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原潜大和・武蔵、転移す ―信長と、未来を変える―  作者: ゲンタ
第4章 アメリカ編

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第101話 どこまでも——海だけが広がっていた

武蔵・大会議室。


北沢は桐山を見た。

「桐山——サンフランシスコ湾周辺の先住民は、どんな人たちだ」


「オローニ族という部族です。人口は約一万人。比較的穏やかな部族で——争いを好みません」


「どんな暮らしをしている」


「ドングリを粉にして食べ、魚や貝を獲って暮らしています。葦や草で作った丸い小屋に住んでいます。道具は石器と骨——鉄は持っていません」


半兵衛が驚いたように聞いた。

「ちょっと待ってください。団栗《どんぐり》など、食べられるものなのですか」


桐山は頷いた。

「そのままでは渋くて食べられません。ですが——何度も水にさらして、あくを抜けば、栗のような甘みが出てきます。先住民たちは、その粉を主食にしているのです」


早川が、懐かしそうに口を挟んだ。

「先の世でも——ドングリクッキーなら、食べたことがありますよ。美味しかったです」


半兵衛が目を丸くした。

「先の世でも、召し上がるのですか」


「はい。珍しいお菓子ですが——木の実らしい、素朴な甘さがあって、私は好きでした」


官兵衛が感心したように言った。

「なるほど、知恵を使って美味しく食べるのですな」


「彼らは何百年も、その土地に合った暮らし方を積み重ねてきたのです。我らはその知恵を学ばねばなりません」


北沢が聞いた。

「オローニ族の性格はどうだ」


「自然を大切にする穏やかな人たちです。ただし——縄張り意識はあります。いきなり大勢が上陸すれば——警戒されるでしょう」


北沢は頷いた。

「歓迎してもらうには——お土産が必要だな」


「いくつか用意しました」


桐山は続けた。

「まず——農具です。鍬、ナイフ、針——石器しか知らない彼らには、鉄は魔法のように見えるはず。一番喜ばれると思います」


「布はどうだろう」


「彼らは動物の皮しか衣類がありません。絹や綿の布は——触ったことすらないはずです。軽くて柔らかいことに——驚くと思います。それも用意しました」


「他には」


「鏡です。水面でしか顔を見たことがない彼らには——自分の顔がはっきり見える鏡は、驚きの品になります」


「なるほど」


「それと——塩です。内陸にいけば、非常に価値が高いでしょう。海岸に住む彼らでも——上質な塩は喜ばれます」


北沢は穏やかに笑った。

「農具、布、鏡、塩か——これだけあれば、まず仲良くなれそうだな」


官兵衛が、静かに頷いた。

「なるほど——これも、一つの調略というものですな」


桐山が笑った。

「そんな大げさなものではないです」


北沢は満足そうに頷いた。

「とにかく、最初の一歩が——すべてを決める。丁寧に、丁寧に——慎重に進めていきましょう」


藤林は姿勢を正した。

(これほどまでに、慎重を期しておられる。ならば——我らも、決して粗相があってはならぬ)


「承知いたしました。伊賀の者たちにも——くれぐれも心得るよう、しかと申し伝えておきます」


***


天正十年(1582年)二月初旬。由良湊。


夜明けの空が——静かに白み始めていた。


北沢は武蔵から無線機で、大和の田村に命じた。

「では——出発しよう。武蔵と大和は浮上したまま進む。田村——海神《わだつみ》丸を無事に、サンフランシスコまで連れて行ってくれよ」


田村は力強く頷いた。

「お任せください」


「抜錨——!」


鬨の声が——由良湊に響いた。

北沢は、セイル上部のフライングブリッジに立っていた。

横には桐山、お市、徳姫がいた。


高台に——信長と堀の姿が見えた。

お市がそっと手を振った。

徳姫も続いた。

高台の信長が——大きく手を上げた。


北沢はゆっくりと前を向いた。

海神《わだつみ》丸・十隻の帆が——冬の風をはらんで、静かに動き始めた。


***


出発から五日目。

北海道・東方沖。海神《わだつみ》丸・甲板。


村上武吉はゆったりと甲板に立っていた。

海神《わだつみ》丸の左手には——北海道の山並みが遠く霞んで見えた。

(ここまでは順調だな)


