↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第3章 戦国時代編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/64

第49話 国宝級ですよ、これ——

天正六年九月。

堺港。九鬼水軍旗艦・鬼丸甲板。


九鬼嘉隆は旗艦・鬼丸の甲板に立ち、大坂湾を見つめていた。

穏やかな海だった。

秋の日差しが、水面に反射して揺れていた。


(こんなに穏やかな海が——あと数週間もすれば、血で染まるかもしれないのか)


嘉隆は腕を組んだ。

(鉄甲船が——間に合わなかった)


台風で建造が大幅に遅れた。

理由にならんと、信長様には激しく叱責された。


(これで、前回のように負ければ——儂の切腹だけで済むかどうか)

(最近の信長様は、はっきり言って怖い。前はそうではなかったのだが……)


嘉隆は海を眺めながら考えた。

(配下の海賊どもを鍛え上げてはきた。しかし——村上海賊の練度には、まだ遠く及ばぬだろう)


村上水軍の戦い方は独特だ。

小早船で素早く敵船に近づき——焙烙玉を投げつける。


火薬を詰めた陶器に長い縄を付けて、振り回して敵船に投げ込む。

着弾すると火炎が広がり、木造の船はたちまち燃え上がる。


二年前の第一次木津川口では——九鬼水軍は一方的に焼き払われ、大敗を喫していたのだ。


(あの火攻めに、同じ木造の安宅船で挑むのか)

(鉄甲船さえあれば——焙烙玉など恐れるに足らなかったのだが)


嘉隆は歯を食いしばった。

(しかし——ないものをねだっても仕方がない)

(今ある船で——なんとか戦うしかない)


穏やかな海が、広がっていた。

(海の神様が——味方してくれますように)


***


武蔵・大会議室。


参加者の方を見回して北沢が言った。

「我らがこの時代に活動するには——お金がいる。忍びたちも活動費が必要だ」


田村が苦笑した。

「司令、それはそうですが、まさか泥棒をするわけにはいきませんからな」


参加者たちが、一斉に考え始めた。


橘が、ふと思いついたように言った。

「武蔵の3Dプリンターで、フィギュアでも作って売りますか。未来の技術力で——精巧なやつを」


早川が真顔で乗った。

「確かに、刀や槍をビシッと構えた、戦国武将風のフィギュアとか売れそうですね」


田村が楽しそうに言った。

「買い手は、どんな奴だろうな」


松永が続いた。

「フィギュアがだめなら——絵本はどうです。プリンターで、元の世界の絵本を印刷して売るとか。桃太郎とか、さるかに合戦とか」


桐山が乗り気になって続けた。

「堺の金持ちは買いそうだな」


「いっそ、ラーメンでも売りますか」

誰かが言うと、また笑いが起きた。


北沢は、その様子を眺めていた。


(二度も転移させられて、慣れぬ時代に放り出されて——みんな、内心では相当こたえているはずだ。そう思っていた。少し安心したな)


