第110話 同期の絆と、開かれる扉
ここ最近のウルーム伯爵領地に絡んだ出来事をルシアンは思い出していた。
点と点。
それだけで見れば、そういう事件があった。
そういう疑いがある。
それで済む話だ。
だけど、そこに今度は傭兵が集まっている。
点と点。
線で結ぶ。
とんでもない推測が浮かび上がった。
だが、これが最も真実に近い——
ルシアンは胸ポケットから小さく折りたたんだ古ぼけた紙をテーブルに広げた。
インクの滲みや、急いで書いた筆跡、数字や日付が青字や黒字で二重に記載されている。
二人がそれを覗き込んだ。
「なんですか、これ?」
マティアスが尋ねた。
「これは最近情報屋になった術師から入手した帳簿だ。
エルミナ商会の下請けであるマロディオ商会が王都からウルーム伯爵領地へ、とあるものを運搬していた裏帳簿の写しだ」
「とあるもの?」
二人の顔が訝しげに曇った。
「そう。武器だよ」
ルシアンは酷薄な笑みを浮かべた。
「武器だと?」
マティアスは思わず腰を浮かせ、フィリップスの表情も険しくなった。
「どういうことだ?
王都から武器を運ぶ?
聞き捨てならん言葉だな。
詳しく話せ。
武器は王都で作っているのか?」
フィリップスの声が一段と低くなった。
「いや、製造元はウルーム伯爵領地だ」
ルシアンは首を振った。
「は? どういうことだ?」
ますます意味が分からないとフィリップスの顔が渋くなる一方、マティアスは冷静に分析し始める。
「つまり、ウルーム伯爵領地で製造した武器を王都に運び、それから何らかの理由があって、再びウルーム伯爵領地に戻す。
そういうことですよね」
「いい線いってるよ」
ルシアンは真意を読ませぬ笑みを崩さない。
一体何を言いたいのか。
含みのある台詞。
「う〜ん……。
ウルーム伯爵領地が合法的に作っている武器といえば、イースティリア伯爵と共同事業で王城に納品している魔剣ですよね。
って、まさか魔剣が?」
懐疑的な目でマティアスがルシアンを見た。
一瞬、間をおいてルシアンは交互にマティアスとフィリップスに視線を投げる。
「そのまさかだ。
二人も知っての通り、納品される魔剣が相次いで不良品が出ている。
それは前々から軍部全体の問題として議論されていた」
「ああ、俺んところの新人がそれで怪我をした。
なんとか治癒魔法で命は助かったがな」
フィリップスが苦虫を噛み潰したような表情をした。
「うちもです。おいそれと新品の魔剣を使うのを止めましたね。
必ず試し切りをしてから、任務に持参するよう隊員にもキツく注意を促してます」
追随するようにマティアスが言った。
「しかも、ウルーム伯爵はグロウディーナ公爵と蜜月関係だよな。
だから、圧力が掛けられる危険性が一番低い公爵令息の第2魔法騎士団長のアランを中心にあの地を探っていたのだろう?」
フンと鼻をふくらませ、フィリップスは大皿にのった焼き飯を自分の取り皿にとらず、面倒だとそのまま口いっぱいに頬ばり始めた。
「その認識で間違いないよ。
魔剣の共同事業者のイースティリア伯爵は、ウルーム伯爵と打って変わって協力的でね、共に調査を進めているんだ」
ルシアンは頬杖をついた。
「ほう。さすが、皇帝陛下のお気に入り」
揶揄と皮肉を込めてフィリップスが口を挟んだ。
「同時に、イースティリア伯爵が完成した剣に施した付与魔法については、一切不備がないことが正式に証明されている」
「で、あれば、何が問題かというと……」
焼き飯を口いっぱいのまま、フィリップスが天井を仰ぎ見て言い淀んだ。
自分の頭の中で、事実を吟味し、整理整頓しているようだ。
「少し魔剣納品ルートを整理させてください」
マティアスが改まった声で口を開く。
「製造元は、ウルーム伯爵領地。
あそこの鉄鉱石が、この国で最も質の高い剣ができる熔岩晶鉄という特殊な鉱物だからです。
そのため、採掘から製造までをかの地で行い、さらにイースティリア伯爵の元へ運び、そこで彼が付与魔法を施せば、より強靭な剣になります。
それから、ようやく王城内の魔法騎士団本部に納品される。
それで合ってますよね?」
「そうだ。
ちなみに、その運搬にはエルミナ商会、下請けマロディオ商会が絡んでいる」
「そこです。
これまたグロウディーナ公爵の息のかかった商会なんですよね。我々刑部省の予算が奴らの売上の一部になっているかと思うと、腹立たしいですが……」
気に入らないとばかりに、マティアスが小さく舌打ちをした。
「うむ。その帳簿の数字は単純に、その商会が不良の剣をウルーム伯爵領地に返却しに行っている本数と運搬にかかった費用なんじゃないのか?
