第111話 そのやり方が通用しない相手がここにいる
天正十年(1582年)四月上旬。
大和・発令所。
アカプルコを後にした大和は——アメリカ大陸に沿って南へ向かった。
まもなく、パナマ沖に到着する。
田村は静かにモニターを見た。
「パナマ港——ガレオン船五隻確認。松永、アカプルコと同じでいくぞ」
「はい」
パシュッ——パシュッ——。
夜の港に——五隻がゆっくりと沈んでいった。
「パナマ——完了しました」
松永が確認した。
「要塞の砲台は潰さなくてもいいのですか」
「船がなくなれば、海に向いた砲台は無用の長物だ」
「なるほど」
「次はグアヤキルだ」
***
エクアドル・グアヤキル沖。
十キロメートル沖合に、大和は潜望鏡深度で停船していた。
田村はモニターを見た。
「地形と地図を確認してくれ。グアヤキルで間違いないか」
「間違いありません」
半兵衛がモニターの画面を覗き込んだ。
「この建物は、造船所ですな」
「記録によれば——グアヤキルは、ガレオン船を建造・修理する基地になっている。大陸西側で最大の造船所。マニラガレオンもここで造られたと記録されている。したがって、この造船所は破壊しておく必要がある」
官兵衛が静かに頷いた。
「なるほど——兵站を断つのですね」
「その通り。ここを残しておけば——また新しい船が次々と造られてくる」
田村は松永を見た。
「今度は、通常のレールガンでいく。深夜、造船所から人がいなくなったところで——建物を木っ端微塵に破壊するぞ」
松永は頷いた。
「承知しました」
***
深夜——。
グアヤキルの造船所は——静まり返っていた。
レーダードローンの映像に——建造途中のガレオン船の骨格が映し出されていた。
木材がうず高く積み上げられていた。
大量の帆布と綱も見えた。
「人の気配は——ありません」
「撃て」
ズドォォォン——!
閃光が走った。
造船所の建物が——一瞬で炎を上げた。
木材が四方に飛び散り——土煙が高く舞い上がった。
「もう一発——」
ズドォォォン——!
建造中のガレオン船の骨格が——炎に包まれた。
帆布と綱が——一瞬で燃え上がった。
「もう一発——」
ズドォォォン——!
造船所全体が——炎の海になった。
夜空を——赤い炎が照らした。
しばらくして——町の方から叫び声が上がる。
「火事だ——!」
「造船所が——燃えているぞ——!」
大和の姿は、暗闇の海に溶けていた。
松永はじっとモニターを見つめていた。
「グアヤキル造船所——破壊完了しました」
官兵衛は感慨深げに言った。
「有岡城での戦いを思い出しました。ずいぶん遠くまで来たものです」
田村が言った。
「次はカリャオだ——出発せよ」
***
ペルー・カリャオ沖。
数キロメートル沖合に、大和は潜望鏡深度で停船していた。
田村は、港の様子をモニターで眺めていた。
カリャオの港が広がっていた。
石造りの倉庫が並び——スペイン人と思われる兵士たちが歩いていた。
港には——四隻のガレオン船が停泊していた。
「あれは、掘り出した銀をパナマまで運ぶ船だな」
半兵衛が言った。
「ここが——カリャオですか」
「リマの外港。南アメリカ大陸最大の港だ」
官兵衛が静かに続けた。
「竹中殿——カリャオとリマはどんなところだったか覚えていますか」
「記録された資料に書いてあった——五十年前まで、ここにはインカ帝国があった」
「インカ帝国——思い出してきました」
「日本の何倍もある大帝国。先の世の国名で言うと——ペルー、ボリビア、エクアドル、チリ北部まで支配していた。人口は約千六百万人——」
官兵衛が聞いた。
「そんな大きな国が、簡単に滅びるものでしょうか」
「わずか百八十人のスペイン人が——滅ぼした」
発令所が静まり返った。
田村が言った。
「たったの百八十人——。それにしても、竹中殿——記録された資料が、すべて頭に入っているのですか」
半兵衛は小さく笑った。
「興味を持ったところだけです」
官兵衛が聞いた。
「どう、滅びたのですか」
「疱瘡が広まって人口が激減していたところに——スペイン人がやって来る。インカ皇帝を捕らえ、莫大な身代金の金銀を受け取った後に——処刑。四十九年前のことです」
半兵衛はしばらく黙っていた。
(アステカと同じだ——疱瘡で国が滅んだ)
(百八十人で千六百万人の国を滅ぼした——疱瘡という病がなければ、そんなことは不可能だったはず)
「アステカと同様——ここでも都合よく疱瘡が蔓延するとは。大いに怪しいですな」
官兵衛が続けた。
「スペインの強さは——戦の強さではなかったようですな。感心しないやり方です。同じことをされたら、日本もひとたまりもありませんな」
田村が言った。
「そのやり方が通用しない相手が、ここにいる。夜になったら——カリャオも片付けてやる」
***
大和・発令所。
田村が言った。
「北沢司令に繋いでくれ」
北沢が通信に出た。
「今、どの辺りだ」
「司令、大和の現在位置は、ペルー・カリャオ沖です。今晩、攻撃を行います」
「もう、ペルーに着きましたか。さすがに、大和だけだと早いですね」
「カリャオ港の攻撃の後ですが、マゼラン海峡を回って大西洋に出れば、ポルトガルの拠点港、ブラジルのサルバドール沖を通過します。ポルトガルの船はどうしますか」
「もちろん沈めてください」
「了解しました」
「サルバドールを叩き終わったら——また連絡してください。こちらは——今、ちょうど赤道付近です。これから西に向かいます」




