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双蛇ノ縁ーソウダノエニシー  作者: 環林檎


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第92話ー福州の海鮮市場ー

お久しぶりです!

台湾行きの船便をおさえて、この話を終わりにしようと思っていたのですが、長くなりそうなので辞めました。

文章の量って難しいですね…

スラム街から出ると、4人の目に眩い日差しが差し込む。それだけ、スラム街は異様な雰囲気を醸し出していたのだ。


縁は、弟子3人の、体が、心が、休息を求めていることに気づいた。 当人たちは気づいていない。ただ、スラム街の残酷さに、あてられているのだ。


縁は、

「海辺で昼飯でも食べるか。午後には台湾行きの船が何便あるか聞いてこなきゃいけないからな。」

と明るい声で話しかけた。


ユエが、

「あんまりお腹減ってないわ…。」

と髪をいじりながら、遠慮がちに言った。他のふたりも頷く。

「そうさな。あんな場面を見た後、食欲がある方がおかしいさ。」

縁は優しく言った。

そして、

「だがいつも言っているだろう?”食べることは生きることだ”と。スラムの子達は食べようにも食べられない。私たちは彼らを救う側だ。食べられるうちに食べておかないと、いざと言う時に致命的なミスをしでかすこともある。お前たちはちゃんとした生き物なんだ。私のような魔改造された実験体ではない。そのことを心に留めておけ。」

と続けた。

「師匠…。」

少し悲しそうな顔をして、ヤンガが縁を見る。


縁は、ヤンガの表情をちらっと見たが気にとめなかった。そして、カラッとした笑顔を見せると、

「さぁ行くぞ!早くしないと飯時は混むからな!」

と、弟子3人に告げ港に向けて歩き出した。


「おお、これが港かぁ〜。」

ヤオが感慨深げに、たくさんの船が止まった港を見回す。台湾との交通の要衝であるだけあって、福州の港は壮観だった。繋船柱に漁船に客船、大小様々な船が、紐で括り付けられている。昼時の日差しに、海はキラキラと反射している。


「潮の匂い…風が気持ちいい〜。」

風に黒髪をなびかせてユエが息を吐く。

「しっかり見るのははじめてですが、これが真近で見る水平線ですか〜。空と溶けあいそうですね。」

とヤンガが海原を見て眩しそうにする。


その傍らで縁は、地図を広げて海鮮市場を探す。

「おーお前ら、こっちに昼飯食べれるところありそうだぞ〜。」

縁は海の様子などそっちのけで、歩き出す。

「ちょっと!師匠!もう少し感慨に浸らしてくださいよ。」

とヤオが文句を言う。縁は、

「これから先海は好きなだけ見られるさ。そう急くな。」

と笑って言った。縁は、

ー少し、気が紛れたか…。ー

と内心ホッとしていた。



進んでいくと、海鮮市場に着く。色とりどりの魚介類が、氷とともに屋台に並んでいる。

「「「わぁーー!!」」」

3人は見たことも食べたこともない、様々な魚介類達に声をあげた。縁は市場に常設された、店構えは少し寂れた、しかし活気がある食堂を見つける。縁は、美味い店に目敏いのだ。


「お前たち、あそこのボロっちい店がいちばん良さそうだ。そこに入るぞ。」

縁は3人を引き連れて、「巨蠣屋(オオガキヤ)」と看板が出ている食堂に入っていく。

「らっしゃい!!」

活気の良い男の声が出迎える。縁は、

「4人だが入れるか?」

と尋ねる。

「こっちのテーブルへ!」

恰幅のいい女将が奥のテーブル席へ案内する。

縁はメニューを開く前に、

「女将さん、ここいらの名物料理をだしてくれないかい?私以外の3人は海は初めてでね。」

と女将に声をかけた。女将は、

「あらあら!随分山奥に住んでたんだねぇ!わたしゃ生まれてこの方、福州にしかいないから、海のない生活は想像できないね。任しとくれ!おすすめの3品出してやるから。」

と張り切って厨房に戻って行った。


店内はガヤガヤとして、漁師や船乗りが空腹を満たしている。それが4人の空腹を刺激してくる。


まず女将が運んできたのは、

「はいよ!福州名物、蠣餅ディエピン )だ!」

と丸い揚げ物を20個程のせた皿である。ヤンガは、

「これって…具はなんですか?」

と不安そうに聞く。

「牡蠣だよ!カキ。見せてやろうか?」

と女将はニヤリと笑う。

「えー!いいんですか?!」

好奇心の塊のヤンガが目をキラキラさせる。

女将は奥から牡蠣を持ってくる。

「これが、牡蠣ですか?岩にしか見えないんですけど…。」

嬉々として観察するヤンガを尻目に、ヤオが困惑した顔をして言った。

「あっはははは!本当に山育ちなんだね!これはね…。」

女将は持っていた小ぶりなナイフを、牡蠣の見えにくい合わせ目にスっと差し込む。そして捻ると牡蠣はパカりと開いた。

「えー!こんなふうになってるんだ〜すごく濃い海の匂いね!」

ユエが女将の手際の良さに驚きながら、匂いを嗅いだ。他のふたりも目を見張る。3人の頭の中では貝は、しじみや、タニシなど二枚貝か巻き貝ぐらいしか覚えがない。

女将は、

「ふふふ。またすぐに料理を持ってくるからね!また追加があったら呼んでおくれ!」

と颯爽と厨房に去っていった。

縁は、

「さぁ!食べるぞ!暑いから気をつけてな!」

と言って、早速箸で小皿にとると、半分に分けた。中から、牡蠣を始めとしたセロリなどの具が見える。湯気がたつ蠣餅を、パクリとほうばる。

それを見て3人も恐る恐る口にする。

「「「う、うまーーーー!!!」」」

と歓声をあげた。


そこに女将が、

「次はこれだよ!福州魚丸フーチョウユーワン)だよ。」

と4人前のスープを持ってきた。女将は、

「これは魚の練り物の中に、醤油味の豚肉の餡が入ってるのさ。肉汁に火傷しないようにね!」

と伝えて去っていく。

4人はレンゲでスープをすする。海鮮の出汁がこれでもかと効いたスープである。ヤオは恐る恐る団子にかじりつく。

「あっつ!!!!ハフハフ!」

と大きな声を上げて、口をハフハフさせる。

「もう、ヤオったらせっかちなんだから。」

とユエが苦笑する。縁はレンゲの上で団子を割って、少し冷ましてから肉汁ごと食べた。それを見た3人が真似をする。

「練り物って馴染みがなかったんですけど、プリっとしていて美味しいですね。」

とヤンガが笑顔を見せる。


そこに女将が新しい料理を持ってくる。

海鮮燜麺ハイシエンメンミエン)だよ〜。太めの麺と野菜に海鮮出汁を染み込ませた蒸し料理さ!」

と大きな皿にドン!と真ん中に置いた。

「「「「おおーーー!」」」」

圧倒的ボリュームに、4人から感激の声が上がる。ヤオがトングで均等に取り分ける。匂いだけでヨダレが湧いてくる。

ヤオがよーく冷まして、口に運ぶ。

「うお!すごい海鮮の味がする麺だな!」

と驚きの声があがる。縁もスルスルと弾力のある麺をすすっていく。


それから4人は、出揃った料理を黙々と食べ進めた。熱いものは熱いうちに食べるのが鉄則だ。

命を頂くことに感謝しながら、また、スラム街の少年たちの顔を思い浮かべながら、4人はありがたく食事を楽しんだのであった。



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