第48話 なんなりと命令ください
武蔵・食堂。
救助された数十名の伊賀の人々が、長テーブルを囲んで立っていた。
武蔵の乗員たちが、次々と食事を運んでいた。
あちこちで、同じような再会が起きていた。
「おまえも生きていたか」
「子供は無事だったか」
「村はどうなったか知らないか」
喜びと悲しみが入り混じった声が、食堂を満たしていた。
才蔵が部屋の隅の床に座っている男を見つけた。
「伝蔵——! 怪我はどうだ」
男が顔を上げた。
「某が死んだら家族を頼む」
「心配するな。この船には腕の良い医者がいる。某も刀傷をしっかり縫ってもらった。ほら、このとおり」
才蔵が村上医師のところに歩み寄った。
「先生——怪我人たちの治療、よろしくお願いいたします」
村上がうれしそうに答えた。
「任せておけ。久しぶりに腕が鳴るぞ」
***
才蔵が北沢のところに歩み寄った。
「北沢様——」
「才蔵さん、どうしました」
「伊賀の仲間たちの命を救っていただきました。みんなを代表して——お礼を申し上げます」
才蔵は、これ以上ないほど深く頭を下げた。
北沢は穏やかに首を振った。
「礼には及びません。さっそくですが——主だった方にだけですが、我らが先の世から来たことを話しておいていただけませんか。そのうえで、我らに協力していただける方には、仲間になってほしいのです」
才蔵は顔を上げた。
「承知いたしました。恩を受けて仇で返すような者は、伊賀の忍びにはおりません。某が、一人ひとりに話して回ります」
「とりあえず、今日と明日はゆっくり休んでもらってください」
***
三日後。
武蔵・大会議室。
北沢たちの向かいに、伊賀忍びの主だった者が並んで立っていた。
先頭に立った年配の男が、深く頭を下げた。
「伊賀の者たちの命を救っていただき——ありがとうございます。この恩は命がけでお返しいたします」
他の忍びたちも、一斉に頭を下げた。
北沢は、柔らかい口調で言った。
「顔をお上げください。ところで——各大名の状況について、なにかご存知のことがあればお聞かせください」
才蔵が口を開いた。
「北沢様、今後は——我らを呼び捨てにしてください」
北沢は少し考えた。
「それでいいのかな」
忍びたちが一斉に答えた。
「命の恩人です。なんなりと命令ください」
北沢は頷いた。
「わかりました。では私のことは——北沢司令と呼んでください」
「はっ」
「それでは——大名たちの動きを教えてくれますか」
才蔵と同じく中忍の弥助が口を開いた。
「お伝えしたいことがございます。毛利水軍が、石山本願寺に兵糧を運び込もうとしています。このままでは——織田の九鬼水軍との海戦になるかと」
田中が言った。
「時期はいつ頃ですか」
「この秋から冬にかけて——動くかと思われます」
田中は北沢を見た。
(天正六年十一月——第二次木津川口の戦いだな)
北沢は言った。
「九鬼水軍が今どこにいるか——調べる必要があるな」
弥助が頷いた。
「ご命じいただければ、調べてまいります」
「頼む。場所だけでなく——船の周りに鉄板を張った船がいるかも確認してほしい」
「はっ」
北沢は全員を見渡した。
「では——いくつかの組に分けましょう」
少し間をおいて話を続けた。
「一つ目は——九鬼水軍の調査。場所と船の様子を確認してほしい。弥助、頼む」
「はっ」
「二つ目は——伊賀の様子を見てくること。上忍殿たちが生き残っていたら、協力をお願いしてほしい。才蔵、そちらを頼む」
才蔵が頷いた。
「任せてください」
「三つ目は——織田・安土の動向。織田殿が今なにを考えているか、できる限り調べてほしい」
甚兵衛が手を挙げた。
「某が担当します」
「四つ目は——北畠の動向。信雄が、次になにをしようとしているか——特に注意してほしい」
源次が手を挙げた。
「某が担当します」
北沢は続けた。
「それぞれ、無理はするな。怪しまれたら——迷わず引き返せ。命の方が大事だ」
忍びたちが一斉に頷いた。
「出発前に——渡しておくものがある。武器だ。橘さん、お願いします」
橘が立ち上がった。
「四つお渡しします。まず一つ目——」
橘はテーブルの上に、小さな金属製の物体を置いた。
「拳銃です。小さい鉄砲だと思ってください。火縄銃と違い、懐にしまえるほど小さいものです。しかも——」
橘はサイレンサーを取り出した。
「これを先端に取り付けると——発射音がほとんどしなくなります。夜間の隠密行動に向いています」
忍びたちの目が、一斉に光った。
「二つ目——クロスボウです」
橘は小型のクロスボウを取り出した。
「持ち運びが楽なように小型にしています。ですが——有効射程は約四十間。引き金を引くだけで発射できます。鎧など簡単に貫通します。弓の扱いに慣れた方なら——すぐに使いこなせるはずです」
弥助が身を乗り出した。
「小型で、そんなに強力な弓とは——忍び向きです」
「三つ目——コンバットナイフです」
橘は刃渡り約二十センチの両刃のナイフを置いた。
「戦闘用です。刃が丈夫で錆びにくい。山中での作業にも使えます」
才蔵がナイフを手に取った。
重さを確かめるように持ち上げた。
(これは——よく切れそうだ)
「四つ目——レーションです」
橘は小さな袋を取り出した。
「携帯食です。この一袋で一日分の栄養が取れます。水があれば——食料に困りません」
才蔵が袋を受け取り、匂いを嗅いだ。
(不思議な匂いだが——これで腹が持つのか。便利なものだな)
北沢が言った。
「才蔵から聞いていると思いますが、お渡したものは先の世の物です。この時代には存在しません。取り扱いには十分注意してください」
「はっ」
「それと、才蔵にはこれを渡しておく。これは伊賀の山にいても、この船と話ができる箱だ。この袋に入れておくので背負っていってほしい。上忍殿と話が必要になるかもしれないからな。使い方は後で説明する」
忍びたちが一斉に頭を下げた。
「ありがとうございます」




