第82話 王城の膿と、動き出す邪教
昼下がり、ルシアン・クレインバールが執務席で書類仕事していると、コツコツと窓を叩く音がした。
振り返るとそこには、黒いローブを羽織った女性が窓の前にいた。
彼女はぺこぺこと頭をしきりに下げる。
その肩の上には黒リスがいて、尻尾をブンブン振っていた。
(えっと……。ここは二階だよな)
ルシアンはこめかみを押さえながら、立ち上がって窓を開けた。
「まったく、お前らは。
兄妹弟子揃って、窓から登場してくるなよ」
飛行魔法でやって来た来訪者は、魔法省特別補佐官のエレナ・ヴァービナス女官だ。
それと、皇族の使い魔の小次郎。
なぜ皇族の使い魔が彼女と一緒にいるのかというと、彼女は皇族の極秘組織<影>の諜報部員のメンバーでもあるからだ。
「急にすみません……」
相変わらず腰が低いエレナは、そそくさと窓から部屋に入った。
「これ、例の露店のお婆さんから預かってきました」
抱えていた紙袋の荷物をそっとルシアンに差し出す。
「おう、ありがとう」
ルシアンは受け取り、中身を確認する。
ナイトマーケットに購入したステンドランプと蜜蝋だ。
間違いない。
サイドテーブルに紙袋を置いたルシアンは尋ねる。
「クロフォードはどうした?
俺はクロフォードに頼んだつもりだったが」
「クロフォードはそのままお婆さんの尾行に」
エレナはそこで言葉を切った。
「ああ、そうか。
あの婆さんの身辺調査か」
その時、ルシアンはエレナの顔色がやけに優れないことに気づく。
ふだんからエレナはルシアンの前では大人しく口数も少ないが、何やらひどく動揺しているようにも見えた。
「どうした? 何かあったのか?」
「えっと……、はい。
お伝えしないといけないことがあるんです」
躊躇いがちにエレナは言葉を紡いだ。
「ほう」
珍しい。
何か知らせがある時は、クロフォードからか、もしくは彼女の師匠であるマインラート・ソシュールからの上層部連絡の場合が多い。
エレナが直接伝えたいこと――。
嫌な予感がした。
ざわざわと不穏なものが体中を駆け巡る。
そのエレナも、それがとても言い出しにくいのか袖口を握り締め、言葉を探すように口を開きかけては閉じる。
視線は泳ぎ、落ち着かない様子だ。
それをじれったいと思ったのは小次郎のようで、小さな体でルシアンの前まで飛び出した。
「キキィキィ、チッチッ!」
二本足で立ち上がった小次郎は、ルシアンの目を見て必死で鳴く。
何かを訴えているのだけれど、何を言っているのかルシアンにはさっぱり分からない。
(このリスの言葉が分かるのは、ごく一部の人間しか分からないんだよなぁ)
「あぁ、悪い、黒リスくん。小次郎だったかな。
君の言葉は俺には分からないんだよ。
ってことで、ヴァービナス女官。通訳してくれないか?」
ルシアンが首を捻った。
「す、すみません」
エレナが慌てた様子で小次郎を手で掬うようにして抱き上げた。
その手は震え、ますます顔色が青から白くなる。
「あの……!
単刀直入に言います。
ローゼルが思った以上に危険なところにいるんです」
エレナの切実な声にルシアンは眉をひそめた。
「どういうことだ?」
ルシアンの声がぐっと低くなった。
無意識にルシアンの内側から漏れ出した魔力が、執務室を圧迫する。
エレナは怯えるように小次郎を強く抱きしめた。
その時、扉がノックされた。
ルシアンはハッとする。
「とりあえず、座って」
応接席に座るようにエレナに勧めた。
それから扉を開いた。
「失礼します」
入って来たのは第2魔法騎士団長のアラン・リックランスだ。
彼は、エレナを見て一瞬驚く。
エレナはぺこりとアランに軽く会釈した。
アランはにっこり笑った。
「申し訳ありません、来客中でしたか」
「いや、いい。アランも座れ」
アランはエレナの隣の一人掛けソファーに「失礼」と言って腰掛けた。
ルシアンは自分の執務席に座り直した。
冷静を装っていたが、ローゼルの話を聞きたくて仕方がなかった。
ローゼルが思った以上に危険なところにいる?
