第110話 ミニレールガンはスナイパーみたいなものだな
武蔵・発令所。
「司令——大和から連絡がきています。お繋ぎします」
通信機から、田村の声が届いた。
「アカプルコ付近に到着しました。港に——ガレオン船を三隻確認。状況を確認中です」
北沢は落ち着いた声で答えた。
「田村に任せる。ただし——大和の存在が知られないように。夜間に仕掛けてくれ」
「承知しました」
通信が切れた。
***
大和・発令所。
田村は松永を見た。
「松永——日没後に攻撃する。ミニレールガンの準備はどうだ」
松永は自信ありげに答えた。
「完璧です。それにしても、悪銭で作られた弾で沈められるとは——思いもしないでしょう」
田村は小さく笑った。
「ところで——レールガンの精度が格段に上がったそうだな」
松永の目が輝いた。
「ミニレールガンの有効射程は数キロです。弾丸の質量が小さい分——打撃力は通常のレールガンより落ちます。ですが、有効射程が短い分——精度が格段に向上しています」
「いいな。今回の任務にピッタリだ」
「ミニレールガンの砲身に——レーダーとEO・IRセンサー、五十倍光学ズームカメラを一体化して搭載しています。夜間はサーマルカメラに切り替わり——暗闇の中でも目標を正確に捉えられます」
松永は、説明を続けた。
「カメラの映像と距離データをリアルタイムで処理して——ミニレールガンの台座が射角と方位を自動制御します。船が波で揺れても——補正が入るので狙った場所を正確に撃ち抜けます。必要なのは、船体のどこを狙うかを画面で指示するだけです」
「それはすごいな。ミニレールガンはスナイパーみたいなものだな」
「夜、ミニレールガンで喫水線より下に穴を開けておけば——翌朝には船は沈没しています」
「乗組員はどうなる」
「浸水は徐々に進みます。気づいた時点で脱出すれば——陸まで泳ぎ着けます」
「船は沈める——人は死なない。理想的だ」
***
天正十年(1582年)三月下旬。
アカプルコ港沖。
夕暮れが——港を静かに染めていた。
オレンジ色の空が——少しずつ暗くなっていった。
港には——三隻のガレオン船が静かに停泊していた。
帆柱が——夕暮れの空に黒く浮かんでいた。
岸には——石造りの倉庫が並んでいた。
数人の見張りが——たいまつを持って歩いていた。
商人たちが荷を運ぶ声が——遠くから聞こえていた。
やがて——日が沈んだ。
港が——闇に包まれた。
岸のたいまつが——ところどころに揺れていた。
ガレオン船の甲板にも——薄明かりが見えた。
***
大和・発令所。
田村は、じっとモニターを見つめていた。
サーマルカメラの映像が——港の様子を映し出していた。
「岸の見張りが四名。各船は当直が二〜三名起きているくらいだろう」
田村は松永の方を見た。
「松永——準備はいいな。大和を浮上させてハッチを開けるぞ」
「はっ——!」
大和が——静かに海面に浮かび上がった。
甲板のハッチが——静かに開いた。
ミニレールガンの砲身が二基——音もなく上昇した。
発令所の後方で——半兵衛と官兵衛がモニターを見つめていた。
半兵衛が言った。
「これが——有岡城と徳川軍を吹き飛ばした、あのレールガンの小さいやつですね」
官兵衛が続けた。
「一発で敵を吹き飛ばすレールガンもすごかったが——これも、すごいですな」
半兵衛が聞いた。
「松永殿、一発でガレオン船を沈められるのですか」
「喫水線下に穴が開きますので——徐々に沈みます。その間に、乗組員は逃げ出すことができます」
「なるほど——船だけ沈むわけですな」
「そういうことになります」
官兵衛が頷いた。
「戦力に差があるがゆえに——無闇に命を奪えないということでしたな」
松永は苦笑した。
「と言っても——状況によると思いますけどね」
田村が命じた。
「松永、第一船、第二船の喫水線下——操舵室付近を狙ってくれ」
「照準——完了」
「撃て」
パシュッ——。
暗闇の海面を——黒い閃光が走った。
ドン——メキッ——。
船体に——鈍い音が響いた。
しかし港は——静かなままだった。
半兵衛が言った。
「音——気づかれていませんか」
「夜の波音に——かき消されるでしょう」
***
スペイン・ガレオン船。
水が——喫水線下の穴から、静かに流れ込み始めていた。
船内では——その音はまだ誰も気づいていなかった。
五分が過ぎた。
十分が過ぎた。
やがて——船内から叫び声が上がった。
「水が入ってきてるぞ——!」
「船底に——大穴が——!」
「沈むぞ、逃げろ——!」
第一船の乗組員が——次々と海に飛び込んだ。
バシャン——バシャン——。
浜辺からも叫び声が上がった。
「船が——沈んでいくぞ——!」
たいまつを持った者たちが——浜辺を走り回った。
「何が起きた——!」
「砲撃か——!」
「どこだ——どこから撃ってきた——!」
しかし——大和の姿は、暗闇の中に溶けていた。
第一船が——ゆっくりと傾いていった。
帆柱が——水面に近づいていった。
やがて——静かに沈み始めた。
第二船、第三船も——同じように傾き始めた。
乗組員が次々と飛び込んだ。
乗組員が必死にボートを降ろしていた。




