第28話 濁流の爪痕と王都に響く不協和音
夕暮れの濁った赤い光が灰色の葉を血の色に染めていた。
すでに半年の間に十四人もの若い女性が犠牲となった。
ようやく突き止めたアジトだ。
婦女連続殺人事件――。
ルシアンは、まさにその事件現場に踏み入る。
第1皇女アストレイア毒物混入未遂事件を引き起こした女は、死体検分を行った第2魔法騎士副団長マッシュ・モラレスの検分報告によると、左胸元に紋章の入れ墨が入っていたとのことだ。
それは『秘密結社 黒の杖』の一員の証である――。
女の足取りを追いかけ、ここに辿り着いた。
目の前に立ちはだかる大きな屋敷。
かつては貴族の別邸だった屋敷だが、すっかり荒れ果てている。
「行くぞ」
ルシアンの低く短い声が響いた。
騎士たちは無駄のない動きで隊列を組み、人目を避けるように郊外の屋敷へ突入し始める。
窓は板で塞がれ、庭は灰色の植物に覆われていた。
腰の高さまで茂るそれは、まるで外敵を拒む鉄条網のようだ。
「すごい敵意剥き出しの植物ですね」
エヴァンが小さく囁いた。
「ああ」
まさに侵入者に対するひんやりとした殺意がこもった細かい棘。
人の気配はしない。
屋敷内に押し入るものの、内部はしんと静まり返り、埃の匂いと、どこかねっとりとした生臭い空気が漂っていた。
夕日が塞がれた板の間から注ぐのみで暗い。
「ルシアン様!」
エヴァンが声を張り上げた。
「どうした?」
エヴァンの声のする奥の部屋に向かう。
その部屋に踏み込んだ瞬間、ルシアンは思わず顔をしかめた。
異様な部屋だった。
腐乱臭と血なまぐさい匂いが入り混じる。
周囲には不吉な気配を漂わせる未知なる装置や道具が整然と並び、血を吸ったような薬草が供物のように置かれている。
剛毅なエヴァンにしては珍しく、その横顔は蒼白だった。
ルシアンはエヴァンの立ち尽くす部屋の中央に視線を投げた。
その瞬間、他の騎士たちも息を呑んだ。
祭壇のように設えられた広い空間。
そこには、見たことのない異様な四角形の魔法陣。
文字が、滲んだ血で描かれていた。
そして、中央に縫い目だらけの不気味な人形が生贄のごとく据えられている。
背筋に冷たいものが走った。
人形の表面は、布などではなく人間の皮膚。
その皮膚はまだ生々しく、継ぎ接ぎごとに質感が異なっていた。
切り裂かれた肌を縫い合わせたせいなのか、四肢は関節ごとに肌質が異なり、不自然に歪んだ形をしている。
縫い目からじんわりと滲む血の痕。
「人形、ですか?」
ルシアンの後ろに控えていた騎士が、こわごわと尋ねた。
「いや、……これは呪具だ」
ルシアンの唇が震えた。
こうした呪具は過去にも何度か見つかっている。
直近では、三年半前の西南地方の港街リオナーレの『秘密結社 黒の杖』のアジトから見つかったものと同じ――。
ただ違うのは、これはまだまだ未完成品。
一部の臓腑が剥き出しで、肌も縫い合わさっていない部分がある。
「まさに呪いの人形制作中、というわけですか」
後ろからテラリスが苦々しく呟いた。
「ああ。そのようだ」
ルシアンは重々しく頷いた。
その時、騎士たちから声が上がった。
「おい、奥の檻に生きている娘がいるぞ!」
「本当か⁉」
「ああ、気を失っているけど、食堂の子だ」
