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原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第3章 戦国時代編

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第52話 ときの旅人

武蔵・医務室。


藤林長門守保正が、ゆっくりと目を開いた。

白い天井が見えた。

(ここは——)


才蔵が横に座っていた。

「藤林様、お目覚めですか」


藤林は少し間を置いた。

「某は——どれくらい眠っていた」


「丸一日です。具合はいかがですか」


藤林は脇腹に手を当てた。

「脇に痛みがない」


「それは薬のおかげです。某も、腕の治療の後は痛みもなく、熱も出ませんでした」


「確かにそうだ。治療していただいているときも——ほとんど痛みがなかった。この薬を針で……とか言われていたが、意味がわからなかった」


才蔵は笑った。

「いろいろ説明したいことがありますが、体調が戻ってからの方がよいかと」


藤林は身を起こした。

「若いものとは、体の鍛え方が違うからな。大丈夫だ。ただし——理解が追いつくよう、ゆっくりと説明を頼むぞ」


「わかりました」


才蔵は、少し間を置きながら説明し始めた。

「この船の方々は——この時代から何百年も先の時代から来られた方々です」


藤林の目が、わずかに見開かれた。

長年、修羅場をくぐり抜けてきた男の顔から、一瞬だけ表情が消えた。


「どういうことだ」

声が、いつもよりわずかに低かった。


「ときの流れを逆に動いた——言わば"ときの旅人"といえましょうか」


藤林はしばらく黙って、考え込んでいた。

「そんなことが……」

言葉が、途中で止まった。


藤林は一度、深く息を吸った。

気を落ち着けるように、そしてゆっくりと吐き出した。

「才蔵——本当の話か」


才蔵は答えた。

「嘘ではありません。まずは——今回の治療をお考えください。この国に、あのような治療ができる医者がいると、お思いですか」


「それも……そうだ」

藤林の声は、まだ落ち着きを取り戻せずにいた。


「次に——伊賀から藤林様を運んだ、空飛ぶ箱。この国にそんなものが作れる者がいますか」


藤林は少し間を置いた。考えながら視線が、宙をさまよった。


「確かに——そのとおりだ」

絞り出すような声だった。


「この船にしても——鉄でできているようだが、なぜ沈まない」

問いかけながらも、藤林自身、仮にそれを説明されたとしても、とうてい理解できないことはわかっていた。


才蔵が、うれしそうに頷いている。


藤林は、しばらく黙って天井を見上げていた。

やがて、小さく笑った。

それは、動揺を隠しきれないまま浮かべた、苦い笑みだった。


「疑う余地などないな」


藤林は、ゆっくりと息を整えた。

驚きを、少しずつ腹の底に収めていくような間だった。


「して——その"ときの旅人"たちが、なにゆえこの伊賀に関わる」


才蔵は少し姿勢を正した。

「某と家族は、堺近くの松林で行き倒れておりました。そこを北沢司令たちに助けていただいたのです。この恩、なんとしてもお返ししたいと申し出ました」


才蔵は続けた。

「すると司令から——この国からいくさをなくしたい、そのために力を貸してほしいと頼まれました。命を助けていただいた御恩です。迷わず、協力すると答えました」


藤林は少し首を傾げた。

「沈まぬ鉄の船、空飛ぶ箱、他にも見たこともないようなものをお持ちなのだろう。それほどの力があるなら、忍びの手など借りずとも、なんでもできる力があるのではないか」


才蔵は首を振った。

「そうでもないのです。北沢司令は、こう言っておられました。陸に上がって、なにかを調べたり、誰かに手紙を渡したり、誰かを護衛したりというようなことは——あの船の方々には、できないと」


「ほう」


「某は申し上げました。それは——忍びの得意とするところでございます、と」


藤林の口の端が、わずかに上がった。

「なるほどな」


「北沢司令は、だからこそ——某のような忍びの者に協力してもらえれば、これほど心強いことはない、とおっしゃいました」


才蔵は頭を下げた。

「藤林様の許可を得ず、勝手に決めてしまい——申し訳ありませんでした」


藤林は静かに首を振った。

「気にする必要はない。命を助けていただいたのじゃ。恩返しはひととして当然のことじゃ。それに伊賀は、あんな状態になっておる。好きにするがよい」


才蔵は続けた。

「話はこれだけではありません。命を助けていただいたのは、某だけではないのです。この船には——助けられた伊賀の者たちが、数十名もいるのです」


藤林の表情が、大きく変わった。

先ほどまでの驚きとは、質の違う色が浮かんだ。


「数十名——だと」


「はい。松林や山中を彷徨っていた者たちを、次々に助けていただきました」


藤林はしばらく黙っていた。

やがて、絞り出すように言った。

「才蔵。北沢司令は——儂も含め、伊賀の者たち数十名の、命の恩人だ。その方から、力を貸してほしいと頼まれて——できませんと断れる道理が、どこにあろうか」


才蔵は顔を上げた。

「では——伊賀として、北沢司令に協力いただけるのですか」


「もちろんじゃ。それにしても、この船の頭領は——司令と呼ぶのか。面白い呼び名じゃな」


「ありがとうございます」


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