それくらい、あの不良剣は、武器とはいえん、なまくら刀だぞ」
ほんの少し眉をひそめてフィリップスが説明を求めるようにルシアンを見た。
静かにルシアンは帳簿を指差す。
「——この帳簿の数字。
二種類あることには気づいたか?」
ルシアンに指摘され、二人はもう一度帳簿を、今度はじっくりと吟味するように見つめた。
青字と黒字。
日付は同じだが、色分けして、それぞれ違う数字がある。
「二種類ということは、この色分けに何か意味があるってことですね」
マティアスが呟いた。
「そう。
黒色はフィリップスの言う通り、返品の本数であり、金額はその運搬費に間違いない。
では、もうひとつは?」
「青のインクの意味か……。
なんだろうな。
こっちの方が本数は少ないが、金額は多い」
二人は唸るように帳簿とにらめっこし始める。
涼やかな風が部屋に吹き込んだ。
また、ぽちゃんと鯉が飛び跳ねた音が聞こえた。
「そもそも、なぜ不良品が増えたのか、その原因についてだが——」
ルシアンの目が真剣になる。
「分かったのか?」
フィリップスの目が輝いた。
「どうやら、あの領地での鉱山に何やら異変が起きているようなんだ」
「異変……。
熔岩晶鉄が枯渇してきたとかですか?」
マティアスが尋ねた。
「枯渇。確かに、鉱山を俺達が直接確認しに行けていないから憶測の域を出ることはできないが、その可能性もあり得る。
だが、実際、問題がある魔剣は、製造時に錬金術を施して意図的に良品に偽装していた痕跡が見つかった」
「なるほど、材料偽装か。
鉱物そのものに難があれば、当然不良品確定だ」
フィリップスが腕を組んで椅子の背にもたれかかった。
「良品偽装の錬金術を施したということは、その術者はウルーム伯爵ですね。
錬金術は彼のお家芸ですから。
ですが、後工程のイースティリア伯爵はそれに気づかなかったんですか?」
不審そうにマティアスが顎を撫でた。
ルシアンは用心深く切り出す。
「知っての通り、彼の魔法の腕は素晴らしい。
だが、実は欠点があるんだ」
「欠点?」
「残念ながら、彼は魔力感知能力がひどく低い。
素材の粗悪さまでは気づけなかったんだ」
「なんと……。
土属性に関しては、あれだけ素晴らしい魔法の使い手なのに。
だが——そういうことか。
彼の付与魔法の技術が非常に高いため、結果的にその粗悪な部分を覆い隠すレベルまで剣の完成度を底上げしてしまっていた」
合点がいったぞ、と言わんばかりにフィリップスが膝を叩いた。
ルシアンは「そうだ」と頷いた。
「それはかなり皮肉で残酷な構造ですね。
恐らくウルーム伯爵にうまく利用された形ですね」
気の毒そうにマティアスが呟いた。
「そういうことだ。
では、もう一つの数字は何かというと――」
ルシアンがそこで言葉を切ると、二人はますます興味を持ってじっとルシアンを注視した。
「これは、正規の魔剣を横流しした本数だ」
二人の間に、一瞬凍り付いたような空気が流れた。
「横流し?」
フィリップスとマティアスが同時に唸った。
「一見、どこにでもあるような露店で『廉価品』として魔剣が高額で取引され、なおかつ、それが魔剣横流しの店としての合図となっている現場を見た」
二人はハッとしたようにルシアンを見た。
「露店、なるほど。
路地裏に紛れ込んでしまえば、騎士団員の目も欺けるし、何かあれば畳みやすい。
なかなか賢い売人だな」
感心したような声をフィリップスは上げた。
「露店にしては品揃えも豊富で、普通の一般女性も入れるような店構えだった」
「それはますます見つけにくいな」
「ですが、横流しとは、褒められた行動とは言えません。
どうやって我々の目を盗んで市井に魔剣を横流しさせたんですか?」
マティアスがごもっともな質問をぶつけた。
「そう、これは非常に分かりにくいトリックだった。
青字が示しているのは、納品されたはずの魔剣の本数と合わない『消えた正規品』の数だ。