どういうことだ?
けれど、ローゼルのことは完全にプライベートなこと。
立場上、ここは切り離して考えなければ。
それに、ローゼルにはマルスクを護衛につけた。
万が一、彼女の身に何かあれば彼から連絡が来るはずだ。
「先にアランの話から聞こうか。
ヴァービナス女官も知っていた方がいい話だろうから。
それでもいいかな?」
「えっと……」
エレナはすぐにでも話をしたいのか、そわそわした。
とはいえ、アランがここを訪れての報告。
エレナはルシアンの立場を理解している。
彼女は唇を噛みしめた。
「俺の報告はすぐ終わりますので、先、よろしいですか?」
アランが察して口を挟んだ。
「はい、すみません……」
エレナはしどろもどろに頷いた。
とりあえず、エレナの話は直近の緊急事態ではないようだ。
その狼狽っぷりから、これは何か不測の事態が起きている。
それに間違いはない。
「では」
アランが改まった口調で言う。
「昨晩逮捕しました王城連続強姦魔の犯人ブルーノ・アヴェーヌについてです」
「強姦魔? 王城で?」
エレナは驚いたように顔を上げた。
「ああ、そうか。
ヴァービナス女官は最近まで出張続きで王城を不在にしていたからな。
実は、そういう事件が起きていた。
しかも、総務省の前ビアード伯爵派がこの情報を総務大臣にまで隠蔽していたんだ。
無論、これといった注意喚起もされていない」
ルシアンは肩をすくめた。
「そんな恐ろしいことを隠していたなんて……。ひどい」
エレナは眉をひそめた。
当然だ。
最も安全なはずの王城内でそんな危険な犯人が野放しにされ、その上、事件そのものも隠そうとする連中がいるのだから。
「そうなんですよ、本当にひどい事件です。
防げるはずの犯罪が防げない、いや、犯行を助長させている。
我々騎士も歯がゆかったです」
アランが苛立ちを滲ませて、手元の書類に目を通しながら報告を続ける。
「ブルーノ・アヴェーヌは全面的に罪を認めました。
王城内では六件。
被害届が出されていない案件が三件あります。
彼は王城外ではさらに好き勝手やっていたようですね。
相当数の婦女暴行罪がありました。
その数、彼が覚えているだけでも十七件。
悪質極まりない」
憤慨するアランの傍らで、エレナが息を呑んだ。
ルシアンは冷ややかに質問をする。
「その被害者女性は全員、ブルーノ・アヴェーヌより格下の身分か?」
「はい、そのとおりです」
この犯人の狡猾なところはそれだ。
被害者全員が自分に逆らえない格下の身分の女性ばかり狙ったところだ。
訴えても伯爵位の力をもって握り潰す。
女性たちが泣き寝入りするのを見込んでの犯行とも言える。
「卑怯だわ……」
エレナの震える小さな呟きが聞こえた。
小次郎も両前足を腰に当てて、大きく頷いている。
(もし、その犯人に親友のローゼが襲われたと聞いたらどうするだろう。
さぞかし腹立たしい気分になるだろうし、侯爵家令嬢として父親に頼み、総務省の連中に職務怠慢だと圧力をかけてくれるだろうか)
ルシアンは冷静な目でエレナの横顔を見た。
早い話、上級貴族出身の女官であれば、家の力で総務省の面倒な派閥に圧力をかけれるだろう。
それに、権力が絶大であるからこそ、すぐさま軍部に衛兵の管轄権は戻される。
とはいえ、圧力をかけるだけでは、蜥蜴の尻尾切りになってしまう。
膿は出し切らなければ、また傷口を広げる。
この際、膿はすべて根絶やしにする――。
「——やはり場数を踏んでからの王城での犯行だったか」
