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原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第2章 太平洋戦争編

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第13話 目覚め

大和・発令所。


意識が、遠いところから戻ってくる感覚だった。

北沢は、床に片膝をついたまま、ゆっくりと目を開けた。


視界が霞んでいた。

頭の中が、まだどこか遠い場所にあるような感覚だった。

(核ミサイルは着弾したのか——それとも)


発令所を見渡した。

計器が動いている。

照明が、いつも通りに灯っている。


(生きてる。正常だ)


近くで、誰かがうめく声がした。

床に倒れたまま、動かない者もいた。

北沢は手すりを掴んで立ち上がった。膝がまだ震えていた。


(今は、状況を考えるより先にやることがある)


北沢はマイクを手に取った。

「艦内放送。起きられる者は周囲の乗員を起こせ。まず各配置の安否確認と機器の確認をしろ」


放送を終えると、北沢は通信長の宮本を振り返った。

「水中通話機を繋げ。武蔵にも同じことを伝える」


返事がなかった。


「宮本」

通信席に目をやると、宮本が椅子にもたれたまま、ぼんやりと天井を見上げていた。


「宮本、聞こえるか」


「……あ、はい。すみません、司令」


宮本は慌てて姿勢を正した。頭を振って、意識を引き戻すように瞬きを繰り返した。

「水中通話機ですね。今、繋ぎます」


少し覚束ない手つきで、機器を操作した。

「……繋がりました」


北沢はマイクに向き直った。

「こちら大和、北沢だ。武蔵、応答せよ」


しばらく沈黙が続いた。

やがて、雑音混じりの声が返ってきた。

「こちら武蔵、中村です。聞こえています」


「無事か」


「発令所には負傷者はいないようです」


「そちらも、各配置の安否確認と機器の確認を急がせろ。状況が分かり次第、報告してくれ」


「了解しました」


マイクを置くと、北沢は発令所を見渡した。

床に座り込んだまま動かない者が、まだ何人もいる。


その中に、田村の姿があった。

手すりにもたれかかったまま、目を閉じている。


北沢は近づき、肩を揺すった。

「田村、しっかりしろ」


反応がなかった。

もう一度、今度は強く肩を叩いた。

「田村、起きろ」


田村のまぶたが、かすかに動いた。

ゆっくりと目を開けた。


「……司令」


「気がついたか。分かるか、俺が誰か」


「北沢……司令」

田村は霞む視界の中で、北沢の顔を捉えようとした。


「大丈夫だ。艦は無事だ。お前が艦長だ、田村」


その言葉に、田村の目の焦点が、少しずつ戻ってきた。


北沢が田村の肩に手を置いた。

「田村、動けるか」


「……はい。動けます」


「よし。各配置を確認してこい。負傷者と機器の状態、両方だ」


「了解しました」

田村はゆっくりと立ち上がった。


***


十五分後。

田村が大和の発令所に戻ってきた。


「田村、各配置の様子はどうだ」


「負傷者なし、機器も問題なしです」


「そうか」


武蔵からも報告があり、大和と武蔵の全乗員の安否確認が終わった。

負傷者も機器の損傷もなかった。


***


北沢は発令所のモニターに目を向けた。

セイル上部のカメラが捉えた映像が、鮮明に映し出されていた。

田村も同じモニターを食い入るように覗き込んでいた。


長閑な相模湾の風景だった。

空が違う。

青かった。どこまでも深く、吸い込まれそうなほど青かった。


相模湾の空には、うっすらとした霞がかかっていることが多い。

しかしこの空には、何もなかった。


海が違う。透明度が高すぎた。

海面の下の色が、あまりにも鮮やかだった。


そして陸が——。

三浦半島の稜線が見える。今は冬なのだろう。冬枯れの色をしていた。

しかし、工場も、高層ビルも、高速道路も見えない。


瓦屋根の集落が、斜面に点々と並んでいた。

煙突から白い煙が細く立ち上っている。

農地が、丘の斜面を段々に区切っていた。


どこかで漁船が、帆を広げている。

(この海は——この空は——)


田村はモニターから目を離した。

「北沢司令、おかしいです。地震の影響も、核ミサイルの被害もないなんて」


「そうだな。風景も違っている」


二人はしばらく黙って、青い空と緑の半島を眺めていた。


艦内のあちこちから、乗員たちの声が聞こえてきた。

「私たち、死ななかったんですね」


「もうダメかと思ってました」


「とにかく生き延びたからには、原潜の核で他国の干渉は排除できますね」


「もう、日本を舐めんなよって、言えるんですね」


「陸地の風景が違いますよ」


「核の被害も地震の被害も見当たりませんよ」


「なんか変だ」


『なんか変だ』という言葉が伝染する。


やがて、誰も口を開かなくなった。

ただ、窓の外を見つめていた。

再び、核ミサイルが飛んでくる——あの緊張感が戻ってきた。


そのとき——宮本が発令所の隅で、計器を見つめていた。

「あれ」


田村が振り返った。

「どうした」


「時計が——おかしいです」


全員が宮本を見た。

「あの時は——昼の十四時二十分くらいでした。しかし今は——」


宮本は計器を指差した。

「午前九時十五分になっています」


「時計が狂ったのか」


「いいえ。他の計器はすべて正常です。GPS信号は——」


宮本は少し間を置いた。

「GPS信号が——消えています」


誰も何も言わなかった。

(時計が変わっている——GPS信号は消えている——風景が違う)


北沢はモニターを見た。

帆を広げた漁船が、静かに沖を進んでいた。


橘が発令所にやってきた。


計器を一瞥してから、モニターを覗いた。

「確かに変ですけど、まあ、生き延びることができたんです。まずは、感謝ですよ」

それだけ言って、黙った。


「そうだよ」という言葉が、いろんな場所から聞こえた。

緊張した表情が、少し緩んできた気がする。


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