……例えば、百二十本ウルーム伯爵領地で剣を製造したとしよう」
「中途半端な数字だな」
ぼそっとフィリップスが不満そうに呟いた。
ルシアンは苦笑した。
「もうちょっと分かりやすい数字にしてくれ」
フィリップスは計算が苦手だ。
豪気な男なので、あまり細かいことを気にしない質なんだろうが、こういう時、少しでも半端な数字を出すと露骨に嫌な顔をする。
「この数字にも意味がある。そのうち分かるから聞いてくれ」
ルシアンはそんなフィリップスを宥めて、続ける。
「二十本は素材は悪いが、錬金術で整え、見た目的には何ら問題ない良品に偽装するとしよう。
イースティリア伯爵は何も知らず、すべてが良品という前提で百二十本の剣に付与魔法を施す。
完成後、魔法騎士団に百本だけを納入する。
だが、内訳は、八十本は良品で、二十本は不良」
「それでは数字が合いませんよ。
残り二十本の良品の剣はどこへ……。
あっ、『消えた正規品』」
首を傾げつつも、マティアスの目がハッと見開いた。
「気づいたか。
残った二十本は、本来ならすべて魔法騎士団に渡るはずの正規品。
だが、納品の段階で丸ごと抜き取られ、そして一部は裏で市井の露店に回され、高値で売りさばかれている」
ルシアンは鷹揚に頷いた。
「そういうことですか。
ですが、そのまま放置すれば定期的な騎士団の監査や調査で足がつきます。
なぜ今までバレずに済んだんでしょう?
帳簿の青文字も日によって本数が異なります」
マティアスが冷徹な目でルシアンを見た。
「奴らは王城からの『不良品』を返品するついでに、在庫や取引でさばききれなかった剣を回収馬車に混ぜ込み、ウルーム伯爵領地へと逆流させていたんだろう」
「青字は、そうやって領地へ密かに回収し直した本数の記録ということですね」
納得したようにマティアスは頷いた。
「うむ。その裏取引の代金、または現物はウルーム伯爵のものとなって、俺たち騎士は不良品で怪我を負ったりして割を食ったってことか。けしからんな」
フィリップスは憤怒が滲んだ声を出した。
「カラクリはよく分かりました。
ですが、何のためにそんなことを?」
冷静にマティアスが眉をひそめ、しばらく逡巡した。
やがて、ハッとした顔つきになった。
「まさか」
その声には恐れがこもっていた。
「そういうことだ」
ルシアンは苦笑した。
「なんてことだ……」
マティアスは口元を抑えた。
フィリップスだけが話についていけず、目を瞬く。
「なんだ?
どういうことだ?」
「――目的が二つ考えられるんだ」
「二つもあるのか?」
ますます眉間にしわを寄せてフィリップスが身を乗り出した。
「ああ。一つは、我々の軍事力を意図的に削ぐことだ」
ルシアンは人差し指を立てた。
「まあ、そうだろうな。
現に騎士が重傷を負っているし、目的は達成しているな。
だが、それではまるで我々への挑戦、いや、嫌がらせのように感じるぞ」
フィリップスの語尾に困惑が含まれていた。
「それの理由が二つ目の目的だ」
眼光が鋭く光ったルシアンは、次に中指も立てた。
「むむ、ますます分からん。
——教えてくれ」
フィリップスは素直に両手を上げて、降参した。
ルシアンとマティアスは一瞬目配せをし合う。
それから、ルシアンは間を置いて、低く言う。
「――戦争準備のためだ」
「……っ!」
フィリップスは息を呑んだ。
「明らかに、戦争をするためですね」
冷ややかにマティアスが言葉を紡ぐ。
「闇賭博や偽造金貨、それから魔剣を横流しして儲けた金——戦争資金となります」
「おお、確かに」
フィリップスは大きく頷いた。
「それから戦争で必要な武器は、自分たちの領地で作った良質な魔剣で補えます。
しかも、あちらは不良の剣の原因を認めてませんから、納品金額は一切返金されてません」
「つまりは、あれか。
不良品分の金額も我らがそのままあちらの言い値で支払ったままだというのか」
