第129話 仕掛けられた爆弾、届いた凶報
ローゼルが誘拐され、墓地では法務省とオークレー次官たちが対立している頃——
ルシアンとアランが窓下にいる騎士たちを冷ややかに見下ろしていると、扉のノックもおざなりに、第2魔法騎士団副団長マッシュ・モラレスが、ルシアンの執務室にひょいっと顔を出した。
「ルシアン様、失礼しますよぉ」
続いて、第3の副団長テラリス・フォージクも顔を出す。
「失礼します」
ルシアンとアランは顔を見合わせた。
それに、同じ副団長同士だが、なかなか見ない組み合わせだ。
「おっ、ラッキー。アラン様もいらっしゃるじゃないですか。
報告の手間が省けましたよ」
さっきまでオークレー次官に屈辱感を与えられて、腹を立てていたマッシュのはずだが、やけにご機嫌がいい。
「どうした? 珍しいな。
お前ら二人揃って顔を出すなんて」
ルシアンが二人の顔を交互に見た。
「いやぁ、俺じゃ鑑定はできても分からないことがあったんで、テラリスを引っ張ってきたっすよ」
「マッシュじゃ鑑定できない?」
訝しげにルシアンが表情を曇らせるが、マッシュはどこか興奮を滲ませて話を進める。
「っていうか、すごいもんをレイノルド、ネイト書記官コンビが俺に託していったんですよ」
「すごいもの?」
今度はアランが聞き返した。
「はい。すごいものなんですよ」
マッシュは、ガラス瓶に入った赤黒い鉄の留め具を執務席の上に乗せた。
ガラス瓶は分厚いコルクでその口を閉じられ、上からは長細い紙がコルク蓋の部分を開封できないように貼ってある。
長細い黄ばんだ紙には、何やら見たことがない赤いインクの文字が、さらさらと書かれている。
「なんですか、これ。
馬具か何かの装備の部品ですか?」
アランが瓶の中身を覗き込んだ。
「そう見えるでしょ?
ですが、違うんですよ」
マッシュは、チッチッと指を振って、アランの隣に来て瓶の中身を指差した。
「ほら、刻印がうっすらと見えますか?」
「刻印?」
ルシアンも眉をひそめて、瓶の留め具にじっと目を凝らす。
言われてみれば、表面には古びた刻印がある。
「これ、一種の爆破物なんです」
「爆破!?」
ルシアンとアランはぎょっとして、得意気な顔をするマッシュを見た。
「はあ……」
そこへ大きくため息をついたテラリスが額を押さえる。
「マッシュ、それでは逆にルシアン様たちを驚かせるだけでしょ。
言い方、もう少し注意してください」
「いいじゃん、分かりやすくて」
その口調はどこか得意気だった。
「そういう問題じゃないです」
辟易したような顔つきでテラリスが、驚くルシアンとアランの顔を交互に見据えた。
「確かに、結論から言えば、マッシュが言った通りの爆破物の破片です。
念には念を入れて封印処理を施しておりますので、断じて爆破することはありません」
冷静なテラリスの声が響いた。
ルシアンとアランは互いに狼狽した表情を浮かべながら、安堵した。
「では、順を追ってご説明いたします」
テラリスは硬い声で話し出す。
「もともと、これは今朝出張したネイト・ファーヴァ書記官に支給された遠征用アイテムバッグに入っていた前の担当者の忘れ物です。
ファーヴァ書記官が荷造り時に発見し、レイノルドからマッシュに手渡されました」
「ほう。忘れ物か。
ちなみに、いつの遠征に使われた時のバッグだったんだ?」
ルシアンは落ち着きを取り戻し、椅子に座り直した。
「グロウディーナ公爵領地の洪水の被災地支援に駆けつけた時です」
「ひょっとして、軍部のアイテムバッグにそれが入っていたということは、意図的に誰かが仕込ませたということか?」
眉間にしわを寄せるルシアンに、テラリスは首を振った。
「いいえ、当時の担当者に問い合わせたところ、自分の馬の予備金具だと思ってカバンにしまいこんだままだったらしいです。今の今まですっかり忘れていたとのこと」