ルシアンは頬杖をついた。
「はい、そのようで。
手口は毎回同じ、お気に入りの女性を見つけたら薬入りの菓子を餌に近づき、そして襲った。
そんな感じです」
アランは乾いた声で報告を続ける。
「こういう性犯罪者の傾向は、勝ちパターンにしがみつきます。
彼の故郷であるアヴェーヌ伯爵領でも同様の事件は何件もあったようです。
ですが、領地のはさらに酷いですね。
そこの自衛警察団に圧力をかけ、彼の父親である領主は息子の罪を揉み消していた。
突き詰めていくと賄賂も横行しているようです。
あと、脱税も――」
「ほう。それは良くないな。
宰相府には俺から話をしておこう。
内部監査官部隊を派遣した方がいいってね」
内部監査官部隊。
各領地で刑事事件以外の不正の疑いがあった場合、各省庁から編成されたメンバーが適法かつ適正に行われているかを監視・監督する部隊だ。
「はい、是非ともお願いいたします。
それと、すでにお耳に入っているかもしれませんが、ブルーノ・アヴェーヌ自身が薬物依存者とのこと」
「ああ、聞いている。
所持品検査で薬に扮した飴玉がポケットに入っていたとか」
「はい。その購入先は、王城内でした」
「ほう……」
ルシアンの目が鋭くなる。
「王城で違法薬物が売られているということですか?」
エレナが堪らずアランに質問をした。
「ええ。残念ながら。
前々から怪しい売人の存在は確認してました。
ですが、官僚の制服を着て紛れ込んでいるため、なかなか正体がつかめていない状態です」
アランは首を振った。
「思った以上に根深いな。
昨今、官僚内でも水面下で薬物被害が広がっている状況だ」
「はい。これも衛兵が『外部人材』になってからです。顕著に広がっています。
ひょっとすると、官僚だけでなく、衛兵の中に売人が紛れ込んでいる可能性もあります」
ルシアンは忌々しげに歯軋りをした。
ちっ、後手にすべてが回っている。
軍部直轄の衛兵であれば、身元は徹底的に調査される。
それから、怪しい動きをする者を職質するよう指示を出す。
そこで大半は睨みが利くのだが、総務省管轄の外から派遣されたにすぎない『外部人材』では、それも敵わない。
むしろ、悪用の恐れもあるのでそこまでの権利は与えられない。
一刻も早く膿を出さねば――
「アラン、自白剤でも何でもいい。
吐かせろ」
ルシアンは氷のように冷たい声で命令した。
アランもエレナも、ぎょっとしてルシアンを見た。
「よろしいのですか?
自白剤は精神をも崩壊しますよ」
「いい。ちょうどいい見せしめだ」
室内の空気が一瞬で張り詰めた。
ルシアンは立ち上がって、アランを見下ろす。
「皇帝陛下のいらっしゃる王城で度重なる犯罪を繰り返し、その上、薬物使用。
准帝国公務員とはいえ帝国民の手本となる官僚だ。
そんな官僚が治安を乱すようなふざけた真似をしたらどうなるか。
軍部ならびに俺たち武官を下に見ている甘ちゃん文官貴族どもに思い知らせてやれ」
ルシアンの有無を言わせぬ迫力に、エレナと小次郎は全身をびくりとさせる。
だが、アランは涼しい表情を浮かべて「承知しました」と返事をした。
むしろ、口元に笑みすら浮かんでいる。
「これで私の報告は以上となります」
「ご苦労」
ルシアンはエレナの前にどかっと座った。
「で、ヴァービナス女官。
さっきの話の続きをしようか?」
怜悧で鋭い刃物のような眼差しがエレナに注がれた。
エレナは戸惑っていた。
彼は怒っている。
