第126話 瑠璃色のリボンと、暗雲の葬列
「どうだ? 新しい資料室は?」
エルド男爵の葬式に向かう途中の馬車で、法務大臣ジョージ・ライアナース伯爵がローゼルに尋ねた。
「はい、明日からは問題なく運営できると思います」
ローゼルが返事をすると、隣に座っていたイーサン・モーデッリアも頷く。
「今回は騎士団員の皆様のお陰で、契約書も手際よく本棚に収納できたらしいね」
「そうなんですよ。
騎士の皆様があんなに書類仕事が早いことに驚かされました」
明るい声をローゼルは出した。
「ああ、まったくだ。
普段から書記官の文官任せにすることなく、自分たちも書類をよく触っているからだろうな。
こればかりは、クレインバール卿の育成プログラムに脱帽したよ」
ライアナースは感心するように顎を撫でながら言った。
昨日の今日で、すぐに新資料室が開放できるのは、魔法騎士団たちがルシアンの指示の下、迅速に処置してくれたからだ。
(ですよね、ですよね)
ローゼルは口に出さないものの、ルシアンが褒められて内心はすごく誇らしかった。
「とりあえず、魔法陣の描いてある絨毯はなくなったので、これで情報が漏れることもありませんね」
ローゼルが満足げに言うと、ライアナースは腕を組んだ。
「そうだな。
だが、今回念のために全貴族に『契約書の内容見直しと、王城へ未届けの契約書の提出依頼』を宰相の名前で通達しようと思う。
今までも契約書を王城に提出してこなかったり、契約内容が変わっているのに変更申請を出さない貴族たちがちらほらいたからな」
「それって、表向きは数十年に一度の見直しってことの通達なんですよね?」
確認するようにモーデッリアが、ライアナースを見た。
「そのはずだ。
なあ、イースティリア女官よ」
ライアナースがローゼルに話を振る。
「はい、そういう認識で間違いありません」
「そんなに変更申請を出さない貴族が多かったのかい?」
モーデッリアが改まって尋ねた。
「そうなんです。
法律が変わっても、その部分を修正した契約書を提出してくれなかったり、爵位譲渡をし終えたはずなのに、変更届が出ていなかったりとか。
そういうところが多々目立って、管理側の契約審査室は困っていたそうです。
酷いのなんて、前皇帝陛下の名前のままになっていたりするものもあるんですよ」
ローゼルは眉をひそめて答えた。
「それはすさまじいね」
モーデッリアは苦笑した。
「まあ、禍を転じて福と為す。
これを機に契約書はすべて一新させる。
それが一番手っ取り早い」
バチンとライアナースは自分の膝を叩いた。
「そうですね。
ところで、その新しい資料室は、契約審査室の隣の倉庫を改造した部屋なんだっけ?」
モーデッリアが首を傾げ、ローゼルを見た。
「はい、埃っぽくて薄暗いという理由で避けていた場所らしいんですが、今回の件を機に、セキュリティ面がしっかりしたところでなければならないね、近場が一番管理しやすいよね、ということで、そこにお引越ししました」
「受付はどうするんだい?
今までは資料室が契約審査室から離れていたことで、総務省が気を利かせて受付を置いたんだろ?