「そうです」
「最も重要視される食料に関しては、ウルーム伯爵領地は温厚な気温と大地があるから農作物には恵まれている。
特に今年は水害に遭ったグロウディーナ侯爵領地に比べ、ウルーム伯爵領地が生産量を追い抜いた」
ルシアンはため息をついた。
不穏な沈黙が下りた。
「参ったな」
フィリップスは面食らった様子で口を開く。
「そこに戦闘力——異国の傭兵たちが集うわけか」
「条件が揃ってますね」
マティアスが皮肉めいた微笑を浮かべた。
「そうなんだ。
まずは闇賭博——あそこを最初に潰す。
偽造金貨や横流しの売却益を客が落とした膨大な遊興費、飲食代と称して毎日コツコツと回収しているはずだ」
ルシアンは果実水をくいっと飲み干した。
「アランの取り調べも腕の見せ所だな。
早々にウルーム伯爵嫡男を口説き落としてもらわねばならん。
同時に行方不明のウルーム伯爵の居所もな」
狼狽の色を覗かせながらも、すぐにフィリップスは笑みを浮かべた。
俺にもこの件を一枚噛ませろ。そういう気迫をルシアンは感じた。
「あとは、不良品の魔剣の返送と見せかけた良品の魔剣の移送ですね」
なごやかにそう言うマティアスだが、腹の底ではすでに次の算段を考えているはずだ。
彼の視線は遠くの景色に向かっている。
彼が考え事をしているときの癖だ。
「それについては、奴らにとって、イースティリア伯爵の付与魔法は欠かせないらしい。
そこを突く予定だ。
第8魔法騎士団とも連携を取っている」
ルシアンは言い切った。
「さすがですね。
すでに次の手を打ってますか」
マティアスが口元に酷薄な笑みを湛えた。
とはいえ、不安な予感はルシアンの胸の奥で次々と湧いて出てくる。
まだ足りない。
すべて材料が揃っているのに、何かが——
そうだ、傭兵たちを取りまとめる人材がいない。
文官のウルーム伯爵が指揮を執れるとは到底思えない。
ここまで完璧に魔法騎士団に見つかることなく、材料を揃えられた功績の裏に戦争を知っている奴がいる——
「では、ルシアン様」
誇らしげな顔をしながらマティアスはテーブルの料理の乗った大皿——大半は平らげて空になっている皿を重ね合わせ、中央にある程度の広さを確保した。
「実は先日、我ら特殊国境警備隊が胡散臭い西の大陸の貿易商を捕縛いたしました。
そいつが持っていた怪しげな新兵器の設計図です。
まだこちらは、この東の大陸のどこにも出回ってはおりません」
マティアスは、とある設計図をテーブルの上に広げた。
「はっ、まさかここで手札を見せるのか、マティアスよ」
愉快とばかりにフィリップスは肩を揺らして笑った。
そこに広げられたのは、見たこともない長細い銃の図面だった。
「新兵器か……」
ルシアンは小さく呟いた。
ここにきて新兵器は魅力的な話だ。周辺諸国が入手していないのであれば尚更だ。
「お気に召さなかったですか?」
不安そうにマティアスがルシアンの顔を覗き込んだ。
ルシアンは、自分が思慮深げな表情を浮かべていることに気づく。
「いや、話を続けてくれ。
どういうものなのか、導入を検討する」
「はい、では——」
マティアスは商人から聞き出した話を続けた。
その一方で、ルシアンは必死で頭を巡らしていた。
異大陸から持ち込まれた武器を使う。
これを導入したら、いよいよ戦争は免れないかもしれない。
どうにか戦争を回避できないか。
新しいものを使う。悪しき前例にならないか——
——ガハハ!
あの子は、女官やってるよりも巷で魔術師やっている方が、よっぽど向いてるんじゃないかねえ。
どこぞの胡散臭い伯爵家の嫁にはもったいないよなあ、ルシアン
不意に、豪快に笑う総帥の声が頭の中で響いた。
あれは、まだローゼルと深い仲になる前のことだ。
ねっとりした総帥からの視線。
耳にこびりついた笑い声。
——お前の足りないところは、まさに人間臭さだよ。
この国に大事だと思う女、誰一人もいないんだろ?