そう感じたからだ。
エレナはごくりと唾を飲み込み、それからさっき老婆から聞いた話をゆっくりと話し出した。
*
ルシアンは宰相府に出向き、事の次第を説明し終えた。
あいにく宰相は陛下と会議で不在ではあったが、補佐官が神妙な顔つきで話を聞き入っていたので、問題なく宰相に伝わるだろう。
政治的な部分は、宰相に任せておこう。
ルシアンは歩きながら、軍部に戻り、部下に宿直や警備について指示をしていく。
その一方で先程のエレナ・ヴァービナスの話が脳裡にこびりついて離れない。
まさか、ローゼルが――。
ルシアンは小さく舌打ちをする。
なんと執念深い。
彼らは時間をかけて、何重にも罠を張り、自分たちの狙いどおりになるように仕組んでいた。
俺がローゼルに想いを寄せていなければ、彼らのシナリオ通りに物事は進んで今頃――。
そう思ったら、ゾッとした。
早々にローゼルをあの家から引き離し、自分の手元に置かなければ、彼女は家の中でも危険にさらされることになる。
ルシアンはふと、廊下の窓から外を見た。
空は徐々に茜色に染まり、時の移ろいが静かにその憂慮を映し出しているようだった。
「ルシアン様」
マルスクだ。
ルシアンはぎょっとした。
「お前、彼女の警護はどうした?」
マルスクにローゼルの護衛をお願いしていたからだ。
「ご心配なく。
今頃、帰りの馬車に乗ってご帰宅されている途中です。
お気に入りの魔導書が何冊か買えたようで大層ご機嫌でしたよ」
マルスクは淡々と答えた。
「そうか。何事もなかったか?」
「いえ、ありました」
「そうか……。
ん……? ありました!? だと?」
ルシアンは思わず声を上げた。
「おい、どういうことだ?」
ルシアンはマルスクに詰め寄った。
エレナ・ヴァービナスの話が横切り、不安が渦巻く。
「まあまあ、落ち着いてください。
でも、何も心配はいりません。
むしろ、ご安心を」
「何を根拠に」
ルシアンは顔をしかめた。
「ですから、先日からルシアン様が問題視されてましたローゼル嬢に付き纏っていた二名。
あれをこの機会に拘束いたしました。
そして、現在身柄は第4騎士団にあります」
マルスクは胸に手を当てて、誇らしげに言った。
すごいでしょ、褒めてください。
そう暗に訴えている気がした。
「第4騎士団にか」
第4騎士団長ノーラン・ターラントには、ローゼルの置かれている状況をまだ何も説明していない。
ノーランのことだ、ローゼルが絡むとなると目の色が変わり、ルシアンとしても少々やりにくくなる。
「どういう理由で引き渡した?」
「その辺も抜かりありません!
なにせ、彼ら、とんでもない邪教を信仰する狂信者でしたから。
まずそれを主軸に引き渡しました。
ローゼル嬢のことは一言も申しておりませんよ」
マルスクは顎を上げ、さらに自信に満ちた声で断言した。
ルシアンは眉をひそめた。
「邪教?」
想定外の言葉が出てきた。
マルスクは声の音量を少し落として、だがその目はどこか面白がっている。
「はい。
なんと、彼ら、アミラス教信者だったんですよ。
着ていたガウンにその紋章が刺繍されてましたからね」
「邪教でも邪教。
最も面倒な宗教じゃないか……」
ルシアンは額を押さえた。
アミラス教はこの国で最も危険視されている宗派であり、廃教し、キツく信仰を禁じられている。
だが、亡国の影響なのか、いまだに信仰心が厚い者は後を絶たない。
とはいえ、なぜ邪教徒がローゼルを尾けて監視していた?
