第93話ーマフィア掃討作戦会議ー
久しぶりに、長文になりました!
マフィア掃討まで、あと数時間。
緊張した作戦会議をご覧あれ!
巨蠣屋を後にする4人は満腹で、気分が良かった。爽やかな午後の風の中、4人は台湾行きのフェリー乗り場に向かった。
この時代のフェリーは、魔物から取れる魔石や、ダウンオブカオスの地殻変動の際にできた魔鉱石を動力源にしていることが多かった。魔導フェリーと呼ばれた。時刻掲示板を見る。日に4回、魔導フェリーが出ているようだった。案内に従って、受付カウンターに向かうと、若い受付嬢が顔を出した。
「お客さん、今日の便は夕方のあと1便しかありませんよ?午後の便は今出たばかりです。」
ハキハキとした声で伝える。日に焼けた健康そうな女の子だった。
縁は、
「あぁ、ありがとう。私達は明明後日の朝イチの便に、乗ろうと思ってるんだ。天気予報は晴れだしな。先に予約だけ取れるか?」
と伝える。受付嬢は、
「天気予報ですか?あまり当たりませんけどね〜。明明後日ならまだ誰も予約してませんね。天気分かりませんし〜。4名で予約でよろしいですか?代表者のお名前をこの書類に。」
と、天気予報に疑問を抱きつつ、ペンと書類を差し出した。縁はサラサラと署名を済ませると、
「では、明明後日の5時によろしく!」
と紙を差し出す。
「はい!予約受付完了しました!当日は支払いもあるので、時間厳守でお願いしますね〜。」
受付嬢は人懐っこい笑みを浮かべて受け取った。
縁といえば、
ー私のデバイス、アーティファクトなんで、衛星と繋がってるから天気予報は外れないんだよなぁ〜。でもそんなの言っても通じないしな〜。せっかくNo.4(ナンバーフォース)が作ってくれたのになぁ〜。ー
とちょっと悔しがっていた。
縁たちの予定は残すところあとひとつ。夕方18:00から開かれる極秘会議のみだった。それまでは、福州の屋台をめぐって買いだめしたり、また角クジラの屋台に行って店主を冷やかしたりした。もちろん、角クジラの串焼きはあるだけ買った。
18:00前。縁たちはギルドマスターと面会していた。一緒に会議に出席するためだ。
「ギルドマスター、本当に信頼できるメンバーが揃ったのか?」
縁は真剣な顔をして問う。
「あぁ。”審議の鏡”お返しするよ。ずいぶん役に立った。冒険者の中でも興味本位に”落涙のケシ”を試したやつがだいぶいた。常習的ではないが、福州の冒険者の質も下がったもんだ。嘆かわしい。」
ギルドマスターはため息を着いた。
縁は、
「ドラッグとはそんなものさ。いつの時代も、じわじわと人を都市を飲み込んでいく。」
と暗い目をして言った。ギルドマスターは、
「縁様が言われると、重さが違いますな…。定刻に近づきました。大会議室はこちらです。」
と縁たちを促した。
大会議室の扉を受付嬢である柳が開ける。それに続いて、ギルドマスター、そして”蓮花の理”が続く。
縁は部屋に入るなり、険しい顔付きになった。弟子3人もその気配に気づく。
…主様。小物が5匹程紛れ込んでいますね。…
とアオイから思考共有が送られてくる。縁は、
…あぁ。敵はなかなか用意周到だな。だが所詮小物、私が祓おう。…
と返した。
…ギルドマスター。聞こえるか?声に出すなよ。…
ギルドマスターは唐突に頭に流れ込んできた言葉に、ギョッとする。しかし即座に平静を装った。
…これは思考共有という。ギルドマスターは心の中で呟くだけでいい。簡潔に言うと、この中にスパイがいる。…
縁は表情を変えずに伝えた。ギルドマスターは、
…”審議の鏡”をすり抜けたと??もしくはそれ以外の方法で紛れ込んでいるのですか?…
と念じた。縁は、
…あぁ。良い勘だ。その通りだ。今からそいつらを排除する。ギルドマスターは何もしなくていい。…
と告げた。
縁は唐突に右手を突き出した。そして、
「我が弓よ、我が梓の弓よ。ここにいでよ。」
と低い声で唱えた。すると手に立派な長弓が現れた。木目が美しく、まるでそこだけが清流のそばのような、清廉な気をはなっている。
最前列に座る若い冒険者パーティーが、咄嗟のことに驚く。
それを尻目に縁は、
「梓弓よ、その清らかな音色を持って、魔を払わん。”鳴弦”。」
縁は矢をつがえることなく、弦を弾く。
「ピィンピィンピィィィン」
縁が言った通り、澄んだ音色が部屋に響き渡る。
すると部屋にいた数人が、急に咳き込み出した。突然反応したパーティーメンバーに、周りのものはたじろぐ。
「ゴホッゴホッ!!!カハッ!!」
咳き込んだ後、何かを吐き出したような素振りを見せる。ランクの高いもの、また魔術師には、その口から紫色のモヤが吐き出されたのがわかった。
縁はトドメとばかりに、
「ピィン!!!!!」
と強く弦を弾いた。
紫色の煙は、その音と共に消し飛んでいった。
ギルドマスターは呆気にとられつつ、
「あれは一体…??」
と縁に尋ねる。
「あれは最下級の悪魔だ。まだそこら辺にうろつく怨霊の方がたちが悪いが、あいつらは主人がいる。私の破魔の弓で消滅したがな。”鳴弦”と言うんだが、まぁ陰陽術の1つだと思ってもらっていい。これで安心して話ができるな。」
と縁は答えた。
「なるほど…さすが、ナンバーズは格が違いますな。」
とギルドマスターは呆気にとられつつ言った。
それから、改めて気合を入れるようにネクタイをなおすと、会場に集まった冒険者達に目を向けた。
「今宵、”審議の鏡”により裏表のないものだけが集められた。諸君の協力に感謝したい。これより、スラム街のマフィア掃討の会議を行う。この作戦は必ず成功すると約束しよう。縁様、こちらに。」
ギルドマスターは縁に目配せした。
縁は、
「私は故あって極東は倭国、日本から来た。滝野縁と言う。強欲のNo.5(ナンバーフィフス)、グリードのフィフスと名乗れば分かりやすいか。世界に20人いるSSSランク冒険者の1人だ。」
「長い歴史の中で、何度もこの手のドラッグは見てきた。ことが深刻な故に、助太刀する。私率いる”蓮花の理”も力になるだろう。短い間だがよろしく頼む。」
と良く通る声で名乗った。
大会議室ではどよめきが起こる。
”あんな小娘がグリードだと?”
