↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カァーム・ビュラクラト ―社畜女官ローゼルの婚約破棄奮闘録― 私は何も望まない  作者: 兎丸 蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/135

第89話 ほろ酔いの口づけと、順序を誤った朝

 その時、王都自衛警察団が現れた。


 駆けつけた王都自衛警察団たちはルシアンの顔を見るなり、全員背筋を伸ばした。


「クレインバール軍師閣下殿!」


 強張った表情で一斉に片膝をつき、右手を真っ直ぐ斜め上に上げる敬礼ポーズをする。

 騎士たちが上官へ恭順を示す正式なポーズだ。


「良い。なおれ」


 ルシアンは手を振って、彼らに立つよう顎をしゃくった。

 王都自衛警察団たちは緊張した面持ちで、すくっと立ち上がった。


「コイツらは、例の問題を起こしていた魔法騎士団だ」


 ルシアンの声が響く。


「もうすぐ俺が呼んだ第3か第4の騎士団長が現れる。

 それまで奴らが逃げないよう見張っておいてくれ」


「承知いたしました」


 ガタイのいい藁色の短髪の隊員が短く返事をした。

 どうやら彼がこの地区のリーダーのようだ。


「あと、これ」


 隊員にルシアンは手にした飴玉を渡す。


「これは?」


 隊員は怪訝そうな顔をした。


「最近王都でも上流階級で流行っているっていう変な薬、違法薬物だ」


「まさか」


 王都自衛警察団全員が目を見開いた。


「ひょっとして、通称ホップラブソングですか?」


 別の隊員が質問をした。

 一瞬、他の団員たちに動揺が走った。


「そう、それ。

 あれの特徴的な甘ったるい独特な匂いがした。

 男たちのポケットから出てきた。

 申し訳ないが、捕まえる時、そこら辺に散らばってしまった。

 全部回収しておいてくれないか。

 誤って孤児の子どもが口に入れてしまったら大変だ」


「承知いたしました」


 隊員たちは一斉に恭しく返事をした。

 

