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双蛇ノ縁ーソウダノエニシー  作者: 環林檎


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第82話ー出発前の一日ー

この夜、ポプラの並木亭で各々好きな洋風料理をたらふく食べた。"1日休み、各自英気を養え"と師匠に指示された弟子3人は、既にやることは決まっていた。以前買った魔導書の熟読である。買ってからゆっくりと読む暇がなかった。

ヤオは応用体術魔法大全。

ユエは影魔法大全。

ヤンガは草木魔法大全。

各々分野はまるで違う。でも新たな力を得ることには貪欲だった。

ー師匠に守られるだけの存在でいたくない…ー

そんな思いが彼らの共通認識としてあった。師匠の出自を聞いて、そこに横たわる深い悲しみを理解しきれずとも感じ、強い怒りを認識した。

ー強くなりたい…。誰かの背後に守られる存在ではなく、前に立てる存在に…。ー

そう強く願った。旅の中で余裕がある日はそうない。明日は貴重な一日だった。


朝、3人はいつもより早めに起きて、朝食をとった。そして各自の部屋に戻って行った。

縁はいつものようにゆっくりと目覚め、朝食を取るために食堂に降りていった。

「あれ?3人組は?」

女将の娜娜(ナーナー)に聞くと、

「3人は先にご飯食べて二階に上がって行きましたよ。今日は座学するって張り切ってました!」

と笑顔を浮かべて言った。縁は、

「なるほどな。あいつらめ…。」

と縁も笑顔になった。

ー知識を詰め込めるだけ詰め込んで、旅の中で実践…極めて合理的だ。ー

と縁はいつもの鶏粥を頼みながら思った。娜娜は、

「縁様はどうするんです?明日此処を発つ、と聞きましたが…。」

とお茶を置きながら尋ねる。

「女将にも世話になったな。今日はギルドに行って明日発つことを伝えておこうと思ってな。あとは、瑠華商会の暁東(シャオドン)の所へ挨拶してくるよ。」

縁は女将の目を見て言った。

「あんたたちみたいなもんを世話すんのが、私たち宿屋の人間だよ。瑠璃の小箱亭にいる間は、安心できるって思ってもらうことが大切なのさ。縁様みたいなSランクオーバーに選んで貰えてよかったよ。」

と娜娜は言った。

「…さすが女将。私のランクの偽装まで見抜いてたとは。恐れ入ったよ。」

縁は微笑んだ。

「縁様は他と一線を画してるよ。子供の頃から宿屋手伝ってるんだ、それなりに目も効くようになるさ。」

と娜娜は胸を叩いて言った。

「そうか。私もまだまだだな。」

と縁はボヤいた。



朝食を食べたあと、縁はギルドへ向かった。爽やかな風が、木の葉を運んでゆく。

受付ではいつものように、芷瑶(ヂーャォ)と、他にも何人か受付嬢が居る。よっぽど巡り合わせが良いのか、たまたま芷瑶があいて縁の番が巡ってくる。

「こんにちは。縁さん。今日は何が御用ですか?」

と芷瑶が用向きを尋ねる。

「明日ここを発つから、その報告をしたくてな。ギルドマスターは空いているか?」

と縁は答える。

「今の時間帯は会議も入っていないので、すぐご案内できると思います。少々お待ちください。」

そのまま芷瑶は席を外す。待つこと数分。

「お待たせしました!ギルドマスターがお待ちです。」

芷瑶が縁を呼んだ。

2階のギルドマスターの執務室では、書類が山積みになっていた。

「縁殿、すまないな。書類仕事が中々済まなくて。大事なことではなければ、決済印を押しながらでもいいか?」

とギルドマスターである梓乐(ズーラ)が済まなさそうに言う。

「書類仕事は私も苦手だ。気にせずやってくれ。要件も一つだけだ。」

縁は普段は書類仕事もするので、梓乐の気持ちがよくわかった。やっぱり体を動かしていた方が気持ちがいいのだ。

「そうか、それで何の用だ?」

梓乐は尋ねた。

「急というか、ここにはそんなに留まるつもりがなかったから、明朝、瑠璃鎮を発とうと思っている。」

縁は出されたお茶で、口を湿らせたあと言った。

「なるほど。他に目的地があった上での瑠璃鎮だったわけだな。次はどこへ?」

梓乐は少し考えたあと言った。縁は、

「福州へ行って台湾に渡る。そして琉球王国への船を捕まえるつもりだ。最終目的地は倭国日本だ。」

と答えた。梓乐は、

「なるほど。長い旅路だな。ここは旅の始まりだったのか。」

と呟いた。

「あぁ。私の弟子たちは、故郷を離れて最長の旅になるだろう。私の弟子の出自は話していたっけな?」

と縁が尋ねる。梓乐は、

「いや、特に聞いていないが、なにか特別な場所なのか?」

と尋ね返した。

「あーー、言ってなかったか。悠淵の里の出身だ。」

縁がバツが悪そうに答える。

「なにーーーっ!?あのたどり着くのも困難な蓮池の蛟の里か?つまりあの3人は蛟だと?!」

と梓乐は思わず立ち上がって言った。

「すまんな。すっかり言い忘れていた。」

すっとぼける縁。

「まぁ、彼らは魔物ではないし、縁殿という師がいれば問題はなかろう。問題があるとすれば…魔眼か魔法で正体がバレるパターンが問題だな。」

と頭を抱える梓乐。そして新たな紙を取り出すと、サラサラと書き出す。

「俺が彼らの身分証明書を書いておこう。大規模な街ではあまり効果がないかもしれないが、ないよりはマシだろう。」

と3人分の証明を書き綴っていく。縁は、

「それはありがたい。福州で役に立つだろう。」

と礼を言った。

梓乐から書類を貰うと、縁は早々にギルドを辞した。


そうして屋台街で昼食を取ったあと、瑠華商会を目指した。

「あぁ!縁様!リザードマンの集落の壊滅、聞きましたよ!ありがとうございます。」

縁に会うなり、暁東は満面の笑みで迎えた。

「仕事をしたまでさ。弟子たちにも良い刺激になった。」

縁は微笑んだ。

「今日は、お別れを言いに来たんだ。明日の朝、私たちは福州へ向けてここを発つ。目的地は琉球王国だからな。」

と縁は続けた。

「そうでしたか。福州から台湾へ渡るおつもりで?」

と暁東は尋ねる。

「あぁ。そのつもりだ。」

と縁は答えた。暁東は寂しそうな顔をしながら、

「縁様達には瑠璃鎮で活動して欲しかったんですけども、仕方がないですねぇ。」

と呟いた。縁は、

「こればかりは巡り合わせさ。また会えたら共に旅をしよう。出来れば前みたいなピンチにはなるなよ。」

ニヤッと笑いながら言った。

「もちろん。今後は防御にお金は惜しみません。縁様も良い旅をお送りください。」

暁東は頭を下げた。縁は、

「ありがとう。私も暁東とお前達の家族の繁栄と安寧を祈ろう。それじゃあな。」

と手を振った。


秋風が頬を撫でる。瑠璃鎮で得たものは、予想していたよりもずっと多かった。人の温かさ、弟子たちの成長、そして彼らが得たーー次へ進む覚悟。

「さて、次は福州か。」

縁は小さく呟き、瑠璃の小箱亭へと歩き出した。



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