「要は、意図せず、うっかり持って帰ってしまったんですよ」
マッシュが付け加えた。
「なるほど。アイテムバッグはちょっとした異空間です。
爆発することなく保管できたのは、そういう異次元にあったからなんですね」
アランが顎を撫でた。
「そうだと思います」
テラリスは真剣な顔つきで頷いた。
「んで、刻印がある留め具なんて、すげぇ怪しいと思って、俺が鑑定魔法を掛けてみたんですよ」
マッシュが続ける。
「そうしたら、これは水に沈められると数時間後には爆発を起こす危険物だったんです。
ほんの僅かですが、火薬も付着してました。
たぶん、爆発してその残った破片的なものが、これじゃないのかなぁと思いますね」
ぐいっとルシアンとアランに、マッシュは瓶を再度突きつけた。
「火薬が……」
ルシアンとアランは、訝しげな表情を浮かべて顔を見合わせた。
火薬はこの国では軍部以外持つことを禁じられている。
無論、異国からの輸入に関しても厳しく制限してある。
「で、俺はこの留め具のなんとな〜くの正体までは突き止めれたんですけど、刻印に何が書かれているのかは全然わからなかったんで」
そこでマッシュは言葉を切った。
彼の視線はテラリスに向けられる。
「マッシュが私を呼んだのはまさに天性の勘ですね。
お手柄と言えるかもしれません」
テラリスは苦々しく笑った。
「だろ?」
マッシュは誇らしげに顎を反り上げた。
ルシアンとアランは二人の話の先が見えず、首を捻った。
「この刻印の文字――呪術です」
テラリスが断言した。
ルシアンとアランは、息を呑んだ。
「何者かがグロウディーナ公爵領地内を流れる大河の沿岸の堤防に仕掛けたんです。
実際の爆破物は私の握りこぶし二つ分くらいの大きさと思われます」
「爆弾か」
ルシアンの声が慎重になった。
「はい。これはその爆弾の破片ですが、呪術の刻印が生きている限り、破片でも危険ですので封印しております」
「――それでは、テラリスは、あの河川の氾濫が人為的だったというんですね?」
アランが尋ねた。
その声音には警戒が強く含まれ、部屋の空気がピンと張り詰めた。
テラリスは静かに頷く。
「はい。もともとあそこの領地は、魔法の力を使わずに自力で河川工事を行い、堤防も何代も前から領民一体で築き上げてきたものです。
その成果もあり、前グロウディーナ公爵の代からは、どんなにひどい雨天だったとしても川は氾濫してません」
「そうだな、あの領地独自の治水技術は目を見張るものがある」
ルシアンがそう呟くと、全員が「そうですね」と同意を示した。
ごうごう流れる濁流。
川は領地の生命線でもあるからこそ、水害を防ぐために長年石と土で幾重にも積み上げ、鉄杭で補強された堤防がある。
「あれを魔法なしで築き上げれるのは、魔法使いの少ないグロウディーナ公爵領民ならではの知恵と技術の賜物です。
とはいえ、こんな爆破物を使われては、どれだけ頑強な堤防でも陥落します」
「確かに。
グロウディーナ公爵領の水害は、想定外でしたよねぇ。
これが人為的なら許されないっすよ」
マッシュは頭の後ろで手を組んだ。
「仮にだ、これを水に漬けたら、どれくらいの爆発規模になるんだ?」
ルシアンの質問にテラリスは即座に答える。
「不謹慎ではありますが、分かりやすく言えば、魔法省のすべての塔が簡単に吹き飛ぶでしょうね」
「全部なのか……」
ルシアンは息が詰まった。
「魔法省の塔は、対外戦争に備えて国家防衛の結界と最高硬度の特級石材で四重に固められた、我が国で最も堅牢な四つの建屋で構成されていますよ。それが全部ですか……?」
信じられないと言わんばかりに、アランは口元に手を当てて驚いた。
「かなり規模が大きいな」
