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カァーム・ビュラクラト ―社畜女官ローゼルの婚約破棄奮闘録― 私は何も望まない  作者: 兎丸 蓮


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第134話 好青年の仮面と、継母が嫁いだ日の予感

 シャルルと初めて会った時、ローゼルは母親を亡くした悲しみに打ちひしがれていた。


 どうして、お父様はお母様のことを大事にしていたはずなのに、すぐに妻を娶ることにしたの?

 私たち兄妹は子どもながらに訝しげに思ったし、新しい母親を歓迎していなかった。


 ――でも、優しい方だったら、ちょっと譲歩して形だけでも懐いてやろう。


 兄は、出迎える前に私にそう囁いていた。


 屋敷の玄関で出迎えた後妻の女。

 やけに派手な顔立ちの女性。

 美しいけれど、どこか歪で、どこか不吉な気配を漂わせた人――


 なんでお父様はこんな女を後妻に据えるのか。

 兄と私は不服だった。


「シャルル。嫡男のアルバートと、長女ローゼルだ」


 父はどこか険しい顔つきで、彼女に私たちを紹介する。

 不思議だった。

 新しい妻が来たというのに、なぜか父は怖い顔をずっとしていたから。


 ぱっと大きな彼女の瞳がこちらを見た。

 その瞬間、何か鋭いもので心臓を貫かれたような気がした。


 それは兄も同じだったと思う。


 激しい恐怖心に襲われ、これから起きるだろう嫌な予感が掠め、それは私の中で極限まで膨れ上がっていた。


 だけど、いかんせん私たち兄妹は、お行儀が良すぎた。

 だって、建国以来皇帝陛下に忠誠を尽くす由緒正しきイースティリア家の子孫だからだ。


 大人には大人の事情というものがあるのだろう。

 そう察して、兄と美しい所作で挨拶をした。


 彼女のその時の表情は忘れない。

 汚らわしいものでも見るような目つき。


 侮蔑、憎悪、嫌悪。


 彼女は明らかに私たち兄妹を敵視し、私たちの母親になることを拒絶した。


 この人とはうまくやっていけない。


 兄がぎゅっと私の手を握った。

 視線は継母に向けたまま、兄はかすかに身をよじり、苦しそうな目をした。


 曇った生暖かい夕暮れだった。

 鬱蒼とした庭のクリモナの木が風に唸り、揺れる。


 今思えば、私たち兄妹の予感が、図らずも当たっていたんだ。



***



 洞窟の外の岩を打つ雨音と、静かな炎の揺らめき。


 ——いいですか、供物扱いではなく、生贄『様』と彼らに呼ばれているのです。

 貴女は彼らにとって唯一無二の存在。

 だからこそ、今後、身の回りに気を付けてください。

 特に周囲にいる男性に。


 慎重なギルベルトの声が響いた。

 想定外の忠告に、ローゼルは心臓がドクドクと鳴った。


「男性に? 

 ですか?」


「ええ、男性に、です」


「女性は問題ないんですか……?」


「アミラス教というのは、男は論理的で知的。女性は感情的で愚鈍。

 ——天の法は厳格にして明晰、これを体現する男こそが神の代弁者にふさわしい。

 愚鈍なる雌たちは自らの意志を持つことを禁じられ、ただ男の定めた道徳の網に絡め取られるためにのみ存在している。これが奴らの教義です」


 ギルベルトは皮肉な笑みを浮かべて言った。


「要は女は男のために生きろ、そういうことですよね。

 確かに、継母は私にそういう生き方こそが相応しいとずっと言い続けていました」


 ローゼルは自分の声に怒りが含まれていることに気がついた。

 無意識のうちに、彼女への恨みつらみが滲み出てしまっていたようだ。


 女の幸せは、男に仕えてこそ。

 女には自立心も経済力も、自衛知識すらいらない。

 だから、レオーネの浮気の一つや二つ我慢しなさい。


 ギルベルトの全身からアミラス教への嫌悪と苛立ちが強く沸き起こる。


「奴らは、女は男に素直に従うもので、言い寄らせれば簡単に落ちると考えているんです。

 貴女を色香で惑わせようとしてくる男には気をつけてください」


 強い警告を発するギルベルトに、ローゼルは静かに頷く。


「ご忠告ありがとうございます。

 でも、それって、妹さんにもそういう男性が近づいてきたということですか? 