北沢は、思わず口元を緩めた。

肩の奥に、ずっと詰まっていたものが、少しだけほどけていく気がした。


ひとしきり笑いが収まったところで、田中が手を挙げた。

「冗談はさておき——一つ、真面目な提案があります」


「なんでしょう」


「大阪湾の海底には、交易船が沈んでいるのではないでしょうか」


北沢が田中を見た。

「というと」


「堺は貿易港です。南蛮や明からの——様々な荷を積んだ船が行き交っています。嵐で沈んだ交易船、海戦で沈んだ軍船が——海底に眠っていると思うのですよ」


田村が続けた。

「大和のソナーと、早川さんが開発してくれた海中探査ドローンで——海底を調べるのはどうですか。金銀などのお宝があれば——バルーンで浮かせて回収すればいいんです」


北沢は頷いた。

「そうだな。ここはそんなに深くないしな」


「大阪湾中央部の水深は三十〜四十メートルです。武蔵には潜水装備があります。潜水資格を持つ乗員も何名かいますから——十分いけるはずです」


北沢は思わず笑った。

「戦闘もないし——宝が見つからなくても、乗組員のレクリエーションになるな」


「確かにそうです。ずっと艦内にいるのも息が詰まりますから。なんといっても——宝探しですから」


北沢は桐山を見た。

「何かが沈んだという記録はないか」


桐山がiPadを操作した。

しばらくして顔を上げた。


「大阪湾では過去に何度も嵐があり、難破した船の記録がありました。また——第一次木津川口の戦いで沈んだ九鬼水軍の船も、海底にあるはずです」


田村が目を輝かせた。

いくさで沈んだ船には——武器や銅銭が積まれていることがあります。明の商船なら——国宝級のお宝もあるかもしれませんよ」


北沢は苦笑した。

「田村、張り切っているな」


「すみません。つい楽しくなりまして」


「銅銭はいいとして——金銀とか、焼き物のお宝どうする」


桐山が続けた。

「忍びたちに、堺の両替商に持ち込んでもらえばどうでしょう」


田村が、勢い良く立ち上がった。

「いいですね。やりましょう! 今からすぐに準備を開始します。なんか——楽しくなってきました」


北沢は苦笑した。

「田村、一番退屈しているのは、お前じゃないのか」


「そうかもしれません。でも——宝探しですよ」


***


武蔵・ドローン操作室。


安藤がモニターを見つめながら、海中探査ドローンを操作していた。

「アクティブソナーで海底を走査します——」


モニターに、海底の地形が映し出された。

「何かあるぞ——」


「どこだ、どこだ」

乗員たちが、安藤の後ろから覗き込んだ。


「この反応——木造の船体です。しかも、かなり大きい」


探査ドローンを近づけた。

海底に、船の残骸が横たわっていた。

珊瑚が絡みつき、魚が群れをなして泳いでいた。


「船の形が——」


「明の船じゃないですか! 船首の形が違いますよ」


「明船だ!」


「よっしゃー!」


発令所がどよめいた。


「俺が行く!」


「いや俺だ!」


「潜水資格は俺の方が上だ!」


田村が呆れたように笑った。

「じゃあ、じゃんけんで決めろ」


「「「最初はグー!」」」


***


大阪湾・海上。


四名の乗員が、ウェットスーツと空気タンクを装備してゴムボートに乗り込んだ。


「急げ、急げ!」


「宝が待ってるぞ!」


ボートが波を蹴立てて走り出した。

目標地点に到着した。


海面は穏やかだった。

四人が海面を覗き込んだ。

青い海の底に、うっすらと船の影が見えた。


「あれだ——」


「ちょっと待て、慌てるな」


一人が細いケーブルを取り出した。

「ダイバー間の通話はこの有線ケーブルで繋ぐ。ボートから武蔵へは無線で中継だ」


「準備OKだな」


「よっしゃ——行くぞ!」


ざぶん。ざぶん。


ざぶん。ざぶん。


四人が次々と海に飛び込んだ。


水しぶきが上がった。

やがて——波紋だけが、静かに広がっていった。


***


大阪湾・海中。


海底に沈んだ明船の前に、四人が浮かんでいた。

船体は海藻に覆われていた。


色とりどりの魚が、船の隙間を泳いでいた。

一人が船内に入った。

暗い船倉に、水中ライトを当てた。


(——何かある)


砂と泥の中に、壺が並んでいた。

大きな青磁の壺。染付の皿が積み重なっていた。


通信機に向かって叫んだ。

「壺と皿——高そうなやつがいっぱいあります! 明の陶磁器に違いありません!」


別の一人が船倉の奥を照らした。

棒状の金属が見えた。

砂を払うと——鈍い銀色が光った。


「銀の延べ棒——発見です!」


また別の一人が声を上げた。

「金の延べ棒もあります! これは——金ですよ。金!」


***


モニターで見ていた乗員たちが、一斉に歓声を上げた。


田村が腕を組みながら言った。

「引き上げは日没後だ。今は場所を記録して戻ってこい」


「えー! 今すぐ引き上げないのですか!」


「昼間は堺の船が通る。目立つだろ」


「はい」


田村は笑った。

(転移して、こんな愉快なのは初めてだ)


***


日没後。大阪湾・海中。


バルーンが膨らんだ。

ゆっくりと、明船の積み荷が海面に浮かび上がってきた。


武蔵のクレーンが、次々と荷を引き上げた。

甲板に並んだ青磁の壺、染付の皿、銀の延べ棒、金貨、明銭、珊瑚——。

乗員たちが、目を輝かせて見つめていた。


田村が言った。

「これだけあれば——当面の活動資金には十分だろう」


早川が、iPadの画面と壺を見比べていた。

「国宝級ですよ、これ——」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。