第94話ーマフィア掃討作戦 前ー
偏頭痛でへばっておりました 汗
何とか更新できました!
明朝4時。スラム街はうすモヤがかかり、じっとりとした不気味な静けさをかもし出していた。
福州盆地の特殊な風が、山から吹き下ろしている。縁は上から見下ろす形で、山側の宙に浮いていた。ポニーテールの黒髪がなびいて、透けるような肌の白さを際立たせる。
視線はスラム街を見下ろしていた。
縁は、
ースラム街はどこの大都市にでもある。弱者や何にもなれなかったものの集まりだ。スラム街にはスラム街の流儀があり、不可侵の領域がある。…今からその理を破壊する。ー
大きく深呼吸しながら、目をつぶった。
司令官であるギルドマスターを含め、全員に悪魔封じの符は渡してある。もちろん、”落涙のケシ”への耐性もある。性能は上位悪魔でも破れないと言ったが、上位魔族でも手を焼く代物だ。
弟子達3人は、それぞれ縁の式神とともにいた。アオイとヤオ、白曜とヤンガ、ウスハとユエと分かれている。”落涙の園”と呼ばれる建物の前と後ろにそれぞれヤオとユエが、最上階の窓辺に白曜の背に乗るヤンガが構える。
他にも冒険者が気配を隠して、マフィアのアジトの周りに展開している。暴力の黒龍会、暗殺の窮奇幣、メインの白澤堂、それぞれに冒険者が張り付いている。
この中で特に気をつけなければならないのは、暗殺家業の窮奇幣、インテリで下級悪魔を従える白澤堂である。その為、縁は一部の冒険者と思考共有を用いた連絡網を敷いていた。もちろん、”玄天の一陣”のリーダー、墨 蓮陰にもである。
…各所、これより戦闘行動に移る。私が合図したら突入せよ。…
縁は各班をまとめる高ランク冒険者に思念を送った。
…ラジャー…
各々から返答が返される。
縁は手を合わせ、そして改めて目を閉じた。その後ゆっくりと手を離し、両手を広げる。
「霊子索敵!」
原子と同じほどの霊子が、縁の全身から放たれた。空間を通過し、壁を通過し、人間を通過し、縁は全てのものを把握した。
作戦会議であらわになった、黒龍会のアジト。その地下牢に不釣り合いな女子供がいる。
ーこれがSランク冒険者の身内か…。ー
縁はピクリと眉を動かした。ちょうどそこには、軍隊上がりのAランクパーティー”雁行”がいる。
…これより戦闘行動開始!パーティー”雁行”は、黒龍会アジト直下、牢獄の女子供を最優先に行動されたし。Sランク冒険者の人質と思われる。では各班突入!!!…
縁は自らも抜刀し、眼下の白澤堂の入口に急降下した。
ヤオ、ユエ、ヤンガもそれぞれの場所から突入する。縁は”落涙のケシ”が立ち込める中を、スピードを緩めることなく突き進む。換気の悪い地下には一段と濃い匂いが立ち込めている。通路のあちこちの隅で、中毒者が泡を吹いて転がっている。それを気にすることなく、縁は地下へと進んでいく。
霊子索敵では、この地下の最下層に悪魔召喚の陣があるはずだった。
その頃弟子たちは、シラフの者と出会う度、失神させ縄で拘束することを繰り返していた。
「なっなんだぁ?!」
と素っ頓狂な声をあげるスーツ姿の男を、ヤンガが杖を使ったエアー・スラッシュで吹き飛ばす。
「なんだもかんだもありません。あなた達は今日で終わりです。」
普段は笑顔の絶えないヤンガだが、いつもと打って変わって、冷たい眼で男を見下す。その間にも、床に突き立てた菩提樹の杖から、スルスルと蔓が伸び、失神した男を巻きとっていく。後ろで、
「バシン!!」
と音がするのを見れば、白曜がガタイのいい男を吹っ飛ばしていた。
「ありがとうございます、白曜様。」
ヤンガが丁寧に頭を下げる。白曜は、
「なかなかお前も、いい面するようになってきたじゃないか。」
とクククと笑った。ヤンガは恥ずかしそうに、
「次行きますよ!次!もう1階に着きますから!後は師匠と合流です。」
と言ってまた走り出す。
その頃縁は、ヒリヒリとした殺気を浴びていた。目の前にいる、巨漢。タンクトップから筋肉の隆起が見える。シミターを両手に持っている様は、さすがSランク冒険者と言える。しかし、顔色は何ものかに取り憑かれているように隈ができていた。
「おい。女。誰の許可でここまで入ってきた。」
男は小柄な縁をジロジロと見ながら言った。
「お前はヤク中の方のようだな。昨日の視線はお前じゃないのか?まぁいい。この世からおさらばする用意はできているか?」
縁は肥前忠広を八相に構え、殺気を放つ。
ゾワリ。
薬の副作用で酩酊状態の男の肌が、怖気たつ。
ーこれは、まずい!ー
彼の残された生存本能が、体を動かした。シミターをほぼ勘のみで振り下ろす。
「ガギンッ!!」
鈍い音が響く。
「力はあるな。昔は技も冴えていただろうに、もったいない。」
縁は冷ややかに言い切る。
「このクソアマが!!」
薬の高揚感が、男の技を鈍くする。力任せに縁を振り切る。縁はその力を利用して、後ろに飛ぶと、がら空きの胴に一太刀いれる。
「パシュッ!」
男の脇腹から血が吹き出す。
「くっ!」
腐ってもSランク、振り返りざまの縁を狙って両手のシミターが伸びる。
「キィン!!」
縁は下段からシミターを、思い切りはじけ飛ばす。体ががら空きになる。
「終わりだ。」
絶対零度の一言は、男の心臓を貫くと共に発せられた。
「く、くそぅ…俺は…オレは…」
男は最後まで両手のシミターを離そうとしなかった。男右手のシミターが、縁の頬を掠める。しかし、縁の傷は一瞬で癒えた。それを見ると、男の目から光が無くなったのだった。
「所詮、薬で堕ちたSランク。蓮陰の足元にも及ばんな。」
縁は禍々しく染まった肥前忠広を一振すると、鞘に収めた。
そのまま刀を空間術式に収める。何も無い空間から現れたのは、紺色の鞘の刀だった。どこか、梓弓に似た雰囲気を持っている。
縁は考える。
ーさて、昨日の視線の正体は誰かな。こいつでないことは確かだ。昨日の殺気はもっとこう、粘ついていた。まぁ、こいつらは私が殺そうと殺すまいと、処刑に決まっているが。ー
そこに感じ慣れた気配が集まってくる。ヤオ、ユエ、ヤンガである。
「師匠!俺はAランクだと名乗るやつを2人始末しましたよ!」
「昨日の濁った視線はコイツですか?」
「なんか小物っぽいのはまとめて縛ってますけどどうします?」
と口々に言う。縁は、
「はいはい、わかったわかった。良くやった。」
縁は3人を褒める。そして、
「どうやら、昨日の視線はコイツじゃなかったらしい。1番下の階にいるようだ。あと、お前達、白澤堂のボスはいなかったのか??」
と尋ねた。
それに口を開いたのは、最上階から突入したヤンガだった。
「それが、どうやら、抜け道があったようなんです。壁の一角がカラクリ仕掛けになってました。」
と、困り顔で言う。縁は、
「私の探索魔法では、この家屋から逃げ出したものはいない。恐らく最下層に逃げたんだろう。悪魔を随分と信頼しているようだな。」
とせせら笑った。
弟子3人と共に、縁は進む。スラムの最下層。悪魔の巣窟に。




