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双蛇ノ縁ーソウダノエニシー  作者: 環林檎


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第91話ースラム街ー

お久しぶりです。


自分の体調が整ってきたことによって、仕事をできるようになったので、小説に割く時間が短くなってきました。

でも、これからも続けるので、応援お願いします!

翌日、縁たちは屋台の並ぶ通りにいた。

「師匠、朝ごはん食べたのにまた屋台で買い食いですか??」

ヤンガがお腹をさすりながら言った。縁は、

「まぁ私は燃費が悪いから、買い食いするけど、お前たちは飲み物でも買って着いてこい。ここへ来た目的は、別のところにある。」

と言った。

弟子3人は顔を見合せる。


「おやっさん!そのイカ焼き10本くれないか?」

縁は気さくに屋台の男に声をかける。

「嬢ちゃん、ちっせぇのにそんなに食べ切れるのか?」

店主はタレのいい匂いを漂わせながら、串をひっくり返して言った。

「私は空間術式魔術があるから、焼きたてそのまま保存できるのさ。」

縁はイカ焼きを受け取りながら、実際に空間に格納して見せた。

「おお!すげぇな!あんた、若いのに凄腕だね。またきとくれ!」

店主はニカッと笑って、お代を受け取るのだった。ドリンク屋や、サンドイッチ屋、スープの店を巡る。


5件目の串焼き屋で、縁は店主に、

「角クジラの串焼きあるだけくれるか?」

と声をかけた。店主の中年の男は縁を値踏みするように見つめると、

「良いよ。売ってやる。あんたみてぇなやつは初めてだ。Sランク冒険者でも格上だな。」

と答えた。縁は、

「そう言ってもらえるとありがたいね。ご店主も元冒険者か。腕は今も鈍っちゃいないようだ。」

とニヤリと笑った。店主は、

「で、何か裏があるんだろ?何が聞きたい?」

と声を細めて言った。

「さすが。話が早くて助かる。単刀直入に言うよ。阿片を流してるやつを探してる。あと、スラム街の力関係を知りたい。」

と縁は淡々と述べた。店主は、

「っつ。なかなかやばい事だな。串を焼きながらで構わなければ、俺が知ってる限りで話すがいいか?」

と目を見開いたあと、淡々と返した。

「頼む。」

縁は、お代に更に白金貨2枚を足して渡した。

店主は話し出す。

「スラム街はだいたい3つのマフィアが力を持ってる。暴力の黒龍会(ヘイロンフイ)、暗殺が得意な窮奇幣(チウチーバン)、インテリの白澤堂(バイセードン)の3つだ。俺は白澤堂が阿片を牛耳ってると思う。勘だがな。最近白澤堂が勢力をましてるのが証拠だ。屋台街はスラムから離れているが、キマッた奴が現れることがある。人間、ああなるともう手の施しようがねぇな。」