「このクスリのことも、ここに来た騎士団長に伝えてくれ」


「承知しました」


 まったく、騎士の間でもこんな薬物を使う奴が出てきたとは。


 ルシアンは内心舌打ちをした。


 ホップラブソングは数年前、国が使用禁止令を出した薬物だ。

 それなのに、それが最近また流行り始めている。


 しかも、今回は富裕層がターゲットのようだ。


「王都で、薬物の売人情報は上がってきているか?」


 ルシアンはリーダー格の隊員に尋ねた。


「はい。南区域のナイトマーケットで捕縛したコソ泥が薬を売る組織と繋がっていたらしいことが判明いたしました」


 隊員は声を潜めた。


「ナイトマーケット……。

 ひょっとして、蜘蛛みたいに壁を伝う男か?」


「蜘蛛みたいに……。

 そこまではちょっと……」


 隊員は苦笑を浮かべた。


 ローゼルと先日ナイトマーケットデートをした時、ひったくりの現場に遭遇し、その場にいた王宮魔術師クロフォード・ノーエランドと一緒にルシアンはコソ泥を捕縛した。

 随分と奇妙な男だったので、徹底的に洗うよう指示をしていた。


 隊員は神妙な顔つきで報告を続ける。


「ですが、コソ泥の被害に遭った者が薬剤師で、幻覚作用などのある薬を何度も盗まれたことがあるとのこと。

 南区域担当の自衛警察団が現在巡回回数を増やして対策しております」


「そうか。幻覚作用のある薬か。

 少々きな臭いな。

 その薬剤師が盗まれたという薬の一覧リストを俺宛てに送っておくよう担当者に伝えてくれ」


「かしこまりました」


 深々と隊員は頭を下げた。


「それじゃあ、後は頼む」


「はっ!」


 ルシアンはひらひらと手を振って、自衛警察隊から離れる。


 それからローゼルの姿を探した。

 さっきまで被害者女性と一緒にいたはず……。


「すげぇよ、お嬢ちゃん」

「小柄なのに、あのパンチは凄かったねぇ」


 ローゼルはいつの間にか野次馬たちに取り囲まれていた。

 称賛の嵐が降り注ぎ、照れくさそうにもじもじしている。


「ローゼ」


 群衆たちの注目がひと段落ついたところで、ルシアンが名前を呼んだ。

 ローゼルは振り向くと、ぱっと華やぐような笑顔を浮かべてルシアンの元に駆け寄ってきた。


 と思ったら、突然ルシアンに抱きついた。


「え?」


 ルシアンは目をぱちくりさせた。


「ねえ、ルシ、私、すごかった?」


 褒めてと言わんばかりに、無邪気にルシアンを見上げた。

 目をキラキラさせて、まるで小型犬だ。激しく振る尻尾が見えるようだ。


 クスっとルシアンは小さく笑った。


「ああ、そうだな。ちょっとばかり驚いたけどな」


「秘技ローゼルワンパンチです」


 ローゼルは得意そうに拳を見せる。


「本当はお兄様から危なすぎるからって禁止されてたの」


「まあ、そうだろうね」


 拳で殴るというのは、それだけ危険対象物の至近距離に近づくということだ。

 今回は騎士たちがローゼルの小柄な体格に油断し、不意打ちをくらった形で何事もなく済んだ。

 運が良かったと言える。


 噂どおり妹を溺愛するアルバートなら、妹が危険物に近づくのを禁ずるのは当然だ。


(俺もあらかじめ知っていたら同じように禁止していたよ)


 ルシアンは、ローゼルの両頬に手を当てて、ぐっと顔を近づける。


「できれば、俺もあれは封印しておいて欲しいな。

 ローゼに何かあったら俺が哀しいからさ」


「ふふ。お兄様と同じことを言っている。

 はい、分かりました。使いません」


「うん。そうしてくれ」


「でもね、なんか腹立ったの、あの人たちに。

 私もああいうふうに囲まれたことあって怖かったから」


 ローゼルの顔が曇った。


「うん、そうだな。

 あれは怖い」


 ルシアンはローゼルを抱きしめ返す。


「許せない行為だ」


「でしょ? 

 だからね、ルシ。

 今日拳使ったの、お兄様に内緒にしておいてくださいね。

 お兄様、怒るとめちゃくちゃ怖いんです」


「まあ、うまく誤魔化しておくよ」


 ルシアンは苦笑いを浮かべた。 


 とはいえ、ここまで大立ち回りしたのだし、なによりも大勢の人間たちにローゼルの姿を目撃されてしまっている。

 一体どこまで隠し通せるか自信はない。


 最終的に騎士からの事情聴取が待ち受けているだろうがね。


「でも、よくやったよ、ローゼ」


「えへへ、褒められちゃった」


 ローゼルは嬉しそうにますますルシアンの胸に頬ずりをしながら、さらに抱きついた。

 柔らかなローゼルの髪の匂いが混ざる。


(くそぉ、可愛すぎだろ)


 ルシアンの理性は崩壊寸前だった。


「ねえ、ルシ。

 ウィスキーのご褒美ください」


 ひと暴れして酔いが回ったのか、ローゼルのしゃべり方はやけにヘニャヘニャだった。


「ふっ、さっきの話、ちゃんと覚えていたのか」


 ルシアンは吹き出した。


「もちろん! 

