただきたいものがあります。田中、カートに乗せて、お宝の一部をここに持ってきてくれないか」


「例のやつですね。すぐに持ってこさせます」


しばらくして——田中の部下たちが、うれしそうに沈没船から回収したお宝を運び込んできた。


青磁の壺、染付の皿、銀の延べ棒、金の延べ棒——。

次々と、テーブルに山盛りに並べられていく。


藤林は、目を見張ったまま動けずにいた。

長年、様々な修羅場をくぐり抜けてきた男の顔に、隠しきれない驚きが浮かんでいた。


「これは……」

言葉が、そこで止まった。


才蔵も、隣で息を呑んでいた。

(これほどの品、これだけの量を)


これまで目にしたことのない光景だった。

現実離れした光景だった。


才蔵は、青磁の壺に映り込んだ自分の顔を、ぼんやりと見つめた。

(これだけあれば——伊賀の民が、何年食いつなげるだろうか)


戦のために殺し合っている時代に、これほどの富が海の底で眠っていたことが、どこか馬鹿げているようにも思えた。


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