俺はてっきり『秘密結社 黒の杖』の雇った魔法使いだと思っていたけれど。
だが、あの結社も元は邪教のアミラス教を元祖にする宗教団体だ。
結びつきがないとは言い難い。
「それでルシアン様」
マルスクがすっとルシアンに身を寄せた。
「僕、情報屋を雇うことになったんです」
まるで子どもが内緒話を打ち明けるような声で言った。
「は? お前が?」
「そうなんです。あっちが僕の情報屋になるならいいよ、って言うんでね」
「あっち?」
ルシアンは首を捻った。
マルスクの説明がさっきからどうも要領を得ない。
「あのお婆さんですよ。
露店の主の――先程ヴァービナス女官からスタンドランプ、受け取りましたよね?」
探るような目つきでマルスクが、じっとルシアンを見た。
ルシアンの頭の中に食わせもの老女の顔が思い浮かぶ。
敵国マリュード皇国の奴隷の焼印が手首にある年老いた女。
――どうかこの老女の商売の邪魔立てはしないでくださいませね
薄気味悪く笑うしわがれ声。
「ほう。それは興味深いな。
俺じゃなくて、お前の情報屋になりたいと?」
ルシアンはぞっとするほど醒めた口調で尋ねた。
「はい、そうなんです。
なかなか侮れないご老人です。
たぶん、僕の正体、見抜いてますよ」
マルスクはにやりと笑った。
心の底からマルスクは楽しんでいるようだった。
彼の正体を見抜いたのはクレインバール家以外では極まれだ。
あれだけ魔法の才能に恵まれているエレナ・ヴァービナスですら、まだマルスクの正体を気づいていない。
とはいえ、王宮魔術師のクロフォードや、その師匠マインラートは天性の才か、すぐさま見破ったが。
そんな彼の正体を見抜いた元マリュード皇国の奴隷——。
只者ではない。
もともと感じていたが、いよいよ怪しい。
「あの方、クロフォード殿の話によると元は呪術師で、それもマリュード皇国の中でもトップレベル、それなりの力を持つ人だったとか。
たぶん、呪術師ウェンデリア・ヴァンドゥームとも立場的に近い存在」
ルシアンは息を呑んだ。
まさかそこまで判明したとは。
だが、すべてがそれで納得した。
呪術師ウェンデリア・ヴァンドゥームは、あの天災異端児である王宮魔術師クロフォードに呪いをかけたマリュード皇国の呪術師の頂点に立つ男だ。
その男に立場的に近い存在。
今、この国に身を置く逃亡者の彼女は、恐らく祖国でなんらかの派閥争いに負けて奴隷に地位を落とされた感じだろう。
「ふうん。それはそれは……。
であれば、マルスクの本質を見抜いたことに納得だな」
ルシアンは顎を撫でながら呟いた。
「ええ。結局お金次第になりますけど、まあ、悪くない話かな、と僕は思いましてこの度、仮契約することにしたんです。
僕と契約する、つまり、僕のご主人のルシアン様と契約するようなものでしょ?」
マルスクの口調はどこまでも能天気で明るい。
「まあな。
っていうか、俺の許可なく勝手に戦力増やすな」
「へへ、いいじゃないですか。
うまく利用すれば、とんでもない情報を引き出せますよ」
「そうだが……」
ルシアンは言い淀んだ。
少々話がうますぎる。
あれだけ用心深い老女がこっちに簡単に寝返るだろうか?
逆にこっちを利用しようとしているのではないか――。
「大丈夫ですよ。
僕とクロフォード殿。お婆さんの命の恩人ですから」
マルスクはにっこり笑った。
「は? どういうことだ?」
ますます意味が分からない。ルシアンは首を捻った。
「ローゼル嬢が魔導書を吟味されている間に、僕、クロフォード殿とお婆さんを尾行したんですよ。
そうしたら、これまたびっくり。
お婆さんが会う約束をしていたのは、先日のナイトマーケットでローゼル嬢を抹殺しようとしてたマロディオ商会の一味だったんですよ。
で、そのマロディオ商会は、お婆さんを殺そうとしていたんですよねぇ」
「ちょっと待て」
ルシアンは畳みかけるように話すマルスクを制する。
「情報量多すぎだ……。
それと、お前、場所を選べ。
ここ廊下で話すようなことじゃない。
一度俺の部屋に戻ろう。
そこで再度整理して教えてくれ」
「すみません。
久々の戦闘で興奮してました」
マルスクは舌をペロッと出して、後頭部を掻く。
ルシアンは踵を返し、部屋に向かう。
その隣をマルスクが歩く。
「それでですね、その不埒者も全部第4騎士団に突き出しましたので。
悪党の言い分とかはターラント団長に聞いてくださいね」
「つまりは、すべて第4騎士団に丸投げしたってことか?」
「まあ、端的に言えばそうなりますね」
廊下が交差するその場所で、マルスクがスッと目を細め、一歩下がった。
ルシアンの肩が動く。
この気配……。
ルシアンは眉をひそめた。
「おぉ、良かった。クレインバール卿」
オークレー次官が現れた。