 お酒のことは記憶力抜群なの!」


 ローゼルは胸を張った。


「あはは、分かった分かった」


 適当に相槌を打つルシアンに、ローゼルは不服に思ったのか頬を膨らませた。


「ねえ、ルシ。

 私、頑張ったよ」


「そうだな、分かってるよ」


 ルシアンはついつい目尻が下がる。


「本当に?」


「ああ、本当だ。

 さぁ、帰ろう、ローゼ」


 ルシアンはローゼルを抱き上げた。

 小柄なだけあってローゼルは、その辺の女性よりも軽い。

 けれど、その重みが温かくて、とても愛おしい。


 ルシアンはそのまま馬車に向かった。



*



 馬車に乗ったローゼルは、当然のように隣に座るルシアンの肩にもたれかかった。


 お酒の酔いと馬車の揺れ。


 お酒は美味しかった。

 ご飯だってお肉いっぱい食べてお腹いっぱい。

 悪い男たちも倒した。


 これ以上ないくらいの満足感に浸る。


 それから、入省してから密かに「いいなあ」って思っていたルシアン・クレインバールが直ぐ側に座っている。なんて最高な日なんだ。


 さらに酔いが進行し、まるでゆりかごの中にいるような心地良さだ。


「まさかローゼと一緒に悪者退治するとは思わなかったな」


 ルシアンはローゼルの頭を撫でる。


「でも、あんなことはもうするなよ。

 ローゼに何かあったら、俺は気が気でない」


 そう言いながらルシアンがローゼルの頬にキスをした。

 彼が触れたところがじんわりと熱くなって、ローゼルは息が思わず詰まった。


「俺が守るから、無理しないで」


「ううん、大丈夫。

 私も強くなる」


 ローゼルの力強い響きに、ルシアンは意外そうな面持ちになり、顔を覗き込んだ。


「強く? 

