第23話 圧倒的な優位にあることは事実です
横須賀鎮守府庁舎・会議室。
会議室の扉の前で中尉が立ち止まり、敬礼した。
「こちらでございます」
中尉が扉を開けた。
四人は扉をくぐった。
広い会議室だった。
天井が高く、鉄骨の梁が美しく組まれていた。
ロの字型に並べられたテーブルの周囲に、多数の椅子が並んでいた。
中には誰もいなかった。
「こちらで、しばらくお待ちください。まもなく梶原司令長官がお見えになります」
中尉が敬礼して去った。
北沢は部屋を見渡した。
(この部屋——元の時代で見たことがある)
しばらくして、給仕の兵が茶を持ってきた。
四人は入口に近い側に並んで腰を下ろした。
松永がiPadの電源を確認した。
宮本がプロジェクターの設置場所を目で探した。
桐山が小声で言った。
「ヘリが着くのが、早すぎましたね」
北沢は苦笑した。
「そうだな。しかし——こうして待つのも悪くない」
茶が、温かかった。
***
廊下に足音が聞こえた。複数の足音だった。
四人は立ち上がった。
ドアが開いた。
最初に入ってきたのは西田少佐だった。
その後ろから将校たちが続々と入室した。
大佐、中佐、少佐——階級章が目に入るたびに、室内の空気が重くなった。
最後に、一人の男が入ってきた。
初老だった。背筋が伸びていた。
肩の階級章——中将。
梶原だった。
北沢は帝国海軍式の敬礼をした。
桐山、宮本、松永も続いた。
将校たちの間に、一瞬の沈黙が走った。
(敬礼の形が——同じだ)
梶原は北沢の敬礼を受け、ゆっくりと上座に腰を下ろした。
将校たちが左右に並んで着席した。
久我と島田は——梶原の左手側、末席に座った。
梶原が口を開いた。
「北沢大将殿、お待たせしました。私が梶原であります」
北沢は首を振った。
「このたびはご面会の機会をいただき、感謝します」
梶原は言った。
「いや——こちらこそ、ご助力いただき感謝しております」
「B29の件ですね」
「B29を追い返していただいたとのこと。西田少佐から報告を受けました。撃墜もせず、電波だけで——とのことでしたが、あれはどのようにされたのですか」
「電子妨害と申します。電波を使ってB29の無線を狂わせました」
梶原が頭を下げた。
「お陰様で、都民の被害を防げました。感謝の言葉もない」
将校たちも、一斉に頭を下げた。
会議室が静まり返った。
北沢は、その光景をしばらく見つめていた。
(帝国海軍の将校たちが——我々に頭を下げているなんて、映画みたいだな)
「顔を上げてください。我々は同じ日本人です」
梶原はゆっくりと顔を上げた。
一拍置いてから、少し身を乗り出した。
「いや——それと、もう一つお聞かせ願えますか。あのヘリコプターのことです。翼もないのに空を飛ぶとは——いったいどういう仕組みなのでしょうか」
室内の将校たちも、一斉に北沢を見た。
誰もが同じことを聞きたかったのだろう。
北沢は松永を見た。
松永が答えた。
「回転翼の原理でございます。大きな羽根を高速で回転させることで揚力を発生させ、空中に浮かびます。飛行機と違い、垂直に離着陸できます」
梶原は少し黙った。
「回転翼で空を飛ぶ。未来では、それが普通の技術なのですかな」
「この時代から数十年後に実用化される技術となります」
梶原は頷いた。
「なるほど、素晴らしい技術ですな。では——本題に入りましょう。貴殿方が何者であるかを聞かせていただきたい」
***
北沢は梶原を見た。
「司令長官、あのヘリコプターで、ここまで飛んできたのは——我らが未来から来たことを納得いただくためです。未来から来たことは、納得いただけたでしょうか?」
梶原は少し間を置いた。
「信じがたいことではありますが——あのようなものを見せられては、納得せざるを得ません」
「我らは二〇XX年から、この時代に転移しました。理由はわかりません。その話に入る前に、この先、日本が辿る未来について説明させていただきたいと思います」
「ぜひお聞きしたい」
「松永、頼む」
「はい」
松永が立ち上がり、プロジェクターとiPadをテーブルに置いた。
将校たちの視線が集まった。
有馬大佐が口を開いた。
「その機械は——いったい何でありますか」
松永が答えた。
「こちらは高度な小型計算機です。命令を与えると、絵や映像を映し出すことができます。こちらの映写機と組み合わせることで、壁に大きく映像を映し出すこともできます」
「映像を……壁に?」
中島中佐が眉をひそめた。
「映画館でもないのに、そんなことができるのでありますか」
「ご覧いただければわかります」
松永はコンセントを探した。
壁に差込口があった。
プラグを差し込んだ。
(同じ形だ。助かった。だめならバッテリーもあるから大丈夫か)
「では始めます」
プロジェクターの電源が入った。
強烈な光が壁に向かって放たれた。
将校たちが一斉に身を引いた。
「な——何だ、あの強い光は」
「眩しい」
「目が——」
松永が言った。
「驚かせてしまい申し訳ありません。恐れ入りますが、暗幕を引いていただけますか。映像が見やすくなります」
久我と島田が素早く立ち上がった。
二人はキビキビと暗幕を締めて回った。
部屋が暗くなった。
壁に、鮮明な映像が映し出された。
将校たちの間から、息を呑む声が聞こえた。
***
松永が、落ち着いた声で付け加えた。
「ちなみにこの小型計算機の仕組みは、我らの潜水艦にも、搭載している兵器にも、組み込まれています。どう活用するかですが。例えば——弾丸を敵艦に発射する際に、敵艦までの距離をもとに、仰角や水平角を自動で計算してくれます」
有馬大佐が身を乗り出した。
「距離の計測は、どうやるのだ。帝国海軍では測距儀を使っておる。左右の視角差から三角関数で割り出す仕組みだが——貴殿方はどうやって距離を測るのだ」
松永が答えた。
「電波を目標に向けて発射し、跳ね返ってくるまでの時間から距離を自動で計測します」
「電波で……距離を」
「連続して計測した距離をもとに、敵の動きを予想します。そして、自艦の動きも計測しながら、砲の仰角・水平角まで自動で計算し、発射の機まで算出します。砲術士が計算する必要はありません」
有馬大佐が腕を組んだ。
「砲術士が不要になる……」
「砲術士の技量を否定するわけではありません。しかしこの計算機は——人間が生涯かけても追いつけない速さで、何千回でも計算し続けます」
中島中佐が口を開いた。
「では——貴殿方の艦と、我々の艦では勝負にならないということになるな」
松永は少し間を置いた。
「圧倒的な優位にあることは事実です」
会議室が静まり返った。