”わわ、私、魔力が見えるのだけれど、揺らぎが大きすぎて力量が測れないわ!”
”後ろの奴らもなかなか手強そうだ”
など、囁き声が満ちる。
パン!パン!
ギルドマスターが手を叩く。
「諸君!静粛に!驚くのは構わないが、彼女がSSSランクだと言うのは口外無用だ。わかったな。」
ギルドマスターは厳しい目をして言った。
「これから詳しく戦略を練る。この手のことが得意なものは、どんどん知恵を出し合って欲しい。福州の膿は明日全て消し去る。」
ギルドマスターは全員を見て宣言した。
そしてそこに縁が言葉を継ぐ。
「みなもよく知る”落涙のケシ”は、ただの阿片ではない。正直確認するまでもなかったが、今日確信に変わった。この薬物には、中位クラスの悪魔が関わっている。要するに、魔術的処理が行われた極めて強力な薬物だ。”落涙のケシ”を根絶するためには、これに関わる悪魔も祓わねばならない。それらは私に任せて欲しい。」
縁は堂々と言い放った。その言葉にまた会議室はざわめく。ギルドマスターでさえ、驚愕し、
「あ、悪魔ですと?マフィアが?簡単に使役できるものではないでしょう、あれは?!」
と縁に尋ねた。縁は、
「白澤堂、奴らは頭がいいらしいな。その組織にいる誰かが、たまたま悪魔を使役できるだけの器があったようだな。ま、悪魔もせいぜい中級の、デーモンでしかないだろう。あんな低レベルの使い魔しか扱えないんだからな。」
と、あっさり言い切った。
「最悪だ。悪魔は下位でも魅了が使える。これは手強いぞ。」
最前列にいた若い冒険者が声を上げた。
他の冒険者たちも、
”悪魔だと?!”
”だから”落涙のケシ”は依存性が高いのか…。”
”俺たちに”落涙のケシ”を使われたら一巻の終わりだ!”
と隣同士で囁きあっている。
しかし、中には泰然として様子を見守るパーティーもあった。揃いの迷彩柄の服からして、軍属あがりであろう者達だ。
縁はちらと彼らを見たあと、
「ふむ。それはそうだな。明日は、私が用意した符を持ってもらうことにしよう。上位悪魔でも、私の術は破れないからな。」
と顎に手を当てて言った。
「上位悪魔って、そんなヤツらと戦ったことがあるってのか?」
別の冒険者、バトルアックスを背負った筋骨隆々とした男が声をあげる。
「おいおい、お前歴史で習わなかったのかい?初代魔王を倒したのはナンバーズだったんだぞい?その中で最も多くの戦果を挙げ、魔王の首級を上げたのがNo.5じゃないか。魔族は悪魔を従える。倒せて当たり前さね。」
初老の女魔術師が可笑しそうに言った。縁は、
「今は歴史で習うことなのか。私も歳をとったもんさね。」
とその女魔術師に笑みを浮かべて言った。
彼女は、
「縁様、いや、同じ冒険者としては縁殿の方がかえって良いでしょうな。私の名は墨 蓮陰と申します。Aランクですじゃ。我らのパーティーはAランク”玄天の一陣”。今後よしなに。」
と名乗った。
「蓮陰殿、余程の使い手とお見受けする。あなたは5匹の使い魔に気づいておられたようだ。明日はよろしく頼む。」
縁はニヤリとして言った。
ギルドマスターはその間に、前の黒板にスラム街の詳細な地図を張り出した。
「では、みなでマフィアどもの根城を消す作戦を練る。”蓮花の理”はとにかく悪魔と、その使役者を排除願いたい。あと、作戦の欠点なども指摘して欲しい。他の高ランクパーティーで、寝返っている冒険者たちの殲滅を行う。では、始める。」
ギルドマスターは作戦の開始を告げる。
殲滅作戦の計画は、迅速にかつ綿密に練られていった。もちろん、悪魔や、マフィアについているSランク冒険者を危惧する者もいた。及び腰のものもいる。しかし、彼らが辞退しなかったのは、縁というSSSランクの戦略的魔術師が、勝利を確信しているという点があった。
明朝のスラム襲撃まで残り数時間。福州の膿を出すべく、正義の鉄槌をくださんと、夜は更けていった。