――まあ、結局それが今回仇になったんだけど」
「はい、その点については、今回からは部屋も真隣になったので、資料室に入りたい人は直接契約審査室メンバーに声を掛けてもらうことになりました。
いろんな人の目があった方が、無言の監視ができますしね」
「それがいいね。
『外部人材』は、ちょっと個人の能力差が激しすぎるよ」
「いやいや、あれは能力というよりも倫理観だな。
あの問題の受付『外部人材』は、『自分が危ないところを助けてもらった恩を返すために、犯行に及んだ』なんてぬかしておったらしいが、結局大金を握らされていて、邪教組織の連中の言うことを聞いていたらしいぞ」
ライアナースは馬車の天井を睨みながら呟いた。
「そうなんですか?」
初耳だ。
ローゼルは目を瞬いた。
「ああ。聞けば、他の省庁の『外部人材』も怪しい動きをしていたとか。
財税省なんて准帝国公務員が職務怠慢だったせいで、『外部人材』の子が水増し請求しても全然気が付かなかったというからな。
ターラント大臣がたいそう怒り狂っておったよ」
フンっとライアナースが鼻を鳴らした。
「そういえば、契約審査室で、その『外部人材』の令嬢と関係を持った官僚たちは、どうなったんですか?」
モーデッリアがライアナースに質問を飛ばした。
「奴らは、宰相とリースト女官から厳重に注意され、減給かつ降格処分されることになった」
「そうですか。
まさにハニートラップにかかったようなもんですね」
「ああ、そうだ。
一体どこまで情報を漏らしたかが焦点で、それによっては今後の出世は難しくなるはずだ」
渋い顔でライアナースは続ける。
「それどころか、明後日には、エルド男爵が巻き込まれた事件と共に不祥事として大々的に発表される。
敵国の罠にはまったんだ、家門の面汚しと責め立てられ、仕事以外で社交界へ顔を出すのは難しくなるかもしれない」
「厳しい言い方になりますが、それは自業自得ですね。
帝国公務員なのに己を律することができなかったんですから」
モーデッリアはため息交じりに呟いた。
ローゼルは同意しながら、ふと馬車の窓の外を見た。
いつの間にか王都を抜け、景色は小さな林が緑色を埋める大街道に入っていた。
そっと空を見上げると、雨は止んだけれど雲の流れが早くなって、黒い雲が空を覆い始めている。
***
――その頃。王城のルシアンの執務室で。
「マルスク、これを念のためローゼルに届けてくれ」
ルシアンは以前自分がプレゼントした瑠璃色のリボンをマルスクに手渡した。
「これ、ルシアン様の防御魔法が掛かってる、いつもローゼル様が身に着けているリボンですよね」
「ああ、そうだ」
「今日は身に着けなかったんですか?」
「葬式だからな。
色合い的に相応しくないと思って部屋に置いて行ったんだ」
「なるほど。
でも、これを届けるって、少々過保護ではないでしょうか?
本日の葬式には法務省全員と宰相府、魔法騎士団からも数名が行っておられますよ。
そこへ僕が現れたら、不審がられたりしないでしょうか?」
マルスクは眉をひそめた。
「そうだな。
ローゼは世間体ではレオーネ・ウルームと婚約中だ。
俺との関係性は秘密。
本来はマルスクがリボンを持っていくのは外聞が悪い。
だが、少々雲行きが変わって来た」
ルシアンはため息をついた。
「どういうことでしょうか?」
「その魔法騎士団の参列者がオークレー次官たちなんだ」
「え? 彼が?
エルド男爵とは縁もゆかりもないでしょ?」
「そう。本来は今回捜査のメインで働いた第2魔法騎士副団長のマッシュが行くものだ。
だが、オークレー次官が『こういう葬式は上官が行くべきであって、現場捜査員が行くものじゃない』と張り切って、気づいたら王城を出立してたらしいんだよ。
もちろん、マッシュは彼が何をやらかすか分かったもんじゃないから追いかけたらしいが、その場で拒否され、逆に早々に帰還するよう命令されたらしい」
ルシアンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
帰城したマッシュはひどく不機嫌で、イライラの貧乏ゆすりが止まらなかった。
口癖の「くそがっ」を連発し、部下たちを怯えさせていたが、オークレー次官に歯向かうことなく、大人しく命令に従ったのは彼にしてはなかなか賢明な選択だった。
「あの次官に逆らえば、上官命令違反を理由づけにして、処罰を総帥に申し出てきそうだからな」
今、マッシュが謹慎処分を食らうのはかなり痛い。
「それに、モラレス卿が処罰されれば、団長のアラン様にも累が及びますしね」
さらりとマルスクが補足するように呟いた。
「ああ、そのとおりだ」
アランの父親ピーテル・リックランスは公爵であり、魔法省の大臣。
オークレー次官が魔法省を取り込もうと躍起になっている今、ピーテルが防波堤となってこの国の魔法すべての情報を彼に流さないように阻止している。
アランに不備があれば、すぐさま父親のピーテルも失脚させようと動き出すだろう。
「それにしても、少々困りましたね。
オークレー次官は、先日の問題の騎士団員三名の内一名を独断判断で解放していましたよね」
マルスクの声が警戒を滲ませた。
「ああ、そうなんだ。
——軍法会議前の保釈、悪しき前例だ」
ルシアンは腕を組んで、椅子の背もたれにもたれかかる。
その目には憤慨が覗く。
しかも、昨日こちらが『外部人材』問題を片付けているごたごたに便乗しての釈放だ。
「どうやら、釈放した彼の家から多額の賄賂を受け取ったらしくてね」
「これまた悪質な」
皮肉めいた笑みがマルスクに浮かぶ。
「だろ?
