第37話 通信傍受で原爆の動きを掴む
大和発令所。
伊藤から北沢に連絡が入った。進捗状況の報告だった。
北沢は確認するように言った。
「わかりました。補給艦の話はついたものの——停戦交渉は、まったく進んでいないということですか」
「北沢司令、瀕死の状態の日本を、ここまで巻き返していただいたのに、申し訳ありません。停戦交渉については、外務省が必死に行っているそうなのですが——」
「伊藤司令長官、謝ることはありません。しかし、なぜアメリカが停戦を引き伸ばしているのか、検討する必要がありますね」
「そのとおりです。大本営も官邸も、勝ち戦に舞い上がっている場合ではないというのに。せっかく作っていただいた機会を、無駄にしてしまい申し訳ない限りです」
通信が切れた。
***
武蔵・大会議室。
大会議室に、大和と武蔵の主要メンバーが集まった。
北沢は伊藤からの報告を参加者に伝えた。
「補給艦の話はついたものの——停戦交渉は、まったく進んでいない」
桐山が言った。
「アメリカは——停戦交渉をのろのろ進めながら、その裏で原爆作戦を急いでいるのではありませんか」
「そう思う。原爆を落とし、日本の首根っこを押さえてしまえば、無条件降伏させられる——そう考えているのだろう。時間を稼げば稼ぐほど、アメリカに有利になる。そういうことだ」
田村が言った。
「私もそう思います」
北沢は桐山を見た。
「桐山、記録されている原爆投下までの流れを説明してくれ」
「記録では——原爆投下までの流れはこうです」
桐山はiPadを操作した。
壁に年表が映し出された。
「時系列で申し上げます」
桐山は年表の一点を指した。
「まず——昭和二十年七月十六日。この日、アメリカはニューメキシコ州で人類初の核実験を行います」
桐山は指を、隣の項目へ移した。
「同じ日、重巡洋艦インディアナポリスがサンフランシスコを出港します。積み荷は——原爆『リトルボーイ』。運搬先はテニアン島です」
全員が壁を見つめていた。
誰も口を開けなかった。
桐山は淡々と続けた。
「七月下旬、テニアン島に到着。八月六日、広島へ投下。八月九日、長崎へ投下。そして八月十五日——日本は降伏します」
会議室が、静まり返った。
北沢が口を開いた。
「しかし——今回は、史実通りにはいかないのではないか。悪い方向にな」
「そのとおりです。我らが第58任務部隊を壊滅させ、停戦交渉を突きつけている以上——アメリカは一刻も早く原爆を完成させ、交渉を有利に進めたいはずです」
桐山は続けた。
「したがって、投下時期は——史実より早まる可能性が高いと考えられます」
北沢は言った。
「どれくらい早まるかが問題だな。それを知る方法はあるか」
しばらく沈黙があった。
「アメリカの通信を傍受して——暗号を解読するのはどうでしょうか。通信長の宮本によれば、この時代のアメリカの暗号程度なら——時間がかかっても、なんとか解読できるらしいです」
松永が手を上げた。
「宮本さんに聞きながら、私が解読ソフトを作ります。コンピューターの処理速度から考えれば、瞬時に解読できると思います」
北沢は松永を見た。
「頼む」
「やってみます」
「では、まず通信傍受で原爆の動きを掴む。判明次第——テニアン島を叩こう」
北沢は田村の方を見た。
「テニアン島まで何日かかる」
「全速で——三日ほどです」
「桐山、当時のテニアン島の記録はあるか」
「はっ」
桐山はiPadを操作した。
モニターに地図が映し出された。
「テニアン島はサイパン島の南西約八キロメートル。アメリカ軍は昭和十九年八月に占領し、世界最大級の飛行場——ノースフィールドを建設しました。滑走路四本、B29が最大で、三百機程度収容できます」
「原爆関連の施設はここです」
地図の一点を指した。
「飛行場内に原爆組立工場と原爆ピットが二か所。原爆投下を担当する第509混成部隊は——今頃、すでに島に進出しているはずです」
北沢が桐山の方を見た。
「島の施設を、レールガンで叩けるか」
「レーダードローンの映像から原爆関連施設を判別できれば、十分攻撃は可能です。ただし、見つけにくいようカモフラージュされている懸念があります。攻撃型ドローンで捜索しながらミサイルで叩く手もありますが——ミサイルのストック数を考えると、あまり減らさないほうがよいかと」
しばらく沈黙があった。
桐山が言った。
「ですが、暗号が解読できれば——インディアナポリスの航路がわかります。輸送船を海上で沈めれば、原爆計画を中断できると思います」
「それが一番確実だな。ところで、アメリカ本土とテニアン島の無線を、どうやって傍受する?」
早川が答えた。
「ドローン開発の関係で、無線には多少心得があります。アメリカ本土とテニアン島の通信は、おそらく短波を使っているはずです。短波は電離層で反射しながら、地球の裏側まで届きます。太平洋上のどこにいても、傍受は可能かと」
北沢は頷いた。
「では、解読ソフトが完成次第、傍受を開始する。インディアナポリスの航路と日時が判明したら——太平洋上で迎撃。その勢いのまま、テニアン島の施設も叩く」
松永が手を挙げた。
「一つ確認したいのですが——インディアナポリスを沈めた場合、海に沈んだ原爆はどうなりますか。回収されて、再び使われる可能性はありませんか」
桐山が答えた。
「原爆の起爆装置は精密な電気系統です。海水に浸かれば完全に機能しなくなります。ウランそのものは残りますが——深海に沈んだ場合、この時代の技術では回収は事実上不可能です」
「では——沈めれば終わりということですね」
「ただし——核物質が海中に散らばるという問題はあります」
しばらく沈黙があった。
北沢は言った。
「それはしかたない。元の世界においても、日本近海にはアメリカが紛失した核兵器が沈んでいると言われていた。広島・長崎の何十万人の命と比べれば——海中に散らばる核物質の方が、まだましだ」
会議室が静まり返った。