どこか遠い目をする店主。縁は、

「その3つの中華マフィアは、抗争はしていないのか?均衡が保たれていると?」

と尋ねた。店主は、

「あぁすまねぇ。知り合いが”落涙のケシ”で死んだもんでな。でもなぜか、均衡が保たれているんだ。最悪のことを考えなくちゃならねえかもな。」

炭火の熱さか、怒りから来るものか、男は首にかけてあったタオルで顔を拭き、暗い瞳で言った。

「マフィアが同盟を組んだか。最終的にはこの港湾都市を裏から乗っ取るシナリオだな。」

顎に手を当てて縁は呟いた。

「…最悪のシナリオですね。」

とヤオが顔を強ばらせる。ユエもヤンガも緊張した面持ちで、縁の次の言葉を待っている。

「おっし、仕込んであった分は全部焼いたぞ。どうするんだ?」

空気を変えるように、店主が声をかける。

「じゃあこの皿ごともらっていくぞ。」

縁は手をかざして串焼きを空間術式に格納した。

「おお!さすがだな。だが、”落涙のケシ”はでかい裏がある。くれぐれも気をつけろよ。」

店主は真剣な顔をして言った。縁は口角を不敵にあげると、

「そうさな、今日はその暗闇に挨拶してくるとするよ。」

と言った。



スタスタスタ。

地図を持った縁が先頭を進む。

「今からスラム街に行くんですか?!敵に気取られませんか?!」

いきなりの事態にヤンガが焦った声をあげる。

「なんだ?そりゃ明日カチコミに行くんだから、下見ぐらいするだろ。」

なんでもないように縁は答える。ヤオは、

「せめてフードを被りませんか?顔を見られて暗殺に来られたらどうします?!」

と危惧する。縁は、

「暗殺に来てもらったら、逆に情報を聞き出せるからありがたいことじゃないか。」

と笑った。ユエは、

「師匠は奇想天外な人ってわかってたじゃない。男がガタガタ言ってないで、腹決めて行きなさいよ!」

と2人の背中を「バシッ!」と叩いた。

そんな3人を見て縁は、

ーフフフ。頼もしい限りだ。ー

と笑みを浮かべていた。



「ここからすぐの通りから、スラム街だ。私から離れるなよ。あとビビった表情もするな。心を平常に保って、何にも動揺するな。」

縁は3人に告げた。

…ゴクリ。

自然と息を飲み込む。


縁を先頭にゆっくりとした歩みで、スラム街を進む。むき出しの土の道。街には色が欠如していた。

細い路地、窓の隙間、あらゆるところから視線が突き刺さる。

…匂いがキツくて顔を顰めそうだ。…

ヤオが思考共有(リンク)で会話を始める。

…私もう吐きそう。…

ユエの口が僅かに動く。

…僕もうダメかも、匂いの震源地に行ったら多分吐く。…

ヤンガの額に脂汗が浮いている。その中で縁だけが平然としている。


歩き進めていたーその時。

行く手にガリガリにやせ細った少年数人と子供を手に引く少女数人が、立ちはだかる。少年の手には刃の欠けたナイフや、棍棒、少女の手には尖ったガラス片が握られている。

「お前、ここは俺たちの縄張りだ。通行料置いていけ!」

いちばん背の高い少年が、縁たちを脅す。

「身ぐるみ剥がしてやる!」

貧しさに蝕まれた憎悪の瞳が、縁たちを捉える。

縁は微動だにせず、符を数枚とりだし、そのまま放った。

「フッ」

と息にのった符は少年少女の武器に張り付き、粉々に砕いてしまった。


そして縁は、先頭のいちばん背の高い少年に、一瞬だけ殺気を向ける。

「ひっひいぃ!!」

少年は腰砕けに座り込んでしまった。まわりの子供たちも1歩も動けない。

ー死ぬかもしれない…。ー

子供たちの頭によぎる恐怖。

子供たちは震えながら武器の残骸を見つめた。

誰も次の一歩を踏み出せない。

縁は静かに息を吐いた。

「さて。」

縁は意外にも優しい声で続ける。

「取引だ。食い物をやるから、鴉片窟まで案内できるか?」

全ての子供たちが一斉に、

「ふーーーっ」

と張り詰めていた息を吐いた。

縁は空間からサンドイッチが沢山入ったバスケット、スープの入った鍋、角クジラの串焼きの皿をとりだし、空に浮かす。

「この取引、のるか?どうだ。」

縁は静かに語りかける。すると先程の少年が立ち上がり、

「そ、それをくれるなら案内する!俺が案内する!」

と冷や汗をかきながら言った。縁は空に浮かせたまま、料理を少年たちの方へ移動させた。そして、

「君はこの子達のリーダーのようだ。私たちを案内して欲しい。もちろん、もうやばいと思ったら引き返していい。お前の命には変えられないからな。」

と優しく語りかけた。

「わ、わかった。鴉片窟って、”落涙のケシ”のことだよな?あそこは、”涙の花園”って呼ばれてる。」

少年は緊張したまま答えた。縁は、

「なんともセンスのない名前だな。少年、名はなんという?」

と問いかけた。少年は、

「俺はナミ。姐さんは冒険者なのか?」

と問い返した。

「ナミ。私たちは冒険者だよ。私は縁。黒髪のがユエ、銀髪なのがヤオ、茶髪がヤンガだ。短い間だが頼む。」

と自己紹介した。ヤオたちも、

「よろしくね。」

「よろしく。」

「ど、どうも。」

と各々挨拶する。

ナミはぎこちなく、

「お、お願いします。」

と答えた。


縁は空間から大きなサンドイッチを取り出した。中身はシャキシャキのレタスとパストラミビーフとスライスチーズ、オムレツを挟んだ1品である。ピリッと辛子マヨネーズがきいている。

ナミは、キョトンとした顔をする。

「ナミ、案内は足と指で案内してくれ。その間このサンドイッチをもぐもぐしておくんだ。マフィアの連中に食べ物でつられたことがわかるように。」

と囁いた。ナミはハッとした様子で頷いた。

縁は、

ーこの子は、賢い子だ。だがこの賢さは貧しさで育まれたものだ。ー

と苦々しく思った。


寂れた道を進んでいく。道端には、ぼろを纏った人々が転がっている。

「匂いが濃くなって来てるが、近くか?」

縁はナミに声をかける。ナミはサンドイッチに必死でかじりつきながら頷いた。

ーーその先には。

灰色の建物の中に、ぽっかりと空いた異様に暗い入口。

その入口には口からヨダレを垂らした、痩せこけた男が数人座り込んでいる。向かいの壁には、恐らく娼婦であっただろう面影が残る女が、口から泡を吹いて、幼子をだらんと抱いていた。

弟子3人は思わず口に手を当てる。

「ナミ、恐怖に打ち勝ってよくここまで案内してくれた。気をつけて帰れよ。」

縁はナミの背中をポンポンとたたき、合図した。

「姐さん!ありがと。」

と囁くと、ナミはゆっくり後ずさりして走り去っていった。


…主、魔の気配が。…

と縁の影から思考共有が送られる。

…あぁ。白曜、間違いない。”落涙のケシ”は悪魔が関与している。…

縁は鋭い眼差しを”涙の花園”へ向けた。その建物の三階から、隠しもしない敵意の視線を感じる。

ーあれがおそらく。薬に溺れた方のSランク冒険者…。ー

縁はニヤリと笑って見せた。

…お前たち、帰るぞ。下見は終わりだ。…

縁は弟子たちに呼びかけた。

…も、もう帰るんですか?…

とヤンガが困惑気味に答える。

…感じるだろ、視線が。これでだいたい敵の規模は知れる。…

と縁は答えた。



スラム街を後にする時、ユエが縁に尋ねる。

「師匠。スラム街の子達になんでお金渡さなかったんですか?料理は日持ちしませんし、持ち運べないですよ?」

他のふたりも首をかしげる。縁は俯いて言った。

「それは…食料は食べれば無くなるからさ。スラム街では身を守るすべがない奴は金も持てない。だから、消えてなくなる料理を渡したのさ。ただの偽善だがね。」

弟子3人は目を見開き、そして歯を食いしばった。これは彼らが、新しい世の不条理を知った瞬間だった。


明日、このスラム街の秩序を崩壊させる。それはあの子供たちの行く末を変えることになる。弟子たちは、”落涙のケシ”の悪臭など、忘れ去ったかのように強く前を向いた。それを背中で感じながら、縁は超然として、ホコリと悪臭が漂うスラム街を後にしたのであった。



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