――それに」
ルシアンはうっすらと暗くなる空を心配そうに見つめた。
「なんだか嫌な胸騒ぎがするんだ。
様子見がてら、ローゼに渡して欲しいんだ」
「そうですか。
ルシアン様のそういう予感って当たりやすいですからね。
承知しました」
マルスクは胸に手を当て、丁寧にお辞儀をする。
「もし、オークレー次官に見咎められても、ルシアン様の個人参列の代行で参りましたとかなんとか、適当に言い繕いますが構いませんよね?」
「ああ、もちろんだ。
後から俺からもフォローしておく」
「ありがとうございます。
――こういう時、ローゼル様にリボン以外にも普段から身に着けられるアクセサリーがあるといいですね」
「そう思っていつでも身に着けておけるアクセサリーを頼んではあるよ」
「さすが、仕事が早い。
例のお店ですか?」
マルスクは好奇心を滲ませて、前のめりになった。
「そうだ。
特注品だから時間が掛かっているようでね」
ルシアンは一瞬、はにかむ。
だが、すぐに硬い表情になった。
「昨日捕縛したミレイユ・カーネルの供述もある」
「ああ、ローゼル様が『生贄』になる、という物騒な発言でしたっけ」
さらりとマルスクは言った。
ルシアンの胸に楔を打ち込まれたように、息が詰まった。
「——そうだ。
頼んだぞ、マルスク」
「承知しました。
行って参りますね」
マルスクはにっこり笑って部屋を出た。
しんと静まり返った部屋。
ルシアンは立ち上がり、窓の前に立った。
それから、今にも泣き出しそうな真っ暗な外をじっと見つめた。
扉がノックされた。
この気配はアランだ。
「入れ」
「失礼します」
アランが入って来た。
「予定通り、レイノルドとファーヴァ書記官は、レオーネ・ウルームが犯しただろう殺人事件の洗い直しという名目で出張に出かけました」
「そうか。オークレー次官の部下は?
二人の出発の土壇場に、オークレー次官に命じられた騎士たちが現れたと聞いたぞ」
窓際に立つルシアンの隣までアランは歩み寄る。
「そうなんですよ。
ですが、さすがに彼らには少々同情しましたよ。
馬の用意もしていなければ、荷造りも満足にさせてもらえていないようでね。
半ベソをかいていましたよ」
「荷造りもしていないのか。
それは、さすがに無茶振りだな」
「ですよね。
あのまま出掛けても、準備万端のレイノルドたちの馬に置いていかれ、魔物がうろつく森での野宿確定です。
ほら、ちょうどあそこにいますけど」
アランはルシアンに並び、窓の外を見て指差した。
「ほう。まだここにいるということは諦めたのか、もしくは――」
「ええ。
さすがに諦めるという選択肢はなかったようです。
食い下がってきましたよ。
なので、提案したんですよ」
「ふうん。どんな?」
ルシアンは面白がる目つきでアランに話の先を促した。
「『午後から俺の部隊も派遣します。
もし良かったら、馬の申請は俺の方からしておくので、一緒に出かけますか?