 だからそう言い切れるんですよね?」


 ローゼルの問いかけに、ギルベルトは面食らったような顔をした。

 どうやら図星だったみたいだ。 


「ええ、そうです。

 妹は、一人の男に恋をしたんです。

 罠だとも知らずにね」


 一段とギルベルトの声が低くなった。

 歪んだ笑みを浮かべたまま、ギルベルトはお茶を淹れ終えた。


「はい、熱いから気を付けて」


 そう言ってマグカップを差し出した。


「ありがとうございます」


 手渡す瞬間、ギルベルトと目が合った。

 氷のように冷たいと思っていた彼の瞳が、やけに優しくて目が吸い寄せられた。


「妹はこのお茶が好きでした。

 ちょっと癖があって、でも身体が温まるから好きだと」


「分かる気がします。

 私もこのお茶の独特な感じ、好きになりそうです」


 ローゼルははにかむように微笑んだ。


「お気に召していただいたようで嬉しいです」


 ギルベルトは、口角に僅かに笑みを浮かべ、自分のカップにお茶を注ぐ。


「——こうやってその男とも、テーブルを囲んで家族でお茶を飲んだんですよ」


 苦々しい表情で、ギルベルトはその場に腰を下ろしたまま、俯いた。


「その……、男の人は妹さんの恋人のフリをしていたってことですか?」


 ローゼルもその隣に腰を下ろした。


「そうです」


「どこでお知り合いになったんでしょう?」


「職場です。

 妹は街の商業ギルドの秘書官として働いていたんです」


「へえ、すごい。

 商業ギルドの秘書官って、マルチタスクをこなせる人でないといけないと聞きます。

 しかも十代で。

 きっと優秀な方だったんですね」


「そうですね、脳筋の俺よりも賢かったです。

 よく妹に叱られましたよ、文字の綴りが違うとか、計算が間違っているとかで」


 ギルベルトは小さく笑った。

 目元がくしゃっとなって、精悍な容貌がたちまちあどけなくなる。


「自慢の妹さんですね」


「ええ、自慢でした」


 ギルベルトは、かすかに微笑んでお茶を飲む。

 彼がいかに妹を大切にしていたのか、その思いがひしひしと伝わってきた。


「私の兄も、いつも私のことを心配してくれていました。

 今、留学してるんですけど、留学した直後なんて驚くほど分厚い手紙が毎日のように届いたんですよ」


 その時のことを思い出して、ローゼルの口元に笑みが浮かぶ。


「でも、あまりにも分厚いから読むのも大変だし、返事を書くのも大変で……。

 ましてや、それが毎日となると辟易しちゃって。

 だから兄に、『手紙は一ヶ月に一度だけでいいから、便箋三枚までにして!』って、怒っちゃいました」


「そうですか。

 よっぽど心配性のお兄さんなんですね。

 俺も妹と離れて暮らしていましたが、さすがに分厚い手紙を毎日書く気力はなかったですね」


 クスクスとギルベルトは笑った。


「ふつうはそんなもんですよ。

 もうね、こ〜んなに分厚かったんですよ。

 ちょっとした辞典です」


 ローゼルは親指と人差し指を使って、どれだけ厚みがあったかを伝える。


「あはは。それはすごい。

 俺の妹もよく手紙をくれましたよ。

 せいぜい便箋一枚でしたけどね」


「それがふつうですよ」


 ローゼルは熱々の湯気の立つお茶をフーフーしながら口をつけた。


「そういえば、その男とのことも手紙で教えてもらいましたね。

『今度会わせたい人がいる』って」


 会わせたい人。それは将来を約束した男性だ。

 ギルベルトは、続ける。


「——相手の男は庶民の学校の教師でした。

 知り合ったキッカケが、子どもたちが作った作品をギルドでバザーを開いて売り出してくれないか、と打診に来たことだったらしいです」


「学校の教師ですか。

 それはなかなか手堅い職業ですね」


「ええ、そこに騙された感じは否めないですけどね」


 ギルベルトは自嘲したような、それでいて怒ったような声で呟いた。


「仕方ありません。

 相手の男性の職業が教師というのは、それだけで安心しちゃいます。

 だって、聖職者と同じ社会的権威があるというか、伝統を重んじる貴族なら娘の旦那にぴったりだと思ってしまいますよ。

 マルコシアス卿のご家族が騙されちゃうお気持ちも分かります」


 ローゼルが慰めるように言うと、ギルベルトは驚いた表情でローゼルを見た。

 しばらくして、ふっと小さく笑う。


「イースティリア嬢は、お優しい方ですね。

 そう言ってもらえると、救われます」


「そうですか? 

 だって、逆の立場なら——そう、これがもしお兄様に、教師をしている綺麗な女性を紹介されたら、私、騙されちゃいます。

 素敵な人を捕まえたね、お兄様、やるじゃないって」


「ああ、なるほどね。

 それもそうかも」


 奇妙な笑みを浮かべたまま、焚火に視線を向けてギルベルトはお茶を飲んだ。

 ローゼルもつられて一緒に焚火に目をやった。


「優秀な妹さんの選んだ男性だから大丈夫。そう信頼していたからこそです。

 一番悪いのは、そういう人たちの思いを踏み躙《にじ》り、騙した側の男です」


 あえて、ローゼルは彼の怒りに同調して言い切った。

 小さくギルベルトは笑って、ふと押し黙る。


「言い訳じゃないんですけど」


 ギルベルトはボソっと口を開く。


「うちの家族は、イースティリア嬢のおっしゃるとおり、その手堅い職業だけで安心感を抱いていました。

 年齢はかなり上だったけれど、妹はいい婿を捕まえた、将来安泰だ、とね」


 そこでギルベルトは言葉を切った。


 ローゼルは顔を上げて、ギルベルトを見た。

 きつく眉をひそめ、焚火を見つめるギルベルトの横顔。

 深い後悔が滲んでいた。


「正直言うとね、あの時、なんとなく嫌な予感があったんです。

 ——恋は盲目ともいうでしょ? 