騎士たちは一斉に安堵した。
「ルシアン様」
エヴァンが頬を綻ばせた。
「ああ、よかったな」
その声は夕暮れの王都の闇の中に消えていく――。
***
「皆さん、お世話になりました!」
そう元気に挨拶をして、家督を継ぐため、ルシアンの弟子のエヴァン・ゴルマンは魔法騎士団を退任した。
エヴァンが十三歳という糞生意気な時期から面倒見ていたルシアンとしては、凛々しく、そして堂々と退任した弟子に感無量な気持ちがありつつも、しんとした寂しさが押し寄せていた。
変な気分だ。俺から離れていく。
いつもここに居て、いつまでも同じだといつの間にか思い込んでいたけれど、そうはいかない。
(子が親から巣立つというのは、こんな感じなのかな)
外では雨が降り始めていた。
やがて窓に打ち付ける水音が、静かな執務室に湿った響きをもたらす。
まるで胸の奥に広がる空虚さを重ねていた。
「賑やかな子がいなくなると、なんだか寂しくなりますね」
ルシアンの心を見透かしたように、報告書を机に置きながらアランが声を掛けた。
エヴァンが退団した翌日から毎日のように大雨が降っていた。
「まあな。それでも一応、先日の『秘密結社 黒の杖』のアジトのガサ入れは、エヴァンの騎士団生活のいい締めくくりになったよ」
「そうですね。
あの女、彼女が皇族会議のテロ未遂から今までの事件にすべて繋がっていましたもんね」
「ああ」
ノエル・ディアスと名乗って王城に外部人材として登城していた女は、総務省に所属していた。
総務省の主な業務は、文具などの備品管理の補助。
仕事ぶりは至って真面目。
実直で嘘をつかないし、誤魔化したりもしない。
一定の評価を得ていたらしい。
だが、その信頼を逆手に取り、王城の至るところ――立ち入りが可能なところすべてに侵入し、詳細な地図を作り上げていた。
あの女は『秘密結社 黒の杖』の一員であり、マリュード皇国の諜報員。
地図は便利だ。
だが、敵に渡れば、侵入経路や警備の死角を一目で把握できる格好の攻略書となる。
皇族会議で賊を王城へ手引きしたのはその成果のひとつ。
さらに、彼女が軍部も知らなかったライニード王国の新種の結界の情報を抜き取り、総務大臣補佐官の秘書に教えたのだろう。
ルシアンは無表情に窓の外を見た。
窓に当たる雨音がいっそう激しく鳴り響く。
「ライニード王国はちゃんと最新論文を送ったと言っていたからなぁ」
「ああ、あれですね。
イースティリア女官がルシアン様に教えたっていう」
「そう、それ。
あの結界のせいで外の動きがまったく分からなかったんだよ」
ルシアンは小さく舌打ちした。
「あれは、あの女がライニード王国から届いた最新論文を盗んだんでしょうね。
彼女、時々王城の郵便室にも出入りできたらしいので」
「たぶんな。
他にもいろいろ余罪が出てきそうだ」
「王城内の見取り図は十中八九、敵に渡っていますね」
アランはため息をついた。
「恐らくね」
そして、あの女は並列して王都内で十五人の女性を拉致し、アストレイア殿下に毒の茶葉を仕込んだ。
「アストレイア殿下に持病の発作を起こさせようとしたのは、殿下に正しい占星術をさせないためだろう」
ルシアンの呟きに、アランが面食らった表情になった。
「どういう意味ですか?」
「言っただろ?