「はい。それだけグロウディーナ公爵領地の河川の堤防は頑丈なんですよ。
堤防決壊の話を聞いた時は、少々懐疑的ではありました。
ですが、私もあの地で復興支援に尽力した身。
あれだけ立派だった堤防の陥落をこの目で見ています。
どれだけすごい技術の集大成でも、自然の脅威には太刀打ちできない。
だから、これはやむを得ない決壊だと思っていたのですが」
テラリスは言葉を呑み込んだ。
「ルシアン様。
あの水害で、一万近くもの領民が亡くなりました。
政治界隈では、邪教アミラス教徒と繋がりがあるのではと疑われているグロウディーナ公爵ですが、彼は領民には慕われている立派な領主です」
アランがルシアンを見た。
「ああ。
我々には反骨精神の塊のような御仁ではあるが、領民を大事にしていることは俺も知っている」
ルシアンはテーブルに両肘をつき、指を組んで顎を乗せた。
――人事会議と食糧供給緊急会議の日程が被ったのは偶然ではなくて、意図的だったかもしれません
ふいに、ローゼルの声がルシアンの頭を掠めた。
そうだ、ローゼルはあえて前ビアード伯爵が商会を利用して水害報告を遅らせたのではないかと推論していた。
その混乱に乗じて、オークレー次官を就任させるために——
「なるほどね」
ルシアンは薄ら笑いを浮かべた。
みんなが訝しげにルシアンを見た。
「テラリス。お前の推測は正しいかもしれない」
「やはり……」
ピクリとテラリスのこめかみが動いた。
「軍部を牛耳りたい連中は、使い勝手のいい駒として、オークレー次官を就任させたい。
だが、外国籍貴族の彼の就任には、大半の大臣は慎重だ。
十中八九、反対する。
であれば、強行人事を可決するために、反対派が出席できないほど大きな別会議を開けばいい——
それがあの緊急食糧供給会議だった」
ルシアンは独り言のように呟く。
グロウディーナ公爵領地の小麦はこの国の生命線だ。あそこはこの国最大の小麦産地であり、不作となれば、民の食糧不足に直結する。
(なかなか壮大なスケジュールで仕掛けてきたじゃないか)
川の堤防を自然災害にみせかけて爆破。
爆音は大雨と川の轟音で立ち消える。
領民たちの多数が、そして、彼らが一生懸命育てた小麦などの畑も氾濫した川の犠牲になる。
こういう異常事態は、本来ならすぐさま公爵に連絡がいくはずだ。
だが、それすらも人為的に遅らせたら――ますます被害は膨らむ。
「ルシアン様の先程の発言から導き出される結論としては——
グロウディーナ公爵も、今回に限っては戦争推進派の貴族の餌食にされているということでしょうか?」
アランが神妙な顔つきで尋ねた。
「恐らくね」
グロウディーナ公爵家を中心に集まる戦争推進派貴族たち。
いわば、彼らは非魔法使いの血統の集まりでもある。
ちらほら魔法使いが誕生しても、そこまで目立つほどじゃない。
だが、戦争に赴くのは、自分たちとは疎遠で、邪魔な武装魔法使いたちばかり。
魔法は奇跡の力。
魔法は絶対的な力。
だからこそ、非魔法使いの貴族たちは、私腹を肥やすために戦争を推進する。
「外戚政治でグロウディーナ公爵家は、みんなの知ってのとおり、非魔法使いの血統だが、かなりの切れ者。
代々続くその地位を不動なものとしている。
現に公爵の外交手腕は大胆不敵だ。
強硬派で、好戦的。
だが、逆にそれが功を奏して、我が帝国に戦争を仕掛けようとする周辺諸国は滅多にない」
「ええ、そうですね」
「あの交渉力は凄いですよ」
みんなが同意する。
「だが、それが、戦争推進派には歯がゆかったのだろうね。
いつまで経っても、軍部は代々武官貴族が独占し、侵略戦争をする気配もさらさらない」
ルシアンのその台詞にみんながハッとする。
「なるほど。
いっそのこと、グロウディーナ公爵家の衰退を狙ったんですね。
