↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第2章 太平洋戦争編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/60

第34話 全乗員に告げる。砲撃戦を開始する 

戦艦大和・甲板。


甲板員たちが、持ち場につきながら小声で話し合っていた。

「やっとだな」


「ああ。戦艦なんか時代遅れだとか、役立たずだとか——さんざん言われてきたからな」


「大和ホテルとか馬鹿にしやがって」


「艦載機はいない。魚雷もない。砲撃勝負だ。それなら、負けるもんか」


「大和の装甲なら——殴り込める」


***


戦艦大和・砲台。


砲術長が砲台の前に立っていた。


若い砲手が隣で言った。

「砲術長、田辺の仇を取れますかね」


砲術長は前を向いたまま答えた。

「取る! 絶対取る」


「レイテで沈んだ戦艦武蔵の連中の分もだ——」


「今日は——全部まとめて返してやる」


***


戦艦大和・艦橋。


有賀が報告した。

「司令長官、距離二万七千メートル。主砲の射程に入りました」


伊藤は艦橋から、前方の海を見つめた。

水平線の向こうに、巨大な艦影が見えた。


戦艦に巡洋艦。

灰色の鉄の艦影が、輪形陣を解き、戦艦を前面に押し立てながら展開を始めていた。


砲術長が言った。

「駆逐艦を失って浮き足立っているのでしょう。慌てて陣形を組み直しています。この距離では——敵の砲弾が届いても、大和の装甲は貫通できません。しかし、我らの砲弾は余裕で貫通できます」


