第80話ーお手製レーション、作りましたー
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また遅くなってすいません 汗
更新日を1日勘違いしておりましたm(_ _)m
縁たちは厨房で必要なもの、フライパンに小鍋、木べらなどを一通り集めた。
縁は、
「これから小麦を炒める者と、バターを溶かす者に別れる。」
と3人に指示した。縁は、
「バターは400g、これくらいだな。」
長方形の塊を切り出してユエに渡す。
「焦がしバターにするからこれを包丁で薄く切ってくれ。」
ユエはサクサクとバターを切っていく。
「私たち力があるものは気にしないでいいが、普通の人はバターをサクサク切れない。その時は包丁をコンロで温めておくんだ。」
「なるほどね!その方がやりやすいわ!」
ユエがコンロに手をかける。
ーーその時だった。ヤオが小麦粉の袋を思いっきり開けた。
「バフっ!!」
厨房中に小麦粉が舞い上がる。ユエは、
「うわっ!」
と咄嗟にコンロの取っ手に力が入る。
ーヤバいっ!ー
縁は咄嗟にコンロに氷魔法をかけた。そして風魔法を使って空に舞った小麦粉を集める。
ーー厨房に気まずい沈黙がみちた。
「ーーーお前たち、今危機的状況だったってわかるか?」
縁はこめかみをグリグリしながら言った。
「え?なんでですか?」
口に入った小麦を飲み込みながらヤンガが言う。ヤオとユエも小麦粉まみれで首を傾げる。
「まぁ知らなくても仕方ないか。むかーし昔、あるものの製造工場で従業員が100人近く死んだ事故があった。なんの製造工場だったと思う?」
縁は3人に苦笑いを浮かべながら問いかける。
「火薬とかですかね?」
ヤオは体に着いた小麦粉を叩きながら答える。
「石油とかガスの施設!」
とヤンガが割烹着を叩きながら答えた。
「違う。」
縁は、人差し指を立ててチッチッチとする。
「え、まさか…小麦粉?」
とユエが目を見開いて言う。
「そうだ。小麦粉工場で起こった。よく考えてみろ。極小サイズの有機物、まぁ小麦粉だな。それが宙に立ち込めた時に火なんて起こしてみろ。連鎖的に燃焼が起こって、大爆発に繋がるんだ。」
縁は真剣に言った。
「じゃあ俺たち…、この厨房を吹っ飛ばすところだったのか?!」
ヤオが驚愕の表情で呟く。
「そもそもヤオが馬鹿力で小麦粉開けるからいけないんじゃない!」
ユエはコンロから一歩下がって言う。
「僕たち初手からこんな感じで、レーションなんて作れるのかな…。」
まだ何もしていないヤンガがおののく。
縁は笑って、
「料理は科学だ。致命的なことが起こる前に止めるから、指示通りにやってみろ。できるようになったら楽しいぞ?」
と小麦を200gづつ、2つのフライパンに入れた。
「ヤンガ、この小麦をきつね色になるまで炒めるんだ。」
と指示を出す。
「わ、分かりました。きつね色ですね!」
ヤンガは緊張しながら、フライパンと木べらを持った。
「まず、小麦粉は基本生だから、小麦粉のまま食べることはできない。加熱が必要だ。今回はフライパンで炒める。その際に起こるのが"メイラード反応"だ。簡単に言うと、アミノ酸(タンパク質)」と「糖」が加熱によって結びつき、新しい香り成分と茶色の色素を生み出す反応のことだ。焼きたてのパンやクッキーのような香ばしさはこうして生まれる。」
縁は自分のフライパンで小麦粉を炒めながら言った。
「師匠!バター溶けました。どうやって焦がすの?」
とユエ。
「それもきつね色が理想だ。だが熱しすぎると酸化するから、少し手前で止めておけ。」
と縁は小鍋を覗き込んで言った。
「ヤオ、お前はナッツとドライフルーツを刻んでくれ。くれぐれも!木っ端微塵にしないように、普段食べているレーションを思い出してきざめよ?」
縁は顔をあげると、ヤオに指示を出した。
「は、はい!いざ尋常に!」
とヤオはクコの実や、くるみの袋を慎重に開けた。
全員が黙々と作業する。初めに済んだのはユエだ。
「バターが少し香ばしくなったわ。」
と無邪気に笑い、
「色がだんだん変わってきたわね。これがメイラード反応かぁ。」
とヤンガの鍋を覗き込む。縁の鍋でもどんどん小麦粉の色か変わっていく。
