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カァーム・ビュラクラト ―社畜女官ローゼルの婚約破棄奮闘録― 私は何も望まない  作者: 兎丸 蓮


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第81話 母の忘れ形見と、蠢く邪教の影

 老女はどんどん細い道に入っていった。


 ローゼルは不思議な気分でその後を歩く。

 そして、隣にはクロフォード・ノーエランド。


 なんだか変な組み合わせだ。


 今までまったく接点のなかった彼と連日行動を共にするなんて。

 

(う〜ん、やっぱり変に緊張してしまう)


「あの……今日はノーエランド卿も非番なんですか?」


 ローゼルは老女の後をついて行きながら、さり気なくクロフォードに尋ねた。

 

「まあな」


 クロフォードは一瞬躊躇(ためら)って返事をする。


「だとしたら、すごい偶然ですね、こうやって今日もご一緒するなんて」


 ローゼルはわざと明るい声を出した。


「まあ……、そうだな。

 きっと俺がイースティリア女官と古本屋に行ったって知ったら、ヴァービナス女官は怒り狂うぜ。

『わたしも行きたかった』って。

 新しい魔導書を欲しがっていたし」


 口元に柔らかな笑みを浮かべながら、クロフォードは言った。


「ふふ、そうかもしれませんね。

 魔導書のことになると、驚くほど爆裂トークが炸裂しますから」


「プッ、間違いない。

 あの魔法オタクっぷりは、いつ見ても感心するぜ」


 クロフォードは吹き出して、くすくす笑った。


「ですよね。

 じゃあ、今度はノーエランド卿がエレナを案内してあげてください」


「え? 俺?」


「はい。私よりノーエランド卿の方がお仕事でもエレナと長くいるみたいなんで。

 きっとその方がいいです」


 無邪気、そう見えるようにローゼルは笑った。


「そうか? 

 イースティリア女官とお茶するついでの方が喜びそうだけど」


「ううん、絶対こういうのはノーエランド卿からがいいですよ。

 だって、私より魔法にお詳しいし、まさに魔法談義に花が咲きますよ」


「えー、そんなことないと思うけどなぁ」


 不思議そうな顔をするクロフォードに、ローゼルはクスクスと笑った。


 この様子だと彼は非番じゃない、きっと。

 そうローゼルは直感した。


(何か捜査するついでに、私たちを助けた。

 そんな感じかな)


