第31話 もっとキビキビ動かしたいのですが——零戦みたいに
武蔵・ドローン操作室。
帝国海軍の十五名の操縦士たちが、それぞれのモニターの前に座っていた。
隣同士、小声で話し合っている。
「いよいよだな」
「ああ。やっとアメ兵どもに一発お見舞いできる」
「待ちに待ったぜ」
「俺の愛機、今日は頼むぞ」
早川はその様子を後ろから眺めていた。
(操縦士の方も、私のドローンも頑張って——)
早川奈緒、三十五歳。
ドローン開発者として、この艦に乗り込んだ。
戦いのためではなく——兵器を作るために。
自分が作り、改良したドローンで、あの人たちは攻撃に向かう。
失敗すれば——戦艦大和が沈む。
大勢の乗組員たちが死ぬ。
早川は自分の手を見た。
いつの間にか、強く握りしめていた。
***
武蔵・ドローン開発室 —— 東京大空襲翌日(回想)。
東京大空襲を撃退した翌日、北沢が武蔵のドローン開発室を訪れた。
「早川くん、これから先、日本軍を助けていくことになる。ドローンを戦闘に使っていくことになるだろう。それで、確認しておきたいことがいくつかある」
「はい」
「まず——ドローンの総数だ。戦闘に参加すれば、撃ち落とされる機体も出てくるはずだからね」
早川が答えた。
「現有数は、偵察型が五機、攻撃型が二十機です。レーダードローンは武蔵と大和に一機ずつ。簡単な損傷なら、3Dプリンターでパーツを作って補修できます」
「大破した場合、新たに製作できる機体は?」
「偵察型とレーダードローンは、それぞれ二機ずつ追加で作れます。攻撃型は——カメラやセンサー、制御モジュールなどの電子部品は五十機分ストックがあるのですが、機体の素材である炭素繊維強化プラスチックは、建造時に積み込んだ分しかありません。そちらの制約で、二十機が限界です。こういう状況になるとは、想定できませんでしたから」
「炭素繊維強化プラスチックを、代替できそうなものは」
早川は少し間を置いた。
「実は——木材を薄く削って張り合わせる方法が使えるかもしれません。第二次世界大戦中のイギリスに、木材を張り合わせて作った爆撃機があったんです。モスキートという機体で——優秀な性能を発揮しました」
北沢は頷いた。
「それはいい発想だね。この時代なら木材は手に入る。やってみる価値はある」
早川は続けた。
「もう一つ、ミサイルのストックも問題です。現在千発。一回の戦闘で百発使えば——十回でなくなります」
北沢はしばらく黙った。
「ミサイルはこの時代では製造できない。補充は不可能だな」
「そうですね」
「つまり——ドローンは撃ち落とされないよう慎重に運用し、ミサイルも無駄弾は撃てない、ということだね」
早川が頷いた。
北沢は続けた。
「であれば、撃ち落とされる頻度を下げる運用を考えなければならない。そのためには——出撃回数そのものを減らす必要がある」
「しかし、出撃回数を減らせば、その分攻撃力も下がります」
「だからこそ——一回の出撃で、より多くの敵を仕留める必要がある」
早川は少し間を置いた。
「つまり、ミサイルの搭載数を増やす、ということですね」
「その通りだ。今は二発だったな」
早川は頷いた。
「もっと積めるよう、改良してみます」
北沢は頷いた。
「頼む」
「なんとか改良してみせます」
早川は少し考えてから、別の懸念を口にした。
「それとは別に、ドローンの操縦者をどうするかという問題があります。偵察型はいいと思います。しかし攻撃型は——戦闘行為への参加になります。開発チームのメンバーには、荷が重いと思います」
北沢が聞いた。
「荷が重い、とは」
「開発チームは、あくまで技術者です。人を殺す道具を作ることと、実際に引き金を引くことは——まったく別の話です。私も含め、開発チームのメンバーに、戦うための覚悟があるとは思えません」
「そうだな」
北沢は少し考えた。
「横須賀鎮守府の零戦パイロットに頼むのはどうだろう」
早川の目が輝いた。
「それはいいです。それに、零戦パイロットなら——ドローンの操作など、すぐに習得できると思います」
「空母がなくて、横須賀でくすぶっているパイロットがたくさんいる。梶原司令長官に頼んでおこう」
早川は頷いた。
「よろしくお願いします」
北沢が開発室を出た後、早川はしばらくドローンを見つめていた。
(ミサイルの搭載数を増やす。木材で機体を作る。やることは山積みだ)
早川は思わず笑った。
(まあ——そういうの嫌いじゃないから)
早川の頭の中で、設計図が動き始めていた。
北沢が梶原に話を通すと、即座に許可が出た。
「横須賀鎮守府の手柄にもなります。飛行機乗りたちは泣いて喜ぶはずですよ」
梶原は珍しく、顔をほころばせた。
***
翌日。横須賀鎮守府・格納庫(回想)。
零戦の操縦士たちが集められた。上官が前に立った。
「貴様ら、沖縄の敵艦隊の攻撃に参加せんか」
一瞬、静寂があった。
次の瞬間——。
「参加します!」
「いつですか!」
「戦友の仇を討てるのでありますか!」
上官が手を挙げた。
「落ち着け。ただし——飛行機ではない」
「飛行機ではないとは……」
「未来の兵器、ドローンという無人機を操縦してもらう。詳しくは早川殿から説明がある」
操縦士たちが顔を見合わせた。
(無人機?)
