第39話 これで原爆は——海の底だな
大和・発令所。
北沢は桐山の方を見た。
「伊四百型について説明してくれないか」
桐山が説明を始めた。
「伊四百型は全長百二十二メートル。帝国海軍が誇る最大の潜水艦です。水上排水量三千五百トン、水中排水量六千五百トン。魚雷発射管は艦首に八門、九五式魚雷を十七本搭載しています」
「速力はどうだ」
「水上速力が十九ノット。水中速力が六・五ノットです。ただし——航続距離は水上で約七万キロメートル。太平洋をどこでも単独で航行できます」
「魚雷の射程は」
「九五式魚雷の射程は時速四十八ノットで約九千メートルです」
北沢は頷いた。
「もう一つ特徴があります」
「なんだ」
「艦内に晴嵐という水上攻撃機を三機格納できます。カタパルトで発射します。搭載機を使えば——テニアン島の飛行場施設を破壊することができます」
北沢は言った。
「テニアン島の空港施設を叩くのに、晴嵐は使えそうだな。それで伊藤司令長官の顔を立てられるな」
「そう思います」
***
北沢は少し考えた。
「伊四百型との通信が問題だな。帝国海軍の無線はアメリカに解読されている」
田村が答えた。
「伊四百型は——我らのいる沖縄近海で合流してもらいましょう。合流したときに直接、暗号通信機を手渡してはいかがですか」
「それがいいな」
橘が答えた。
「三日あれば通信機を二台作れます。合流まで四〜五日ありますから——十分間に合います」
「頼む」
田村が続けた。
「合流後は、テニアン島沖へ向かうことになります。伊四百型の水上速力は十九ノット。インディアナポリスの到着まで二週間ありますから、その速度でも十分間に合うでしょう。彼らと並走していきますか」
北沢が答えた。
「いや、先にテニアン島沖へ乗り込み、通信を傍受しながら到着を待つことにしよう。予定が変更されるかもしれないからな」
北沢は続けた。
「テニアン島沖で合流するまでの連絡は——毎夜二十一時に統一する。伊藤司令長官にも、同じ時間で通信を入れよう」
「はっ」
北沢は全員を見渡した。
「作戦の流れを説明する」
「まず、伊四百型が呉から出発。四〜五日で沖縄近海にて合流する」
「合流後、通信機を手渡し、打ち合わせを行う」
「打ち合わせが済み次第——テニアン島沖へ出撃」
「そして五月二十日、インディアナポリスを迎撃する」
「以上だ」
「はっ」
返事が揃った。
***
昭和二十年五月二十日。テニアン島沖。
大和・発令所。
北沢が宮本の方を見た。
「宮本、今のところ、原爆輸送計画に変更はないか」
「傍受した通信からは——変更などの情報はありません。予定通り、本日テニアン島に到着するはずです」
「レーダードローンを飛ばせ」
甲板のハッチが開き、レーダードローンが勢い良く上昇した。
高度三千メートルまで上がると、目標に向けて水平に飛び始めた。
「田村、レーダーの反応はどうだ」
「インディアナポリスらしき艦影を捉えています。大和からの距離——三十五キロメートル。こちらに向かっています」
「速力は」
「約三十二ノットです」
「伊四百型と、伊四百一型も浮上しているか」
「はっ。我らの後方に並んでいます」
「伊四百型に連絡。艦載機を準備と」
「はっ」
「レーダードローンの位置は」
「大和から十五キロ地点で停止しています。目標との距離、十五キロになりました」
「レールガン用意」
甲板のハッチが開き、砲身がゆっくりと上昇した。
「目標——インディアナポリス・艦体中央部。レールガン射程圏内に入り次第攻撃せよ」
「はっ」
「目標との距離データとあわせて、レールガン制御システムを連動——照準完了」
「撃て」
閃光が走った。
音はほとんどなかった。
しばらくして。
「インディアナポリスの艦影消失」
発令所が、静まり返った。
北沢は黙って頷いた。
「これで原爆は——海の底だな」
北沢は続けた。
「伊四百型と伊四百一型に連絡。艦載機にて、テニアン島のノースフィールド飛行場と原爆施設を破壊せよと」
「はっ」
***
伊四百。甲板。
格納筒のハッチが開いた。
晴嵐が三機、カタパルトの上に引き出された。
整備兵たちが最後の確認を行っていた。
「やっと——帝国海軍の出番だな」
搭乗員の一人が言った。
「ああ。わだつみ独立艦隊に頼りっぱなしでいられるか。テニアン島——ぶっ壊してやる」
「発艦用意!」
カタパルトが弾けた。
晴嵐が一機、また一機と空へ飛び出した。
伊四百一からも三機が飛び立った。
合計六機の晴嵐が、テニアン島に向かった。
***
十五分後。
テニアン島。ノースフィールド飛行場。
朝の光の中、B29が整然と並んでいた。
整備兵たちが黙々と作業していた。
見張りの兵士が空を見上げた。
「なんだあれは——」
小さな機影が六つ、島に向かって突進してきた。
「敵機! 敵機だ!」
警報が鳴り響いた。
しかし——遅かった。
最初の晴嵐が急降下した。
爆弾が、滑走路に叩き込まれた。
轟音。
コンクリートが砕け、巨大な穴が空いた。
「滑走路が——!」
二機目が、組立工場らしき大型の建物に向かった。
「あそこを狙え!」
爆弾が命中した。
建物が内側から爆発した。
「工場が——やられた!」
三機目・四機目・五機目・六機目が、駐機中のB29に向かった。
次々と爆弾が炸裂した。
「B29が燃えている!」
あっという間だった。
六機の晴嵐は、攻撃を終えると一機も欠けることなく空へ消えていった。
飛行場に、黒煙が立ち上っていた。
***
大和発令所。
通信員から報告が入る。
「伊四百型より連絡。攻撃完了。全機帰還中」
北沢は頷いた。
「そうか、これで広島と長崎への原爆投下は阻止できたな」
田村が言った。
「滑走路破壊・組立工場破壊・B29複数機撃破——テニアン島から、しばらくB29は飛び立てないでしょう」
北沢は、モニターでテニアン島から立ち昇る煙を見ていた。
「この時代に転移してきた意味が——あったというわけだ」