 ローゼルは端正なクロフォードの横顔を見た。


 髪を撫でつけているところから、きっとこの後、王城に戻るのだろう。


 だって、制服を着てなくても、今日の彼の服装はやけに庶民に寄せ過ぎている。

 非番ならもう少し貴族らしい寛げる服を着るはず。


 といっても、元が美形だから全然庶民らしくないし、庶民でもなかなか着ない仕立てのいい服を着ている。

 その辺、本人はその自覚があるのかしら。


 それに、やけにタイミング良く現れた。


 絶妙過ぎて、不自然な感じがした。


 けど、正直彼との遭遇はありがたい。

 さっきの白いガウンの男たちの尾行といい、今の荒くれ者の魔法使い。昨日の王城連続強姦魔。


 こう立て続けでは、正直気が滅入る。


 そう考えると、どういう形であれ、彼と行動できることはとんでもない安心感がある。


 昨日お茶会した仲とはいえ、今日はエレナも場を和ませる小次郎もいない。

 だから、どうしてもちょっぴり緊張しちゃうけど、彼は間違いなくすごい魔法使いだ。


 側にいてくれるだけで、気弱になっている今の自分には大変ありがたくて、心強い。


「それにしても、明日からだろ?」


 突然、こそっとクロフォードがローゼルに耳打ちする。


「え? 何がですか?」


 ローゼルはきょとんとした。


「伯爵令嬢になるの」


「……ああ、はい。そうです。

 あまり実感がないんですけどね」


 ローゼルは肩をすくめた。


「まあ、そうだよな。

 でも、ようやく陞爵《しょうしゃく》を承諾したんだな、子爵は」


「そうみたいですね」


「陛下が大喜びで内々に食事会を開くっておっしゃっていたけど、参加するの?」


「いいえ。

 一応家族も参加していいことになってますが、陛下としてはお気に入りの貴族たちを集めて、共に酒を飲み食わしたいみたいで」


「ああ、なるほど。

 仲間内で騒ぎたいってことね」


「ええ、まあ」


 ローゼルは曖昧な笑みを浮かべた。


 それに、食事会は妻のシャルルが参加する。

 私が参加したら、場の空気を悪くしてしまう。


 薄暗い細い路地を抜けたところに、少し開けた空間があった。

 そこの奥に古びれたつやつやとしたつたの絡んだ石造りの家が現れた。


「ほら、着いたよ」


 老婆が二人に声を掛けた。


「へえ、こんなところに店が……。

 初めて知った」


 クロフォードがぼそっと呟いた。


「はい、私も初めて知りました」


 ローゼルも頷く。


 よく見ると扉には小さなプレートが掲げられている。

 ――ダリオン古書店。


「ここの店主は変わっていてね、一年のほとんどは古書集めの旅に出ているんだよ」


「それじゃあ、この古書店に入れるって、ある意味珍しいことなんですか?」


 ローゼルが尋ねると、老女は頷いた。


「そうだよ。

 気に入る本があるといいね」


 老女は扉を開けた。

 小さな鈴の音が聞こえた。

  

 古い家の匂いがする。

 インクと紙独特な香り。


 少し乾いていて、濃密な静寂が体を包み込む。


 ローゼルは祖父の屋敷の書庫を思い出した。

 どこかホッとするような懐かしい気持ちになる。

 

 天井も高く、思ったよりも広い店内をぐるりと見回す。


 老女が振り返って言う。


「ここなら属性に合わせた魔導書がたくさん揃っているし、どうしても見つからないなら店主に相談してごらん」


「はい。ありがとうございます」


「それと、お嬢さん。

 帰りは店主に言えば、馬車を手配してくれるから。

 ここら辺は夜暗くなると、物騒だからね。

 お嬢さんはちゃんと馬車で帰ってね」


「はい、そうします」


「それじゃあ、心ゆくまで楽しんでね。

 あ、そうそう、儂の紹介だから値引きしてもらえるかもしれない。

 交渉しておこう」


「何から何までありがとうございます」


 ローゼルはぺこりと頭を下げた。

 老女は手を振って、慣れた様子で店の奥まで入って行く。


 ローゼルはゆっくり書架の間を回ってみる。

 その後ろをクロフォードがキョロキョロしながら歩く。


「ふうん。

 確かにいい本が揃っている」


 クロフォードも本棚の間に入って、舐めるように背表紙を見入る。


「ノーエランド卿も本が好きなんですか?」


「まあね」


 相槌を打ちながらも、クロフォードの視線は本棚に釘付けだ。

 熱心に背表紙を読むその姿から、これは相当な本好きかしらとローゼルは思った。


(でも、これはなかなか稀少な本が揃っているかも……)


 クロフォードほどではないけれど、本の背表紙のタイトルを読んだだけでも一体どういう内容なのかと気になって、わくわくしちゃう。


 ローゼルの胸は高鳴った。


 正直、ローゼルはそこまで期待していなかった。


 けれど、魔導書以外にも芸術本や絶版になったかなり古い実用本や学術書、少し昔の大衆小説などなど、蔵書はかなり充実していた。本の保存状態だってすごくいい。


(はぁ、夢のようだよ。

 王都の図書館でもこんなに揃っていないよ)


 ローゼルは口元がうずうずしながら、背表紙を舐めるように読んでいく。


「久しぶりだね」


「ああ、婆さんか。

 そうだね」


 やがて老女と店主らしき男が挨拶を交わす声が聞こえてきた。


 ローゼルは書架を眺めながらも、本棚の隙間から店主と老女を盗み見た。

 店主は小綺麗な格好をしたシュッとした男性だった。

 父と同じくらいの年齢だろうか。


(それにしても、不思議なお婆さんだなぁ)


