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原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第4章 アメリカ編

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第113話 エンコミエンダ

ベラクルス南方の砂浜。


七日間の休暇も——今日で終わりだった。

名残を惜しむように、田村たちは、ゆっくりと片付けを始めていた。


幾度となく果物を求めて通ううちに——先住民の村人たちとは、言葉を交わさずとも、いつしか顔なじみになっていた。


その時——遠くの砂浜から、馬蹄の音が響いてきた。

十名ほどの若者が、砂埃を上げながら駆けてきた。


その後ろから、馬に乗ったスペイン兵の五人が追っていた。

火縄銃の乾いた銃声が、立て続けに響いた。

若者の数名が、糸が切れたように倒れた。


「ハルテ——!」

兵の一人が、何かを大声で叫んでいた。


止まれ、と言っているようだった。

残った若者たちは、力尽きたように足を止めた。


やがて——スペイン兵の目が、才蔵たちの姿を捉えた。

馬を止めぬまま、銃口をこちらに向けてくる。


パン——。

いきなり撃たれた。

弾は逸れた。運が良かったとしか、言いようがなかった。


才蔵は、懐に忍ばせていた拳銃を静かに構えた。

周りの海神《わだつみ》衆も、同じように身構えていた。


「撃て」

才蔵の短い一言で、乾いた音が連続した。


馬上の兵たちが、次々と地に落ちた。

弾を免れた五人の若者が、倒れたスペイン兵に飛びかかった。


拳を、何度も、何度も振り下ろした。

恨みの深さを物語るように、その動きは止まらなかった。

やがて——スペイン兵は、動かなくなった。


若者たちは、荒い息のまま、才蔵たちを睨みつけた。

警戒しているのは、明らかだった。


才蔵は会話集を取り出し、ページをめくりながら伝えようとした。

だが、若者たちの表情は変わらなかった。

言葉が、届いていなかった。


才蔵は無線機を取り出した。

「竹中殿を呼んでくれ」


その間、才蔵は地面に腰を下ろし、村人から買い取った果物を目の前に並べた。

手振りで、食べろ、と示した。


若者たちは、しばらく躊躇っていたが、やがて意味を悟ったのか、貪るように果物にかぶりついた。


***


しばらくして、半兵衛が官兵衛とともに、大和からやって来た。

半兵衛は若者の前に膝をつくと、聞き慣れない言葉を、ゆっくりと口にした。

「私たちは——敵ではない」


若者たちの表情に、わずかな変化が走った。


言葉が通じたようだった。

官兵衛が驚いた顔で聞いた。

「竹中殿、いつの間に異国の言葉を——」


半兵衛は小さく笑った。

「軍師とは、必要であれば、何でも覚えるものです」


言葉を交わすうち、事情が少しずつ明らかになっていった。

彼らは、メキシコの過酷な労役——エンコミエンダに反対し、密かに解放運動を続けていた者たちだった。


しかし山中の拠点をスペイン兵に急襲され、生き残ったのは、この五人だけだという。


半兵衛が穏やかな表情で聞いた。

「これから——どうする」


若者の一人が、力なく首を振った。

言葉はわからずとも、その様子だけで才蔵にも、彼らの考えが十分に伝わった

半兵衛は、無線で田村に事情を話し、彼らを船に乗せる許可を得た。


***


若者たち五人は、服もボロボロで、体もかなり汚れていた。

海神《わだつみ》衆の一人がシャワー室に連れていき、身を清めさせたあと、自衛隊の服に着替えさせた。


その後、五人は大和の食堂に案内された。

田村、半兵衛、官兵衛、才蔵の四人が、彼らを囲むように席についた。


五人の名前は、ディエゴ、パブロ、マテオ、フアン、そして代表格の男——ルイスと名乗った。


五人ともスペイン語を話した。

簡単なやり取りは半兵衛が通訳し、込み入った話になると、iPadの自動通訳ソフトを介して会話を進めた。


ルイスが、ぽつりぽつりと語り始めた。

「私たちの祖父母は——アステカ帝国の民でした」


かつてこの地に栄えていた帝国が、スペイン人によって滅ぼされたこと。

祖父母の代までは、まだナワトルの言葉や祭りが残っていたこと。


しかし今では、スペイン語しか話せない者がほとんどだということ。

そして今、自分たちがどのような扱いを受けているか、ということだった。


「エンコミエンダ——というものがあります」

ルイスは、絞り出すように言った。


「土地とともに——私たちも、割り当てられてしまうのです。まるで、家畜のように」


半兵衛が聞いた。

「割り当てられる、とは——誰に」


「エンコメンデーロと呼ばれる者たちにです。王から土地を与えられたスペイン人が——その土地に住む私たちのことも、まとめて自分のものにしてしまうのです」


「奴隷として働かされるのだな」


「朝から晩までです。休む間もありません」


「逆らえば、どうなるのだ」


ルイスは、一瞬、言葉を詰まらせた。

「鞭で打たれます。何度も——何度も」


官兵衛が眉をひそめた。

「病に倒れても、休めぬのか」


「休めません。倒れたまま、働かされた者もいます」


半兵衛は、しばらく黙っていた。

「それでは、死んでしまうではないか」


ルイスは、拳を握りしめた。

「何人も、何人も死にました。過労で。あるいは——折檻で」


半兵衛と官兵衛、才蔵の表情が、次第に険しくなっていった。

田村も、拳を握りしめていた。


若者たちは気が動転しているのか、自分たちが乗せられているこの大和が、この時代にはあり得ない船だということにさえ、気づいていないようだった。


田村が口を開いた。

「これから、スペインに行って、ガレオン船をすべて沈めてくる。お前たちはどうする。望むなら、銀とその服、食料を渡して、陸に下ろしてやることもできる」


ルイスは、はっきりと首を振った。

「私たちの国を滅ぼし、好き放題にしているスペインです。奴らの船を沈めに行くというなら——どうか、私たちにも手伝わせてください」


「わかった。明日、スペインに向けて出航する」


「どれくらいで到着しますか」


「十日だ」


「そ、そんなに早く……」

ルイスは、信じられないという顔をした。


田村は半兵衛に目を向けた。

「五人の面倒は、竹中殿と黒田殿にお任せしたいが、よろしいでしょうか」


半兵衛が頷いた。

「承知仕る」

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