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原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第4章 アメリカ編

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第119話 儂がこの国でなすことは、もはやない

武蔵・大会議室。


堀が、これまでに起こったことを説明している間、信長は黙って考えていた。


儂は——この国を、根本から作り変えたかった。

戦《いくさ》の起こらない国にしたかった。

南蛮が手出しをできぬ、強き国にしたかった。


だが——それを望んだのは、儂一人であったということか。


公家、寺社、大名たち——誰もが、変わらぬことを望んでおるという。

あたりまえのことだ。生まれながらにして持つ、特権や力を——放り出そうとするはずがない。


信忠と光秀は、国の仕組みが変わらなくとも、幕府が強力な力を持ち続ければ、やつらの特権や力は、次第に小さくなっていくと考えたのだろう。

真面目で、和を大事にする光秀らしいわ。


だが——数十年程度では、そうはならぬ。

昔がどうであったかすら、忘れ去られるほどの時。

百年——いや、もっとかかるであろう。


しかし——長きにわたり、この形が続けばどうなる。

やがて、操り人形にされる将軍も出てくるであろう。

世は移ろい、南蛮の国々も、いつまでも自国に籠もっていてくれるとは限らぬ。


遠からず——また元の木阿弥よ。

いずれ、力をつけた大名たちの間で、また争いが起こる。

民は飢え、苦しむだろう。


そこへ——南蛮が付け入る隙を見出せば。

この国は、飲み込まれてしまうかもしれぬ。


信長は、きっぱりと言った。

「新しい仕組み作りを始めようとしたが——この国が大きな変化を嫌うというなら、儂がこの国でなすことは、もはやない。信忠と光秀が思うように、国作りを進めてもらうほかあるまい。北沢殿の期待に添えず——申し訳ない」


信長は、北沢の方をしっかりと見た。

「儂を——アメリカとかいう大陸に、連れていってはもらえぬだろうか。柴田勝家、滝川一益、佐々成政、森長可といった、戦の得意な武辺者たち。前田利家、丹羽長秀、松井友閑、村井貞勝といった、内政の得意な者たち——彼らが、儂についてきてくれるという」


会議室のメンバーが——思わず顔を見合わせた。


北沢が答えた。

「信忠殿と光秀殿に、おまかせするしかありませんね」

(結局、江戸幕府のような流れになっていくのかもしれないな)

(本能寺のことも——このまま、黙っておこう)


少し間を置いて、地図を指し示しながら北沢は続けた。

「我らは、ここサンフランシスコ湾に拠点を築きました。内政が得意な方たちは大歓迎です。先住民の土地を、武力で奪おうとは考えていません。少しずつ何年もかけて——ともに国作りをしていくつもりです。その考えに賛同していただかねばなりません」


「もちろん北沢殿の考えに従うつもりじゃ。先住民たちの涙の上に新たな国を作るというのは——儂の性に合わぬからの。ところで、サンフランシスコというのはどのような場所でござろうか」


「雄大な場所です。その景色を見れば心奪われるでしょう。豊かな土地、きれいな水、気候も——ここと変わりません」


「詳しくは、お市と娘たちにお聞きください」


「戻ってきておるのか、会いたいの」


「それで——武辺者たちの活躍の場はないかの」


「あるにはあるのですが、それは田村たちが帰ってきてからにしましょう」


「それは楽しみじゃ。それと——北沢殿たちが目指す国作りを、儂にも教えてもらえないだろうか」


「であれば、私だけでなく——技術は橘さん、財政は鶴田さん、艦隊運用や戦術については桐山に学んでください。学んでいただきたいことは、たくさんありますから」


堀が遠慮がちに手を上げた。

「某もぜひ——学びたいです」


***


武蔵・発令所。


「田村に繋いでくれ」


大和と通信が繋がる。

「司令——イギリスでの任務も完了しました。そちら、由良湊の様子はどうですか」


北沢は、これまでのことを説明した。

田村はしばらく黙っていた。

「信忠殿と明智殿に、頑張ってもらうしかないですね」


田村は続けた。

「なんとなくですが——徳川家が、北条家に入れ替わっていくような気がしますね。北条家に、あの堅固な江戸幕府が——作れますかね」


「心配だが——先のことは、わからないからな」


北沢は、話を切り替えるように続けた。

「ところで——大和は、どれくらいで由良湊に戻ってこれそうだ?」


「インド洋経由の方が早そうですね」


「では帰りがけに、いくつか叩いておいてほしい港がある」


北沢は続けた。

「まず——アフリカのアンゴラ・ルアンダ港だ。周辺から奴隷を集め、ブラジルへ送り出している拠点らしい。次に——インド洋沿岸のゴア港。ポルトガルのアジア進出の本拠地だ。それと——東南アジアのマラッカ港。東西交易路の要衝になっている。それとマカオ港だ」


「承知しました。奴隷を運ぶための港というのは——見過ごせませんね」


「そのとおりだ。頼む」


「了解しました。約一ヶ月で戻ります」


「よろしく頼みます——気をつけて」

通信が切れた。


***


一ヶ月後。

武蔵・発令所。


大和の田村から連絡が入った。

「司令——もうすぐ到着します」


「長旅ご苦労様でした」


「ルアンダ、ゴア、マラッカ、マカオの——大型のポルトガル船は全部沈めてきました」


「どこの港が、一番多かったですか」


「インドのゴアですね。副王庁が置かれているだけあって——港には、本国から来た大型のガレオン船が八隻、それに加えて、やや大型の交易船が数多く停泊していました。ポルトガルのアジア進出の中心地であることが、よくわかりました」


「ポルトガルは——海上交易帝国と呼ばれていたのですよね」


「はい。スペインとは、やり方がまるで違います。スペインは陸地——広大な植民地そのものを奪いますが、ポルトガルは違います。港と、その周辺だけを押さえて、そこを拠点に交易網を張り巡らせるやり方です」


「胡椒ですね」


「そうです。狙いは——胡椒をはじめとした、アジアの香辛料の独占です。ヨーロッパでは、肉料理の臭み消しや保存に、香辛料が欠かせません。ですから——生産地では二束三文のものが、ヨーロッパに運ばれると、金と同じ重さで取引されるほどの値がついたそうです」


「植民地から得られる利より、胡椒などの香辛料を抑える方の利が大きいということですね」


「そうだと思います。日本に戻る途中、いろいろな記録を調べましたので、そのあたりはかなり詳しくなりました」


「なるほど、わかりやすくて助かります」


少し間を置いて、北沢が尋ねた。

「ところで、香辛料そのものは、どこから採れるのですか」


「香辛料の中でも、特に値の張るクローブやナツメグは——スパイス諸島と呼ばれる島々でしか採れません。マラッカのさらに東、モルッカ諸島という一帯です」


田村は続けた。

「マラッカは、インド洋とスパイス諸島、明を結ぶ、いわば東西交易路の関所のような場所になります」


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