 ナイトマーケットの時は気づかなかったけれど、彼女も白いガウンの男たちみたいに、今までローゼルが感じたことがない魔力のような波動を漂わせていた。


 その時、ローゼルはふと目に入った一冊の本を手に取った。

 濃い青色の表紙に銀の波紋が刻まれている魔術書だ。


 思わず息を呑んだ。


『蒼穹に融ける水環 著者名:マリアーナ・エグアルム』


(お母様が学生時代に書いた論文だ――)


 ローゼルは感動のあまり、震える指先で本のページをめくった。

 飛び込んできたのは、久しぶりに見る母の筆跡だ。


 記憶の中の母の顔が一気に波のように揺らぐように彷彿させる。


 朗らかに笑う声、ローゼルの髪を優しく櫛で梳く母の甘い匂い。

 抱きしめてもらったときの安堵感。


 一瞬にして歳月が巻き戻ったように思い出して、鼻の奥がツンとした。


「あ、こっちも」


 もう一冊、本を取り出す。

 こちらは、青と茶の二色で染め分け、中央に芽吹く若葉の紋章が入った表紙だ。


『潤土魔導学基礎と応用 著者名:マリアーナ・イースティリア』


 ローゼルは夢中になってペラペラと本のページをめくる。


(これ、お母様が結婚後に発表した論文だ。

 確か、お父様と共同で土壌汚染対策と改良の研究をした時のものだよね)

 

 ますますローゼルの胸が昂った。


 あぁ、なんて素晴らしい巡り合わせなんだろう。


 家や領地にあるはずの母の遺本は、継母シャルルが処分してしまった。

 ローゼルはふと昔を思い出して、息が詰まった。


 あれは寒い冬の日だった。

 外では雪がちらついていて、兄は剣術のお稽古に出て屋敷にいなかった。


 シャルルがローゼルを呼び出した。


 嫌悪をいつも滲ませて見下ろす彼女。

 初めて会った時から、敵意しか感じなかった彼女。


 だけど、今は違う。

 珍しくその口元には美しい笑みが浮かんでいた。


 その時、驚くべきことに、ローゼルの胸に甘美な期待が沸き起こった。


 そう、期待をした。


 もしかして、ようやくこの人が私たち兄妹を受け入れてくれたのかもしれない。

 もしかして、優しく頭を撫でて褒めてくれるのかもしれない。


 しかし、次の瞬間、それは消し飛んでいた。


 居間の暖炉でシャルルが、幼きローゼルの目の前で本を破り捨て燃やしてしまったのだ。


 それは全部、母が著者の論文だった。

 そして、祖父から贈られた大切な魔導書の数々。


 絶望するローゼルの表情を彼女は勝ち誇るように笑った。

 その表情にローゼルは身を凍らせた。


(あれ以降、どれだけ王都中の古本屋や図書館を探しても見つからなかったのよね、お母様の本)


 それが今ここにある――


 嬉しい。

 たまらず、ぎゅっと本を抱きしめた。


 きっと祖父に言えば、世界中を探し出して、すぐさま贈ってくれるんだろう。


 けど、祖父は娘の遺本を後妻が処分したことを知ったら、とんでもなく怒り狂う。

 そっちの方が大騒ぎだ。


 祖父は気性が荒い。

 世間では偏屈爺さんなんて呼ばれていて、周囲からもかなり気を使われている。

 

 だって、気難しい偉大な魔法使いだから。


(一時期本気で祖父に打ち明けようと悩んだ時期もあったけど、告げ口みたいでなんだかやりたくなかったんだよね。

 父と祖父の仲が、これ以上悪くなるのも嫌だったし)


 ただでさえ、シャルルとの再婚は父の立場を悪くした。

 祖父と父はほぼ絶縁状態だった。

 時々連絡を取り合っているようだけど、祖父の頑固さは祖母が亡くなってから、より顕著になっている。


 ローゼルは、ペラペラと本のページをめくる。

 読めば読むほど、じっくり腰を据えて熟読したくなる。


 幾らだろう?