 ローゼは強くなりたいのか?」


 不思議そうだった。


 どうして? 強くなって一緒にいたい。


 ローゼルは決意を込めて、言葉を紡ぐ。


「はい。私は強くなりたい。

 ルシの隣にいても恥ずかしくないくらいに——」


 ローゼルはそっとルシアンの頬を触った。

 自分の手はお酒で酔って熱いのに、ルシアンの肌はひんやりとしていた。


 そんなルシアンの表情が一瞬固まって、けれど、すぐに柔らかく微笑む。


 ルシアンの大きな手が、自分の頬にあるローゼルの手の上に被さった。

 火照った身体に気持ちの良い温度だ。


「俺が守るって言ってるのに?」


「それでも強くなるの。

 だって、いつかルシの奥さんになったら、次期辺境伯になる世継ぎを生みたい。

 その時、強い母でないと子は守れないもの」


 ローゼルの母マリアーナも亡くなってしまったけど、すごい魔法の使い手で、とても凛々しくて美しい人だった。


 ルシアンの目が大きく瞠《みは》った。

 それからローゼルの髪を梳くように何度も撫でた。


「そうか。

 それは嬉しいな」


 蕩けるようなルシアンの笑顔。

 どきっとした。

 胸の鼓動が変になるくらい大きな音を立て始めた。


「好き」


 ローゼルは勢いよく想いを告げた。


「私、ルシのこと、すごく好き」


 初めてその姿を目の当たりにしたときから、強くローゼルの胸の中に焼き付いている。


 さえざえとした静かな光。

 それでいて呑まれそうな強くしっかりした輪郭。

 世の中にこんな男性がいるなんて。


 圧倒的な存在感。


「私、最近ルシの夢ばかり見るの」


「へえ? 俺の?」


「そう。ルシにぎゅっとされて眠りにつく夢。

 幸せな一方、これ以上ルシに夢中になるのが怖い……」


 ローゼルは眉をひそめた。


 夢は夢。

 いつか醒めてしまうんじゃないか。


 現実に戻される恐怖。


「ローゼ」


 低い声で呼ばれ、顔を上げた。

 そこには真顔でルシアンがローゼルを見つめていた。


 酔いで赤く染まったローゼルの両頬は、ルシアンの掌に包まれ、やんわりと上を向かされた。


「夢じゃない。

 俺が幸せにするから。

 何も心配するな」


 ルシアンはさらりと言った。


 この人の強さを実感するのはこんな時だ。


 私だったらこんなふうに、たった一言だけで人を安心させることはできない。

 けど、痛みすら感じる話もさらりと受け答えして、耳にした者を安心させる。 


 曇りのない瑠璃色に囚われ、視界がぼやけた。

 焦点が合わなくなったのは彼の顔がすぐそばにあるから。


 唇に、ふにっと柔らかなものが遠慮がちに触れる。

 キスされているのだと遅れて気が付く。


 ローゼルは胸が高鳴って、静かに受け入れた。


 お酒による浮遊感といままで感じたことのない悦楽。

 想像以上に気持ちよくて、続けたくて、このまま愉悦に溺れたくなって、ローゼルは腕を伸ばした。



***



 ローゼルは目をこすり、寝返りを打つ。


 窓からは外の明かりが差し込んでいて、ゆっくり重たい瞼を開けた。

 外から人の気配がない長閑な風音がする。


「はあ……」


 なんだろう、今朝は下半身に違和感がある。すごく重たい、倦怠感があるし——。

 ふと、柑橘系の匂いが鼻孔を刺激した。 


(この香りって——)


 そして、ローゼルは飛び上がるように驚いた。


 端麗なルシアンの安らかな寝顔がすぐそこにある。


 寝息をたて、穏やかな表情だ。 

 あどけなくて可愛い。


 いやいや、違うでしょ。

 

 すぐにその考えを打ち消す。


(ど、ど、ど、どういうこと!?)


 ローゼルはパニックに陥りそうだった。

 ワナワナと身体が震える。


 同じベッドで、しかも歴戦の軍人らしく、筋骨隆々の彫刻のように引き締まった見事な裸体姿で眠っている。


 どうしてこんな展開になった? 

 なんで私は知らないお屋敷にいる?

 立派すぎる調度品からして、ここってクレインバール邸だよね?


 見れば自分も生まれたままの姿で、しかも、自分の身体の至る所に数々の赤く腫れた虫に刺されたような痕が広がっている。


 けど、これは単純な虫刺されじゃない。


(え、え……これって……)


 まさか、まさか。そんな、私……。


(ひゃぁぁぁぁぁ!)


 落ち着いて、落ち着いて。


(落ち着くのよ、ローゼル!)


 混乱する中、ローゼルはなんとか自分を宥め、冷静になるために、大きく息を吸った。

 長く息を吐いて、もう一度、今度は深呼吸をする。


 よし、少し落ち着いた。

 

 ローゼルは冴え渡り始めた頭で昨晩の記憶を、それもしっかり鮮明に覚えているところから時系列で辿ることにした。


 まず、偶然行きつけの酒場で彼と会って、一緒に呑んで、ワイン瓶六本を空にしたところまではしっかり記憶がある。


 それから彼から「うちにくる?」という甘いお誘いに感極まって――


(ルシ様の笑顔がますます蕩けるように甘くなって……)


 そうだ、思い出した。


 素行の悪い軍服を着た男たち。


 か弱い女の子を苛めていたのが、妙に腹が立った。

 つい我慢できなくてあの男たちに、兄から禁止されている武装魔法パンチをお見舞いしてしまった。


(ああいう男の暴力って、本当許せないんだよね)


 本来、ああいうのは、もっと穏便にスマートに対処するのが一番だ。

 なにせ逆恨みされたらたまったもんじゃない。

 陰から魔法で目立たないようにこっそりするとか。


 けど、昨夜はなんだかすごく我慢できなかった。

 とにかく見せしめにしたかった。


 女は男の玩具じゃないんだぞって。


 お酒の力ってこういうときすごい。


 たぶん、酒の勢いに任せてしまったのは、ウルーム伯爵に婚約続行を頼まれたからかもしれない。


 ウルーム伯爵だけはレオーネの杜撰さに腹を立て、いつもローゼルの味方になってレオーネの不誠実を叱ってくれていた。


 だからそんな人が軍部に睨まれるくらい危険思想の持ち主だとしても、自分に向けた優しさは本物で、ローゼルを無下にしない人だと信じていた。


 信じていたからこそ、余計、裏切られた気分は大きい。


(所詮、私はあの人からも駒としてしか見られてなかったのよね——)

