第104話 あそこがシャーマン島——目的地です
サンフランシスコ湾入口付近。
武蔵・発令所。
桐山から連絡が入った。
「桐山です。藤林殿と、海神丸に乗り込みました。これからエンジェル島周辺に進みます」
「海神丸は、エンジェル島周辺で停泊し、今日はゆっくりしてもらってほしい。明朝、さらに上流側に移動させてくれ」
「はっ」
通信が切れた。
「早川くん、レーダードローンを飛ばしてくれ——サンフランシスコ湾の地形と先住民の状況を確認したい」
「承知しました」
レーダードローンが——ゴールデンゲート海峡の上空にすばやく上がった。
モニターに——サンフランシスコ湾が見渡せる映像が映し出された。
北沢がモニターを注視した。
「我らの地図と違いはないか」
早川が答えた。
「橋や建物はありませんが、概ね同じ地形のようです。湾内の北東に——大きな川が見えます。サクラメント川と思われます。川沿いに——低地が広がっています」
「先住民をカメラにとらえられないか」
「湾の北東岸に——小さな村が見えます。人数は少なそうです」
「エンジェル島とは——かなり離れているから、問題はなさそうだな」
北沢は続けた。
「大和に連絡してくれ」
「こちら大和。これからどうしますか」
「海神丸は、エンジェル島周辺で停泊する予定だ。武蔵と大和はゴールデンゲート海峡の手前のこの場所に停泊する。明日の朝まで、周囲を警戒しつつ、乗組員を交代で休ませるようにしてくれ」
***
海神丸・甲板。
桐山が、村上武吉の方を向いて口を開いた。
「村上殿、今夜はエンジェル島周辺まで移動して停泊してくれ」
「はっ」
武吉は配下に命じた。
「この海峡を抜けて湾の中に入る。他の船にも手旗で伝えろ」
海神丸が——ゆっくりとゴールデンゲート海峡に入った。
霧の中に——巨大な岩壁がそびえていた。
武吉が桐山に尋ねた。
「これはなんという——海峡ですか」
「先の世では、ここはゴールデンゲート。金門——黄金の門と呼ばれていた」
武吉はしばらく岩壁を見上げていた。
「黄金の門ですか——」
海神丸は——霧の中をエンジェル島に向けて進んでいった。
***
夕暮れが——ゆっくりと海峡を染めた。
霧が——静かに湾の入口を覆い始めていた。
海神丸の甲板から——藤林が夕暮れの海峡を見つめていた。
(なんと雄大な景色だ)
才蔵が藤林にそっと近づいた。
「藤林殿——明日、先発隊として上陸する海神衆ですが、準備は整っていますか」
海神衆は、上陸用の短艇にすぐ乗り込めるよう、各艦に分かれて配されていた。
「もちろんです。皆、早く陸に上がりたくて、うずうずしておりますよ」
「銃は」
「全員に持たせております」
「先住民と鉢合わせしても——いきなり撃たせないでください。最初から敵だと思われては、後々苦労します。襲われても、まずは逃げる。よろしく頼みます」
「はっ」
夜の海峡が——静かに暮れていった。
***
武蔵・発令所。
夜が、徐々に明けてきた。
桐山の声が無線に届いた。
「司令、これより海神丸、出発します」
「了解。慎重に進んでくれ。何かあればすぐ連絡してくれ」
「はっ」
桐山から北沢に報告が入った。
「サン・パブロ湾に入りました。陸地には人の姿は見えません」
「そのまま北東へ進んでくれ」
***
海神丸・甲板。
海神丸は——サン・パブロ湾内をゆっくりと進んだ。
やがて——サクラメント川が見えてきた。
桐山が北沢に連絡した。
「司令、スイスン湾に入りました。ここから上流は、水深が浅そうなので、短艇を使って上流に向かいます」
海神丸から、四隻の短艇が降ろされ、村上水軍と海神衆が乗り込んだ。そこからさらにサクラメント川を上流に向かった。
しばらくして——川の中に島が見えてきた。
低地に——草原が広がっていた。
川の水が——透き通っていた。
先頭を進む短艇に乗っている桐山は、となりに座る藤林を見た。
「あそこがシャーマン島——目的地です」
藤林は島を見つめていた。
(広い——草原が永遠と続く)
(伊賀の山とは——まったく違う)
「藤林殿——上陸しますよ」
「才蔵——海神衆を上陸させろ」
「はっ——!」
短艇は——ゆっくりと岸に向かった。
藤林たちが上陸した。
草を踏む音が——静かに響いた。
才蔵たちが素早く周囲を確認した。
「異状なし——」
藤林は頷いた。
「他の短艇も、順に上陸してくるはずだ。全員揃い次第——二手か三手に分かれて、もう少し奥まで様子を見てきてくれ」
「はっ」
海神衆たちが、次々と森の奥へと散っていった。
藤林は、その場に残り、じっと辺りを見渡した。
見たこともない木々。見たこともない鳥の声。
潮の香りに混じって——かすかに、土と草の匂いがした。
(この土地の匂いを、覚えておかねばならぬ)
遠くで、小鳥がひと鳴きした。
それだけで、思わず身構えてしまう自分に、藤林は苦笑した。
陽が、少しずつ高くなってきた。
しばらくして——海神衆たちが戻ってきた。
「先住民の姿は見えません。獣の足跡はありましたが——熊ではないようです」
桐山は武吉に無線を入れた。
「先発隊による調査では問題なし。伊賀の者たちを上陸させてください」
「了解です」
海神丸から——伊賀の者たちが次々と短艇で運ばれた。
一人、二人——やがて大勢が島に降り立った。
最初に上陸した者が——草原を踏みしめた。
「広い——」
「水が——きれいだ」
「土が——肥えておる」
男たちが——思わず膝をついた。
土を手に取った者が言った。
「ここで暮らすんだ」
「米を作るぞ」