 ちゃんと止めるべきだったのに、俺は止めれなかった」


 語尾には、まるで自分を責めるかのような響きがあった。

 火の粉が揺れる。


「とても印象に残る男でね。

 彼は端正な顔立ちで、格好は毎回白い開襟シャツに灰色のズボン。

 教師によくあるスタイルなんでしょうが、いつもきちんとピリッとアイロンを当てたシャツを着て、痛いくらい清潔感のある男でした。

 だけど、教師にしては、やけに無駄なものをすべて削ぎ落としたような殺伐とした雰囲気、身体に贅肉は一切ない。

 まるで、兵士のような——どことなく不吉な気配がしました」


「兵士……」


「そう。獰猛さと残酷さを秘めたような不気味さがあったんです。

 でも、妹は完全に彼に惚れ込んでいて、俺なんかが言っても聞き入れてくれない、というか……」


 諦めの混じった声で、ギルベルトはゆっくり首を振った。


「妹ってそういうところ、ありますよね。

 身内の言う事が、すごく身勝手に感じて反発するというか……」


 ローゼルは用心深く言葉を探した。


「相手の方も教師をやっているくらいです。

 さぞかし賢い方だったんでしょうね。

 それに、毎日教壇に立って教鞭をとっているんです。なんだかんだ弁も立ちます。

 そんな凛々しい年上の男性に、十七歳の女の子が憧れ、惹かれるのは、なんとなく分かります」


 凛々しい年上の男性——。


 あの頃のローゼルにとって、それがルシアンだった。

 決して、手の届かない御仁。

 強く鋭い輪郭を持った彼の後ろ姿。


「ちょっと脱線するんですけどね。

 私、入省当時、若い官僚の方たちからお菓子をいっぱい差し入れしてもらってたんです」


 ギルベルトがちらっとローゼルを見た。

 ローゼルは醒めた声で話す。


「あの時は、それこそ十六、七歳の子どもで、相手が官僚の方ばかりだからと、お菓子を素直に受け取っていたんです。

 みんな善意で『お仕事、頑張れよ』という激励でくれたんだなぁって思って。

 でも、同期からそのお菓子、気をつけた方がいいって言われたんです」


「どうして?」


 興味を持ったのか、ギルベルトが身を乗り出した。


「ワンチャン狙う独身官僚たちが、お菓子に強力な媚薬を含ませている可能性があるからって」


「え? 媚薬?」


 ギルベルトはぎょっとした。


「はい。物騒でしょ?」

 

 ローゼルはゆっくりとギルベルトに視線を投げる。


「でも、そうやって令嬢とお近づきになりたい殿方もいて、実際調べてみたらほとんどが同期の言う通り、媚薬入りでした」


「うわ……。それは最悪ですね」


「そうなんです。

 だからこそ、第三者の目は絶対に必要って思ったんです。

 同期の彼女がいなかったら、どうなっていたか分かりません」


「確かに。

 十六、七歳の女性が、悪い大人の男の狙いを見抜けるほど、目が肥えているとは思えませんね。

 やはり俺たち家族が、妹の危険な恋に待ったをかける最後の砦になるべきだったんですね」


