第33話 いったい何が起きているんだ
大和・発令所。
北沢は伊藤に通信を入れた。
「伊藤中将、敵空母——全十八隻の飛行甲板と舵を破壊しました。もう艦載機が飛んでくることはありません」
「なぜ空母を沈めないのか、理由を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」
「空母と艦載機を、帝国海軍のものにしてもらうためです。捕虜は停戦交渉の取引材料になります」
伊藤はしばらく黙っていた。
「なんと」
「ここから、どれくらいで攻撃圏に入れますか」
「約四時間といったところです」
「わかりました。これからわだつみ独立艦隊も、潜航して敵艦隊に向かいます。レールガンの射程に入り次第——駆逐艦を沈めます」
「駆逐艦を——」
「駆逐艦は魚雷を持っています。これを排除しておけば——残りの戦艦と巡洋艦は砲撃しかできません。戦艦大和の装甲であれば、砲撃を受けながらでも殴り込めますよね」
伊藤は少し間を置いた。
「舞台を整えてくださるのでありますか」
「ただし——戦艦六隻、巡洋艦七隻の大部隊となりますが」
「横須賀の飛行機乗りたちは、空母十八隻を仕留め、戦友の仇を討つことができたはずです。戦艦乗りにも、仇討ちをやらせてやりたいのです。大和の主砲は——伊達ではありませんから」
北沢は、力を込めて言った。
「では、戦場で」
***
四時間後。
大和・発令所。
原潜大和と武蔵は、第58任務部隊から三十キロメートルの地点に到達した。
発令所には、静寂が満ちていた。
北沢が田村の方を向いた。
「レールガンを使う。大和はハッチが開く深度まで浮上。武蔵は海中で敵潜水艦を監視」
「はっ」
艦体が静かに浮き上がり、セイルが海面を割った。
甲板のハッチが開き、レールガンの砲身がゆっくりと上昇した。
「レーダードローンを飛ばせ」
小型のドローンが、垂直に上昇した。
上空三千メートルまで上がると、敵艦隊に向けて水平に飛び始めた。
「ドローン、目標に向けて前進中。大和からの距離、十キロ——十二キロ——十五キロ」
松永が言った。
「十五キロ地点で停止。EO/IRセンサーで目標を確認。可視光と赤外線を切り替えながら——艦種を識別します」
しばらくして。
「駆逐艦を識別——二十一隻、位置確定しました。ドローンの位置は大和が測位を継続中。目標との距離データとあわせて、レールガン制御システムを連動——照準完了」
北沢は短く言った。
「撃て!」
閃光が走った。
音はほとんどなかった。
五秒後。また閃光。
また五秒後。また閃光。
***
アメリカ軍。駆逐艦・艦橋。
見張りが空を見上げた。
空は晴れていた。
敵影はなかった。
その瞬間——。
突然、艦体が激しく揺れた。
「な——何だ!」
数秒後。
ド・ドーン
空気を引き裂くような鋭い音が響いた。
ソニックブームだった。
弾丸自体が音速の何倍もの速さで飛んできたため、着弾の衝撃より、その音の方が遅れて届いたのだ。
しかし——もう遅かった。
「艦長! 三番艦が——爆発しました!」
艦長が窓の外を見た。
三百メートル先の駆逐艦が、炎を上げていた。
弾薬庫が誘爆したのか——艦体が真っ二つに折れていた。
「砲撃か! どこからだ!」
「わかりません! 音が——いや、爆発の後から音が来ました! いったい、どこから撃ってきているのか——」
「音が後から来る……」
艦長は一瞬、意味を理解できなかった。
「弾が音より速いということか——」
次の瞬間、また別の駆逐艦が爆発した。
***
大和・発令所。
五秒ごとに、モニターの駆逐艦の艦影が一つずつ消えていった。
「三隻目、沈没確認」
「四隻目——弾薬庫誘爆。沈没確認」
「五隻目——」
田村は腕を組んでいた。
「五秒ごとに一隻ずつ消えていく」
発令所のレーダー員が答えた。
「どの艦も、どこから撃たれているかわからないでしょうね」
「そうだろうな。音が後から来るのだから——逃げようがない」
***
旗艦ニュージャージー・艦橋。
リー中将が双眼鏡を構えた。
駆逐艦が次々と炎を上げていた。
しかし——戦艦にも巡洋艦にも、一発の砲弾も飛んでこなかった。
「なぜ、駆逐艦だけが狙われている」
艦長が答えた。
「わかりません。しかし——あの爆発の様子は、砲撃ではありません。何か別の兵器です」
「どこから撃ってきているのだ」
「それも——わかりません。発射炎も見えない。音も後から来ます」
艦長は双眼鏡を空に向けた。
敵影はなかった。
「……音が後から来る」
艦長は双眼鏡を下ろした。
「音より速い弾が飛んできているということか。いったいどこから——」
誰も答えなかった。
「空母は無人機でやられ、駆逐艦はどこからともなく撃たれている——いったい何が起きているんだ」
誰も答えられなかった。
そのとき、また別の駆逐艦が爆発した。
***
大和・発令所。
レーダー員が報告する。
「駆逐艦二十一隻——全艦の沈没確認」
田村は北沢に報告した。
「司令、駆逐艦を全て片付け終わりました」
「ご苦労。レーダードローンを回収せよ。それから伊藤中将に繋いでくれ」
***
戦艦大和の通信機が鳴った。
「伊藤中将、駆逐艦二十一隻をすべて沈めました。残りは戦艦六隻と巡洋艦七隻です。舞台は整えました」
伊藤はしばらく黙っていた。
「遠く水平線の向こうに、黒い煙が立ち上るのが見えました。もう少しで射程に入ります。我が艦隊を代表して、感謝申し上げる」
通信が切れた。
伊藤は艦橋から、大海原を見つめた。
(魚雷はない。砲撃だけだ。戦艦大和の装甲なら——耐えられる)
(主砲を撃ちながら、真正面から突っ込む)
戦艦大和は速度を上げた。
艦首が波を切り裂き、白いしぶきが左右に大きく割れて舞い上がった。
甲板に、しぶきが降りかかった。
有賀が横に立った。
「司令長官、乗員に伝えますか」
「もちろんだ。存分に戦えと伝えてやる」




