第20話 必ずやり遂げます
大和・司令室。
田村が言った。
「司令。方針は決まりましたね。後は具体的にどう動くかです」
北沢は少し考えてから口を開いた。
「大和と武蔵で、いきなり横須賀に乗り込んだらどうなるだろう」
久我が思わず顔を上げた。
「え——この二艦は、大和と武蔵という名前なのでありますか」
「この艦に、日本人が大和と武蔵という名から感じる力強さ、最後の拠り所という感情を与えたかったのだ」
島田が言った。
「この時代の人間は——大和と武蔵という名前に、まさにそういう期待を感じているであります」
早川が口を開いた。
「私は、もっとスマートな名前が良かったですよ。たとえば——Auroraとか。オーロラ。夜明けの女神という意味です。新しい時代の始まりという感じがしませんか」
島田が眉をひそめた。
「なぜ——敵国の言葉なんかで……」
北沢が苦笑した。
「アメリカはこの戦争でドイツも倒し、世界の盟主のような存在になる。そのため、英語はほぼ世界の公用語になった。未来では、子供のお菓子も英語名のものがいっぱいあるし、車の名前もそうだ」
「そ、そうなのでありますか……」
早川が続けた。
「未来では、資源や製品が国境を越えて世界中を動き回るようになるの。グローバリゼーションといって、国や人種を超えて世界が一つになろうという考え方が広まる。でもその反動で自国を第一に考える動きが強まって——結果的に世界はいくつかのブロックに分かれて対立するようになったのよ」
久我は腕を組んだ。
「つまり——未来の日本が核で脅された理由は、そのブロック対立にあるということでありますね」
「そういうことね」
(時代は変わっても——本質は変わらないか)
島田が恐る恐る口を開いた。
「あの——大変失礼ですが……」
全員が島田を見た。
「未来の女性は——この時代の女性とは、ずいぶん違うのでありますね。司令の前でも、堂々と自分の意見を……」
北沢が苦笑した。
「未来では男女同権という考え方が当たり前でね。女性も男性と同じように働くし、国会議員だって女性がたくさんいる。この時代の感覚で見ると、驚くことばかりだろう」
久我は島田を見た。
「島田、未来の感覚と、この時代の感覚は違うのだ」
「はっ。失礼いたしました」
島田はそれきり、黙り込んだ。
さっきまでの元気が、すっかり消えていた。
(まあ、無理もないか)
北沢が続けた。
「早川君はこの艦を建造した会社の社員であり、研究者でもある。この艦の開発にも深く関わっているのだよ」
久我は早川を改めて見た。
「そうでありましたか——才媛なのでありますね」
北沢の表情が引き締まった。
「話を戻そう。総理大臣や閣僚、軍部とどう交渉するかだ。いきなり、問答無用と大和や武蔵が攻撃されたり、乗っ取られたりという事態は、なんとしても避けたい」
久我は少し考えてから答えた。
「言われるように、軍には荒っぽい気質の者もいるかもしれません。しかし、開戦間もないころならまだしも——今はアメリカ軍に押されまくり、本土も空爆されている状況です。この艦の力を示せば、聞く耳を持つと思います」
北沢は頷いた。
「そう願いたいところだ。ただ、力を示すにしても——お互いに固い信頼関係が築かれるまでは、帝国海軍の指揮下には入らないつもりだ。友軍という立場が望ましいと考えている」
久我は深く頷いた。
「司令のおっしゃる通りだと思います」
「では、具体的にどう動くか決めておきたい」
北沢は続けた。
「横須賀鎮守府が最初の窓口になるが、不用意に近づけば、間違いなく迎撃されるはずだ。いきなり攻撃されれば、我らも身を守らなくてはならない。それでは信頼関係の構築どころか敵対関係になってしまう」
久我がすぐに答えた。
「それは私が何とか下工作します。そうすれば、少なくとも、いきなり攻撃ということにはなりません」
「どう下工作するのですか」
「まず私の直属上官の西田少佐に無線で連絡します。西田少佐であれば、私の言葉を信じていただけます。西田少佐から梶原司令長官に話を通してもらいます」
「司令長官は、信頼できる人物ですか」
「慎重な方です。話を聞かずに乱暴に動く方ではありません。まず確認しようとされるはずです」
北沢は田村と目を合わせた。
田村が小さく頷いた。
北沢は久我を見た。
「わかった。久我中尉、頼む」
久我の目が輝いた。
映像を見たときの、あの重さが消えていた。
(東京が燃え、広島が消え、長崎が消える——そんな未来が、変えられるかもしれない)
久我は深く頭を下げた。
「はっ。必ずやり遂げます」
顔を上げたとき、その目はもう迷っていなかった。
「では、哨戒艇に戻り、私が横須賀鎮守府まで先導します」