 一回のお茶代を我慢すれば買える金額だといいのだけれど。


 ローゼルは、ハッとした。

 確かに、母の論文も役に立つとは思う。


 でも、これだけが目的じゃない。

 今は他の水魔法の魔導書を見ておきたい。


 ローゼルが二冊の本を抱えて、ほかの書架に視線を投げた。

 想像以上にずらりと並んだ水魔法の魔術書を前に、ローゼルは戸惑った。


 どれがいいんだろう。


「これ」


 クロフォードの声が後ろから聞こえたと思ったら、ポンとローゼルの頭に分厚い書物が乗った。


「え?」


 ローゼルはその本を手に取った。

 厚い革装丁に銀文字で刻まれた重厚な本だ。


「水魔法に特化した魔術書だ。

 昨日、魔物討伐の話、教えてもらっただろ? 

 あと、幻影魔法を水魔法で発動できたところから、あんたの実力を軽く見積もって探してみた。

 たぶん、今のあんたに足りないこと、これにたくさん書いてるから。

 この一冊で事足りるはずだ」


「水環魔導実践録……。

 著者、エルダリオ・フォン・アクアリウス」


 ローゼルは本のタイトルを読み上げた。


「うん。王宮魔術師の中でも最高位の学者が書いた著書だ」


「あっ、アクアリウスって、亡国ナバロー王国を滅ぼした天才魔法使いの名前ですよね」


「そう、正解。

 よく知ってるじゃん」


「そりゃあ、憧れてますから」


「はは、なるほどね」


「うわぁ、いい本を探し出してくれてありがとうございます」


 目を輝かせてお礼を言うローゼルに、クロフォードは照れくさそうに頬を掻いた。


「別に。同じ魔法使いとして頑張っている奴の応援がしたくなっただけだよ」


 ローゼルは一瞬目を見開く。


 天才異端児王宮魔術師クロフォード・ノーエランドは、大の人嫌い。

 祖父の若かりし頃を彷彿させるほどの偏屈で傲慢な男――。


 そんな噂を聞いたこともあったけれど、全然そんなことない。


(んもう、すごくいい人じゃないの!)


「頑張ります。

 ありがとうございます」


「うん、頑張って。

 んじゃあ、俺、急用思い出したから帰るわ」


 クロフォードはそう言うと、手をひらひら振って店を出た。


 あれ?


 ローゼルは首を捻る。


 私、幻影魔法が使えるってノーエランド卿には話していないけど……。



***



 クロフォードは店を出ると、すぐさま裏通りに回る。

 馴染みの深緑色のローブの小さな背中が見えた。


 老婆は亭主に頼んでこっそり裏口から出て行ったのだ。


 クロフォードは唇を舐めた。


(俺を巻こうなんて、百年早いって) 


 隠匿魔法を再度発動させて、クロフォードは老婆を追う。

 途中から、それとなく、マルスクが自然な動作でクロフォードの隣に並んで歩き始めた。


「お手伝いしますか?」


 マルスクは余裕の笑みを浮かべた。どうやら、彼の前でも隠匿魔法を施していても意味がないらしい。

 クロフォードは、綺麗に整ったマルスクの横顔を見た。


「ご主人愛しの、お嬢様の護衛はいいのかよ」


 クロフォードは声を潜めた。


「不穏分子はついでに退治しておきましたので、大丈夫でしょう」


 こともなげにマルスクは言った。


 なるほど。

 さっき屋根の上にいたのは、ローゼルを尾行していた輩を倒していたということか。


 この使い魔は契約の地である辺境伯領地から離れ、ルシアンに仕えているだけあって有能。

 隠密行動が巧妙だ。

 