もちろん、オークレー次官には内緒にしておきますから』って。
彼ら、喜んで二つ返事で承諾しましたね」
アランはにっこりと笑った。
「あはは。そういうことか。
じゃあ、あれは今荷造りをしている最中というところか。
しかも、お前の部隊というのは、あれか、第2騎士団の中でも最も隙のない隠密部隊」
「そうですよ。
彼らと行動を共にすることで、きっと彼らも大変勉強になると思いますよ。
もちろん、怪しい動きは一切できません」
含みのある言い方で、アランは笑みを零した。その目の奥はどこか暗く、鋭く光っている。
「オークレー次官の腰巾着どもは甘ったれた貴族令息だからな。
飛行魔法も満足に使えない連中だ。
そのくせ第2の隠密部隊と行動か。
それはさぞかし肩身が狭いだろうな」
ルシアンは、くっくっと低く笑った。
アランが手塩に育てた隠密部隊は、無駄口を叩かず、黙々と作業を進める連中だ。
煌びやかな社交界で、それなりの上流階級の温室育ちの令息騎士には、不気味な存在に映るだろう。
「それじゃあ、レイノルドたちも予定どおり、例の彼らと現地で合流できるってことか」
窓の外で、あたふたと荷造りに追われる遠征に不慣れな彼らをルシアンは冷ややかに見下ろした。
「予定通り、例の彼らと合流できます」
アランは言い切った。
例の彼ら。特殊国境警備隊の局長マティアス・グリューネヴァルト率いる特別部隊だ。
その後、さらに第5魔法騎士団の狙撃手部隊と合流して今回の任務に当たる。
「そういえば、アイツは?」
ルシアンは尋ねた。
「アイツ?」
アランは目を瞬いた。
「マッシュだよ。
いまだご機嫌斜めか?」
「ええ、まあ。
ですが、彼にしてはよく耐えたので、それを褒めてあげたら、ちょっとは機嫌が直りましたよ。
それよりも、まさかオークレー次官が葬儀に参列するなんて……。
一体何を考えているんでしょうね」
訝しげな表情をアランは浮かべた。
「考えられるのは、集まった遺族に『自分こそが男爵を殺害した犯人を捕まえた軍部の上官だぞ』と顔を売るためだな」
「売名行為ですか。
確かに、遺族というのは、案外葬儀に誰が参列してくれたのか、そういうのをやけに覚えていたりするものですもんね」
「ああ。そうやって、遺族への好感度を上げる印象操作も兼ねてだ。
オークレー次官は、戦争推進派が集まる夜会などには精力的に顔を出しているが、中立立場の貴族にはあまり知れ渡っていない」
「あ、エルド家は中立貴族でしたね」
「そう。そこで上手く立ち回れば、『人情深い次官だ』という噂が広まって支持者が集まる」
「そうなると、いざという時、戦争推進派に引き込むことができるかもしれない、そういう思惑ですか。
はあ、葬儀を弔いの場ではなく、己の功績を広める舞台にしているんですね。なんと浅ましい」
やれやれとアランは首を振った。
「いくら皇帝陛下が絶大な権力を持っているとはいえ、多くの大貴族たちに結託されてしまっては、意見を押し通すことが困難になる場合もある」
ルシアンは険しい表情で窓の外を睨んだ。
「そうですね」
「まあ、とりあえず、あの辺は魔物もよく出没するからな。
次官の腰巾着どもではなにかあった時、心許ない。
念のため、第4騎士団に葬儀近くで待機させている」
「なるほど。
オークレー次官は、ノーランには強く言えませんからね」
アランは感心するように、大きく頷いた。
オークレー次官はどこまでも身分至上主義の男だ。
ノーランの父は、予算を握る財税省の大臣であり、逆らうのは悪手。
さすがにあの次官も、法の権威者の集団——法務省ライアナースたちに直接立てつくような馬鹿な真似はしないだろう。