そろそろ、デカいことをやらかすかもしれないって」
アランが困惑したように眉をひそめる。
「つまり、これから何かするからこそ、それを殿下に予言させないために盛った。
そういうことですか?」
「そっ。毒殺するという手もあっただろうけど、皇族を暗殺されたとなっては状況が一変する。
戦争は自分たちが巻き込まれなければいいという帝国の平民たちも、さすがに怒り狂う。
ほかにも、殿下の占星術の恩恵を受けている友好国が許さないだろうね」
「なるほど。
友好国は殿下ならびに我が国に恩義がある。
為政者にとって今後も国を治めるにあたり殿下がいなくなってもらっては困る」
「そういうこと。
周辺諸国から一斉に攻撃を受ける前に、ここ王城を占拠しなくてはマリュード皇国の悲願は決して達成できない」
「それで、持病悪化を狙ったわけですか。
確かに、体調不良だと偶発的を装えれば、何かを仕掛けるにしても、軍部に悟られずに済みますね」
「本当、狡猾だよな」
雨脚はさらに強まり激しく窓を叩く。
――何かが、確実に動いている。
徐々に浸食されている恐怖。募る不安を映すかのように雨音は響き渡った。
*
嫌な予感は的中したというべきか、長雨で北部の大河が氾濫し、魔法騎士団は第5から第7魔法騎士団総出で人命救助と復興支援に追われることになった。
総魔法騎士団長として、ルシアンも参加することになり、王城を何日も離れる野営生活が続いた。
その話を聞いたのは、ようやく王城に戻れた矢先だった。
復興の報告を兼ねた軍法会議にて――。
「ユーモネア領地に向かう街道で魔物?」
鸚鵡返しのように呟いたルシアンの背筋に冷たいものが走る。
胸騒ぎがしたのだ。
「はい、すでに女官と御者、計二名が王城を一時間前に出たそうです」
出張者の出入りを確認しにいった騎士が、息を切らして報告する。
(変だ)
ルシアンは、さっと総帥と目配せし合った。
他の騎士たちも動揺を隠せない。
なにせ、王都近郊には強力な結界が張られている。
そのため、大物の魔物が現れるはずのない地帯だからだ。
特にユーモネア領地へと続く主要街道であれば、魔物が出たとしても小物ばかり。魔法騎士団に討伐依頼が来るようなことはないはずだ。
「何かの間違いなんじゃないのか?」
最近次官になったオークレー卿が手摺に肘をつき、鼻を鳴らす。
「いえ、間違いありません」
魔物探知に優れている王宮魔術師が首を振った。
彼は、魔力の種類でこの国に出没した大物の魔物を感知できる優れた魔法使いだ。
「ユーモネア領地です。しかも、最近国境付近で現れる新型の魔物の群れです」
「魔物の群れ……」
会議室がざわつく。
「狼型や下級種のオークじゃないのか?
それとも小型の魔物とかの」
「いいえ、小型の魔物の中にひとつだけ巨大な魔力を持った魔物がおります。
急に現れたんです。
『魔力漂う地』からの産物ではありません」
鋭く切り裂くように言い切る王宮魔術師の言葉に、ルシアンは背中が寒くなった。
「それで、出張に出たという女官の名前は?」
ルシアンは冷静に尋ねた。
「ローゼル・イースティリア女官です」
言葉を失った。
心臓を鷲掴みにされたような衝撃が駆け巡り、喉がひりひりと乾く。
「法務省のライアナース卿の懐刀かぁ……」
眉をひそめた総帥が毛のない頭を撫で回す。
「分かった。
滅多に魔物が出ない地域だ。
調査含め、俺が向かおう」
ルシアンが椅子から腰を浮かせると、神妙な顔つきでオークレー卿が苦言を呈す。
「おいおい、クレインバール卿。
貴殿が行くほどじゃないだろう。
それよりも王都に魔物が侵入しないようここで作戦をたてるべきだ」
「王都に魔物?」
ルシアンは聞き返した。
何を言っているんだ、コイツ。
「次官、これは異常事態ですよ」
立ち上がったルシアンは、冷ややかに見下ろす。
「王都には我ら魔法騎士団も大勢残りますし、十数名の王宮魔術師だっております。
ですが、街道は違います。
あそこは多くの商会や旅人、冒険者たちが行き交い、あの領地も現在先日の洪水で復興中。
地元の治療院すらようやく機能し始めたばかり。
だからこそ、この目でちゃんと確認して、迅速かつ適切な防御策を講じるべきでしょう」
「だったら尚更貴殿が出向く必要はない。
そんな商人や冒険者とかの平民、ましてや女官ごときより、まずは王都出入口に貴殿が防御結界を張るべきだ。
皇帝陛下の御命が最優先というのが軍師なのに分からんのか」
「女官ごとき……?」
ぎろりとルシアンは次官を睨みつける。
次官の肩が跳ねあがるように震え上がるものの、唾を飛ばしまくって反論する。
「平民や一人の女官の命より……っ、こういう時こそ、大勢の人間が住む王都を守るべきだと私は言いたかったんだ!