 とにかく人に紛れるのが上手い。


「で、その不穏分子の身柄はどうした?」


「ああ、それはすでに第4魔法騎士団に引き渡してあります。

 あと、石化したあの怪しい奴らも一緒にね」


「さすが。仕事が早いな。

 あの男たち、たぶん、違法薬物の売人だ」


 マルスクは表情を変えることはなかったが、わずかに片方の眉が上がった。


「それはそれは……。薬物の売人に遭遇するなんて。

 ノーラン・ターラント団長は昔から薬物撲滅に余念のない方ですからね、さぞかし喜ばれるでしょう。

 それに、クロフォード殿はなかなか強い運を持っていますね」


「ん? 何でそういう繋がりになる?」


「クロフォード殿は、昨晩連続強姦魔が捕縛された話は聞いてますか?」


 唐突にマルスクが話題を変えた。

 クロフォードは戸惑いながら、返事をする。


「ああ、うん。

 被害者情報はさすがに秘匿されていたけど、それ以外の情報は一通りね」


「そうですか。

 その犯人も違法薬物に一枚噛んでいたんですよ」


 マルスクは呟いた。

 クロフォードは僅かに息を呑んだ。


 だが、その視線は老婆の後ろ姿をしっかり捉えている。

 二人はしばらく無言で歩き続ける。


「——じゃあ、ちょうど良かったな。

 一挙に核心に近づきそうだな」


「ええ。そうだといいんですけどね」


 マルスクは奥歯に物が挟まったような、引っ掛かった言い方をした。

 クロフォードが訝しげな表情を浮かべると、マルスクはさらに話題を変える。

 

「そうそう。

 さっき、僕がワンパンをお見舞いした白いガウンの男たち」


 マルスクはそこで言葉を切った。含蓄ある眼差しでクロフォードを見た。


「アミラス教幹部です」


 マルスクは涼しい顔で呟いた。


「は? マジで?」


 うっかり、クロフォードは大きな声を出し、足が止まった。

 一瞬、周囲の喧騒が遠のいて、早鐘を打つ。


「しー。声が大きいです。

 気づかれますよ」


 マルスクは人差し指を立てて、自分の唇に当てた。


「悪い」


 クロフォードは再び歩き出して、声の音量を落とす。


「アミラス教はすでに廃教となった亡国ナバロー王国の国教だ。

 今じゃあ邪教だぜ? 

 その幹部ってどういうことだよ」


「さぁ。詳しくは分かりません」


 マルスクは前を見ながら、小さく肩をすくめる。


「ただ、彼らのローブにアミラス教の紋章の刺繍があったんでね」


「んだよ、それ」


 クロフォードはこめかみをカリカリ掻いた。

 アミラス教は、禁術である呪術を尊び、魔法を悪と決めつける教義だ。


 昨晩見つけたユーモネア領地の洞窟内の遺体保管庫といい、ローゼルが出張時に使った馬車の客車部分《キャビン》に貼られた四角い魔法陣といい——


 呪術が絡みすぎだ。


「また呪術かよ。

 最近、そんなのばっかりだ。

 勘弁してくれよ」


 クロフォードは以前呪術で受けた傷がかすかに疼くのを感じた。


「その辺の詳細はルシアン様が調べてくださるでしょう」


 マルスクは不敵な笑みを湛えた。

 けれど、うんざりするような顔つきでクロフォードは、ため息混じりに言う。


「とはいえ、どんどんきな臭い展開になっているぜ」


「そうですね。

 これは僕の直感なんですけど、ローゼル様とルシアン様がご婚姻されるには、その呪術絡みの事件を片付けないと無理そうな気がするんですよね」


 さらりとマルスクは言った。


「その直感、実は俺も薄々感じていたんだよね」


「奇遇ですね。僕とクロフォード殿が同じ所感を持つなんて。

 これはますます的中率が上がりそうです」

 

 人懐っこい笑顔の裏で、マルスクの眼光が鋭くなった。


 空恐ろしさを覚えつつも、クロフォードは群衆をかき分け、マルスクと共に老婆を追う――。

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