第30話 大和の主砲を、存分に
戦艦大和・艦橋。
戦艦大和の通信機が鳴った。伊藤は作戦室で受け取った。
「こちら、わだつみ独立艦隊の北沢。伊藤中将をお願いします」
「伊藤です。北沢司令、この度は沖縄まで同行いただき——感謝いたします」
「沖縄の敵艦隊を壊滅させましょう」
「これは心強い。よろしくお願いします」
「ここに来る前に、豊後水道で待ち伏せしていたアメリカ潜水艦二隻を撃沈しておきました」
伊藤はしばらく黙った。
「それは大手柄ですな。しかし、そんなところまで敵潜水艦が——」
「沖縄のアメリカ軍は、暗号解読により戦艦大和の出撃を知っています。その点はご承知おきください」
「豊田司令長官から伺っています。もっと我らがしっかりしておれば——ミッドウェーで、多くの若者たちを失わずに済んだかもしれません」
北沢は言った。
「中将、これから小型の偵察機を飛ばして、沖縄方面の敵艦隊の位置を探らせます。敵の位置と陣容がわかり次第お知らせします。それまで艦隊は、ここで待機していただけますか」
「潜水艦に偵察機まで積んでいるのですか」
「これから、ご覧に入れます」
伊藤は、望遠鏡で前方の海面を見つめた。
武蔵が浮上し、大和と並んだ。
甲板のハッチが開き、カタパルトが現れた。
そこに乗っているのは——翼幅二メートルほどの、小さな飛行機が四機だった。
戦艦大和の艦橋から、伊藤が双眼鏡を構えた。
「ずいぶんと小さな艦載機ですな。操縦士は乗っていないのでありますか」
北沢が通信機で答えた。
「無人です。武蔵の操作室から無線で操作します」
「無人で飛ぶのですか——」
「無人機にはカメラを搭載しています。航続距離は六百キロメートル。敵艦隊の位置と規模を映像で送ってきます。武蔵の技師、四名が操縦を担当します」
伊藤は双眼鏡を下ろした。
(あんな小さな機体が——六百キロメートルも飛ぶのか)
***
武蔵・ドローン操作室。
安藤健二を中心に早川のドローン開発チームの四名が、それぞれのモニターを見つめながら操縦していた。
早川が言った。
「四機同時発射します。沖縄方面に向けて、十度間隔で扇形に展開してください」
安藤が答えた。
「一番機——方位二二〇。二番機——方位二三〇。三番機——方位二四〇。四番機——方位二五〇。セット完了しています」
「発射」
カタパルトが四回、続けて音を立てた。
四機の小さな機体が、次々と空へ飛び出した。
あっという間に上昇し、南の空へ散っていった。
***
大和・発令所。
「四機とも正常に飛行中です。こちらのモニターにも映像が入り始めました」
モニターに、青い海が四つの画面に分かれて映し出されていた。
北沢が言った。
「偵察型ドローンが敵艦隊を見つけ次第、伊藤中将に報告する。その後、攻撃型ドローンによる先制攻撃に移る」
そのとき、伊藤の声が通信機から届いた。
「沖縄方面の索敵には、どれくらい時間がかかりますか」
「三十分から一時間といったところです」
「あの小さな機体で——そんなに速く飛べるのですか」
「速度は零戦の半分ほど出ます。機体が小さいため——敵機銃の照準が合わせにくいはずです。撃墜しようとしても、容易ではないでしょう」
「なるほど」
「しかし一番の強みは——撃墜されても、操縦士が死なないことです」
伊藤はしばらく黙っていた。
「それが、未来の戦い方ですか」
「そうです。味方の命はできるだけ失わない——それが我らの考え方です」
***
武蔵・ドローン操作室。
四十分後。
安藤が声を上げた。
「早川さん、三番機のモニターに——大型艦の艦影が映っています」
早川がモニターに顔を近づけた。
「空母が、いっぱいですね」
***
大和・発令所。
大和・発令所の乗員たちも、武蔵と共有された偵察型ドローンの映像を見つめていた。
誰かが呟いた。
「なんだこの数は——」
田村がモニターを見ながら言った。
「正規空母と軽空母合わせて——十隻以上。艦載機はとにかく多数。空母の周囲は、戦艦、巡洋艦、駆逐艦がずらっと囲んでいる」
北沢も、偵察型ドローンの映像を見ていた。
(これが——第58任務部隊か)
「田村、位置座標はどうなっている」
「慣性航法装置で計算中——北緯二八度、東経一三〇度付近。大和から約二百キロメートル南西です」
「記録と照合してくれ」
「記録と一致します。第58任務部隊と思われます。空母約十八隻、戦艦六隻、巡洋艦七隻、駆逐艦二十一隻。艦載機は九百機。総指揮官はミッチャー中将。戦艦部隊を率いるのはリー中将です」
北沢は頷いた。
「ミッチャー中将か。空母機動部隊の運用にかけては、当代随一の指揮官だ」
北沢は伊藤に通信を入れた。
「伊藤中将、敵艦隊を発見しました」
「どのような陣容ですか」
「空母約十八隻、戦艦六隻、巡洋艦七隻、駆逐艦二十一隻。艦載機は九百機。記録と一致。記録どおりなら、総指揮官はミッチャー中将、戦艦部隊はリー中将が率いています」
伊藤が続けた。
「ものすごい数ですな。位置と距離は?」
「艦隊の現在位置——北緯二八度、東経一三〇度付近。大和から約二百キロメートル南西」
***
「早川くん、偵察機を帰還させてくれ。先制攻撃を行う。ミサイル搭載の攻撃型ドローンの発艦準備を頼む。横須賀から来てくれた操縦士は何人いる」
「十五名です」
「準備が終わり次第、十五機出動させてくれ。ミサイルの搭載数は」
早川が答えた。
「四発です。いろいろ改良しましたが、さすがにこれ以上は難しいです」
「いつの間に」
「転移してからずっと気になっていたので——」
「そうか、助かる」
「十五機で六十発になります」
「空母の飛行甲板を狙わせてくれ。一九四五年のアメリカ空母は、飛行甲板が木製で、装甲艦のような防御はない。ドローンの小型ミサイル一発でも穴が空く。穴が空けば——発艦も着艦もできなくなる。加えて、舵を損傷させ、航行を困難にさせてくれ」
「了解しました」
「田村、敵の索敵機をこちらに近づけるなよ」
「はっ」
北沢は伊藤に通信を入れた。
「伊藤中将——これから敵空母に攻撃隊を出撃させます。狙いは飛行甲板と舵です。甲板に穴を空けて艦載機の発着を封じ、舵を損傷させて自由な航行をできなくさせます。攻撃が終わるまで、艦隊はそのまま待機していただけますか」
「沈めないのですか」
「その予定です」
「なにか、お考えがあるのですね」
「飛行甲板に穴を空け、舵を損傷させれば——艦載機は発艦できません。大和の主砲を存分に使えるはずです。残りの戦艦・巡洋艦・駆逐艦は——伊藤中将にお任せしたい」
しばらく沈黙があった。
伊藤の声が届いた。
「大和の主砲が、存分に使えるための、お膳立てをしていただけるのですね」
「存分にお願いします。ただし空母は攻撃させないでください」
「わかった。そう命令しよう」
しばらく沈黙があった。
「戦艦・巡洋艦・駆逐艦を相手に——大和の主砲で戦えるとは……」
伊藤の声が、わずかに震えていた。
「すべての兵が奮い立ちます」
攻撃型ドローンが次々と空へ舞い上がった。