しかし誰も、断らなかった。
厳選された十五名が集まった。
隊長は田中剛少尉、全員が腕利きの零戦操縦士だった。
***
横須賀鎮守府・会議室(回想)。
上官が早川を紹介した。
「こちらが、ドローンを開発された早川技官殿だ」
操縦士たちが早川を見た。
(女だ——)
早川は軽く頭を下げた。
「早川奈緒です。よろしくお願いします」
しばらくして、操縦士の一人が小声で言った。
「なあ、あのひと、なんてお呼びすればいいのかな」
別の操縦士が答えた。
「早川さん、でいいだろう」
「いや、早川先生と呼ぼうぜ。教えてもらうんだから」
***
武蔵・ドローン操作室(回想)。
訓練が始まった。
最初は戸惑いがあった。
「これが——操縦桿でありますか」
「こんな小さな棒で、操作するのでありますか」
「この映像だけで、飛ばすのですか」
しかし——二日もしないうちに変わった。
「意外と簡単だな」
「曲がった。思った通りに動く」
「操作しやすい」
さすがに腕利きの零戦操縦士だった。
感覚の吸収が、驚くほど速かった。
しかしすぐに、不満の声が出始めた。
「早川先生、このドローンは少し動きが鈍いというか、反応が遅くありませんか」
「早川さんでいいです」
「もっとキビキビ動かしたいのですが——零戦みたいに」
早川には理由がわかった。
「ジャイロと制御モジュールのせいです。自動で姿勢を安定させているため——どうしても少し遅れ感が出ます」
「つまり——余計なことをしているということでありますか」
早川は思わず笑った。
「そういうことになります」
「外せますか」
「切るスイッチを付けることはできます。ただし——切ると、操縦は格段に難しくなりますよ」
「俺たちには——むしろその方が合っています」
別の操縦士が続いた。
「零戦だって、安定装置なんてものはありませんから」
早川は苦笑した。
(零戦操縦士に、安定装置は余計なお世話だったか)
さっそく、切り替えスイッチを追加した。
***
翌日。武蔵・ドローン操作室(回想)。
スイッチを切った途端——操縦士たちのドローンが、まったく違う動きをし始めた。
急旋回。
急降下。
宙返り。
「うおっ」
「やった! これだ!」
「これなら零戦と同じ感覚だ!」
早川は画面を見ながら、思わず笑った。
(曲芸飛行までやれている——)
***
爆撃訓練が始まった。
哨戒艇が的を牽引して海上を走る。
操縦士たちは上空から急降下し、真下に滑空してミサイルを発射する。
もちろん、練習用に作った模擬ミサイルだ。
最初は外れることもあった。
しかし三日後——百発百中になった。
「当たった!」
「また当たった!」
「やはり腕の差が出るな」
早川はモニターを見ながら思った。
(この人たちは——本物だ)
***
武蔵・ドローン操作室(回想)。
早川は、操縦士たちのモニターのところに、お守りとともに、小さな文字が貼られているのに気づいた。
「山田」
「健太」
「たけし」
操縦士の一人が気づいて、慌てて手で隠した。
「す、すみません。勝手に名前を——」
早川は少し間を置いた。
「山田というのは——」
「去年、撃墜された同僚です。B29に——」
「健太は」
「私の息子です。まだ三歳で——一度しか会えていない」
早川は画面を見つめた。
「たけしは」
別の操縦士が言った。
「弟です。特攻で——逝きました」
早川は何も言えなかった。
しばらくして、早川は言った。
「そのままにしておいてください。大切な名前です」
「はっ」
操縦士の目が、赤くなっていた。
早川も——目が熱くなっていた。