 

 だからこそ、ルシアンが馬車の中で私に口づけをした時。


(私、自分からキスを求めた……)


 あの時、ローゼルは自らルシアンの首に腕を回した。


 ルシアンもそれに応えるように、何度も濃厚なキスを繰り返した。


 気持ちのいい幾重ものキスに、お酒でふわふわとする感覚。

 この組み合わせは最強だ。


 身体を密着させ、いつの間にか揺れる馬車の間、ローゼルはずっとルシアンの膝の上に載っていた。

 ローゼルがルシアンの服をつかんだまま、熱で潤んだ瞳で見上げると、瑠璃色の彼の瞳と視線が絡み合う。


 ——悪い。

 家に着くまで俺はもう待てない。

 今すぐいただくぞ。


 火照ったローゼルの頬をルシアンは優しく撫でた。


 耳が弱いローゼルの、その耳をルシアンにパクっと甘噛みされ、その後はなし崩し的に一線を越え、生々しい熱に溺れた。


 お互いがお互いを求め合い、ローゼルは身体の奥から蕩けていくような感覚がした。  

 

 この前ナイトマーケットで選んだ七色に光るスタンドランプ。

 その淡い光の中、甘い花の香が漂う部屋で、寝心地の良いベッドの上で、ルシアンは抱き寄せたローゼルの肌の上を滑らすように服を脱がす。


 ——綺麗だよ、ローゼ。


 劣情を孕んだ彼の瞳がローゼルを見つめながら、熱にうなされたように呟く。

 

 触れ合う肌と、そのぬくもり。

 彼の香水——柑橘系の匂い。

 

 首を舐め、鎖骨へと吸い付きながら、ルシアンの大きな手がローゼルがまだ知らない官能的な快楽へと導いた。

 甘ったるい酩酊するような気持ちが湧いて出て、次第に背徳感が込み上げる。


 軋むベッドの音。


 身じろぎをしても、もう逃げられない。

 

 意識の芯までがとろとろの熱にひた浸り、世界のすべてが遠ざかっていく。


 強烈な快楽と、幸福感。

 

 やがて心地よい疲労感が全身に広がっていく——。


「……」


 ローゼルは恥ずかしさと困惑する気持ちを抑え、もう一度自分の身体を見た。


 この赤い痕は間違いなく、肌に口づけし、吸い付いた痕だ。


 つまり、情交の印。


 そう、巷で流行っているロマンス小説にあるまぎれもないキスマークというもの。


 掛け布団をめくってベッドシーツを恐る恐る確認した。


「あ……」


 そこには血の跡があった。

 まさに血の気が引いた。


 ルシアンと男女の営みを最後までした証だ。


(なんてことをしてしまったのぉぉぉぉ!)


 頭の中が真っ白になった。

 ルシアンが寝返りを打って、ローゼルはびくっと肩を震わせた。


「あっ、そういうことか。間違いなく私、食べられたんだ……」


 ローゼルはハッとして閃く。


 酒場でルシアンが言っていた「美味いもん」、それは私のことだ。

 それなのに、私は、「はい、どうぞ」なんてお酒の勢いも相まって無邪気に大胆にも言っちゃってる。

 つまり、自分から積極的に「私をお好きにしちゃって♡」なんてほざいている。


 恐る恐る寝入るルシアンの端正で彫刻のような横顔を見た。

 ローゼルは青ざめた。


 処女でなくなったことよりも、順序を誤ってしまったことの方が問題だと気付いた。


 あぁぁぁ、私の馬鹿、昨日の私を殴りたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。