役に立たないのならば、沈めてしまえばいい。
そうすれば、次に生産量が多いのは、ウルーム伯爵領です。
あの領主は、中立の立場ですが、実際は好戦派。
我々、魔法騎士団に対して反感を抱いています」
アランの淡々とする声に、テラリスとマッシュは、目を見開いた。
「そうだろうね。
そういった現状を考慮すると、自分たちの悲願をいつまで経っても達成しようとしないリーダーの公爵は不要。
リーダーを鞍替えすればいいだけの話。
そうなっても、おかしくない」
ルシアンは頭を整理しながら呟く。
「では、次のリーダーは誰か。
そこが問題だ。
公爵ほどの権力を持ち、カリスマ性がある。
そんな者は滅多にいない。
オークレー次官や前ビアード伯爵では器が違いすぎる。
他にいるはずなんだ、戦争推進派が次世代リーダーに据えようとしている奴が――」
そいつがローゼルを狙っている。
ルシアンはそう強く確信した。
だが、証拠は何もない。
「俺の直感で申し訳ないんだが、これはアミラス教の——『秘密結社 黒の杖』とも深い結びつきがあると思っている」
ルシアンはゆっくりとみんなの顔を見廻した。
「これまた、面倒な連中が出てきましたね。
ただ、アミラス教や『秘密結社 黒の杖』は呪術に重きを置く胡乱な集団であり、この刻印とも辻褄は合います」
アランは苦笑を浮かべた。
「俺、ルシアン様の直感、全面的に信じますよ。
現物主義者の俺ですけど、たいていルシアン様の見立て通りに事件が解決してましたからね」
マッシュが言った。
「そうですね。
ルシアン様の勘が外れる時は、大概我々の常識範疇外なことが起きている時ばかり。
呪術が絡むと、それは顕著ですが。
まあ、そもそも呪術が特殊ですからね。
ですが、そのために私が第3魔法騎士団副団長に任命されているんです。
ここで奴らが絡むなら、それこそ私の出番です」
テラリスが、不敵に笑った。
「ああ、そうだな。頼りにしている」
ルシアンは小さく笑った。
彼の母親はマリュード皇国の元貴族であり、呪術師だ。
訳あってこの帝国に亡命し、皇帝陛下の許可の元、母親と密かに呪術の研究をしている。
「では、やることは決まりましたね。
ルシアン様の直感を勘で終わらすのではなく、証拠固めをするとしましょう」
アランがルシアンに含蓄ある流し目を向けた。
「そうするか。
だが、偏見や先入観には囚われるな。証拠がすべてだ」
「はーい、承知っす」
マッシュは軽く返事をする。
だが、その目は真剣だ。
こんな性格だが、彼は最も不正を嫌う正義感の強い男だ。
「では、早速だが、テラリス」
ルシアンはテラリスを真っすぐ見た。
「再度グロウディーナ公爵領地に出向き、現場確認をして来い。
何か他にも証拠が残っているかもしれない」
「御意」
テラリスは気を引き締めた顔つきで敬礼した。
「それからその後、エヴァンのところにも出向いて欲しい」
「え? エヴァンのところですか?」
不思議そうにテラリスは目を瞬いた。
「ああ。以前、お前たち第3魔法騎士団がクロフォード、ヴァービナス女官と見つけた遺体の保管庫。あそこ、エヴァンの領地だっただろ?」
「ええ、まあ」
「あの遺体はゴルマン伯爵領地だけじゃなく、ユーモネア地域全体で起きた川の氾濫に便乗して盗み出されたものだ」
その言葉に全員がハッとする。
「そうか、あそこも川の氾濫で水害被害に遭った地域だ」
マッシュが声を上げた。
「そう。あの川の氾濫も怪しい。
一度確認をしてきて欲しいんだよ。
団長のトーマスには俺から話しておく」
ルシアンの声に、重々しくテラリスは頷いた。
「承知しました」
「第2魔法騎士団は、他の団長たちにこの情報を共有し、川沿いに怪しげな爆破物が仕掛けられていないか確認をするよう通達を出してくれ。