 すでに終わったことだ。

 だけど、ギルベルトには後悔以上に、確信に満ちた何かを掴んだかのように強く頷いていた。


 マグカップを持たない手を強く握りしめてギルベルトは、淡々と話し始める。


「実はね、妹に彼を紹介された数日後、近所の人が教えてくれたんですよ。

 彼が王都の路地裏で男と口づけをしているのを何度も目撃したことがあるって」


「男性と? 

 ふざけ合っているわけではなくて?」


 ローゼルは目を瞬いた。


「俺も狐につままれたような気持ちでした。

 だけど、あまりにもみんなが心配するので、彼の身辺を探ってみたんですよ。

 そうしたら――」


 ふいにギルベルトが居心地悪そうに身をよじった。

 やがて、その重い口を開く。


「二つ事実が判明しました。

 まず、みんなの言うとおりでした。

 彼は同性愛者であり、男と同棲していました」


「同棲……。

 彼には男の恋人がいたということですか?」


「ええ。

 浮気相手は、妹だったんです」


 浮気相手は、妹。


 ギルベルトの声には、静かな絶望があった。

 苛立ちと打ちひしがれた表情。


「それだけじゃない。

 彼が白い装束と頻繁に会っていた」


「白い装束って……」


 ローゼルは息を呑んだ。


「そうです。

 お察しの通り、彼はアミラス教徒だったんです」


 ギルベルトの口調に、じわじわと不穏なものが含まれている。

 ローゼルは、その気配が少しずつ自分にも伝染してくるのを感じた。


「俺は半信半疑で、仕事終わりの彼を尾行しました。

 彼は迷わず郊外の裏通りを通り抜け、目立たないところに建っている教会に、白いガウンを着て入っていきました。

 何の躊躇いもなくね」


「教会に? 

 インリューラーク王国では、アミラス教に教会の建設は許可しているんですか?」


「いいえ、危険視している宗派なのでそんな集会所を開くなんて断じて許可しません。

 表向きは、孤児院まであるちゃんとしたヴォンミロク教の教会です。

 ですが、実際は……」


 そこでギルベルトは言葉を切った。

 彼は唇をきゅっと一文字に結んでいた。目には抑えきれぬ憤怒が覗く。

 

「それも一度や二度ではない。

 彼は、かなり頻繁に出入りしていました。

 調べていくうちにあそこは、『アミラス教 黒の杖』の集会場だと判明しました。

 ――しかも、教会の孤児を異国の貿易商に引き渡してました」


「それって、ひょっとして……」


 ローゼルの頭に恐ろしい考えが思い浮かぶ。


「人身売買です。教会もグルです」


 その一言をギルベルトが口に出したことで、改めて不安を掻き立てるような衝動がローゼルの身体の中を駆け抜けた。


「……インリューラーク王国も、奴隷とか人身売買は禁止されているはずですよね?」


「ええ。ですが、この国でも暗部の根っこはまだ残っているでしょ? 