縁は焦がしバターが上手くいっているのを確認すると、フライパンに半分ずつ加えた。
「ここから焦げやすくなるから気をつけろよ。」
と縁はヤンガに声をかける。
「わかりました!」
ヤンガは腕まくりして、小麦粉を丁寧に炒めていく。
「バターを加えたことでよりきつね色になったな。あともう少し炒めるぞ。」
縁は慎重にいろを見極める。
「よし、もう切り上げていいぞ!」
とヤンガに声をかける。
「わかりました!」
見れば小麦粉はきつね色より少し深い茶色をしている。
「ヤオ、そちらはどうだ?」
縁はヤオの方を見た。そこには几帳面にサイズが揃ったドライフルーツやナッツが並んでいた。ドヤっとしたヤオ。だが、
「んー、渡したの全部切ってしまったか…。」
と縁は耳の裏をかいた。
「ヤオったら、そんなに使うわけないじゃない!」
とユエが笑った。ヤンガも笑って、
「たぶん、その半分でいいと思うよ。」
と言った。
「ザクザクした方が美味しいんじゃないかと思って…。」
としょぼんとするヤオ。
「ナッツやドライフルーツを沢山入れると、今度は成型に困るんだ。半分はまた袋に入れて今度使おう。カットはとても綺麗だし。次の手間が省けたよ。」
と縁はフォローした。
そして縁は大きなボールに炒めた小麦粉と、刻んだドライフルーツとナッツを加えた。そして丁寧に、均等になるように混ぜた。さらにそれを4等分し、弟子それぞれのボールに移し、成型に使う型とスプーンをそれぞれに渡した。さらにテーブルの真ん中に山椒の袋を空けて置いた。
「まだ粉が暑いうちに蜂蜜を大さじ3〜4を入れてよく混ぜるんだが、その前に山椒を入れる。三本指でたっぷり2つかみだ。二本指の1つかみじゃあ、腹の中の魔(菌)は殺せん。」
「山椒は、湿り気や腐れを遠ざける。それだけじゃない。邪気(悪い気)を寄せ付けないための、お守りでもあるんだ。」
「「「ほほぅ〜。」」」
と頷く3人。
縁はテキパキと山椒と蜂蜜を加えると、小さなスプーンで押し付けて空気を抜きながら、慣れた手つきで型にはめていく。それを見た弟子達は、見よう見まねでやっていく。
「「「で、できたぁ!!!」
3人は自分達が初めて完成させたレーションに目を輝かせた。縁も、
ー出だしでヒヤッとしたが、何とか完成したな…。ー
と満足気な笑みを浮かべた。
「後は冷蔵庫で冷やすんだが、ひとかじりしてみるか?」
と縁は提案する。
「山椒を入れたから、どんな味か気になりますね…。」
とヤンガ。
「俺は甘党だから、実は若干はちみつ多めなんだよな…大丈夫かな?」
とヤオ。
「私は師匠の言う通りにしたから間違いないはず!そうであって欲しい!」
とユエ。
三者三葉の感想を述べる弟子たちは、恐る恐る1口かじり、
「「「おおおー!!」」」
と声を上げた。
「いつも食べているのとは違いますが、これはこれで美味しいですね!」
とヤンガ。
「蜂蜜がちょっとベタついているが、甘さと爽やかさがマッチしていて美味い!」
とヤオ。
「うん!おいしい!ナイス私!」
とユエ。
そんな3人を見て縁は、
「行き当たりばったりのレシピだったが、何とかなったな…。良かった。」
と笑った。3人は、
ー行き当たりばったり???ー
と疑問に思う。代表してヤオが尋ねる。
「行き当たりばったりって、コレ決まったレシピじゃないんですか?」
縁は、
「当たり前だろ?粉とかバターは計量するが、後はフィーリングで作ってるんだから。味付けも初めは少なめにしといて、薄ければあとから足せばいいし!」
と、からりと笑った。3人は、
ーこれが4000年生きる人の知恵か…。ー
と妙に納得してしまった。実際のところ、料理人には感覚派の人間も存在するのだが、彼らはまだ知らなかった。
縁は3人の作ったレーションを型に入ったまま、温度を低く保った空間術式に格納する。
「さぁ、厨房を掃除するぞ。来た時より綺麗にがモットーだ。昼飯の時間は屋台街に行こう!」
縁は声をかける。そして3人の顔を見て、小さく笑った。
——やはり、料理は誰かと作る方が楽しいな。ー
3人は、元気よく、
「はーい!!」
と答え、楽しいレーション作りは終わりを告げた。




