表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第1章 近未来編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/15

第12話 当たりくじを引くのは昔から得意だ

官邸地下一階、危機管理センター。


江崎総理は閣僚たちを見渡した。


北沢の言葉が、もう一度耳の奥で響いた。

『核を持たないまま、核の脅しに怯え続けること。それこそが、国民を最も危険な状態に追い込んでいるのではないですか』


江崎総理はゆっくりと立ち上がった。

「諸君、私は決断した」


室内が静まり返った。


「大和と武蔵、および搭載核兵器を、日本国保有の正式な戦力として認定する」


誰も声を上げなかった。

だが、全員が深く頷いた。


「某国の代表に繋いでくれ」


回線が繋がった。

ブロック代表の声は、相変わらず穏やかだった。

「これは江崎総理。なにかご用でしょうか」


江崎総理は、はっきりと言った。

「大和と武蔵は、日本国の正式な戦力です。核も同様です。もし、我が国を攻撃するなら、ただちに報復しますぞ。それだけお伝えします」


長い沈黙があった。


「それは、脅しですか」


「事実をお伝えしたまでです」

通信が切れた。


室内に、緊張が走った。


「総理——」

そう西村が言いかけた瞬間、防衛省からの緊急通報が入った。


「弾道ミサイル発射を探知。某国内陸部より一発。着弾予測、相模湾沖。着弾まで僅か」


江崎総理の顔が蒼白になった。

(撃ってきたのか。本当に撃ったのか)


「西村君、今すぐ海自の通信回線で坂本に伝えろ。艦艇を全速で離脱させろ」


西村が海自の回線で坂本に怒鳴った。

「坂本、海自の艦艇を今すぐ離脱させろ。核ミサイルが発射された。説明は後だ。急げ」


江崎総理は衛星通信機を手に取り、北沢を呼んだ。

「北沢君、核ミサイルが発射された。着弾まで僅かしかない。今すぐ潜航してくれ」


「了解しました。田村、急速潜航、全速離脱だ」


田村の声が続いた。

「武蔵にも伝達。急速潜航、最大深度までだ」


北沢の声が戻った。

「総理、まもなく潜航します」


江崎総理は一瞬、言葉を詰まらせた。

「必ず生き残ってくれ。大和と武蔵と核は、今この瞬間から日本国の正式な保有兵器だ。大和と武蔵は、日本国の艦となった」


「承知しました。ご英断に、感謝します」

通信が切れた。


江崎総理は受話器を握ったまま、動けなかった。

(間に合ってくれ)


***


大和・発令所。


「田村、今から言うことを武蔵にも流してくれ」


「了解しました。通信員、水中通話機を繋げ」


「繋ぎました。司令どうぞ」


北沢はマイクを握った。

「全乗組員に告ぐ。某国が核ミサイルを発射した。着弾まで僅かだ。本艦はただちに全速離脱する。相模湾中央部の深海域まで潜れれば、衝撃波を凌げる可能性がある。間に合うかどうかは——わからない」


北沢は続けた。

「しかし、諸君にどうしても伝えたいことがある」


北沢の声が変わった。

「江崎総理が、ただいま決断された。大和と武蔵と核を、日本国の正式な保有兵器として認定すると」


艦内に、静寂が広がった。


「諸君は今この瞬間から、日本国の正規艦の乗組員だ。核ミサイルにより、関東地方は相当の被害を受けるだろう。その後、この国がどうなるかは誰にもわからない。だからこそ——我々は必ず生き残らなければならない。日本のためにだ」


艦内のあちこちから、声が上がった。

嗚咽に近い声もあった。


***


相模湾。


深度三百メートル。全速航行中。

そのとき、ソナーが異常な反応を示した。


「司令、海底から異音。低周波の振動です」


次の瞬間、艦体が揺れた。

核爆発ではなかった。


核爆発なら、衝撃波は一瞬だ。

これは違う。


ゴォォォ——。

地の底から這い上がってくるような、低く長い振動だった。

艦全体が、巨大な何かに包まれるように揺れ続けた。


「司令、地震です。しかもかなりの規模です。海底から地鳴りが——」


北沢は計器を見た。

ソナーが、かつて見たことのない波形を描いていた。


「南海トラフ地震か」


「おそらく」


北沢は思わず苦笑した。

「核ミサイルが飛んでくる上に、南海トラフ大地震か。踏んだり蹴ったりとは、このことだな」


田村が落ち着いた声で言った。

「ここまで来たら、運に任せるしかありません。司令——運は良い方ですか?」


「任せろ。当たりくじを引くのは昔から得意だ」


ゴォォォォォ——。

二度目の振動が来た。


一度目より、遥かに大きかった。

艦体が激しく傾いた。誰かが転倒する音がした。

計器のいくつかが警報を鳴らし始めた。


「震度、推定九以上。震源は紀伊半島沖——南海トラフ本震です」

北沢は手すりを掴みながら言った。


「核ミサイルだけでも首都圏壊滅だ。そこに南海トラフが重なれば——」

言葉が続かなかった。


関東だけではない。東海、近畿、四国。日本の太平洋側が、同時に揺れている。

(日本はどうなる)


田村が北沢の目を見た。

何も言わなかった。

しかしその目が、同じことを問いかけていた。


ゴォォォォォォ——。

三度目の振動が艦を襲った。


今度は縦揺れだった。

計器が一斉に振り切れた。

ソナーが悲鳴を上げた。


「何だ——」

艦体を包むように、白い光が広がっていく。


田村が叫んだ。

「何だ、これは——」

誰も答えられなかった。


意識が遠くなる。

田村は手すりを握ったまま、思った。


(核ミサイルが着弾したのか)

(それとも——)

(我々はここで消えるのか。日本はこれからどうなるのだろう)

(見届けることは、できそうにないな)


結果がわからないまま、すべてが消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