 貧困層の親が子どもを売り、女の子は娼婦館に売り渡す。

 貴族たちはこっそり奴隷を買い取って、死ぬまで重労働させたり、ペットの魔獣の餌にしたり……。

 故郷も同じです」


 ギルベルトの声は低く、暗くなっていく。


 ローゼルは、むかむかとした嫌悪感が込み上げた。


 落ち着くためにお茶に口をつける。

 お茶の味がひどく苦く感じた。


「だから、俺は直接本人に問い詰めたんです。

 どういうことか、と。

 そうしたら、彼は必死な形相で弁明しました。

『誤解です。ですが、このままでは思い違いしたままになるでしょうから、明日改めてお話をしに参ります』と、誠心誠意のこもった態度で言ったんです。

 だけど、結局、彼は翌日姿を消しました。

 そして、妹も――」


 そこまで一気に話し終えると、ギルベルトは遠い目をした。

 当時のことを思い出したのかもしれない。


 ローゼルは言葉が出なかった。

 こういう時、どう声を掛けていいのか。


 仇――その彼が妹を誑かした。


 その先の展開はなんとなく予想できた。


 沈黙が続いた。

 ローゼルは辛抱強く、ギルベルトが話し出すのを待った。

 

「それで、街のみんなも総出で妹と男を探してくれました」


 沈んだ口調。


「ですが、数日後、遺体で発見されました。

 それも無残な姿で――全身の血は抜き取られ、右足や鼻がもぎ切られ、内臓まで抜き取られ……」


 ギルベルトの全身がわなわなと震え上がって、顔を伏せた。

 封じ込めていた感情が蘇っているのかもしれない。


 自分の中の怒りを必死で抑え込み、唇を強く噛み締め、目は僅かに充血している。


 ローゼルは、胸のどこかがぎゅっと苦しくなった。


 猟奇的な犯罪の犠牲者となった妹。

 その遺体と対面したとき、どんなに辛かっただろう。


 ローゼルの頭の中で、午前中の葬儀の様子が蘇った。


 泣きじゃくる子どもたち。

 肩を震わせて涙を拭う夫人。

 周囲には彼の生前を思い出し、心を痛める参列者。


 一歩間違えれば、私も近い将来、同じ目に遭う。


 今回運よく逃げのびたけれど、彼らが諦めたとは到底思えない。


 改めて恐怖心が襲ってくる。

 ぶるっと全身が震えた。


「——妹の捜索に当たった騎士団員の話によると、彼は闇社会では名の通った工作員だったそうです」


 のろのろとギルベルトは話し続ける。


「妹のことを大切にしている素振りを俺たちに見せながら、妹以外のギルド同僚女性とも懇ろになって、商業ギルドの情報も盗み出していることも発覚しました」


「え? 恋人がいるのに?」


「そうです。

 結局のところ、彼は工作員で、自分の目的のためには何でもやる男だったんです。

 俺の嫌な予感は的中したんです」


「彼の目的……」


「ギルド内の情報と、貴女と同じ魔力のイロを持った妹の肉体――供物ですよ」


 絞り出すような彼の苦しい声に、複雑な痛みがローゼルの背中を駆け抜けた。

 バチッと焚火が火の粉をはじいて燃えた。


「だから、気を付けて」


 ギルベルトがそっとローゼルの頭を撫でた。

 どきっとした。

 彼と目が合った。


 さっきと同じ目だ。

 ローゼルを通して、妹を見つめる情愛の眼差し。


「君は妹以上に濃い色をしている。

 君を彼らは諦めないよ」


 ローゼルは胸を衝かれた。


「奴らは年数をかけて君をじわじわと追い詰めている。

 特に継母が君の父上のところに嫁いできた時点で何か罠が仕掛けてあるはずなんだ」

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