大丈夫、用意は万全。順調に駒は進んでいる。
問題は何もないはずだ。
それなのに、どうしてだろう。
なんだか嫌な感じが全然払拭できない。
暗雲がますます広がっていく。
***
葬式はつつがなく終えようとしていた。
空は暗雲が立ち込めていたが、幸いなことに雨はまだ降って来ない。
「お父様ぁ……!」
エルド男爵の家族たちの悲しみを思うと、悲壮感が胸を覆い尽くし、息が詰まりそうになる。
嗚咽が聞こえるたびもらい泣きをしてしまい、ローゼルはそっと目尻をハンカチで押さえた。
ローゼルはライアナースの隣で白いユリを持って、棺に花を添える順番を待つ。
長い列だった。
「随分と多くの方が参列されてますね」
ローゼルの後ろに並んでいたモーデッリアが、ライアナースにそっと小声で話し掛けた。
「ああ、エルド男爵は真面目で実直な人柄だったからね。
身分問わず、みんなから愛されていたんだよ」
「そうですよね……。
ますますやるせないです。
ですが、まさか魔法騎士団代表で参列するのが例のあの方とは思いませんでしたよ」
皮肉めいたモーデッリアの声に、ローゼルも同感だとばかりに頷いた。
そっと、例のあの方たちがいる前方へ視線を走らせた。
喪服に身を包んだオークレー次官。
その彼を護衛するかのように共に参列する魔法騎士団員たち。
全員、見慣れない面子だ。
葬式なのに、彼はどこか興奮を滲ませていた。
彼が醸す不謹慎な雰囲気は、ローゼルばかりでなく周囲を不快にさせていた。
ふいに振り返ったオークレー次官と、ローゼルは目が合った。
彼が笑った。
ゾッとした。
それも微笑むという優雅な感じではなく、薄気味悪い笑顔で。
全身に鳥肌が立ち、ローゼルはさり気なく目を逸らし、腕をさすった。
(なんだろう、すごく気持ちが悪い)
ようやく順番になった。
棺に納められたエルド男爵のご遺体に、ローゼルは胸を突かれた思いがした。
すでに遺体は亡くなってから一カ月経っている。
そのため、棺の中の遺体は防腐処理された包帯に綺麗に巻かれ、顔は白い布が被せられていた。
その隙間から覗く顔は、両目を無残にくり抜かれており、どんなに念入りな死化粧を重ねても隠しきれない異様な爪痕を残していた。
なんとも痛々しい姿だ。
ローゼルは息が詰まった。
(御冥福をお祈りいたします……)
みんなの献花が滞りなく終わり、近親者によって棺が墓地まで丁重に運ばれていった。
棺が土に埋められる頃には、至る所からすすり泣く嗚咽が聞こえた。
ますます込み上げるものがあって、ローゼルは目に涙を一杯ためていた。
やがて、式が終わり、参列者は緊張から解放されて安堵したように色々しゃべり出す。
「こんなふうに亡くなるなんてね」
「事件に巻き込まれたらしいよ」
「お気の毒に」
「お子さんもまだ小さいんでしょ?」
「国から補助金が出るらしいぞ」
「さすが官僚は待遇も違うわね」
ボソボソと交わされる会話。
馬車の乗り場は一時騒然としていた。
エルド男爵の親戚は集まってどこかに食事に行くようだったし、参列した官僚たちは雨が降る前にと我先に馬車に乗り込み出す。
ローゼルは行きに乗った同じ馬車に乗り込もうと、ライアナースとモーデッリアの後ろについて歩く。
気分はこの暗雲の天気と同じようにどんよりしていた。
お葬式に参列したのは、母方の祖母が亡くなった時以来。
こういうのは、どうしても気落ちしてしまう。
その時、ローゼルは背後から急に肩を掴まれた。
「え?」
驚いた次の瞬間、雑踏の向こうで、ライアナースとモーデッリアの背中が遠ざかっていく。
振り向く間もなく見知らぬ馬車の座席に押し込まれた。
そして、扉の閉まる音と同時に、馬が走り出した。