王都のすぐ近くに出現したのなら、魔物がこちらに攻め寄せてくる可能性だってあるだろう!?」
は? だから……何を言っているんだ。
ルシアンは深いため息をついた。
彼はグロウディーナ公爵の縁者。
その彼の勢力の一押しがあって文官出身者なのにこの地位にいるにすぎない。
武官の経験がないまったくの素人。
偉そうに物事を言うくせに、この国の軍事的な常識を何も分かっていない。
「魔物は王都に入って来んよ、次官」
総帥が椅子の手摺に頬杖をつき、怜悧に口を挟む。
「次官はご存知ないようなので教えてあげよう。
王城ならびに王都は、“境界の魔術師”のマインラート・ソシュール卿の強靭な結界で外部からの攻撃は防げるんですよ。
しかも、マインラートの聖魔法により魔物は侵入できない仕組みにもなってる。
これくらい基礎中の基礎。
覚えておいてもらいたいものですねぇ」
皮肉めいた総帥の言葉に、次官はムッとした。
「ですけどねぇ、万が一ってことがあるでしょう」
「万が一なんてありませんよ」
ルシアンは鋭く咎める声を出す。
「一番王都で怖いのは、結界内で反乱が起きること。
外部からの攻撃より内側からの攻撃。
次官。覚えておいてください、注意すべきは魔物より内部にいる人間です」
「はっ、何を言っている?
暴れ回るしか能のない粗暴な魔物の方が怖いに決まっているだろ」
次官は鼻で笑った。
「でしたら、こうお考えください」
ルシアンはやんわりと、しかしどこか威圧的な口調で続ける。
「街道に魔物が溢れたら、我々貴族はもちろん、商人や冒険者たちの生活にも多大な影響が出ます。
その不満や怒りの矛先は、やがて中央にいる皇族と我々官僚に向けられます。
今は一刻も早く現場へ出向き、魔物討伐および出没の原因を追求すべきなのです」
「その通りだ。
街道が使えなくなれば、物資が王城に届かなくなり、物価も高騰するだろう。
そちらの方が死活問題だ」
総帥は鷹揚に頷きながら、尋ねる。
「ちなみに、次官の訴えもまあ、一理ある。
ルシアン、他の守りはどうするつもりだ?」
「はい。王城全体は通常どおり第2騎士団と王宮魔術師の数人に巡回させ、次官が心配している王都周辺には第4騎士団と残りの王宮魔術師を向かわせます。
近隣の街や村には第5、6騎士団に注意喚起をさせ、私は第3騎士団と共に現場へ向かい、原因追及を最優先いたします」
「近隣の街まで騎士団を手配するなんて大袈裟な」
次官が失笑する。
少し間を置いて嘲笑うように言う。
「軍師たるもの、騎士たちの報告を待ち、王都で作戦を練るものです。
現場に向かうなんぞ言語道断ですよ」
「……ほう。確かに。
それも一理ありますね」
総帥が穏やかに頷き、それを見た次官の顔がぱっと輝いた。
「ですよね!」
「だがな、次官」
次官の言葉に被せるように、総帥が続ける。
「貴殿は魔物討伐の経験はないよな?」
総帥は真面目腐った顔つきで、次官を舐めるように見る。
「えっと、まあ……はい」
次官は気まずそうに頷いた。
「では、今後のためによ〜く覚えておいてください。
魔物とは水のように流動的だ。即座に対応を練らねば、魔素拡大によりユーモネア領地の『魔力漂う地』と合算し、さらなる魔物を呼ぶかもしれません。
あそこが魔物の巣窟となれば、その方が王都の危機になりますし、当然マインラートの結界の加護が薄い、近隣の街や村に被害が多く出ます。
であれば、早急に、圧倒的な魔力で魔物討伐が先決でしょ?」
「いや、しかし……」
「なんだ? ルシアンに直接出向かれては困ることでもあるのか?」