特に大きな川で、氾濫したら領地に多大な被害が及ぶような場所、そこを重点的に、と」
「かしこまりました」
アランが胸に手を当て、うやうやしく頭を下げた。マッシュもそれに倣う。
さて、風向きは良い風に変わっている。この話をグロウディーナ公爵に伝えれば、彼は果たしてどんな顔をするだろうか――
*
「というわけだ。ドレイク」
ルシアンは騎士たちがそれぞれ役割を果たすために執務室を出て行った直後、書記官のドレイク・フロストパンセを呼び出し、先程の話をした。
ドレイクの目の前の応接テーブルには、先程の呪術が掛けられた留め具の瓶がある。
彼はじっとその瓶とルシアンの顔を交互に見て、静かに耳を傾けた。
ドレイクはローゼルが王城連続強姦魔の被害に遭いそうになった時、事情聴取に立ち会った書記官だ。
その時、ローゼルから提言された「人事会議と食糧供給緊急会議の日程が被ったのは偶然ではなくて、意図的だったかもしれない」とその説を共に聞いている。
案の定、彼はすぐさまその話と今回の話を一つの線で結ぶ。
「なるほど。
こちらもようやく理解できました」
意味深にドレイクは呟いた。
「こちらも?」
ルシアンは首をひねった。
「実は、戦争推進派貴族の中で、アミラス教を禁教から外そうという動きがあるそうです」
ぐっと身を乗り出して、ドレイクは声をひそめた。
「ほう。
それは陛下のご意向とは真逆だな」
ルシアンもつられて声をひそめた。
「はい。
グロウディーナ公爵も、外務大臣という立場的にこの禁教の解除は表立って承認はできかねます」
「そりゃあそうだ。
陛下の反発心を抱く禁教を信仰したのが表沙汰になったら、いくら寛大な陛下でも彼を更迭せざるを得ない。
当然、公爵家の地位が揺るぎかねないし、帝国の社交界で今までどおり権力を振りかざすことができなくなる」
「その通りです。
だからこそ、あえてそう揺さぶりをかけ、公爵自ら主戦論の旗を振るよう圧力をかけているのです」
「ほう、あちらもなかなか一枚岩ではないわけか」
初めて聞く事実だった。
驚くと同時に、ひどく興味を引かれた。
帝国建国以来、密かに禁教を信仰するアミラス教徒の貴族を陰から擁護し、支配していたのはグロウディーナ公爵家だ。
あの家が『秘密結社 黒の杖』の中心であることも、こちらは薄々勘づいている。
それでも揺るがないのが、リュシューリル・グロウディーナ公爵だ。
その彼が脅されている――。
戦争推進派の次世代リーダー。
あの公爵にそこまで圧力をかけられるほどの胆力のある貴族。
誰だろう?
「うまくやれば、今回、公爵はこちらの味方になると思います」
ドレイクは慎重な声で言った。
「何か案でもあるのか?」
「はい。
敵の影を共有すれば、公爵は自らの地位と家門、領地のために我々と手を結びます。
共通の敵がいれば、ふだん仲の悪い者同士でもその時は団結します」
そう言い切ると、ドレイクはにっこりと笑った。
「ふうん。
これは、ドレイクに任せるのが適しているようだな」
自ずと、ルシアンの口角も上がる。
その時。
「ルシアン様! 火急の用件のため失礼いたします」
突如、ノックもなしにアランが飛び込んできた。
血相を変えたアランの表情。
アランは何事にも冷静沈着だ。その彼の表情はどこか青白い。
ルシアンとドレイクは面食らった。
アランはドレイクを一瞥した。
ドレイクは会釈した。
普段のアランなら、そこでやんわりと微笑むだろう。
だが、一層表情を固くする。
「どうした?」
そう穏やかに問いかけるも、ルシアンは嫌な予感が込みあげ、背中が冷たくなったのを感じた。
「——ローゼル・イースティリア女官が葬儀参列直後に何者かに誘拐されました」
一瞬全身が凍りついた。
部屋の中に不穏な沈黙が降りた。