伊藤は頷いた。

「アウトレンジ戦法など——クソくらえだ。真正面から、正々堂々と撃ち合う」


「各艦に伝えろ。思う存分に戦えと」


「はっ」


艦内放送が流れた。

伊藤の声が、大和全体に響いた。

「全乗員に告げる。砲撃戦を開始する」


艦内が、どよめいた。

「主砲——用意」


轟音が、艦体を揺るがした。

四十六センチ主砲の砲身が、ゆっくりと旋回した。


「目標——敵戦艦。距離二万七千メートル」


「主砲——第一射、撃て」


大和の四十六センチ砲が、火を噴いた。

爆音が、艦体全体を震わせた。


砲術長が双眼鏡を構えた。

「近弾——目標手前に着弾。修正します」


「第二射——撃て」


再び砲声が轟いた。


「遠弾——目標の奥に着弾。夾叉に入りました」


「第三射——撃て!」


大和の主砲が、三度火を噴いた。


***


軽巡洋艦矢矧・艦橋。


艦長が双眼鏡を下ろした。

「駆逐艦部隊、突撃隊形へ。矢矧が先導する」


「はっ」


矢矧が速力を上げた。

「我に続け!」


***


駆逐艦冬月・艦橋。


「魚雷発射用意! 目標——敵戦艦!」


「はっ!」


「まだだぞ。確実に当てるには、十キロまで詰める。しっかり近づいてから撃て。外すなよ」


「はっ! 了解であります!」


矢矧が先頭に立ち、冬月、涼月、磯風、浜風、雪風、朝霜、霞、初霜——駆逐艦たちが、その航跡をなぞるように続いた。


駆逐艦たちが、大和の両翼を駆け抜けた。

三十三ノット。大和より速い。

波を蹴立て、敵戦艦に向かって突進していく。


***


旗艦ニュージャージー・艦橋。


米戦艦部隊の艦橋で、通信士が叫んだ。

「新たな艦影を確認! 巨大戦艦、一隻。距離、三万——いえ、急速に接近中!」


戦艦部隊指揮官のリー中将が双眼鏡を握った。

「輪形陣を解け。戦艦を前面に移動。巡洋艦は左右に展開しろ」


「輪形陣を解除します」


「日本の艦隊だな。何隻だ」


「戦艦一、軽巡一、駆逐艦八——計十隻です」


「たった十隻か。恐れるに足らん」


そのとき——。

「中将! アイダホに——命中弾!」


「な——」


「弾薬庫が——」


轟音。

アイダホが内側から爆発した。


「あの距離から——三射で仕留めるとは」

参謀が青ざめた顔で言った。


「中将、大和のデータがあります。主砲は四十六センチ——最大射程は約四万二千メートルです」


「我々のアイオワ級は」


「三万八千七百メートルです。どちらも、砲弾は届きます。しかし——」


「しかし、何だ」


「装甲です。この距離では——我々の砲弾は、大和の垂直装甲四百十ミリを貫通できません。しかし大和の四十六センチ砲は——この距離でも我々の装甲を貫通できます」


リー中将は一瞬、言葉を失った。

「つまり——一方的にやられてしまうということか」


「しかし、二万メートル以内まで接近すれば——我々の砲弾も大和の装甲を貫通できる可能性があります」


参謀長が言った。

「中将——接近しますか」


リー中将は少し間を置いた。

「当たり前だ。誇り高きアメリカ海軍が——背を向けて逃げるわけにはいかんだろう」


「全艦、前進! 距離を縮めろ!」


しかし——また別の戦艦が爆発した。

「テネシーが——被雷! 敵駆逐艦の魚雷が——!」


「日本の駆逐艦が接近していたのか!」


「はっ。大和が砲撃している間に——高速で接近していたようです」


リー中将は拳を握りしめた。


(砲撃と魚雷を同時に——)

(やりたい放題やってくれるな)

(しかし——戦いは、怯んだ方の負けだ)


「このまま前進! 貫通できなくても、撃ち返せ! やられっぱなしにされてたまるか!」


「中将! このままでは全滅します!」


窓の外では、次々と味方の戦艦が炎を上げていた。


「アイダホ——沈没」


「テネシー——大破。速力低下」


「コロラド——被弾。炎上中」


伝令が次々と飛び込んでくる。


リー中将は、その場から動けなかった。

(三万メートルから正確に撃ってくる。すごい練度だ)

(こちらの砲弾は届いても貫通できない。駆逐艦の魚雷まで来る——)

(このままでは……)


「中将! ご命令を!」


リー中将は窓の外を凝視した。

味方の戦艦が、次々と炎を上げていた。


(あれだけいた戦艦が——こんなに一方的に沈められていく)


「撤退するしかない! 全艦、撤退!」


参謀長が叫んだ。

「待ってください! 中将——空母はどうされるんですか! 空母を置いて逃げるのですか!」


参謀長の両手が、震えていた。

「空母の乗員は、何千人といます! しかも、総指揮官のミッチャー中将はバンカー・ヒルにおられるんですよ!」


リー中将は一瞬、言葉を失った。

(わかっている。わかっているよ)

(しかし——このまま戦えば、戦艦が全滅する)

(ここで、戦力をすべて失うわけにはいかない。沖縄はどうするのだ)


「空母は置いていくしかない」


「彼らに、なんと伝えるんですか」


艦橋が、静まり返った。


「撤退しかない」


参謀長は唇を噛んだ。

しばらく誰も口を開かなかった。

窓の外では——また別の戦艦が炎を上げていた。


リー中将が大声で命令した。

「さっさと撤退の連絡を——」


その言葉は、最後まで続かなかった。


轟音。

艦橋そのものが、大きく傾いだ。


「な——」


「直撃です! 艦橋直下——弾薬庫に——」


次の瞬間、ニュージャージーは内側から引き裂かれた。

火柱が、天を突くように立ち上った。


リー中将も、参謀長も——その声は、二度と届かなかった。


***


生き残っている戦艦と巡洋艦の艦橋に、動揺が走った。


「リー中将が——ニュージャージーが——」


やがて、一隻の艦長が叫んだ。

「ジャップ相手に、背を向けて逃げられるか!」


「艦長——」


「全艦突撃せよ! あの化け物を沈めるまで、退くな!」

怒りと絶望が入り混じった号令だった。


その一声に引きずられるように、残された戦艦と巡洋艦が、大和に向かって一斉に突撃を開始した。


それは、もはや作戦ではなかった。

負けるはずのない相手に、これほどまでに叩きのめされた——その怒りを、どこかにぶつけずにはいられなかっただけだった。


***


戦艦大和・艦橋。


有賀が言った。

「司令長官、敵艦、こちらに向かって突撃してきます」


伊藤は双眼鏡を下ろした。

その目に、驚きはなかった。


「来るなら——受けて立つ。全砲門、指向せよ」


「はっ」


大和の主砲が、次々と火を噴いた。

向かってくる艦影が、一つ、また一つと炎に包まれ、海に没していった。


やがて——海面に、何も動くものはなくなった。


波の音だけが、艦橋に静かに満ちていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。