「いえ、そんなことはありません。
ただ、私は軍師たる者のあるべき姿をですね……」
「いいですか、次官。
もう一度言いますよ」
ゆっくりと威圧感を与えるように、強い口調で総帥が告げる。
「あそこが魔物の巣窟と化したら、今ここでルシアンという魔力の塊を向かわせなかった貴殿に、すべての責任が降りかかりますよ」
にっこりと総帥は微笑む。
だが、どこか恫喝を思わせる声音に次官がぐっと詰まった。
「次官、ルシアンの討伐遠征に異論はあるかな?」
「……いえ。異論はございません」
次官は気圧された様子で、承諾した。
「よろしい」
総帥はテーブルの上に手を乗せ、ルシアンを見据えた。
「ルシアン・クレインバール軍師、第3騎士団員を連れ、ユーモネア領地に出没した魔物を討伐せよ」
総帥の声は低く、誰もが有無をも言わせぬ威圧感が滲んでいた。
「承知いたしました」
ルシアンの口角はニッと上がり、胸に手を当て、深々とお辞儀をした。
***
ルシアンは数名の騎士たちと飛行魔法と風魔法を駆使し、先行部隊として物凄い速さで討伐に乗り出した。他数名は馬を引き連れて後から来るよう指示した。
先程の次官のあの様子は奇妙だった。
(まるで、俺をユーモネア領地に向かわせたくない感じだったな)
どうもあの次官は胡散臭い。
一見美しく上品なところが、さすがグロウディーナ公爵の縁者だと思う一方、常に騎士たちを見下し、保身的で酷薄な性格。
信用できないというか、何か腹に一物を抱えているというか。
特に肌に纏わりつく嫌な視線。
曇り空を鳥が低く飛んで行く。
頬に当たる風は、湿気を帯びて生暖かい。
なんだろう、物凄く嫌な感じがする。
それに、こう湿度が高いと集中力が途切れやすくなる。
ねっとりとした水分に不快感を覚える。
「ルシアン様!」
切迫した声。
ルシアンはハッとして、気持ちを切り替え、声を上げたトーマスを見た。
トーマスが指差す方向。
鬱蒼と茂る森の間を直線の大きな街道が走っている。
そこに、蟻の群れのような黒い物体の集合体。
そこで魔法を使って奮闘するローゼル・イースティリア。
そして、赤髪の剣を持つ男。馬車の御者だろう。
よかった、生きている!
そう胸を撫で下ろした次の瞬間、彼女たちを囲う魔物の異様さに息を呑んだ。
「なんだ、あの奇怪な生き物は⁉」
ゾッと鳥肌が立った。
かつて遭遇したことのない、得体の知れないグロテスクな魔物。
やけに巨木のように太い胴体にいくつもにょきにょきと首から生えている顔。
アレは、一体何の魔物だ?
「顔がいっぱいついているのが、魔力の強い魔物ですね。
他は弱っちいグールですかね?
やけに数が多いなぁ」
トーマスが呟いた。
「ああ。行くぞ」
一気に下降する。
「うっ……」
凄まじい異臭が鼻についた。
近くに寄れば寄るほど分かる異質な魔物――。
魔物だけど、人間の魔力に近い波動。
人間の皮や頭部を無理矢理繋ぎ合わせたその姿に既視感を覚えつつ、警鐘が鳴る。
さらに、ローゼルたちを襲うグールの群れもどこか奇怪だった。
「マジかよ、死肉を漁るはずのグールが生者を襲おうとしているぞ」
他の騎士たちも動揺が走る。
奇妙、ちぐはぐ、アンバランス――まさに、異常だった。
御者の男が異形の魔物になぎ倒され、石畳に倒れ込んだ。
ローゼルが何度も水の攻撃魔法を魔物たちに放ち続ける。
息は荒く、動作も鈍い。
魔法を使うたびに顔が青ざめ、限界が近いのは明らかだった。
このままでは、死んでしまう……!
考えるより先に、ルシアンの唇は詠唱を紡いでいた。




