第108話 ミニレールガンを作りました
シャーマン島・伊賀村。
本部テントには、無線機と充電用のソーラーパネルが設置されていた。
いつものメンバーが——テントの中に集まった。
真ん中には——地図が広げられていた。
部屋の隅には——お市と徳姫が、ちゃっかりと座っていた。
無線からは——田村、官兵衛、半兵衛の声も聞こえていた。
北沢は口を開いた。
「我らは——三年間の準備を経て、やっとこのアメリカ大陸に到着した」
しばしの間を置いて、北沢は続けた。
「桐山、先住民であるオローニ族と、信頼ある共存関係を作ることができそうだろうか」
「オローニ族は、素朴で穏やかなひとたちです。それになにより、村上先生が鷲の神の使いになったことが大きいです」
「医療というのは、今後とも信頼関係を深める大事な要素になるだろうな。村上先生、今後ともよろしくお願いします」
村上は照れ笑いをしていた。
「医者としてうれしい限りです」
北沢が続けた。
「この場所が移民の拠点になるのは間違いない——だが、一か所に日本から来た者ばかりが集まりすぎないようにすべきだろう。警戒されないよう、分かれて村を作るべきだ」
鶴田が言った。
「私もそう思います。元の世界の経験からいっても、移民というのは慎重に進めるべきです」
参加者が頷いた。
桐山が言った。
「ところで、藤林殿とともにオローニ族の村に行ってきました。彼らが希望する産品、彼らが提供できる産品がわかりました。交易を通しても、少しずつ——信頼関係を深めていけると思います」
「それはよかった。持ち帰った産品に、堺の商人がどう値付けをするかですね」
「いい値がつくと思います」
「楽しみですね」
***
北沢は地図を指した。
「さて、それでは——スペインの動きになります」
地図を、指示棒で指し示しながら説明が続いた。
「彼らはアカプルコに、マニラ貿易の拠点を設けています。マニラへの経路ですが、アカプルコから南に向かい、ここ赤道を西に進みます。そして、ここの辺りから北に向かえばマニラに到着します。帰りは——我らが通ってきた航路で東に向かい、南下して戻ってきます」
北沢が説明を続けた。
「この経路で貿易を続ければ、いずれ——サンフランシスコ湾が見つかってしまうでしょう。つまり——彼らとの衝突は、避けられないということです」
橘が言った。
「平和な棲み分けは、できないものでしょうか」
北沢は首を振った。
「記録に残っている歴史で明らかです。彼らが求めているのは植民地。自分たちの意のままにでき、莫大な利益をもたらす領地です。それを増やすためには、ためらわず武力を使います」
お市が口を開いた。
「日本の大名と同じですね」
桐山が答えた。
「そうですね。ただ——大名が争う場合、勝者も敗者も日本人です。しかし、敗者の国が違い、宗教が違い、容姿も違えば、敗者に対し——扱いは苛烈になります」
徳姫が続けた。
「つまり——いったん植民地にされれば、情容赦など一切無いということですね」
テントの中が——静まり返った。
北沢は大きく頷いた。
「スペインが本気でここを狙ってくれば——話し合いだけでは済まないでしょう。戦って、お互いが相手の力を認めた時、初めて和平についての話し合いが始まる。それが、彼らのやり方です」
武吉が言った。
「つまり——いずれスペインとの戦は避けられぬと」
「そういうことになります」
「スペインの水軍は——強いのですか」
桐山が答えた。
「今までは——世界一です」
武吉の目が輝いた。
「今までというと?」
北沢は、不敵に笑った。
「海神丸の方が強いです。そういう風に作りましたから」
「大和と武蔵を除けば、海神丸が世界最強ですか?」
「そうです。自信を持ってください。ただし、武器の優位は操船技術で、簡単にひっくり返されます。鍛錬は怠らないようにする必要がありますよ」
武吉が、うれしそうに胸を張った。
「村上水軍の名にかけて、しっかり鍛錬させます」
「懸念しているのは——この世界では、大和と武蔵が強すぎることです。大人と赤ん坊以上の差があります」
「それの——なにが問題なのですか」
「武吉殿は、赤ん坊と本気で戦えますか」
「それはそうですね。ではどうされるのですか」
「だからこそ——この先どうするかを、話し合っておきたいのです」
「なるほど」
無線から——半兵衛の声が届いた。
「海神丸がスペイン艦隊と戦うのはいいが、大和や武蔵が、非力なスペイン艦隊と戦うのは——抗う術もない者を、一方的に討つようなものだと聞こえたのですが、いかがでござるか」
北沢が答えた。
「そのとおりです」
無線から——官兵衛の声が届いた。
「力の差があればこそ、多くの人を殺さずに済む——そう考えては、いかがでござりましょうか」
「なるほど」
「有岡城を大和で攻めたからこそ、死者は少なく済んだはずです。もし織田軍が力攻めをしていれば——あの数十倍以上の命が失われていたことでしょう」
「確かに——そうかもしれませんね」
再び、半兵衛の声が続いた。
「大和や武蔵で攻めるからこそ、大勢を死なせることなく、艦だけ沈めることができるのではないでしょうか」
その時——松永が静かに手を挙げた。
「あの——少しよろしいですか」
全員が松永を見た。
「由良湊での三年間のうちに——ミニレールガンを作りました」
「ミニレールガン——」
「今までのレールガンでは、ガレオン船そのものを粉々にしてしまいますが——ミニレールガンでは、ガレオン船の船腹に五十センチ程度の穴を開けるだけで済みます。つまり、ひとを多く死なせずに艦を沈めることができます」
北沢は満足そうに頷いた。
「ミニレールガンで、ガレオン船に小さな穴を開け、静かに沈めていく——アメリカ大陸の西海岸はもとより、少し遠くはなりますが、メキシコ湾、さらにはスペイン本国の主要港まで。そこに停泊するガレオン船を、片っ端から沈めてしまう。この案でどうだろう」
桐山が頷いた。
「賛成いたします」
「それがいいです」
「私も、賛成です」
テントの中の一人ひとりが、次々と頷いていった。
***
無線から——半兵衛の声が届いた。
「メキシコやペルー、マニラなど——すでにスペインに支配されている国々は、どういたしますか。あの者たちを——救ってやることは、できないのでしょうか」
桐山が答えた。
「そのお気持ちは、私も同じです。ですが——陸での戦いとなれば、我らの兵の数では、とても足りません」
早川が静かに手を挙げた。
「攻撃型ドローンで敵兵に大打撃を与えた後なら——それほど兵力はいらない気がします」
北沢は頷いた。
「まず空から叩いて——それから地上軍の投入ですね」
桐山が頷いた。
「まさに——近代戦のセオリーですね」
無線から——官兵衛の声が届いた。
「始めるなら——日本に近いマニラからでしょうか」
北沢が答えた。
「そうなるかもしれませんが、まずは主要な港のガレオン船を沈めていきましょう」
桐山が続けた。
「私もそう思います。あれもこれもと、一度に手を広げては——足元をすくわれかねません。まずは——この拠点をしっかり固めることが先決です。焦らず、着実に」
テントの外では——サクラメント川が静かに流れていた。
遠くに——シエラネバダの雪山が、白く輝いていた。