船が——大きく揺れた。

「この辺りは潮流が複雑だ。気をつけろ——!」


このあたりまでは、航海訓練で何度か来ているが——北の果ての景色は瀬戸内とは全く違う。厳しさのなかに美しさがある。

こんな景色を見られるのは、海の男の役得というものだ。


***


出発から十日目。

武蔵・フライングブリッジ。


択捉島沖。


海岸の断崖に——ヒグマの姿が見えた。

海神《わだつみ》丸の甲板から、景色を楽しんでいる伊賀の者たちが騒いでいた。

「あれは——なんじゃ」


「熊じゃ——!」


半兵衛が官兵衛とともに、武蔵のフライングブリッジに出てきた。

半兵衛は、望遠鏡で海岸を覗いていた。

「体が大きいですな——日本の熊より二倍はありそうですね」


官兵衛が言った。

「グリズリーはもっと大きいと聞きましたが——あれより、でかいのでしょうね」


二人は顔を見合わせた。


その頃——海面に白いものが浮かんでいた。


海神《わだつみ》丸の甲板から声がしてきた。

「海が——白くなっておるぞ」


「氷じゃないか。海は凍るのか!」


村上の船乗りたちも——目を丸くしていた。

「瀬戸内海では——こんな景色は見られないな」


「あたりまえじゃ。ここは北の果てだぞ」


「ほんと、来てよかったな」


男たちが笑い声を上げていた。


***


出発から十五日目。

武蔵・フライングブリッジ。


アリューシャン列島。

火山島が——次々と現れた。


噴煙を上げる島。

断崖絶壁の島。

エメラルドグリーンの海。


海神《わだつみ》丸の甲板にも、伊賀の者たちが集まっていた。

「なんという、素晴らしい景色じゃ——」


その時——海面が大きく盛り上がった。

ザトウクジラが——海面から姿を現した。


「でかい——!」


「鯨じゃ——鯨じゃ——!」


続けて——もう一頭。また一頭。

無数のクジラが——船団の周囲で潮を吹いた。


お市と徳姫は、乗組員に嫁いだ女性たちとともに、武蔵のフライングブリッジに三人ずつ交代で上がり、景色を楽しんでいた。


「お市様、来て良かったですね」


「そのとおりね。尾張に閉じこもっていたら、こんな素晴らしい景色に出会うことはなかったわ」


横に立つ女性たちも、景色を楽しんでいるようだった。


しばらくして——無数の海鳥の群れが、空を覆った。

黒い帯のように——どこまでも続いていた。

村上水軍の男たちでさえ——しばらく言葉を失っていた。


***


出発から二十日目。

海神《わだつみ》丸・甲板。


アリューシャン列島を抜けた頃——左右の島影が消えた。

どこまでも——海だけが広がっていた。


村上武吉が甲板で腕を組んでいた。

「よし——陸が見えなくなった! ここからが——我らの航海術の見せ場だ」


男たちが——一斉に動き出した。

六分儀を取り出す者。星図を広げる者。帆の角度を調整する者。


武吉はゆっくりと空を見上げた。

「昼は太陽、夜は星——それで我らのおおよその位置はわかる。なにもわからず、大和と武蔵についていくだけでは——赤ん坊と一緒だからな」


その言葉を聞いた村上水軍の男たちの表情が締まった。

「艦長、任せておいてください」


「村上水軍が、大海原で迷子になったとあっては——末代までの恥じゃ」


「おおーっ——!」

男たちの鬨の声が——大海原に響いた。


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