第25話 都民の命を守っていただきたい
大和・発令所。
横須賀鎮守府での会議の翌日、久我から大和の北沢に連絡が入った。
「司令、梶原司令長官の命により、申し出ていただいた四名について、緊急で調査が行われました。——四名とも、この時代に該当する人物も家族も、存在しておりませんでした」
先祖の名前や住所、家族関係などを、はっきりと記憶していた四名について、帝国海軍が大急ぎで調査してくれたのだ。
北沢は、力を込めて言った。
「そうですか。これでこの世界と、我らがいた未来の世界は繋がっていないことが確定しましたな」
「では司令、この時代の日本をお助けいただけるのですね」
「もちろんです」
***
東京・各省庁。
それからの一ヶ月は、会議の連続だった。
連合艦隊司令長官・豊田副武大将。
海軍大臣・米内光政大将。
陸軍大臣・杉山元大将。
そして——内閣総理大臣・小磯国昭と閣僚たち。
どこに行っても、まず未来から来たことから説明を始める。
すると決まって、開口一番——何か一言、言わずにはいられないらしい。
(まず自分の立場を示さなければ、気が済まないのだろうか)
連合艦隊司令長官の豊田は言った。
「大和という名前が二隻あるのは、まぎらわしい」
海軍大臣の米内は言った。
「その軍服では、国民が混乱する。帝国海軍の軍服に変えてくれないか」
陸軍大臣の杉山は腕を組んだまま言った。
「我ら陸海軍の指揮下に入るのか、入らないのか。はっきりさせてほしい」
総理大臣の小磯は言った。
「未来から来たというのは、実際のところどうなんだ」
しかし——映像を見せ終わると、誰もが同じ反応になった。
最初は沈黙。
やがて——絞り出すような声で。
「日本を助けてくれるのか」
「もちろんです」
それだけで、どの重鎮も黙った。
***
昭和二十年二月下旬。
首相官邸。
大和と武蔵の独立友軍的な立場が認められた。
ただし、条件が付けられた。
「正式なものとするには、その立場に相応な軍事力を示すこと」
そうでなければ、陸海軍の将兵が納得しないという理由だ。
それを受けて、北沢は、総理大臣の小磯に伝えた。
「三月十日の夜中、午前零時過ぎに、B29の大編隊による東京への大空襲があります」
小磯の顔色が変わった。
「三月十日とは、わずか二週間先ではないか」
「B29爆撃機が三百機、深夜の東京下町に焼夷弾を投下します。死者は約十万人以上、罹災者は約三百万人以上になります」
小磯は絶句した。
「見せてもらった映像にあったやつだな。下町が——全部燃えてしまうのか」
「川も橋も、すべて炎に包まれます。逃げ場を失った市民が、川に飛び込んで命を落とします」
小磯はしばらく動けなかった。
「それを……防げるというのだな。いや、違う。都民の命を守っていただきたい。心から、そう申し上げる」
北沢は答えた。
「防いでみせます。それが——軍事力を示すことになるでしょうか」
「もちろんです」
***
横須賀鎮守府・会議室。
具体的な作戦計画は、横須賀鎮守府の梶原と練ることになった。
北沢たちと、梶原たちと地図を広げた。
桐山が説明を始めた。
「B29はマリアナ諸島から北上し、東京湾方面から侵入します。この日は通常と違い、超低空——高度千五百から二千メートルで飛来します」
梶原が顔を上げた。
「超低空で? なぜですか?」
桐山が答えた。
「夜間の焼夷弾爆撃の精度を上げるためです。もちろん、低く飛べば高射砲で撃ち落とされたり、戦闘機の攻撃を受けたりする危険があります。記録によれば、アメリカは事前に少数機による試験的な爆撃を、何度か行っていたようです」
「確かに、そういうことが何回かあったな。あれは、そういう意味だったのか」
桐山は頷いた。
「試験的な爆撃により、日本の防空能力の低さは——アメリカに見抜かれていました。記録によれば、爆弾と燃料の搭載量を増やすため、B29尾部の12.7ミリ連装銃座を撤去したとあります」
中島中佐が唇を噛んだ。
「武装を外して来る……我らは、それほど舐められていたということですか」
誰も答えなかった。
答えられなかった。
屈辱に、手を強く握りしめていた。
***
しばらくして、梶原が確認するように言った。
「それで、三百機ものB29爆撃機を、いったいどうやって撃ち落とすのですか」
「レールガンを使います」
梶原が顔を上げた。
「レールガンとは、いったい、なんでありますか」
北沢は松永を見た。
松永が答えた。
「電磁力で金属の弾を高速で発射する兵器です。初速はマッハ六——火薬式の大砲の約八倍の速度です」
「マッハ六……」
梶原が思わず繰り返した。
「対空迎撃で確実に命中させられる距離は、およそ三十キロメートルです。目標が高速移動しているため、それより遠いと精度が落ちます」
「火薬は使わないのですか」
「はっ。電気の力を使います。弾は金属の塊。その運動エネルギーで目標を破壊します。ですから砲声はほとんどありません」
梶原は少し考えてから尋ねた。
「揺れる艦の上から、高速で飛行するB29に命中させられるのですか」
「艦のセンサーで目標までの距離と方位を計測しながら、艦の傾斜を補正し、砲の向きを自動調整します」
梶原は腕を組んだ。
「一発撃ってから、次の発射まで何秒かかりますか」
「五秒です」
「五秒に一発……」
梶原は地図を見つめながら計算した。
「一分間に十二発か。三百機以上いるとなると——」
松永が地図を指しながら言った。
「B29の進行ルートは、記録により把握しています。大和は、東京から百キロメートルの地点で待ち構えます。そして三十キロメートルの射程に入り次第、迎撃を開始します。B29の速度は時速五百六十キロメートル。迎撃可能な区間を通過するのに、約六分かかります」
梶原が口を開いた。
「六分で、どれだけ落とせますか」
「五秒に一発として、七十発前後です」
「七十発で、七十機落とせるということですか」
「命中率を考えれば、五十機前後が現実的な数字です。しかし、三百機のうち五十機が落とされれば——」
松永が続けた。
「航空作戦では、損耗率が一割から二割に達すると、任務を中止する判断が多いとされています。三百機のうち三十機——約一割を撃墜できれば、残りは引き返す可能性が高いでしょう」
梶原が頷いた。
「三十機か。それなら——」
松永が言った。
「五秒に一発で、三十機を落とすには約三分もあれば足ります」
中島中佐が低い声で言った。
「三分で三十機でありますか」
「そして残りには——電子妨害をかけます。編隊の無線が乱れれば、統率が取れなくなる。引き返す判断を早める効果があります」
梶原は地図を見つめた。
「東京を守れるかもしれない」