とんだ欺瞞に満ちた正義と忠誠心だ。
偽善者も甚だしい。
家族がいる、愛する人がいる。
だからこそ、この国を何が何でも守ろうとするんだ
胸の奥でチクリと痛む。
(もしローゼが当初の予定どおり、次期ウルーム伯爵夫人として迎えられていたとしたら、どうなっていたのだろう)
反旗を翻す伯爵夫人。
間違いなく敵対することになっていた。
異大陸の銃。
戦争の火種。
そして、狂い始めたウルーム伯爵領の歯車。
冷や汗が背中を伝うのを感じながら、ルシアンは目の前の新兵器の図面に目を戻す。
「導入を急ごう」
***
定時後、ローゼルが資料室に行くと、そこに集まったのは、エレナとレイノルド、それからホキアンだった。
「なるほどね。
ホキアンが宰相閣下の言う『総務省に契約を洗い出している官僚』ね」
ローゼルは腰に手を当てて言った。
ホキアンは複雑な顔つきで苦笑いを浮かべる。
「そうなんだ。
僕もびっくりだよ。
突然、宰相から名指しされてびっくりしたよ。
みんな、優秀だからさ、本当、お手柔らかに頼むね」
気弱にホキアンがみんなの顔を見廻した。
「ううん、ホキアンだって十分優秀だよ」
エレナがコクコクと頷いた。
「こちらこそ頼む。
俺もホキアンが一緒で心強いぞ」
レイノルドが真面目な顔で言った。
ホキアンはますます微妙な顔つきになった。
まだホキアンの中でレイノルドに対しての苦手意識は払拭できていないみたいだ。
だけど、レイノルドの飾らない率直な言葉に、ホキアンは苦笑いを浮かべるしかない。
「相変わらず生真面目だね、君は」
「そうか?」
「うん。
まあ、君らしいよ」
「……うん?
あ、ありがとう」
レイノルドにはホキアンの言葉の含みが伝わらないらしく、首を捻りながらお礼を言った。
(そこ、会話が噛み合ってないよ)
ローゼルは、心の中で茶々を入れながら、くすっと小さく笑った。
レイノルドらしい。
ホキアンも困ったようにローゼルを見て、やんわりと微笑んだ。
ローゼルは力強い気持ちで、同期のみんなの顔を見回した。
「それじゃあ、みんな」
みんながローゼルに注目した。
「来てくれてありがとう。
ここで疑問に思っていることを解明していこうと思うの。
知恵を貸してね。
今夜はどうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
「もう水臭いなぁ。
ローゼルの力になれて光栄なんだから。
こういう時の同期仲間だよ」
エレナがローゼルの背中をぽんぽん叩く。
その肩には小次郎がいて、彼もご機嫌に尻尾をブンブン振っている。
「そうだよ。
ローゼルが悪いわけじゃないんだからね」
ホキアンもにっこりと笑った。
「同感だ。
あぁ、忘れるところだった。
一応資料室の至る所、つまり、『外部人材』の彼女の私物も全部調べられる許可も取ってあるぞ」
レイノルドがポケットから許可証を取り出して、三人と一匹に見せた。
法務資料室の責任管理者の大臣ライアナース卿、刑部省軍部のルシアンと総務省大臣ホキアンの父親バーンズリー卿、三人のサインがある監査許可証だ。
「さすが、手回しがいいね」
エレナが素直に感心すると、レイノルドは照れくさそうに身を捩った。
そこへホキアンが口を挟む。
「一応、僕も契約内容を再確認したよ。
『外部人材』は総務省と斡旋業者の契約上、私物を持ち込めないし、部屋に置いていけないルールになっている。
それでも置いてあった場合は、れっきとしたルール違反になるし、ましてや王城のものを勝手に持ち帰ったら、門のところで咎められるシステムになっているよ」
「それでも『外部人材』っぽい人たちが、王城の備品を持ち帰り、転売しようとしているって話、耳にしたことあるよ」
エレナが不安そうな声を出した。
「大丈夫。
現在、第4魔法騎士団が転売しようとしている『外部人材』を洗っている」
レイノルドが補足する。
「なるほどね。
つまり、資料室に置いてあるものは、許可証も貰っていることだし、隅から隅まで見ても全然問題ないってことだね」
エレナが確認するように言った。
「そうだね、僕たちは何を探っても叱られないんだ」
ホキアンが力強く頷いた。
「良かった。
残業してまで働いているのに、叱られるのはまっぴら御免だもんね」
ローゼルが肩をすくめると、みんなが同時にクスっと小さく笑った。
「間違いない」
「じゃあ、行こうか。ローゼル、扉を開けてくれ」
レイノルドは許可証をポケットにしまう。
法務省大臣の許可を得た者以外、定時後は扉が開かない。
「うん、じゃあ、開けるよ」
ローゼルは扉のノブに手を伸ばした。




